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Legend named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 8 Shoot (1/4)

 “それで全て終わり”
 そう語ったサチは、満足したように表情を和らげ、そして一旦目を閉じた。
 横でマリが何か言っているようだが、彼女にはそうした言葉も耳に入ってこない。ただ、これからのことを覚悟とともに受け入れ、安らかと言うよりはむしろ陶酔したような心理状態に陥っていた。
 そうした心持ちのサチが、再び和也をその視界におさめようとその目を開くと……。


 そこには一人の少女がいた。


 (どうして?)
 サチが疑問に思うのもお構いなしに、目の前の少女、年齢は小学生にも満たないと思われるその少女は、まるでサチが和也に近づくのを阻むかのように腕と手を広げながらサチを睨み付けていた。
 サチの細い目とは対照的にくりくりとした大きな瞳と真一文字に結ばれたその口元、すべてが少女の外見上の愛らしさとは対照的に、サチへの憤りを体現しているかのようだった。
 「ダメ!」
 幼い叫びがサチの耳を打つ。
 「終わり……絶対、ダメ!」
 たどたどしい拙いその声は、しかしその幼さに反して厳とした意志を感じさせる。
 「絶対、絶対、ダメ!」
 その声に気圧されたサチは
 「何がダメなの?」
 と少女に問うが……。
 「ダメったら、ダメ!ダメだからダメ!」
 少女は同じような言葉を繰り返すのみ。まるで他に対話する言葉などないと言わんばかりだ。
 サチはふと思う。
 この少女は誰なのか?
 そもそも、何故、いま、ランファ号にいるのか?
 ランファ号に収容された関係者の娘なのか?
 いくつかの推測をその脳裏に走らせたサチは、質問を変えてみることにした。
 「あなたは誰なの?」
 サチの問いに、少女は今度はビックリしたようにその大きな瞳をさらに丸くする。
 「あなたのお名前は?」
 問いを重ねるサチに、少女は今度は呆れたような顔つきで口を大きく開いた。
 何かいけない質問をしたのだろうか?とサチが怪訝に思っていると、少女は
 「“ミライ”だよ!」
 と誇らしげに宣言。
 「“ミライ”はね……“守り刀”なんだよ。」
 幾分か胸をはりつつ、さらに言い重ねる少女。
 「“ミライ”?“守り刀”?」
 少女の名前であると思われるその名を口にしたサチ。であるが、そのサチの肩を激しく揺さぶる力があった。
 「サチ……サチ!」
 神崎ゆかりだった。
 「あんた、終わりって……殺してって……何を言っているのよ!?ぞんなの、絶対許さない、許さないからね!」
 はっと我に返ったサチの視界に飛び込むゆかりの表情。
 神崎ゆかりは本気で怒っていた。
 そして、すこし離れたところで状況を見守っていた小野坂ひずるも……。
 小野坂ひずるは、その小さな体を強ばらせ、唇をぎゅっと結んだまま、悲しんでいるような、そして怒っているような目をサチに向けていた。
 「カズがサチを殺すなんて……それをあんたがお願いするなんて……間違っている!絶対に間違っているよ!」
 サチの視界に割り込んだゆかりは、顔をくしゃくしゃにしながらサチに迫る。
 「ゆかりさん……」
 その名を口にしたサチは、ゆかりの示したその感情の爆発に気圧されつつも、はっとしてその視界を再び正面に。
 「あの子は!?」
 そう口にして見てみるが、そこには誰もいない。
 先ほどまで自分と和也の間に立っていた少女の姿は、跡形もなく消え失せてしまっていた。
 「そんな……いない!?いつの間に?」
 呟くサチが捉えた正面視界にいるのは、再び和也の姿のみ。
 その和也……いまは“キング”と名乗る彼は、そのこめかみを押さえつつうずくまっていた。
 「立花君!」
 サチが自分の肩にかけられたゆかりの細い腕をかわして、和也に駆け寄ろうとしたその瞬間
 「いけませんね……まだまだ調整が足りなかったようです。タイムオーバーということですわね。」
 その眼前に忽然と現れたのは、パールバディ。
 「十三号、ゼロ……ここは一旦失礼させて頂きますわ。」
 言いつつパールバディは、その細くしなやかな指先を和也にかけた。
