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Legend named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 20 Hikari (1/4)

 切っ掛けは、自分の名前だった。
 「十三号」と呼ぶ声があり、その呼びかけに反応しつつあった意識はおよそ無意識に近いものだった。
 その無意識に「サチ」という楔が打ち込まれた。
 声の主は、彼女のパートナーであるとともに彼女の愛車マシン・シルフィードの頭脳体であるビーだったと思う。
 しかし、その声と存在はすぐに失われた。
 声を切っ掛けにして、彼女の中で失われた自意識は僅かながらも再び目覚めた。
 しかし、あくまでもいま自分が「存在」しているという「意識」だけだ。
 本当の意味での彼女の自意識を目覚めさせた声は――


 「緑川」


 「緑川」そして「サチ」
 二つの言葉が繋がり、彼女の名前となった。
 緑川サチ・・・・・・その名は「十三号」とは比較にならない強い力を伴った呼びかけとなり、彼女の意識を揺り起こした。
 一度閉ざされたそのまぶたがこじ開けられ、彼女はそこに自分の敵となる存在を見た。しかし、その存在を認めた彼女の口からは、眼前の敵の名前とは異なる者の名前が呟かれた。


 「立花・・・・・・君・・・・・・」


 立花和也、彼女=緑川サチの高校でのクラスメイトであり、思い人であり、そしてつい今し方まで彼女を窮地に陥れていた敵首魁の一人、「キング」と呼ばれる存在であるとともに、彼女と関わったことで彼女と同じく量子マシンサイボーグという人間の範疇から逸脱した存在。
 しかし、その立花和也の姿は緑川サチの視界の中にはいなかった。
 彼女の視界の大部分を覆っていたのは、ケルビムと呼ばれる存在の異形の巨躯と浮遊する無数のスターティア。
 ただ、彼女の自覚するつい直前の状況では人型のシルエットをなぞりつつ集結しつつあったスターティアの群れは霧散するかのごとく空中に散り散りとなって浮遊していたし、ケルビムに至っては、紫色の体液、異星文明の生み出したマシンでもある彼の体にとっての冷却剤なのかそれとも人間にとっての血液に当たるものなのかは不明であるが、少なくとも人間にとっての血液とは全く異なる色合いの体液が、腹部からどくどくと流れ出していた。
 「キング、君は・・・・・・」
 サチの知る限り初めて耳にするケルビムの焦燥感がにじみ出た声。
 「悪いな、気がついてからあんたを観察していて思ったんだ」
 首をねじったケルビムの貌、その貌の異形を象徴する二つの大きな複眼にサチのよく知る者の貌が映り込んでいた。
 立花和也である。
 「あんたに隙が出来るとしたら、緑川を手に入れたと思った瞬間くらいなものだろうってね」
 ケルビムの複眼に映り込んだ彼の口元が引き締まり、それとともにケルビムの腹部からの出血が激しさを増した。
 「ぐはっ!」
 ケルビムの口から苦痛にうめく声が漏れた。
 「いまこの瞬間だけは、人間じゃなくなったことに感謝するよ、ケルビム。おかげであんたを止められる」
 ケルビムの腹部から僅かに和也の指先が覗く。どうやら手刀で背後から刺し貫いたようだ。
 「いくら桁外れのスペックがあるからって、欲をかいて実体化したのが裏目に出たな」
 その和也の言葉にケルビムは膝を屈しようとしたのだが――
 「ふざけるなぁー!!」
 すぐに腰をあげたケルビムは振り向きざま自分の身を貫く和也の腕、その肘に向かい逆に手刀を振り下ろした。
 途端に響き渡る和也のうめき声、飛び散る鮮血。ケルビムの影から初めてハッキリと意識の戻ったサチの眼前に姿を見せた和也は苦悶の表情を浮かべながらゆっくりと倒れていく。そして、その右腕は・・・・・・
 肘から先がなくなっていた。
 「立花君!!」
 意識が戻ったばかりで復調にほど遠い状態ながらも、必死に体を起こしケルビムの暴挙を止めんと飛びかかったのだが――
 「うるさいよ」
 サチの動きはお世辞にも素早いものではなく、その動きを簡単にケルビムに制されてしまった。意識が戻ってからすぐの動きだったのだから致し方ない。
 「立花君、立花君、立花君、立花君・・・・・・」
 サチの顔はケルビムの大きな手にがっしりと掴まれていたが、その指の隙間から見える和也の倒れた様に力なくひたすら呟くのみ。ケルビムに自分の身が押さえられていること、その頭部を彼がその気になれば簡単に握りつぶせることさえも、全く意に介していない。
 「立花君、立花君・・・・・・」
 呪文のように口をついて出るのは、目の前のかつて少年だった者の名前だけ。
 「立花君、立花君、立花君、立花君、立花君・・・・・・」
 「うるさいと言っているだろう!」
 和也の名を呼び続けるサチに苛立ったのか、それとも和也に負わされた傷のせいなのか、普段の気取った言動と違い荒々しい声をあげるとサチの顔をつかんだまま、その体を激しく壁面に押しつける。異星文明の所産たるケルビム本体の宇宙船の壁がボロボロと崩れ落ちるほどの衝撃がサチを襲うが、そこでも彼女は悲鳴一つあげることなく、ただひたすらに和也の名を呟き続ける。
 その声に応じるように和也が呟く。
 「緑川・・・・・・」と
 力ない声が、血濡れた床に踞る和也から発され、同時に徐々に失われていく船内の重力の為にケルビムによって断ち切られた彼の腕が浮かび上がって、サチの視界の中に入る。
 「あ・・・・・・」
 呟きが言葉にならない声に変わった。そして・・・・・・
 「あ、あああああー!」
 言語化出来ない呟きはすぐに叫びに変わり、叫びとともにサチの細い腕はケルビムの節くれ立った指に向かう。
 「ん?」
 怪訝に首を傾げるケルビムに構うことなく、自分の顔を押さえつける彼の指をこじ開け、僅かながらも彼女とケルビムの間の空間を広げると――


