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Legend , named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 6 King (3/3)

 立花和也がキングとして覚醒した夜が明け、朝を迎えたランファ号。
 冬の早朝、夜明け前のまだ暗い船上デッキ。
 本来なら無人の筈のデッキにサチはいた。
 時間が時間なだけに余人のいないデッキ。
 船自体は停泊しているとはいえ、海からの風もまだまだ寒風と言っていい。その冷気が行き交うデッキに、サチはパジャマだけ。ガウンやカーディガンのような上着の類を一切羽織ることもなく、デッキ上を吹き荒れる寒風の中、一人立っていた。
 サチにとって、昨晩の西王母の話の内容、立花和也の母親に頬を打たれ、なじられたことはとてもショックだったし、一晩経ったいまもそのことが頭の中を離れない。それでも、さすがに昨晩は戦闘の疲労もあって寝てしまったのだが、結局夜中に目が覚め、部屋にじっとしていることも出来ず、悶々とした思いのまま、こうしてデッキまで出てきてしまっていたのだった。
 「眠れなかったのか?」
 サチ一人しかいないはずのデッキに男の声。声の主については、振り向かずともサチには分っていた。
 「ナタク……寝ていないの?」
 「いや。」
 デッキへと足を踏み入れながら、ナタクは苦笑。
 「きちんと睡眠はとっているよ。俺は昔から朝は早いんだ。第一、休める時に休むのも、俺達戦闘要員の仕事のひとつではある。」
 「そう?わたしはそう簡単に切り替えできない。」
 「当たり前だ。本格的な訓練を受けていない者がそう簡単に切替えられるはずがない。」
 「あなたはそうじゃないと?」
 「ああ、若い頃、人間だった頃に随分と鍛えられたのでな。その点から言うと、お前の甘さは、戦闘用改造人間などと名乗るのにはおこがましいということだ。緑川サチ。」
 組織の改造人間である筈のナタクから名前を呼ばれ、サチは驚き、まじまじとナタクの細面ながらも短髪でいかつい顔を見つめた。そして、彼女が見る限り、いつも手ぶらであるナタクが珍しくその手に手帳を持っていることに気づいた。
 「組織側の人間から名前を呼ばれるなんて、思ってもいなかった。」
 「そうか?いや、昨晩のお前の甘さを見ていて、戦闘用改造人間としてのコードで呼ぶのも躊躇われる気がしただけだ。それに……」
 「それに?」
 「人間としての名前、捨てずに済むものなら、その方がいいとな。お前は、その名前、大事にした方がいいぞ。」
 「組織の改造人間にそんなこと言われるなんて、思ってもみなかったわ……」
 「そうだな。確かに柄ではないと思う。」答えつつ、ナタクは再びサチのパジャマ姿を見、再度の苦笑。「柄ではないついでにもう一つ二つ言わせてもらおう。その格好は何だ?」
 「格好って?パジャマだけれど。」
 そうサチは、パジャマ一枚着ているだけ。ナタクは言及しなかったがその下には下着があるのみ。足下にしてもソックスは履いておらず、部屋に用意されていたスリッパだけだ。
 「夜明け前のこんな時間に若い娘がパジャマ姿で出歩くなよ……。それにこの寒空の下、少しは寒がるそぶりくらい見せたらどうだ。」
 言われてサチは目を丸くする。
 「そんなこと考えなかった……」
 このサチの答えにナタクは嘆息。
 「全く、近頃の日本の女は……」
 その態度に対しサチの方はややむっとした顔。
 「いいじゃない。わたしが平気なんだから……ナタクって、何だかおじいさんみたい。」
 「ぬぅ……」
 サチの反論にナタクは言葉につまる。本人としては気にしているようだった。
 「それに、寒がるかどうかって、それはいまの日本女性の問題じゃなくて、わたしの問題でしょう。」
 「もういい……」
 さらに続いたサチの反論に、ナタクは力ない答え。サチはサチで、そのナタクにつきあわず
 「そういえば、ナタク、名前のことを言っていたけれど、あなたはどうなの?」
