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Legend , named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 2 Begin (3/4)

 「おのれ!十三号!」
 控えていたネプチューンの怒号は、アキレスのそれと重なり、次の瞬間には、彼の三叉矛は悠然と立つサチに向かって突き出されていた。
 しかし、また先ほどのように姿を消すサチ。
 だったが……。
 「舐めるな!」とネプチューン。その言葉とともに、彼の三叉矛は軌道を変える。一瞬のその動作は、おそらく生身の人間の目では到底追えない早さだったろう。
 「加速能力も、それを視認できるのもお前だけの専売特許ではないぞ。」
 その言葉通り、軌道を変えて突き出された三叉矛の先にはサチの姿。
 「お前にアキレスの加速が通じぬのと同様、俺にも通じはせん。」
 言いつつ、ネプチューンは矢継ぎ早に三叉矛の突きを繰り出す。最初の内はそれをステップだけで交わしていたサチだが、ネプチューンはその突きをさらに加速。加速状態のサチすら捉えた神速の突きは、徐々に彼女を追い詰めていく。
 「十三号、いつまで避け切れるかな?」
 挑発するように嘲るネプチューン。その言葉通り、サチは遂に塀際にまでその身を追い詰められていた。
 「どうする、後がないぞ十三号。次で決まりかな。」
 仮面をつけているためその表情は分らないものの、その口調から察するにネプチューンが勝ち誇っているのは明白。
 対してサチは
 「こんなことでわたしは負けない……。こんなの、いままでのこと考えたら、ピンチのうちに入らない。」
 とまっすぐにネプチューンを見据えたままに呟く。
 「ふん。小娘は、負け惜しみだけは一人前だな。だがその憎まれ口も……。」と三叉矛を握る手にぐっと力を加えるネプチューン。「これで終わりだ!」
 ネプチューンの周囲の空気が歪むほどの凄まじい動き。その動きから繰り出された突きがサチを射貫かんと放たれた時
 「わたしは死なない!」
 サチは叫び声とともに、その突きに立ち向かい、前に出る。すると
 「何!?」
 ネプチューンの驚愕と困惑の声が響く。
 サチは、ネプチューンの三叉矛をかわそうともせずに前進。その細い身を貫くはずの三叉矛は、サチの体を捉えることなく空を切った。
 「これがケルビムの言っていた“ファントムドライブ”か!?」
 仮面を通してでさえ伝わるネプチューンの驚愕。その驚愕するネプチューンに向かって、サチは三叉矛をその細い身にすり抜けさせたまま、さらに前進。
 「何?」ネプチューンがうめき声をあげたその瞬間には、サチは彼の背後に立っていた。「俺を……すり抜けた……だと!?」
 ネプチューンが言うとおり、サチは三叉矛ごとネプチューンの体をすり抜け、その背後に飛び出したのだった。
 屈辱感からだろう。神像を思わせるその仮面には不似合いな獣の如き声を上げながら振り返るネプチューン。しかし、敵に向かい振り向く動作は、サチの方が遙かに早かった。
 しかし、サチが攻撃態勢に入ろうとしたその瞬間。
 ネプチューンの背中が音もなく開く。
 開いたその背中に見えるのは……。
 「ミサイル!?」
 瞬時に状況を悟り、跳びのくサチ。
 しかし、そのサチに向かい、ネプチューンの背中にある無数の小型ミサイルはすでに目標を記憶していたようで、いまや超小型ミサイルサイロと化したその背中から煙を上げながら、一斉に発射された。
 「小娘が調子に乗りおって!」とは勝利を確信したネプチューンの哄笑。
 「どっちが!」とは、マリ。
 哄笑とともに放たれた小型ミサイル群、だがその哄笑を断ち切る意志に満ちたマリの声がサチとネプチューンの間に割って入った。
 マリは、瞬時にして大型ハンドガンスクリーマーを連写モードに切替え、その引き金を引く。
 マリの電位差制御の元、磁界によって強化、加速されたタングステン弾心は、彼女の意志を具現化し、ネプチューンより発射された小型ミサイル群の悉くを撃ち落とした。
 「馬鹿な!あのミサイル群をハンドガンで撃ち落とすだと?スピードも精度も、もう改造人間の域すら超えているぞ!?」
 ネプチューンが叫ぶとおり、マリはミサイルが発射された後のミクロン秒単位の時間の中で、スクリーマーの発射モードを切替え、無数のミサイル群ひとつひとつに照準をつけ、さらには実際に撃ち落として見せたのだった。これは、マリ自身の常識離れしたスピード、正確無比な軌道計算と狙撃能力、さらには超音速で弾丸を発射できるマリとスクリーマーの組み合わせ、その全てが揃ってこそ可能な技だったのだ。
 「ネプチューン!学校で物騒なもの発射しているんじゃないわよ。次からは、ペットボトルロケットにでもした方がいいんじゃない?」
 ネプチューンを挑発しつつ、マリはスクリーマーをセカンドスキン腰部のアタッチメントに固定。代わりにカルケオンと呼ぶスティック状の装備を取り出す。
 「ぬう!」
 仮面を通してでさえ、歯ぎしりの音が聞こえてきそうなほどのうなり声を上げるネプチューンは、三叉矛を構えつつマリに向き直るが……。


