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Legend named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 21 Break (1/5)

 自分と同年代の少女なのだろうか?
 それとももっと大人の女性なのか?
 彼の視線の先にいる彼女が年齢の窺えない不思議な雰囲気を醸し出しているのは、決して彼と彼女の間に距離があるせいばかりとも思えなかった。
 彼、神崎和馬はちょうど階段を上がりきったところで、廊下の端、彼の位置から見て廊下の一番奥にある自分の教室「二年A組」の前に立つ彼女をぼんやりと眺めていた。
 余人のいない廊下で、和馬は細身で遠目に見ても整っていると言える彼女のその顔に見惚れていたというのもあるが、その顔にはどこか懐かしさを感じてもいたからだった。昔、どこかで出会っていたような既視感。彼女にはそれがあったのだ。
 その既視感の正体について、ふと和馬はいまの生徒会長を思い出す。
 目の前の彼女は、この学校の生徒会長によく似ているのだ。既視感の正体はそれかと思い至るが、単なる既視感ではなくひどく懐かしく感じるところに若干の違和感がある。そう思い、じっと彼女を見ていると、何だか記憶の片隅にある何かが蘇ってくるような感覚があった。ちくりと頭を刺されるような感覚とともに「守り刀」という言葉が、脳裏を掠める。
 記憶の中で蘇る言葉--「大丈夫、――が和馬君の守り刀になってくれるわ」
 この言葉を発したのは和也の視線の先にいる彼女ではなかったか?
 その彼女は和馬の視線に気づくことなく、じっとある一点を見つめていた。
 視線の先には「2-A」のプレート。
 それをじっと眺める彼女は、泣いているようなほほえんでいるような何とも言えない表情をしている。和馬は直感的に「懐かしんでいるのか?」と思った。なぜそう思ったのかは、自分でも分からない。
 時間経過も、文化祭の最中であることも、そもそも何故自分がここまで足を運んだのかも忘れるほど、ぼんやりと彼女を見つめていたが、その彼女の横に一人の人物が近づいた。
 背の高いがっしりとした体格の青年。身長は176センチの和馬よりも高い。
 青年?男もまた年齢の分かりづらい男だった。
 その容貌は少年にも、青年にも、和馬の父親に相当する年齢にも見える。
 何よりもその男を特徴付けているのは、だらりとぶら下がるジャケットの右袖。どうも、肘から先がないようだ。
 その片腕の男と和馬の視線が合った。
 男は和馬を見て優しく微笑み、次いで傍らの彼女に何事か囁いた。途端に彼女はハッとした顔をした後、和馬に向かって振り向いた。
 その顔には満面の笑顔。
 見惚れた和馬を前に、彼女は男と揃ってしずしずと和馬に向かって頭を垂れた。
 「・・・・・・をよろしく」
 と言っているように聞こえた。最初の部分は、距離の為、はっきりとは聞き取れなかったが、急に自分に向かって頭を垂れた二人に気圧され、和馬も二人に少し遅れながらも慌てて頭を下げたが――
 頭を上げて再び「二年A組」の教室前を見た時には、二人の姿は影も形もなかった。
 呆然とする和馬だったが、その和馬にかける声があった。
 「まーくん、何をしているんスか?」
 振り向くとそこにいるのは、セーラー服の同年代の少女。
 村雨ミライ、和馬と同じくF市立高校二年A組に在籍するクラスメイトである。
 「何って・・・・・・お前、その髪、どうしたの?」
 振り向いて見たミライの髪型は、後ろ髪をくくったポニーテールと呼ばれるもの。和馬の記憶にある限り、彼女はつい昨日までロングのストレートだった筈だ。
 「えへへ・・・・・・」
 和馬の指摘にミライは、笑いながら指で鼻の下をこする。
 「いや、この間ね、ゆかりおばさんの高校時代の写真見せて貰ったら、この髪型だったんスよ」
 言いつつ、自分の後ろ髪を触るミライ。
 「うちの母さん、高校生の頃は髪を短くしていたから、実を言うと、ゆかりおばさんのポニ-テールが羨ましかったんだって。だから、ちょっと真似てみました」
 と言って、また笑う。
 「あとで母さんにも見せて悔しがらせてやるッスよ。ついでにまーくんのマザコンハートもゲットッス!」
 「誰がマザコンだ。大体、お前の母ちゃん、そんなことで悔しがったりするのかよ・・・・・・」と苦笑しつつ応じながらも、和馬はハッとする。
 「あとで・・・・・・って、お前の母ちゃん、文化祭に来るの?」
 ミライは帰国子女であり、両親ともに海外在住の筈である。
