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ちょろいっ!!

 どうすれば可愛く見えるだろう?
 とりあえず、目を大きく見開いてカメラのレンズをひたすら見つめてみることにした。
 すると、カメラマンの口元が緩むのが見える。
 成功だ。
 方法は間違っていない。
 よし、今度は……と小首を傾げてみた。
 おお!カメラマンの奴、みっともない髭面をにやつかせて同行の記者と話しこみだした。
 これも成功と思っていいのだろうな。
 大体、こういう連中が来るようにと、こちらも苦労して段取りを組んだんだ。それなりの反応を示してもらわないと、こちらの苦労が報われないというものだろう?


 車両基地の門扉の隙間から何とか入り込んで、警備会社やメンテナンス会社の連中の目をかいくぐり、あの車両の中にもぐりこんだんだ。
 苦労したぜ。
 何しろ、見つけづらくて、見つけたその時には誰もが驚く。それでいて、確実に見つけてもらえる場所を思いつくのは。
 まぁ、この俺様にかかれば、人間の浅知恵など軽々と出し抜いて見せるがな。
 ただ、一日中、電車の振動に付き合わされたのには参った。


 しかし、人間どもの懐に入り込むには、この世知辛いご時世、これくらいの苦労は致し方あるまい。
 何しろ、最近の人間どもはちょっと愛想を振りまいたくらいじゃ、気を許してくれないからな。
 餌を与えればそれで済む、なんて不心得者もいるくらいだ。
 ……それじゃだめなんだよ。
 お前らの家に入り込み、お前らを支配し、お前らを餌にしないと意味がないんだ。
 何の為に、バカな子猫を装っていると思っているんだ?


 俺にとって「人間」という生き物は愚かな獲物で餌だ。
 しかし、確実にあいつらの懐に入り込まなくては狩りも成立しない。
 だから、俺は「事件」を仕掛けることにした。
 何しろ、人間はこういうイベントごとが好きだからな。馬鹿みたいに釣れる。


 そんなことを考えていると、また別の通信社の連中がやってきた。
 よし、ここはとっておきを一発出しておくか……

 俺は、もう一度小首を傾げつつ、出来る限り可愛らしい鳴き声を発しつつそいつらの方を向き……
 ゴロリと横になって、腹を見せつつ、二度三度とローリング。


 途端に「きゃー」と軽薄な人間の雌どもの声が響き渡る。
 いいぞ、いいぞ。もうひと押しだ。
 確実に人間どもの懐に入り込み、生活を支配し、あいつらの心を油断で満たしてやらねば。
 そのためにも、いまは無邪気な子猫のふりをしておかなくてはなるまい。
 そう、あいつらが俺に対しての警戒心を完全になくしてしまうまで。


 そうなってしまえば、あとは……

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