 「どうとは、何だ?」
 「人間としての名前、あなたはどうなの?」
 「俺か?俺は……捨てたと言うよりも、忘れたな……。随分と昔の話だ。」
 「西王母……」
 「何だ?」
 「西王母が、“子供の頃から守ってくれた存在があった”と言っていたわ。あれは、あなたのことなの?」
 「どうしてそう思った?」
 「何となく……」
 「そうか……」
 ナタクは答えず、サチから視線を逸らし、その目は海へ。実際には海ですらなく、どこか遠く、彼自身の追憶へと向かっているようだった。
 「それは、機密事項と言うことにしておこうか。」
 ややあって後、ナタクはそう答え、サチもその部分についてはそれ以上の追及は避けた。だからというわけではないが、サチは質問の内容を変える。
 「ところで、あなたはどうしてここに?」
 この質問にナタクは、彼にしては珍しく動揺した顔を見せた。
 いつもはほとんど無表情と言っていい彼が見せたこの反応に、サチが首を捻っていると
 「いや……俺は、ランファ号では、いつもこの時間にこのデッキにいるのが日課なんだ。」
 「任務なの?」
 「いや……」とナタクは言いよどみ、ややあっていつもより小さな声で「思いついた時だけだが……“詩”を書いている。」と。
 サチは、一瞬ナタクが言っていることが理解出来ず
 「詩?」と口にした。
 「そうだ。」
 「詩って……文章の詩?」
 「そうだ。」
 「ポエム?」と首を傾げながらさらに尋ねるサチ。
 「言うな!それから、不思議そうな顔をするな!」
 そのナタクの反応を見て、サチは改めて彼が手にしている手帳を見る。彼女の視線の動きに気づいたナタクは、慌ててその手帳を上着のポケットに押し込んだ。
 「まぁ……若い頃、いや人間だった頃からのたったひとつの趣味なんだ……」
 「どういう詩を書いているの?」
 「聞くな!」
 普段は冷静沈着を絵に描いたような態度をとっているナタクの、打って変わった狼狽ぶりに驚くサチであるが、これ以上“詩”のことには触れないでおいた方がいいだろうとも思った。
 「そういえば。」とサチは、話題を別方向にふる。「ナタク、あなたもそうだけれど、西王母といい、ペンドラゴンといい、日本語がうまいのね。」
 「ああ、ペンドラゴンはどうかはしらんが……」とこれに応じるナタク。「西王母は、優秀な生徒だったからな。」
 「生徒?もしかして、西王母に日本語を教えたのって……」
 「それ以上は、機密事項だ。」
 「あなたのことになるから?」
 「だから、機密事項だと言っている。」
 この会話の流れにサチは、彼と西王母の関係性を垣間見たような気がした。
 ただ、サチが感じ取った二人の関係性に関しては、確証もないし、言質をとった訳でもないが、“組織”といえど、人間達の集合体であることを実感させてくれる。そうしたことに思考を及ばせているサチだが、突如として鳴り響き始めたアラートに意識を呼び戻された。
 「何?」
 戸惑いつつ呟くサチを横目に、ナタクは素早く腰のホルダーにさしていたレシーバーを取り出して何事か大声で部下と通信を交わしている。会話の内容自体は、早口の上、中国語だったため、詳しい内容まではサチには分らない。
 「やられた!」
 レシーバーのスイッチを切りながら呻くナタク。
 「どういうこと?」
 「敵に、ケルビム一派に接近を許した……イージスシステムはどうなっている?いきなりレッドコールなど……」
 呻きつつ顔を上げたナタクは、そこでピタリと動きを止めた。
 何事かとナタクにつられて視線を彼に合わせたサチの目に飛び込んできたもの、それは……。


 ランファ号を覆い込むかのように空に広がり、夜明け前の闇を塞ぐ巨大な蝶の羽根模様だった。
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episode 06 FIN
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