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13 plus ZERO 13号シルエット

プロジェクトの本丸!「Girl,called 13」2nd Stage!!

episode 10 Elder (1/3)

 サチ達の暮らす商店街から駅方向に抜けた国道沿い。そこに谷ハルミのショップはあるはずだった。
 いつもの下校ルートとは若干異なる道を選んで歩いて行くと、やがてそれらしき真新しい看板と店構えを発見した。
 「多分、あれね。」
 先に気づいたマリが歩いていくのについて行ったサチの目にも、「バイクPIT アミーゴ」という看板と花が飾られた店の軒先が入ってきた。通りから見ると、店の手前は広めのスペースが取られているが、これは駐車スペースとして考えられているのだろう。いまは屋根付きのトラックが止められ、その荷台後部のリフトには大きめのダンボールが幾つも並んでいる。
 そのトラックの奥に見える花々は主に、光明寺関係の企業とバイクメーカー、そして地元の商工会からのものであったが、それらの中でも一番大きな花には「谷モーターワークス 代表 谷 吾郎」と書かれている。
 「谷モーターワークス?この人がハルミさんのおじいさんなのかな?」
 サチがそんなことを考えていると
 「あー、さっちゃんも来てくれたんですね〜。」
 と丁寧ながらも語尾の伸びた声が聞こえてきた。声の主は目で確認するまでもなく分かる。谷ハルミその人である。
 「さっちゃん?」
 ただ、その呼び方には戸惑いを感じた。
 考えてみれば、ハルミの方が年上なのだし、こうした呼び方をするのは不思議でもないのだが、昨日の妙に丁寧だった態度を考えると多少の違和感を感じてしまう。それに、いまのサチを「さっちゃん」などと呼ぶ者は、彼女の周囲にはいない。
 「ちょうどいまひと段落したの。マリちゃんも、中に入って。」
 ハルミは、笑顔満面で二人をまだダンボールが転がっている店内に招き入れる。その荷物の散らばりようからは、とても「ひと段落」したようには見えない。
 (それに……。)とサチは思う。
 この店に来たくらいから、やたらと人の視線を感じる。ふとその視線を感じた方向に目をやると……。
 (あれ、誰だろう?あの格好……。)
 通りを挟んで、駅とは逆方向に百メートルほど離れた電柱。そこにその視線の主がいた。
 (怪しい……。)
 そう怪しすぎた。目立ちすぎて。
 ベレー帽をこれでもかというくらいに目深にかぶり、目にはサングラス。その上、サイズの大きな白いマスクをして、その襟口は無駄に立っている。
 素人の隠密行動をこれでもかというくらいにカリカチュアしたような風体。サチには、組織との関連は感じられなかったのだが……。
 「いや、昨日はそちらの女将さんとさっちゃんにはごちそうになりました。お茶くらいは出すから。」
 「はい……あの……。」
 「あ、さっちゃんはまずかったかな?」
 「いや、別にそういうことは……。」
 このちょっとしたやりとりで、サチなりに納得する部分もあった。
 おそらく、昨日のハルミは彼女なりに緊張していたのかもしれない。いまの彼女の方が、素顔と言うことなのだろう。だから「さっちゃん」という呼び方は、その現れのひとつということか。
 「表はこんなだけど……。」とハルミは足下のダンボールを指し苦笑し、「本来の機能であるお二人のマシンのガレージ、この奥にあるんですけど、そっちの方の準備は終わったんで、いまは一息入れようかなというところです。トラックの荷物ももうすぐ全部降ろせますしね。店の品揃え、バイクの方は明日納入予定です……取り扱いメーカーは一社しかないのがちょっと残念なんですが、仕方ないですね。」
 「仕方ない?どうしてです。」
 「大人の事情、契約というものがあってね。うちのチームは、別にメーカーの資本が入っている訳じゃないけど、契約上、サテライト(開発メーカーからみて、ワークスに準ずる扱いのチームのこと)みたいな扱いなんで……。」
 「そういうものなんですね。」
 サチの返事は明らかに生返事であったが、無理もない。彼女自身にはモータースポーツへの関心はないのだ。ただ、あまり露骨にそれを表に出しても、ハルミに悪いので、迂闊なことは言わないようにしているだけだ。
 「まぁ、このお店はうちが経営するとは言っても、元手を含めて全部光明寺さんが出してくれているんで、あまり気にする必要はないのかもしれないけれど、チームの方に契約がある以上、わたしもそれには従った方がいいかなって。」
 このハルミの言に、またサチが生返事で返すことになろうかという直前、その会話をマリが遮った。
 「あのさ、ハルミさんだっけ?」
 「何?」
 「お話もいいんだけど、さっきからこっちの方じろじろ見ている人がいるわよ。」
 「え?」
 その言葉に、慌てて表に飛び出そうとしたハルミだが、その動きもマリに止められる。