 ミライ自身も中学までは海外で過ごしており、日本の高校に通う為、いまは両親の知人の家に下宿しているのだった。その下宿先の夫妻は、母ゆかりの古くからの友人であり、和馬にとっても幼少時より家族ぐるみで親しくして貰っていた間柄である。
 「母さんだけじゃないッスよ。父さんも一緒。夫婦揃っての里帰りッスよ」
 海外暮らしが長かったせい、というだけでもないだろうが、ミライの話し方はどうにも不自然に感じるところがある。
 「里帰りね・・・・・・お前んとこの親、二人ともF市の出身なんだっけ」
 「この高校の出身でもあるッス」
 「じゃあ、OBなんだ」
 「OB・・・・・・というのとは違うんだよね」
 この答えの時だけは、ミライの顔に影がよぎった。いつも和馬が見ている陽気なミライとは違うもうひとつの顔。
 「二人とも卒業はできなかったから・・・・・・」
 「そうなのか」
 和馬もそれ以上は問わない。何か踏みいってはいけない事情があるように感じたから。
 「でも・・・・・・」話が湿っぽくなったのを感じて、和馬は意味のない接頭語を間に置いて話題を切り替える。「今日は会えるんだろう。俺も会ってみたいよ」
 くすりとミライが笑みを漏らす。和馬の質問がおかしかったらしい。
 「何がおかしいんだよ?」
 「まーくん、うちの父さんにも母さんにも会ったことあるんだよ。憶えていないの?」
 「え?うそ、いつ?」
 「子供の時、わたしも一緒にいたの、憶えてない?母さんがわたしとまーくんに言ったことも?」
 「いや・・・・・・憶えてない?何を言っ・・・・・・・というか、まーくんて言うの、いい加減によせ」
 「何で?」
 ミライは、和馬と出会った時から和馬のことを「まーくん」と呼ぶ。普通、相手の名前がカズマなら「まーくん」ではなく「かずくん」ではないかというのが和馬の主張である。いや、より正確に主張を述べるなら、「かずくん」もやめてほしい。
 「まぁ、親父がカズオだから“かず”を避けるのは分かるんだけどさ」
 和馬がそうぼやくと
 「名前が被るのは、まーくんのお父さんだけじゃないんスけどね・・・・・・」
 とミライは小声で呟くが、和馬にははっきりと聞こえなかった。
 「理由はともかく、まーくんはいい加減にやめてくれ」
 「ダメッス。まーくんはまーくんッス」
 「お前が俺のこと、まーくんまーくん言うから、クラスの連中も変な目で見るだろうが」
 「え?ミライとまーくん、そういう関係じゃないンスか?」
 ミライが傷つけられたと言わんばかりの口調で問いただす。
 「何で俺が問い詰められてるの?実際、そういう関係じゃないだろが?」
 「ひどい。遊びだったんスね」
 「何かしたみたいに言うな!・・・・・・大体、お前に色気なんて感じないし」
 「もっとひどい!胸がないのは母親譲りッスよ、セクハラッス!」
 「胸の話なんてしてねえよ!」
 「それはそうと、まーくん、どうして教室に戻ってるんスか?」
 あいにくと和也の抗議は軽く受け流されてしまった。
 「今更それか。ちょっと忘れ物したから教室に取りに来たんだよ」
 答えながら教室内の自分の席に行き、フックに賭けられた自分のバッグから一冊のファイルを取り出した。ファイルを手にまた教室を出ようとしたところで、ミライがぐっと顔を近づけて和馬が手にしたファイルをのぞき込む。
 「それ例のインターネットで手に入れたレポートッスか?」
 「そうだよ」
 「あんまり、それに関わらない方がいいと思うンスけどね」
 ミライのその口調はいつものおちゃらけたものとは違い、いやに真剣味をおびたものだっただけに和馬は少し驚いた。ミライはこうしたものにはあまり関心がないものと勝手に彼が思い込んでいたということもある。
 「そうか?今日は折角最有力容疑者に会えるんだから、直接確かめるチャンスじゃないか?」
 最有力容疑者という言い方は剣呑だが、要は出所不明なままインターネット上に漂っている文書の著者候補という意味である。
 その著者の最有力候補と目されている人物は、このF市立高校のOBであり、和馬の知り合いでもある。
 名を佐久間忠という、いまではそれなりに名の売れた作家でもある。
 その佐久間忠は、妻であるひずる夫人ともども和馬の母、神崎ゆかりの高校時代からの友人であり、昔から家族ぐるみでつきあいがある。ただ、問題はこの夫妻、自宅こそF市においたままだが、実際には夫妻揃って海外を飛び歩いていることが多く、なかなか捕まえることが出来ないのだ。
 「お袋から二人揃って今日は文化祭に来るって聞いてるしね。いいチャンスじゃないか」
 「まぁ、それはそうかもしれないスけどね・・・・・・海外を飛び回っているのだって、それなりに意味があるんだから、あまり深入りするのは・・・・・・」
