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Legend , named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 4 Wake (2/4)

 ランファ号内部。サチが眠り、ひずるとマリが会話を交わしていた部屋からみて階下。他の部屋に比べてもかなり広いスペースを与えられた空間。そこに、サチの愛車マシン・シルフィード、マリの愛車マシン・ギルバートの姿はあった。
 二台ともに、その機関部分、液流エンジンと超伝導モーターは本体から取り外されていた。完全な分解メンテナンスが行われているようだ。作業着姿の男達が何人も走り回り、気ぜわしげに手を動かし、声をかけあっていた。その中にあって、手持ち無沙汰気味に状況を見ている者が三人。
 「じいちゃん、やることないね。」とまだ若い女性。女性にしてはやや背が高く、白いツナギ姿の彼女は、サチ達の暮らす町で「バイクショップ アミーゴ」を切り盛りする谷ハルミである。
 「ああ、光明寺の旦那の寄越した連中も、もとからここにいるやつらもよくやってくれる。でも、スタッフが優秀過ぎるというのも、ちと困りモンだな。」
 そう答えるのは、背の低い老人。レーシングチーム谷モーターワークスの総責任者、谷吾郎。通称「監督」。ハルミの祖父にして、世界的な名声を誇る名チューナーでもある。
 「まぁ、いまは楽をさせてもらいなよ。最後の仕上げは、あんた達にしか出来ないんだし。」
 二人にそう応じるのは、壮年の女性、緑川綾子。サチの育ての親であり、かつてサチを改造人間として再生させたという意味で言えば、生みの親と呼んでも差しつけないかもしれない。
 「でも、わたしはともかく……。」その綾子がふと顔を曇らせた。「あんた達、本当にここ(ランファ号)までつきあってもらってよかったのかね?」
 「何を言ってやがる。」綾子のその言葉に、監督が大きく笑い声をあげた。
 「どの道、あんたの話じゃ、嬢ちゃんに関わった人間はみんな危険だし、だったら、多少は安全の見込めるところの方がいいだろう……何より、多分ここが嬢ちゃんが最後にする“喧嘩”のベースになるだろうしな。」
 「“喧嘩”って……。」監督の言い様に、綾子は苦笑する。「他に言い方ないのかい?」
 「どう言いつくろっても、喧嘩は喧嘩だろう?大店衆が出張って来ているから、話が大げさなだけで。」
 「大店衆ねぇ……まぁ、西王母やペンドラゴンのことなら、そう言えなくもないだろうけど……。でも、あたしとしては、サチのせいであんたらを巻き込んでみたいで……。」
 「おい!」監督の声が荒くなる。ギロリとその大きな目で綾子を睨みながら「本当なら、親のあんたに言う事じゃないが、嬢ちゃんがいるところじゃ、絶対にそのことは口にするなよ。俺達は、二人とも好きでここにいるんだ。」
 「そうですよ。」とこれはハルミ。「ビー君、シルフィードもギルバートも、わたし達にとっては大事なマシンなんですから。何もかも人任せには出来ませんよ。それに……。」と監督を見ながらさらに言い加える。「わたしもじいちゃんも、さっちゃんやマリちゃんが好きなのには違いないし。」
 「そう言ってもらえるのは、素直に有り難いけどね……。」
 「なあに、気にするな。」と監督。先ほどとは違い、やや明るい声。「嬢ちゃんも、いままでは誰かの為とかで喧嘩をしていたが、今回は多分に嬢ちゃん自身のため……というのが大きいからな。たまには、自分のために、わがままに、思い切り暴れればいいんだ。その為なら、俺は俺の出来ることでいくらでも手助けしてやる。」
 「マリちゃんの話だと、既に大暴れみたいだけどね。」と監督の言い様に、綾子は苦笑しつつ答える。
 「いいじゃねえか。惚れた相手の為に頑張るヤツが負ける訳にはいかないだろうよ。ただ……。」と監督の視線が動いた。
 「嬢ちゃんには、やっぱり戦闘服よりも、その格好の方が似合うよなぁ。」
 監督の視線の先、そこにはF市立高校制服姿のサチ。
 「母さん……監督にハルミさんまで……。」
 「よう!ようやくお目覚めか。」
 呆然と立ち尽くす制服姿のサチに、最初に声をかけたのは監督。
 「おおかた、大慌てでシルフィードを持ち出そうとした……ってところだろうが、あいにくだったな。」
 監督の言い様に、サチは黙って唇を噛む。
 「何だ、図星か……。全く、あのマリって娘の言う通りだったな。諦めろ、ビーにしたって、メンテ抜きにお前さんにはつきあえないよ。」