 「ヒート!!」


 今のサチ意識が戻ったばかりということに加え、目の前の和也の惨状ばかりが思考の殆どを占めており、お世辞にも冷静な状況判断能力はない。ただ、その頭脳に眠る膨大な戦闘データが、彼女自身の戦闘経験が、彼女の体を動かしていた。
 至近距離から放つ超高熱の蹴り。
 しかし、その運動エネルギーも、熱量もすぐ目の前にいるケルビムに届く直前にいずこともなく掻き消えてしまった。
 その現象は今の時点でのサチの無力さの象徴であったが、一方で冷静さを失っていたサチの思考能力を呼び覚ます。
 (いまの感覚・・・・・・パールバディと戦った時の感覚と似てる・・・・・・)
 しかし、自らの直感の正体を探る時間をサチは得ることは出来なかった。
 「君も懲りないなぁ・・・・・・」
 サチの攻撃の影響を全く受けなかったケルビムがサチの首をその太い指で掴んだのだ。和也が語ったとおり、ケルビムに傷を負わせるには完全に彼の不意をつく以外に方法はないのかもしれない。
 「君の攻撃が僕に通じないことは、もう実証済みだろう?無駄なことはしないことだ」
 一方でサチは思考を必死に巡らせる。


 実証済みだというのなら、無駄なことだというのなら、何故わざわざ言う必要がある?


 疑念がサチの中に生まれるが、それをしっかりと吟味する余裕をケルビムはあいにくと与えてくれなかった。
 「十三号、君もういいや・・・・・・」
 ケルビムはそう呟くとふっとサチの首を絞める力を緩めた。
 「え?」と安堵感よりも戸惑いを感じたサチの体は、ゆっくりと床面に落ちていくが、その細い足が床面を捉えるよりもほんの僅かに速くケルビムの足が彼女の腹部を捉えた。捉えたその瞬間、ケルビムから発せられるのは力のこもらないただ一言。
 「君、もういらない」
 サチの腹部を捉えたケルビムの足はまっすぐに伸ばされ、彼女の華奢な体は背後の壁面に激突するかと思えたが、覚悟していた衝撃はなく、蹴り出された体はそのまま壁面をすり抜け――壁を越えたスペースのその先の壁面も次々とすり抜け続け――遂には・・・・・・


 無重力の虚空を漂うサチの視界は、青々とした地球を捉えていた。

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