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Legend named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 5 Key (1/4)

 「ケルビム……?あれが?」
 ナタクの説明を聞いても、サチもそしてマリも一瞬その内容が理解出来ない。
 「あれ……“宇宙船”が、ケルビム?でもケルビムって……。」
 サチの記憶の中にあるケルビムの姿。それは数度遭遇しただけではあったが、サチの目にはどう見ても人間の青年そのものだった筈。少なくとも、外見上の特異性は、サチの超感覚を以てしても認められなかったのだが。
 戸惑いつつ、サチは傍らのマリを見るが……。
 マリも首をふるばかり。
 彼女にも事態が良く理解出来ないらしい。
 「ケルビムには、わたしもプロフェッサーの元にいた時に一度だけ会ったことがあるけれど、外見上は普通の人間の男だったわ。でも……。」とマリは厳しい顔つきに。「あの時、プロフェッサーの誇る監視システムは、ケルビムを全く感知できていなかった……そんな完全な侵入、人間はおろか改造人間にだって出来はしないのに……。」
 「ありえないほどの神出鬼没さを誇る、ありえないほどの美貌を持つ青年……あなた方に限らず、ケルビムに対して人が抱く印象って、そんなところでしょうね。」
 戸惑う二人、サチとマリの耳に西王母の声が響く。
 「ありえない……そう、ケルビムはね。存在しないのと同じなの。」
 「存在しない?」
 「そう、ケルビムは……あなた達の見たケルビムは存在しない幻のようなもの……。」
 サチの問いに、西王母は歌うように応える。
 「あれ、わたしやあなた達が見ていた彼の姿は、この地球全体に張り巡らされた彼……。」と西王母の視線は、スクリーンの中の宇宙船に。「彼のネットワークが作り出した幻影。言ってみれば、質量を持ったホログラフ。」
 「質量を持ったホログラフ?」
 サチには、西王母の言っていることが理解出来ない。そのサチに西王母は苦笑。
 「質量を持ったホログラフ……とでも言わなければ説明できない現象ということよ。ケルビムの取っている人としての姿はね。原理はどうなっているのかは、聞かないでね。“組織”の科学者にだって、分っていないんだから。」
 「我々が見ているケルビムの姿は、言ってみれば我々向けのインターフェイスのようなものだ。」と途中で口を挟んできたのは、ナタク。
 「異星文明の所産たるケルビムを分析した数々の成果は、我々のテクノロジーの礎のひとつとなっているわ。そして、その“体”はわたし達の改造人間を作る上でも……ね。」
 「“体”?どういうこと?あの宇宙船がケルビムの本体なんでしょう?」
 西王母の説明に、マリが首を捻る。同じ疑問は、サチも抱いていたことである。
 「ケルビムの姿はインターフェイスであると言ったけれど、宇宙船であるなら、乗員の船外活動用装備があるわけ。だから、ネットワークを外れた場所を動くために、実体のないケルビムの為の活動用ボディも、あの宇宙船の中にはあるわ。」
 「それが、ケルビムの“体”であり、我々の生み出す全ての改造人間の雛形というわけだ。」
 西王母の説明を、ペンドラゴンが引き継いだ。
 「十三号。」とペンドラゴンの視線は、サチに向かう。「君の戦った相手、ポリスやシスター、そして今日戦ったパニックなども、全てケルビムのボディを解析した成果が盛り込まれている。我々のテクノロジーは、何もかつて君を生み出した組織の遺産だけというわけではないのだよ。」
 「だったら……。」ここで初めて話に加わった者がいた。サチの母、緑川綾子である。
 「それほどの力を持ち、オーバーテクノロジーの塊とも言えるケルビムを、あんた達はどうやって自分達の配下に置いていたのさ。」
 「なかなかいいところをついてくるわね。さすがは、ドクター……。」
 「いまのわたしは、緑川綾子だよ。」
 昔の名前を口にしそうな気配を察した綾子が、咄嗟に西王母を牽制する。
 「失礼。」苦笑しつつ、西王母はその細い指をサチとマリにつきつける。
 「全ての鍵は、あなた方が所有しているスターティア……。」
 スターティア、それはケルビム言うところの「力と意志を持つ宝石」。
 「スターティアが何なのか?それはわたし達にも説明できないのだけれども、ただケルビムがああして宇宙船としての機能を発揮するためには、ある程度以上の数量のスターティアが必要だった。どういう経緯でなのかは分らないけれど、ある時期、気の遠くなるような昔に、ケルビムの持っていたスターティアは世界中に散らばり、彼はその力の多くを失った……そうよ、組織の科学者によるとね。」
 そこまで話した西王母が無言のまま目配せをすると、ナタクは頷き、手元のリモコンを操作してスクリーンの表示を切替えた。
 すると、そこに映し出されたのは……。
 「これは……何?」
 呻くような声を上げたのは、マリ。