 「じっとして。下手に動くと感づかれる。」
 「そう……?。」
 マリの言葉に従って見せたものの、ハルミの声は不安げである。
 「マリも気がついていたんだ。」
 「ふん、あんたが気づいているのに、わたしが気づかないわけないでしょう?でも誰かしらね。組織の人間にしては、不手際きわまるし、年寄だし。」
 「年寄?」とはハルミ。
 「そう、顔はみえないけど、立っている姿勢とか、袖口から見える手の皺とか、帽子の隙間から見える髪とかからすると、多分結構な年齢だと思う。」
 相手の特徴をマリが簡単に説明した途端、ハルミはじっと何事か考え込み始めた。
 「まぁ、囮かと思ってみたけど、他に怪しい徴候はないし、放っておいても大丈夫じゃないかなとは思うけど。」
 マリは、そう言うが、ハルミの方では何か気になることがあるらしい。手を動かして、二人に座るよう促すと
 「ねえ、その怪しい人……二人で捕まえてくれない?」
 「え?」とはサチ。
 「二人なら出来るでしょう?別に警察に突き出すとかじゃなくて、ここに連れてきて欲しいのよ。」
 「まぁ、出来ないことはないと思うけど……。」とマリ。「わたしと十三号でなら、人間相手に遅れをとることはまずないだろうし。仮に人間じゃなくたって……。」
 「ちょっと待ってよ、マリ。」
 安請け合いをするマリをサチは制す。彼女のものいいが、自分たちが改造人間であることを前提に話をしているように思えたからだ。
 「何をいまさら……。」
 しかし、そのサチの懸念をマリは一笑にふす。
 「マシンの事情を知っているんだから、当然わたし達のことも……ねぇ?」
 とハルミに確認する。明確な言い方を避けたのは、トラックの運転手と運送業者が店の中に入ってきたからだ。
 「まぁ、最初に知った時は驚いたけどね。」
 ハルミは苦笑してマリの言を肯定するが、やはり小声である。
 「それはともかく……ねぇ、本当にお願い。」
 再度懇願され、サチは困惑しつつもマリを見る。
 「まぁ、いいんじゃない?」
 マリの方は、引き受ける気満々のように見える。
 「分りました。」
 渋々といった体ではあるが、サチも承諾する。
 「ありがとう。」
 両手を合わせるハルミ。
 「わたしは駅方向から行くわ。マリは反対側から回ってくれない?」
 サチの提案をマリも了承し、二人は店を出る。
 「マリ、くれぐれも言っておくけど、相手が抵抗しても絶対に手荒なまねをしちゃダメよ。相手の人に怪我させないようにね。」
 サチが念押しをすると
 「年頃の女の子相手に言うことじゃないわよねぇ。」
 とマリは苦笑。確かに、変な会話だなとサチも思う。
 店を出てから、二人はそれぞれ反対方向に分かれ、離れた位置にある横断歩道から反対車線の歩道に。位置関係からすると、先にサチが相手のところに到着しそうだった。そして、予想通り先に到着したのだが……。
 (怪しすぎる……。)
 改めてその姿を至近距離におさめたサチは、思わず腰が引けるのを感じた。おそらく気のせいではないだろう。周囲の通行人も、その姿を見た途端、凝視しつつも遠巻きに通り過ぎているようだ。
 それでも、サチは思い切って、その怪人物に声をかけてみた。
 「あの……。」
 サチが一声かけた途端、その怪人物は心底驚いたように彼女を凝視した。
 「そこで何をしているんですか?」
 怪人物の実に怪人物らしい怪しいリアクションに腰が引けつつも、さらに声をかけるとその人物は急にしらない顔を決め込もうとしたようで、黙ってその場を去ろうとしたのだが
 「はい、ちょっと待って。どこに行こうとしているのかな?」
 少しだけ遅れて到着したマリが、その進行方向をふさいでいた。
 「あのアミーゴってお店に用があるんじゃないの?堂々と顔を出したらいいじゃない。」
 相手を挑発するようにそう言うマリは、怪人物へと手を伸ばす。
 「ちょっと、マリ。」
 マリが何か手荒なことをするのではないかと思ったサチは、思わず声をあげたのだが
 「分っているって。」
 マリは、ウィンクしながら逆にサチを制し、その怪人物の帽子を取り、相手が慌てている隙に今度はサングラスとマスクに手をかけた。
 「何だ、やっぱりおじいさんじゃない。」
 確かに、そのもはや覆面と言っていい紛争を解いた姿は、顔の厳つい高齢男性。
 「若い女の人がやっているお店を見て悦に入る変態さんなのかな?」
 マリが、また挑発するようにそう言うと、その素顔を晒した老人は二人をきっと睨み、周囲の人間が驚くような大声を上げた。
 「何だ、何だ。小娘ども!俺に文句あるのか!?可愛い孫の店を覗いて何が悪いんだ。」
 サチも、そしておそらくはマリも初対面だったろう。
怪人物の正体は、谷ハルミの祖父、谷モーターワークス代表、谷吾郎だった。
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