 「じいちゃん、もう少し言い方ってものが……。」
 挑発するような監督の言い方に、ハルミが慌てて口を挟む。
 「構わねえよ、それくらい言わないと、いまの嬢ちゃんには分らないだろうからな。」
 むすりとした顔で言い返す監督、一方サチとその母親である綾子は厳しい顔。
 「サチ、いまはとにかく休みな。あんたにもビーにも休養が必要だよ。」
 「母さん、でも……。」
 「でも……なんだい?」
 「立花君を……。」
 「立花君のことは聞いたよ。でも、いまは手が出せる状態じゃない。あんた、ケルビム達のこと、少しは話を聞いたのかい?」
 「ケルビム?何のこと?」
 サチにすれば、ケルビムは今回の件の背後にいるらしいことくらいにしか認識していない存在だった。
 「まだ、何にも聞いていないんだね。」
 サチの反応に綾子は嘆息。
 「部屋には、マリちゃんとひずるちゃんがいたはずだけど……あんた、二人の話をろくに聞かずに飛び出してきたんだね。起きてすぐ……着替えているだけ、まだましな方か。」
 この綾子の言に、サチは返事に詰まる。
 「十三号〜〜!!」
 サチが返事に詰まった為、無言で向き合った状態になった二人の背後からマリの大声が響く。
 「あんた、人の話もろくに聞かずに何うろついているのよ!」
 そのマリの言葉に、綾子は苦笑。
 「何だい、あまりにも予想があたり過ぎると気持ち悪いね。」
 「親稼業も伊達じゃない……ってことだろうよ。」とは監督である。
 対してサチは、「ううう……。」と小さく唸りながら下を向いていた。
 そのサチにマリは「焦る気持ちは分るけど、少しは落ち着きなさいよ。」と言いつつ、その腕を取る。
 「わたしとひずるとで、しっかり状況を解説してあげるから!」
 「いや、その必要はない。」
 サチの手を取ったマリが、無理矢理引っ張ろうとしていたが、それを静止する声がかかった。声の主は……。
 「ナタク?」
 マリが名を呼ぶその人物は、傍らにひずるを従える黒いスーツで長身を包んだ短髪の男。
 「いま、関係者とその家族の収容が終わった。それにペンドラゴン卿も来られたことだし、わが主人西王母より直接話をしてもらうことにした。」
 「西王母が?自分で?」
 「そうだ。」
 ナタクとマリのやりとりの中、“長”という言葉に、激しく反応するサチ。「組織の“長”が、直接わたし達の相手をしてくれるというの?」
 「そうだ……だから、十三号、これからゆっくり話を聞かせてやろう。短気を起こすことはない。ただし……。」とナタクは、改めてサチに向き直る。実に直線的な動作だったが、彼の強固な意志もそこには感じられた。「くれぐれも妙な気は起こすなよ。」
 サチも負けずにナタクから目を逸らさず
 「話の内容次第……。」
 と言い返す。
 「ふむ……。」ナタクは、そんなサチをまじまじと見、ふと口元を緩ませた。「十三号、腹を括るのとヤケになるのとでは、意味が違うぞ。」
 「どういう意味?」
 「多少は状況を把握してから言葉を選べと言うことだ。話の場では、ささやかだが食事も用意させて貰っている。君の好物を用意させて貰った積りだ。西王母とペンドラゴン、二人の“長”以外にも大事な出席者もいる。大人しくしてくれていると助かる。」
 ナタクはそれだけを言うと、くるりとサチに背を向け、一同が揃う部屋、船内工場とでもいうべき場を去っていく。一緒にいたひずるは、一瞬ナタクに従いかけたものの、すぐに重いとどまり、小さな歩幅ながらも小走り気味にサチに駆け寄った。
 「緑川先輩。あまり気を悪くしないで下さいね。」
 「いや、わたしは別に……。」
 「気を失った先輩をここまで運んでくれたのは、ナタクさんなんですから。何しろ、“長”のペンドラゴン卿を後回しにしてまでヘリを手配してくれたんですよ。」
 「ナタクが?」
 ひずるの話は、サチにすれば初耳である。
 「そうですよ。先輩、話を聞かないうちに部屋を飛び出すから……。」
 ひずるの言い方は、決してサチを責め立てるものではなかったのだが、サチの方は申し訳なさそうにうつむいた。
 「ひずるさん、ごめんなさい……。」
 「いや、そんな……。」
 サチの態度にひずるは慌てるが
 「いいのよ、ひずる。もっと反省させていれば……。」
 マリだけは、呆れるような口調でそう呟いていた。
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