 映し出されたのは、数多くの顔写真とそれに付随するプロフィールと思しき文字の羅列。
 「みんな、組織の有力者ばかりじゃない。」
 「ゼロ、さすがに察しがいいな。君の知った顔もあったようで話が早い。これらは皆スターティアの所持者として確認された者達だ。そして、全員が、もうこの世には存在しない。昨年のクリスマスから今日に至るまでの間に、死亡が確認されている。」
 「クリスマスから?……学校の冬休み時期に?」と問うたのは、サチ。
 「そうだ。」とナタク。「おそらくは、ケルビムと連携したネオ、村上さくらの仕業だろう。現場では、若い日本人女性の存在を確認する報告が数多くあがっている。全く、妙なところで律儀なものだな。職場が休みに入ってから行動を起こすというのも。」
 ナタクの言、その後半は彼なりのユーモアととれなくもなかったが、サチにそれを笑って受け止める余裕はなかった。
 「スターティアの特性の一つとして、“力”を持った者同士がぶつかりあった場合、敗れた側の持つスターティアは、勝者のモノとなる傾向があるの……十三号、あなた、身に憶えがあるでしょう?」
 強ばった面持ちで話を聞くサチに、西王母の問いかけ。それが、シスターとの一戦を指しているのは明らかだった。思えば、シスターとその配下との戦いこそが、彼女が初めて経験した“組織”との本格的な戦闘だった。
 「確かに、わたしの持つスターティアは、元々シスターのモノだったという話……。でも、スターティアの回収……ケルビムにとっては回収なんでしょうけど、どうして“いま”なの?」
 「ひとつは、量子マシンサイボーグ……。」
 サチの問いにおもむろに口を開くのは、ナタクでも西王母でもなく、ペンドラゴン。
 「ケルビムの活動が顕著になり始めた最初の時期は、ゼロ……。」とその視線は、マリに。「君がスターティア所持者として確認された時期と重なる。そして、以後、彼の足跡は極東方面、つまり日本に集中している。これは、ゼロがプロフェッサーから出奔して以後、日本へと移動したこともあるだろうが、それ以上に、いまにして思えば、十三号……君なのだよ。これは偶然なのか、私にも確証はないのだが、君が長い眠りからドクター……いや、母君の手により覚醒した時期とゼロがスターティアと遭遇した時期は重なっている。」
 いつしか、ペンドラゴンの視線は、再びサチに向けられていた。彫像のように白い顔は、同じく白い髪とひげとに包まれ、表情は読み取りにくかったが、その奥に見える蒼い瞳の眼光は鋭くサチとマリを射貫いている。
 「量子マシンサイボーグは、もともとは机上の存在に過ぎなかった。そもそもどうすれば、量子マシンが作れるのか?その糸口さえ、人類はまだ掴んでいない……にも関わらず、現在、君を含めて三体……。それもこれも、君が覚醒して以後に集中している。全て君の周りに……だ。十三号、君の母君と光明寺との繋がりを考えれば、ゼロもまたこの繋がりの中に入れても良いだろう。これは、ただの偶然なのか?」
 ペンドラゴンの言葉の後半部分は、明らかにサチに向けられたもの。その問いに戸惑うサチに、さらに西王母の言葉が追い打ちをかける。
 「シンクロニシティというべきかしら。もし、この“世界”に意志というものが存在するのなら、十三号、明らかにあなたが“鍵”になっている。それに、ペンドラゴンは三体と言っていたけれど、わたしは現在この地球上に存在する量子マシンサイボーグは、四体だと思っている。」
 「四体?わたし、マリ、村上さくら……あと、一体は?」
 西王母の言っている意味が理解できず、問い返すサチ。そのサチの横に座るマリは、表情を固くしたまま、その目を伏せ、離れた席に座り、いままでの話を黙って聞いていた神崎ゆかりの顔は、見る見るうちに蒼ざめていく。
 「ねえ、十三号……。」サチの問いに答えることなく応じる西王母の年齢に反して整った顔は、恐ろしいほど無表情だった。「どうして、立花和也を彼らは狙ったのかしら?」
 「どうして……って……。」
 やや詰まりつつ答えながらも、サチの中にある考えが浮かんでくる。それは絶対に合って欲しくない事象。
 「ケルビム達の行動は、十三号、あなた、そしてゼロ、いまはネオを軸として動いている。その全てに“量子マシンサイボーグ”という共通項がある。そして、その中に立花和也というパーツを組み込んだとして……。」
 サチは、耳を塞ぎたかった。
 何故?
 どうして?
 そうした問いが、彼女の中に生れ、その答えのいずれも彼女自身の存在そのものを糾弾する声が入り込んでくる。
 「ナタクが一部始終を見ていたそうよ。立花和也が、プロフェッサーのロボットを素手で何体も破壊している様子をね。」
 西王母の話がここにまで及んだ時、サチは目の前が真っ暗になるのを自覚した。そのサチに対し、西王母は容赦なくその節くれ立った指をまっすぐに突きつける。
 「いまの立花和也は、もう人間ではない……十三号、あなたとの出会いを切っ掛けにね。」
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