 「ヒート!」


 その一瞬の隙をついて、背後からサチが再び間合いを詰め、叫び声とともにその足先に白く輝く超高熱の光を宿していた。
 「何!?」
 ネプチューンが振り向いた時、すでにサチの足は跳ね上がり、しなやかな軌道を描きながらその頭部へと達そうとしていた。その軌道上には、彼の太い腕と三叉矛の柄があったのだが、サチの蹴り、白く輝く大刀と化したその足はそれらを難なく両断しながらも、勢いも軌道も変らない。
 摂氏一万度にも達しようかという熱エネルギーとサチ自身の驚異的な身体能力によって与えられた運動エネルギーは、ネプチューンの頭部をアッサリと両断。その破壊された頭部と、赤熱化した切り口からは、もうネプチューンのもともとの素顔など、判別のしようもない。
 「全く……。」その光景を見ながら、嘆息気味のマリ。「結局、全部一人で片付けたようなものね。」
 言いつつマリは、何もない空間に向かって腕を伸ばすと、無造作にスクリーマーの引き金を引く。
 虚空に向けた放たれた弾丸は轟音を残していずこかへと消えていく……はずだったのだが、聞こえてきたのは轟音とともに男の悲鳴。
 「ぐわーっ!」
 悲鳴とともに倒れたのは、アキレス。
 マリの放った弾丸は、加速状態に入ったアキレスを捉えていたのだ。
 「何故だ!?」
 肩を押さえながら問うアキレスに、マリは
 「十三号に言われたでしょう?その程度の加速じゃ、“わたし達”には通用しないということ。」
 とつまらなそうに答えた。
 「馬鹿な……お前達の能力がここまでのものとは……。」
 「いつのデータよ?というより、あんた、わたしとお喋りしている場合じゃないわよ。」
 「何?」
 アキレスが問うたその瞬間には、離れた位置にいたサチの姿がかき消えた。
 「おのれ!」
 アキレスも加速状態に入り、両者の姿は消えたが……。
 マリの目だけは両者の動きを追っていた。
 そのマリの視線が上を向いた時、空中に突如として現れるアキレスの姿。そして、その上空には攻撃態勢に入ったサチ。