 「何?お前、何か知っているの?」
 「いや、何も知らないッスよ」
 和馬に問いただされたミライは慌てて首を振る。
 「ただ、わたしも理由は聞いていないけど」と断った上で「うちの両親もそのことでは口を濁すから、何かあるのかなって・・・・・・」
 「お前の親も忠おじさん達の知り合いなの?」
 「え、いやまぁ・・・・・・」
 ミライは慌てて自分の口に手をあて、露骨に「しまった」という顔を見せたのだが、和馬は「ああ、そういやうちのお袋と忠おじさん同級生だったし、お袋とお前の親が知り合いなら忠おじさんとも知り合いでも不思議でも何でもないか」と一人納得。
 「まーくんのそういう早合点なところ大好きッス」
 納得顔の和馬を見てミライは小声で呟くが、
 「何か言ったか?」
 和馬にははっきりとは聞こえなかったようだ。
 「ううん、何でもないッス」
 おかげでミライは笑って誤魔化すことが出来た。
 「まぁいいや、とりあえずクラスの出し物の方に顔を出しておくか。そろそろ交代時間だしな」
 「そうッスね」
 二人は元来た廊下と階段を辿り一年の教室の並ぶ一階を抜けて、クラスで出している模擬店のテントに向かおうとした。その途中、階段を下りきったところで和馬は一人の少女とぶつかりそうになった。
 「あ、ごめん」
 反射的に謝った和馬。対して相手の少女は、一瞬驚いて見せたもののぐぃっと和馬に顔を近づけ、まじまじと彼の顔を眺めた。
 (近い、近い、顔が近いよ・・・・・・)
 和馬に顔を近づけた少女は瞳に満ちた好奇心を隠そうともせず、「ふ~ん、この子がそうなんだ」と呟きつつ、長く伸ばした栗色の髪をかき上げると、彼の背後にいるミライを見て悪戯っぽく笑った。近づかれた和馬の方は、というと、少女の顔もそうだがかすかに彼の体に触れたその大きめと言っていい胸元に目が行ってしまう。
 着ている衣服こそ、このF市立高校女子のものだが、和馬はこのような少女は見たことがない。
 「一つ忠告」
 呆気にとられている和馬に少女は、人差し指をたてて悪戯っぽく片目をつむる。
 「え、何?」
 少女の堂々とした立ち振る舞いに気圧されて、和馬はそう応じるのが精一杯。
 「今日一日は年上の女には気をつけた方がいいよ」
 「は?」
 気の抜けた声で応じた和馬と対照的に意味ありげに微笑む少女、そのほほえみは挑発で、そのせいかどうか、和馬の位置からは見えないものの、後ろにいるミライは対照的にずっと顔をしかめている。
 その少女の元に、年の頃なら五,六歳という感じの女の子が駆け寄ってきた。日本人とは違う東南アジア系特有の顔立ちをした女の子だ。
 「ママ~~」
 和馬の見る限り彼と同世代にしか見えない少女に向かって、女の子は確かにそう言った。
 「あー、はいはい」
 女の子が駆け寄ってきた途端、少女はつい先ほどまで和也に向けていた挑むような笑顔を引っ込め、慈愛に満ちた優しい笑顔を浮かべた。
 少し屈んで女の子の手を握ると
 「一応、忠告はしたからね。それじゃあね、和馬君」
 と言い残し女の子の手を引いたまま立ち去っていく。
 二人の姿が和馬の視界から消えかけるその間際
 「ママ-、お腹減った。あっちでたこ焼き売ってた」
 「はいはい、でも今日は“ママ”っていうの禁止ね」
 「わかった。今日のママ、かわいいもんね」
 「またママって言った・・・・・・でもそうね、ママもまだまだイケるでしょ?」
 「ママもママって言ってる~~」
 きゃっきゃっと小さな子供特有の笑い声が遠ざかっていくのを見送った和馬は、呆気にとられたまま後ろのミライに尋ねる。
 「いまの子、どうして俺の名前を知っていたんだ?」
 「さあ・・・・・・あたしに聞かれても・・・・・・」
 問われた方のミライはそっぽを向いて気のない返事。とぼけているようにしか見えないのだが、前を向いたままの和馬はそれには気づかず
 「年上の女に気をつけろって、一体何なんだ?」
 と困惑したまま呟いた。
 「まぁ、まーくんの場合、さっきみたいな思いっきり年上の女の人とか生徒会長みたいな人に気をつけた方がいいということじゃないンスかね」
 振り向くと、ミライは不満げにむくれていた。
 「お前、何言ってんの?どうして、ここで生徒会長が出てくるの?」
 「まーくんって結構年増好きなんスね。それともやっぱり胸の大きな女がいいんスか?」
 「お前、本当に何言ってんの?」
 ずっとむくれっぱなしのミライに、和馬はたじたじになっていた。


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