episode 11 Crash (2/4)
ルナティックビートの消失。
バリアを失った今、巨大ネプチューンはこれで完全にその身を覆う防御網を失ったと言える。
その状況は、ネプチューンサイドでは無論把握してはいる。
同時にサチとマリも……
「シルフィード!」
「ギルバート!」
それぞれの愛機を呼ぶサチとマリ。
飛行能力を持たない二人としては、空中戦での足場を固めるためであろう。
途端に、海上から一気に二人の元に上昇してくる白いマシンシルフィードと青いマシンギルバート。
乗り込むと同時に、さらなる上昇をかけてマリの元に向かうサチ。
「マリ!ルナティックビートが!」
「分っている!ランファ号からの総攻撃が開始されるわよ。ネプチューン!あんたもこのデカブツから離れた方がいいんじゃない?」
そう声をかけるマリに従って、ネプチューンを見たサチは
「ネプチューンが三人……」
その視界に全く同じ姿のネプチューン三体を認め、戸惑った。
「マリ、これは?」
「多分……」と考えつつマリ。「これがネプチューンの不死身の秘密なんでしょうね。おそらく、プロフェッサーが遺した“ヘルマン素子(レセプター)”の応用なんじゃないかしら?このデカブツも、分身のひとつというところじゃないかな?」
「お察しの通りだ、ゼロ。」
答えたのは、最初にマリの攻撃を受けたネプチューン。
「これらは、全て我が分身。そして、ルナティックビートが無効化した以上、ランファ号からの本格的な攻撃が開始されるのは時間の問題。しかし、その前に決着をつける!」
ネプチューンの声が号令となったのだろう。途端にいままで特に大きな動きを見せていなかった巨大ネプチューンが、膝を曲げて屈み込む、その半身を海中へと沈めた。
それと同時に、ネプチューンの分身、二番目に姿を現した個体がその胸部を開き、小型のミサイルを何発となく、サチとマリに発射。
「今更!」
対抗してマリも腰のアタッチメントから愛銃のスクリーマーを抜き、学校で対戦した時と同じく、その悉くを撃ち落とすが……
「しまった!」
マリが呻いた理由、それは爆発の炎と煙により、瞬間ではあるもののネプチューン達の姿を見失う事態に陥ったことだった。
その煙を切り裂きながら、三叉矛を繰り出しつつ空中を突進してくるネプチューン。もはや何体目かは判別つかないが、その動きからすると、ネプチューン自身、その身には空中での機動性が与えられているようだ。
「本来の目的、あれに乗っている西王母とペンドラゴンを始末すれば、我の面目は立つ。それくらいは叶えさせてもらう。」
三叉矛を以て突進した先は、サチ。
サチは、咄嗟にスクリーマーの銃身で三叉矛を受け止めた。改造人間専用に設計されたスクリーマーの堅牢な銃身は、何とかその斬撃を受け止めることに成功。一方、マリに対しては……。
「レーザーですって!?」
煙を切り裂いて、マリに襲いかかったのは光の矢。
もう一体のネプチューンの胸部が開き、そこから見えるのはレーザー照射用のレンズ。どうやら、各個体ごとに体内の装備は若干異なるようだった。
煙越しだった為、照準があまかったこととレーザーそのものが減衰したことが幸いした。照射されたレーザーは、マリの肩をかすかに掠めただけで何とか直撃は受けずに済んだ。ただし、照射した側、ネプチューンは「ちい!」と舌打ち。それでも
「どうだ、ゼロ。高出力レーザーを使えるのが自分だけだと思うなよ!」
と勝ち誇るネプチューンは、さらにレーザーを連射するものの、さすがにマリも第二射以降はバリアで凌ぐ。
「それに、レーザーよりもよほど有効な手というものもあるからな。」
「何?」
マリがそう問うた瞬間、ギギギと耳障りな機械音と巨大質量とともに引き上げられた大量の海水が再び海面へと落ちる音。
一旦屈んだ巨大ネプチューンは、海中から巨大な物体を引き上げていた。それは……
「まさか……大砲?こんなサイズの?」
サチ、マリ、どちらからともなく驚愕の声が上がった。
巨大ネプチューンが海中から引き上げたのは、全長二十メートルは超えていると思しき巨大な砲身。口径だけでも優に五メートルには達している。
「あいにく、一発しか撃てないが、それでもこれだけの質量の砲弾、防ぐ手立てなどはあるまい。こいつの発射時の運動エネルギーだけでも、ランファ号を沈めるには十分だ。」
「くっ!こんなバカげたことにいくら使っているのよ!?」
悔し紛れともとれるマリの言に、ネプチューンは気を良くしたのか、三体のうち一体は大きな笑い声を上げた。
「ははは!単純な攻撃ほど、防ぐ手立てはないというものだ。こちらとしては、一発撃てば、全てを終わらせられるのだからな。」