 「これだけ好き放題して、いまさら!」
 パールバディの言いように、マリは怒りを顕にし、先ほど取り落とした愛銃スクリーマーを素早く拾い上げるや、銃口をパールバディに向けた。
 「あら、ゼロ、そんなことをしても無駄ですのに。」
 対してパールバディには、一向に慌てた様子は見えない。
 「言ってくれるじゃない!?」
 マリは、不敵な笑みを浮かべつつも躊躇うことなく、スクリーマーの引き金を引いた。
 轟音とともに発射されたスクリーマーの強化弾は、まっすぐにパールバディの整ったその顔、頭部を捉えていたが……。
 「馬鹿な!?」
 マリのうめき声とともに、強化弾はパールバディをすり抜け、その背後の金属壁を破壊したのみ。
 「ファントムドライブ?パールバディも使えるの?」
 マリがそう呟くのに対し、パールバディはいつもと変らぬ涼やかな笑みを浮かべた。
 「さあ、どうでしょう?幻覚なのか?十三号やキング同様の、量子化能力なのか?一生懸命、考えてくださいな。それから、お二方とも、私どもが立ち去っても、まだまだ忙しい状況は続くことになると思いますよ。油断なさらぬよう。」
 「随分と親切なご忠告……感謝の言葉の一つもかけるべきなのかしら?」
 マリが悔し紛れにそう応えるのに、パールバディは静かに微笑み、そしてうずくまる和也ともども、その場から文字通りかき消えてしまった。
 「瞬間……移動?」
 誰からともなく声があがるが、確かにそうとしか言いようのない現象ではあった。
 呆然とするサチであったが、その彼女の肩を激しく揺さぶる手があった。
 呆然としていたこともあったのだろうが、サチは力なくその手に従い、視線をその手の主へと強制的に向けられた。
 視線の先にいた手の主の正体は、またしても神崎ゆかり。
 「ゆかりさん……」
 その名を力なく呟くサチの細い体。その体をゆかりの体が覆い隠すように抱きしめた。
 「ゆかりさん!何を!?」
 放心状態にあったサチもさすがに驚くが、ゆかりはそんなサチの声にもお構いなく、さらにその身を強く抱きしめる。
 「サチ……助けてくれてありがとう……。それに、何も出来なくてごめんね……。あんたのこと、怖がってごめんね。」
 「ゆかりさん……」
 その名を三度目に口にした時、サチの体からは一気に力が抜けていく。自分でもどうにもならなかった。
 「もうやだよ、サチもカズもこれ以上遠くに行ってしまうのは……。キングだとか女神だとか、そんなの、もういいよ。」
 呟きつつ、ゆかりの全身からも力が抜け落ち、がくりと膝が落ちていく。サチもそのゆかりの動きに引きずられ、二人一緒に膝をつく。
 「あたし……あたし、何も出来ないけど、サチが帰ってこないといやだから……。消えるなんて言わないでよ。」
 「わたし……」ゆかりに応じる形でサチも何か言おうとするのだが……。「わたし……わたし……」上手く言葉が紡げなかった。
 そんなサチを促すかのように、ランファ号の防空システム、数限りない対空砲門は沈黙していった。そして、流れる船内放送。
 「イージスシステム回復。各システム正常稼働を確認。敵戦力の本船絶対防衛圏からの離脱を確認。各員第二種非常態勢のまま待機。」
 どうやら和也とパールバディが立ち去った為に、ランファ号の各電子制御システムは無事に回復したらしい。放送は、最初は中国語で、次に同じ内容の日本語が流れた。船内に収容された日本人関係者に配慮はしているようである。
 「非戦闘員は、クルーの指示下にて船内所定の船室に待機。」
 そして、その放送が合図になったように、サチの口から言葉が紡ぎ出される。
 「わたし……わたし、いてもいいの?ゆかりさんの側で……みんなの側にいてもいいの?」
 「バカ!」
 サチの紡ぎ出した言葉に対し、ゆかりの口からは怒ったような、それでいて愛おしんでいるかのような、複雑な音色の声が漏れる。
 「ごちゃごちゃ言うな、バカ!」
 くしくも夏休み前、F市立高校で起こった最初の事件で、かつて口にした言葉が再びゆかり自身の口から語られた。
 「誰が何を言おうと、あたしは、あんたにいて欲しいんだから、それでいいでしょう?」
 それは、サチが最も必要としていた言葉でもあった。
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