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Legend named 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」Final Stage!!

episode 19 Lightning (3/4)

 本体たる宇宙船の外壁が、マリの作戦によって破られたことは、当然のことながらケルビムには把握できていた。それ故に
 「ゼロめ、やってくれる!」
 という言葉が出てきたのだし、その後に続く
 「ネオも存外だらしがない」という諦念すら口にしたのだった。
 諦念、まさにそう呼ぶべきだったろう。
 ケルビムにすれば、十三号=緑川サチを自分の中に招き入れたのは、その肉体を自身の創造主たる“スターティア”に捧げるためであり、ゼロ=光明寺マリとネオ=村上さくらは、その計画に支障が生じた時のための“保険”だったのだ。その“保険”が失われた理由を、さくらの失策ととるか、マリの作戦勝ちととるかは評価が分かれるところだろうが、ケルビムとしては、どうやら前者の立場であるようだ。
 「まあいい。十三号はこちらにあり、もう抗う力も残ってはいないだろう」
 それでもケルビムの言うとおり、状況がほぼ決定的なことには変わりなく、表情の見えないその異形の姿にも自然と余裕をうかがわせる態度がにじみ出ていた。
 「キング、君の協力には感謝するよ」
 振り返り、いまはキングと呼ばれる青年の姿をした立花和也に語りかけるケルビム。
 「僕の目的は半ば達成されたようなものだ。あとは、僕とともに旅立つのもよし。この星に残って、覇権を握るもよし。好きにしたまえ」
 「旅立つ?お前とともに旅立つとして、どこに向かうんだ?」
 「興味があるのかい?」
 「そんなところだ」
 「言ったところで分からないと思うがなぁ・・・・・・君たち、いや人類の科学力ではいまだ発見されていない惑星だよ。人間達の星座で言えば、こぐま座の深淵部とでもいうべき座標だ。距離にしておよそ五百光年・・・・・・全行程千年の旅と言ったところか」
 「千年・・・・・・」
 「実際にはウラシマ効果があるので、船内の時間はそれよりも遙かに短いがね。千年というのは、地球側での時間だよ。といっても、いままで万年単位で計画を動かしてきたんだ。千年くらいは大した時間じゃない」
 そこまで語ると、ケルビムはその異形の顔をぐぃっと和也に近づける。彼の頭部を特徴付ける巨大な複眼に映り込んだ和也の顔は淡々として、その内にある感情は見えにくい。
 「怖じ気づいたかい?」
 内心を探るかのようなケルビムの言葉に
 「いや、別に・・・・・・」
 と淡々と答える和也の表情には、やはり感情らしきものは見えない。ただ、その眉が僅かに動いたのみ。
 「この船が、つまりお前の本体がこの惑星の重力圏を脱出するにはまだ時間があるのだろう?その間に結論は出させて貰う」
 「そうかい?まぁ、いいだろう。現在僕の本体は既に第一宇宙速度に達しつつある。第二宇宙速度、いや第三宇宙速度まで達したならば、君といえども地球に戻るのは不可能に近いだろうからね。あまりゆっくりは出来ないと思うよ」
 そこまで語ったところでケルビムはふと首をかしげ
 「キング、君、もしかして時間を稼いでいるのかい?」
 と問うた時、突如先ほどサチが穿った亀裂から
 「ケルビムー!!」
 叫び声とともに現れる一台の白いオートバイ。
 マシン・シルフィードとそれを駆る超高性能人工知能ビッグマシン2こと、サチのパートナービーである。
 「騎兵隊のお出ましだ。いや、PTAかな?」
 そのビーの登場に、名を呼ばれたケルビムは泰然と構えるが――
 「キング?」
 「立花和也?」
 泰然と構えるケルビムと突進するマシン・シルフィードとの間に、立花和也が割り込み、シルフィードに向かい手をかざすと
 「いいタイミングと言いたいところだが・・・・・・お前、頑張りすぎなんだよ。ビー」
 と呟くや、かざした掌に光を集約させ始めた。
 すると、その掌を中心として激しい気流がシルフィードの周囲を包み込み、その余波がサチを覆うスターティアの群れの一角を崩していった。
 空中に浮遊した状態で姿勢を固定されていたサチの体が重力に引かれてずるりと落ちたその瞬間、シルフィードの車体がその場からかき消えた。
 「立花君・・・・・・」
 床に倒れ込みながら、サチはその視界に和也の姿をとらえ、その名を呟いた。