 「ヒート!」


 サチの叫びが轟き、その足先には白く輝く光。ネプチューンを屠った灼熱の蹴りが、今度は直線的な軌道を辿りながらアキレスに襲いかかる。対してアキレスは、それに抗う術を持たず、ただ言葉にならない悲鳴を上げるのみ。サチ自身が炎の矢と化したその攻撃は、アキレスに当たると一気にその身を貫通。アキレスの体は、空中で四散しつつ、分解酵素の働きにより消失していく。サチが着地した時には、“アキレスだったもの”の痕跡はほとんど残っていなかった。ただ、ネプチューンの方は、アキレスに比べれば機械化された部分が多岐に及んでいたのだろう。その金属製と思しき骸をさらしたままだった。
 (全く、こっちには殆ど出番なし……か。)
 サチの姿を見ながら、マリは心中呟いた。
 (完全に“キレ”てしまったみたいね。村上さくら……十三号をここまで怒らせたのは、多分あんたが初めてでしょうね。)
 アキレス、ネプチューン、教室内のことを加えれば、これにさらにパニック。短時間の内に三体の戦闘用改造人間を倒したサチは、ゆっくりとマリに近づき
 「ありがとう、マリ。ミサイルを落としてくれて、おかげで助かったわ。」
 と最初に礼を言った。
 「何を言っているのよ。」サチの礼にマリは苦笑。「どうせ、あんたのことだから、こっちの援護がなくても何とかしたでしょう?」
 この言葉にサチは首を振る。
 「ううん……。わたしが礼を言いたいのは、この学校の誰かがミサイルの巻き添えを受けずに済んだこと。わたしじゃ、あそこまで完全に撃ち落とすことは出来なかった。」
 「まぁ、ここにはひずるもいるしね……。」とマリの視線は、彼女たちの背後、校舎で入り口のところで二人の戦いを見守っていた小野坂ひずるに。
 「ひずるさんのことは勿論そうだけど、この学校の、人にも建物にも傷をつけたくなかったの。」
 「もう戻れないのに?」
 このマリの問いに、サチは瞬間黙り込み
 「“母校”って、そういうものじゃないの?」
 と寂しそうに答えた。
 二人の間に沈黙が降りる。
 先に口を開いたのは、マリ。
 「あー、わたしにはまだよく分らないな……。」ぷいとサチから視線をそらし、おどけたような口調のマリ。「だって、ここに来て、半年も経っていないんだもの。」
 「そう……そうだったわね。」
 「でも……ここが大事な場所だってことくらいは分るわよ。わたしにとっても、ね。」
 サチは、マリをじっと見つめつつひと言「ありがとう。」とだけ言った。そして、学校の塀の向こうに向けて「ビー!」と声を張り上げる。
 「ビー!もう来ているんでしょう!?立花君を追うわよ。力を貸して。」
 その声に答えて、塀を跳び越えてくる無人の白いオートバイ。サチのパートナー、超高性能人工知能ビッグマシン2ことビーを搭載する彼女の愛車、「マシン・シルフィード」である。
 マシン・シルフィードは、その搭載する「液流エンジン」の特性故、殆ど排気音など発しないまま、静かにサチの傍らに。
 「サチ、わたしが出るまでもない相手だったようだな。」
 シルフィードの車体から、低い男の声。これがサチのパートナー「ビー」の声だった。
 「ビー、あなたの出番はこれから……。周囲に不審な大型車両やヘリなどないか、至急サーチしてくれない?」
 「サーチならとうにしている。それらしい反応はないな。こちらの監視可能エリアを出たか、何某かの電子装備をしているか、ではないかと思うが。」
 「どうしたらいい?」
 「監視ポイントを移動しながら変えていけば、もしかすると……。」
 「なら、動きましょう。」
 サチの判断は素早かった。即座にシルフィードのシートに跨ると、スロットルを開き、その白い車体を加速させる。ただ、校門を通りすぎるその一瞬のみ、車上のサチはちらりと名残惜しげに、F市立高校の校門を見上げた。
 対してマリは、一旦校舎出入り口に控える小野坂ひずるに微笑みながら手を挙げると、青いマシン、自身の愛車であるマシン・ギルバートに。
 「ギルバート!十三号とシルフィードを追って。こっちもサーチを全開にするのよ。あのビーっていうのに、負けないで。」
 「イエス、マリ。」
 ギルバートの返事とほぼ同時に、マリはスロットルを全開。タイヤが悲鳴を上げつつも、マシン・ギルバートは加速。あっという間に、校門を抜けていった。
 サチとマリ、マシン・シルフィードとマシン・ギルバートの出発を見送ったひずるは、わいわいと集まり始めた野次馬の生徒達に背を向けたまま、ボソリと呟いた。
 「蒼い女神と朱い女神か……。」
 周囲の者達にとっては意味を持たないその言葉を呟いたひずるは、生徒達の中をかき分け再び校舎の中へ。そして、先ほどサチが降りてきた階段に目を向けると、唇をかみしめ、真剣な眼差しで二年生達の教室のあるフロアをめざし、階段を上り始めた。
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