「だったら……」
瞬間、事態の変化に呆然となったサチとマリであるが、いち早く動き出したのはサチ。
「その発射の前に破壊する!」
言いつつ、愛機マシンシルフィードから飛び降り、一気に降下をかけるサチ。
「マリは、ネプチューン本体をお願い!」
降下しながらも、マリへ声をかけることは忘れない。
「分っている!ここまで来れば!」
マリもサチに一瞬遅れてではあるものの、ギルバートのシートを蹴って再び三体のネプチューンが待ち構える空間へジャンプ。
「おのれ、思い通りにさせるか!誰か、十三号を止めろ!」
言いつつネプチューン自身は、マリを迎撃。今度は左手にカルケオン、右手にスクリーマーという装備。スクリーマーを連射しつつ、ネプチューン三体の連携を崩しつつ、彼女独特の能力であるイオノクラフトで空中での位置取りを確保しつつ、巨大ネプチューンへと接近を図る。接近してきた相手には、カルケオンで対処。
一方、サチは、自由落下に任せて降下しつつも……
「邪魔しないで!」
眼前に立ちはだからんと上昇してきたトビウオ型改造人間に対し
「スラッシュ!」
降下しつつ高周波を発動した回し蹴りを見舞わんとしたが、トビウオ型改造人間はそのサチの動きをせせら笑いながら、空中での軌道を変更しつつかわした。
「くっ!サカナなのに……だったら!」
空中で体を捻り、トビウオがいる自身の真上に向け、今度はスクリーマーを斉射。当たりはしなかったものの、その弾道はターゲットの背びれを掠め、トビウオは悲鳴を上げつつ真っ直ぐサチに向かって落下してきた。サチは、この段階には目標としていた巨大ネプチューンの構える砲身にほぼ辿り着いており、その着地の際の反動を利して再ジャンプ。落下してくるトビウオを迎え撃つ。
「アタック!」
下方から一気に上空へと突き上げる渾身の蹴りと衝撃波。
放たれた必殺の一撃は、単にトビウオ型改造人間を破壊しただけに留まらず、その身を天空高く舞い上がらせた。
そして、そのトビウオの骸は偶然ではあったのだが、上空でマリと対峙するネプチューン達の元に。
「ぬぅ!」
フォーメーションを崩されながらも、マリに迫らんとしたネプチューン達の一体の眼前をトビウオ型改造人間の骸が掠め、隙が生じた。マリは、その隙を見逃さず、さらに巨大ネプチューンとの間を詰めることに成功した。
一方、ナタクが陣頭指揮を執るランファ号サイドでは……
「敵巨大ロボットの砲身、こちらに向け発射態勢に入っています。」
「発射されては、あの砲身径からして、こちらはとても持ちこたえられん。攻撃管制はまだ復旧できないのか?」
「現在再起動中。あと二十秒……」
「間に合うのか?」
ナタクの憔悴をあざ笑うかのように、巨大な砲身外部にある各ロックは徐々に解除されつつあった。ギシギシと耳障りな機械音が空間を支配する中――
「勝負あったな。こちらは発射まであと十秒とはかからん!いかに十三号といえど、この短時間であの砲身を完全破壊するのは不可能だろう。仮に破壊に成功したとしても、ロックが解除されたいま、へたに手を出せば自分ごと吹き飛ぶだけ、自殺行為だ。」
背中と腰からロケット噴射の炎を上げながら、せせら笑うネプチューン。それは、徐々にマリに追い立てられ後退しつつある自身の負け惜しみもあったろうが、事実であることには違いない。
「うるさい!」そのネプチューンの哄笑に対しマリ。「あんたは自分の心配だけしていろっての!あの天然が、そう簡単に諦めたりくたばったりするわけないでしょうが!」
それは、マリなりのサチへの信頼でもあった。
一方、その信頼を寄せられたサチは
「こうなったら……」と覚悟を決めつつ、トビウオ型改造人間を倒した後、着地してから、再度のジャンプ。そのジャンプの合間にも、砲身は最後のロックが解除され、人間の扱う拳銃で言えば、檄鉄、ハンマーロックと思しき巨大な半円状のパーツが砲身後部へと吸い込まれていった。
それを察知しているのいないのか、サチはジャンプの後、一旦目を閉じるとすぐにまた目を見開き、火花が飛び散った瞬間の巨大砲を上空からその視界におさめた。彼女から見れば、まるでスローモーションのように点火によって発生した砲身後部の煙と砲身先端に生じた光を眺めつつ、静止した時間の中で彼女は力の限り叫んだ。
「アニヒレイト!!」
叫び声とともにサチの足先に巨大な光球が生じ、同時に彼女の背からは青い光が翼を思わせる形状をとりながら放出される。また、彼女の降下とともに足先の光球は巨大ネプチューンが構える砲身の先端部分をすっぽりと覆い尽くしたのだった。