 激しい気流が巻き起こり、砂埃と巻き上がった髪に視界を塞がれた神崎ゆかりと小野坂ひずる。たまらずに塞いだその瞳を開いた時――
 「ビー!?どうして?」
 視界が捉えたものに、ゆかりは驚いた。
 サチの愛車、ビーことビッグマシン2を搭載したパートナーマシン、シルフィードが彼女たちと同じくランファ号のデッキに姿を現したからだった。
 「神崎ゆかりに、小野坂ひずるか・・・・・・」
 ビーの方でも彼女達を認識したが――
 「あんた、サチ達と一緒にケルビムとか言う奴の中に入ったんじゃないの?」
 ゆかりがそう訪ねるのに
 「いや、間違いなく、私はサチとともにケルビム内部に突入した・・・・・・筈なのだが、ここはどこだ?」
 と答える始末。彼にも状況が把握できていないようだ。
 「ランファ号の甲板です。まだ市内の安全が確認できていないので、ここに待機しているんです」
 ビーの問いに答えたのはひずる。
 「ビーさんこそ、どうしてここに?」
 「いや、情報感謝する。おかげで状況が多少理解できた。私はどうやら、ケルビム内部から強制的にここまで瞬間移動させられたようだな。時刻もほとんどずれがない。立花和也め、やってくれたな。こんな能力まで獲得していたとは」
 人間だったら歯ぎしりしていたであろう口調でビーが語るのに
 「でもさ、和也はどうしてわざわざここにあんたを動かしたの?」
 とゆかりが口を挟んできた。
 「だって、ここにはあたし達だけでなく、おばさんや清崎さん、カントクやハルミさんもいるわけだし、偶然とは思えないんだけど」
 「ひょっとして、立花先輩、正気なんじゃ・・・・・・」
 ゆかりの発した疑問に、ひずるがひとつの推論を加えた。
 「そうだとしても、和也が正気ならどうしてサチとマリちゃんを助けてくれなかったんだろう?さっさと、あのケルビムとかいうのをやっつけて帰ってきてもいいんじゃない?」
 ひずるの推論にゆかりが疑問を呈する。
 「そうだ。立花和也こそ、いまのケルビムの切り札なのだ。やつが正気に戻っているというのなら、それだけでもうゲームオーバー。ケルビムの計画は根本から頓挫することになる」
 「何か考えがあるんじゃないの?」
 「いや、神崎ゆかり、君の推論が正しいのなら、なぜ立花和也はこのランファ号の甲板でサチを本気で殺そうとしたんだ?ケルビム内部でも、サチはやつの攻撃で倒れていたのだぞ」
 「ビーは、カズにだけは厳しいなぁ・・・・・・」
 「私は、サチが大事なだけだ」
 きっぱりとそう言い切るビーに対して、ゆかりもひずるもそれ以上は何も言えなかった。ただ、
 「そういえば、ビーさん、緑川先輩や立花先輩のことは勿論気になりますけど、光明寺さん、マリはどうしているんですか?」
 「ゼロ、いや光明寺マリは、村上さくらと交戦中だ」
 「さくら先生と?」
 途端にひずるの表情が曇る。
 マリのことが気がかりなのは勿論だが、村上さくらとて、彼女にすれば通っていた学校の教師だったのだ。単に勝ち負けということだけでなく、自分の見知った者同士が争っているという状況は、実に複雑な心境を彼女にもたらしていた。
 「マリ・・・・・・」
 それでも、彼女にとっては親友の光明寺マリのことを思い、空を見上げるひずる。
 その時――
 徐々に暗くなっていくその空の遙かな上空に、一瞬ではあったが一本の白い雷光をひずるの視界は捉えた。
 そして、その耳はかすかではあるもの、雷が走る轟音を捉える。
 それは、幻覚であり、幻聴だったかもしれない。
 それでも、ひずるにはその雷光と雷鳴が、マリの無事な帰還を約束してくれているように思えてならなかったのだった。
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