episode 08 Mad (3/3)
「そろそろいいでしょう……。シェリフ、さっさと終わらせなさい。」
ブリーストがくいと首を動かし、そう促し、シェリフがサチに向き直ったその瞬間――。
「ぎゃっ!」
悲鳴を上げたのは、シェリフの方だった。
見ると、シェリフのかざした毒針付きの尻尾を、立ち上がったサチががっしりと掴んでいたのだった。そして、最初にそうしたようにその尻尾を掴んだまま、自身の体をひねる。但し、今度は無闇に振り回すようなことはせずに、そのまま自分が倒れ込んでいた校舎の壁にシェリフをもの凄い勢いで叩きつける。
「ぎゃっ!」
たまらずシェリフが悲鳴をあげるのにお構いなしに、サチはジャンプ。呆然とするネイビーとブリーストに向かい
「アタック!」
両足でのキックと衝撃波。
たまらずネイビー、ブリーストともにはじけ飛ぶが、過去のポリスと異なり、それだけで済んているのはさすがというべきか?ただ、すぐ側に和也とゆかりがいたために、サチが力をセーブしたという部分もあるのだが……。
「緑川……。」
倒れ込みながらも見上げた和也の視界には、傷だらけのサチの背中。
「緑川さん……。」
ゆかりが見上げた時、サチは微笑んでいた。
彼女は知らないことではあるが、その額には戦闘時には必ず現われていたビンディ、Oシグナルはなく、その瞳も、普段の落ち着いた黒い瞳。
「神崎さん、ありがとう、神崎さんの声、聞こえたわ……それから、ごめんなさい。起きるのに時間がかかって……。でも、”まな板女”はひどいな……。」
「緑川さん、あなた……。」
「説明なら、あとでゆっくりするわ……ねぇ、立花君……。」
と今度は、和也に語りかける。
「もう一度、名前を呼んでくれない?」
「名前?名前なら、いくらでも呼んでやるよ、緑川……緑川サチ!」
「ありがとう……。二人とも下がっていて。」
そう言うと、サチはきびすを返し、三体の改造人間の方へと歩を進めていく。
三体の改造人間は、立ち上がると、再びじわりじわりと周囲を取り囲み、その間を詰めていく。
一方、サチはというと、その三者の姿をひとつひとつ確かめ、そして……。
三体のうち、ネイビーに向かって突進していく。
「上等だ!」
サチは、そのネイビーに向かってジャンプ。再び、キックと衝撃波を浴びせるかと思われたが――。
「何だと!?」
彼女は、ネイビーの肩に乗り、再びそこを踏み台にしてジャンプ。その背後のマシンパサートに向かう。
気勢をそがれた形になった三体が呆然とする中、サチはマシンパサートにまたがり、そのハンドルを握る。
「ビー、わたし、神崎さんに怒られちゃった……。」
「当然だ。」
「ビーもわたしのこと、怒っていたよね。名前も呼んでくれたし。」
「何のことだ?十三号……。」
「……そういうことでいいよ、もう……。」
「十三号……君は少しの間に変わったな。」
「そうかな?」
ほんのわずかな余裕、ビーはサチにそれを感じ取っていたのだが……。
「まぁ、いいだろう。ケルビムの言う通りなら、こいつらは陽動に過ぎない。さっさと片付けろ。前にも言ったとおり、君とわたしが駆るマシンパサートを止められる者は、この世には存在しない!」
「了解!」
サチは、マシンパサートのスロットルを開き、三体のいる方向に向かいマシンパサートを走らせる。
「舐めんじゃないよぉオオオオオオ!」
そのマシンパサートに向かって、ブリーストはその爪を大きく振る。サチは、その軌道を見極めると、軽くステップを蹴り、ハンドルから手を離しジャンプ。ブリースト腕も爪も、マシンパサートとジャンプしたサチの間の空間で空しく空を切る。
すぐにマシンパサートに着座したサチだが、次の瞬間には眼前にネイビーが立ちはだかる。
再びパワーにモノを言わせて止める積もりなのだろう。
しかし、サチは構わずに突っ込む。
両腕を突き出し、マシンパサートに突っ込むネイビー。
マシンパサートは、それにより、突進を止められ……ない!
「舐めるな!」とはビー。
「このマシンパサートの液流エンジンは、十三号が乗って初めて最高のパフォーマンスを発揮するのだ。さっきまでと一緒にするな!」
そのビーの言葉を裏付けるかのように、マシンパサートはそのカウルの先端部分にネイビーの巨体を載せたまま、先ほどまでサチが何度も叩きつけられたコンクリート壁に突進する。
もの凄い音と砂埃とともに、ネイビーはコンクリート壁に激突。
しかし、その背後からは乾いたエンジン音。
再び、シェリフがオフロードバイクを駆って、襲いかからんとしているようである。
サチは、その音に反応して素早くマシンをターンさせる。
「ふん!多少、曲乗りが出来る程度でいい気になりおって!十三号、あの改造人間に本当の人馬一体というものが、どういうものか教えてやれ!」
「ビーこそ、ちょっと乱暴になってない?」
サチは軽く応じながらも、シェリフの乗るバイクに向け、マシンパサートを直進させる。
サチの動きを見たシェリフは、前輪を上げ、車体を器用にジャンプ。
サチもまたそれに呼応して、マシンパサートをジャンプさせた。
二人の改造人間、二台のオートバイが空中で交錯した。
バイク同士が交錯する瞬間、シェリフは再び尻尾をうごめかし、毒針をサチに突き立てんとするが、サチはこれを読み。ジャンプして回避。ただし、ジャンプとは言っても、先ほどブリースト相手にして見せたのとは逆に、ステップを蹴った後、足を大きく前に伸ばして、ハンドル部分を軽くキック。進行方向とは逆、背面でのジャンプだった。
改造人間たる緑川サチだからこそ、可能な空中でのボディバランスだった。
背面ジャンプからそのままシェリフの背中めがけ
「アタック!」
空中でのキックと衝撃波、それも背後からである。
シェリフはたまらずに吹き飛ばされ、主を失ったオートバイは何度か地面でバウンドして、倒れたかとおもうとそのまま動かなくなってしまった。
空中でキックと衝撃波を受け、なお放り出されたシェリフはふらふらと立ち上がるが、その眼前にはサチの姿。
「この!」
シェリフは、自らの両手を瞬時にハサミ状に変形させ、そのサチに襲いかかるが、彼女はそのハサミの根本、手首を掴む。しかし、シェリフはさらに尻尾をくねらせ、背中越しにサチに毒針を突き立てんとするが――。
サチは、手首を掴んだまま、シェリフの体をぐいっと持ち上げる。そして、そのまま回転。
姿勢が一気に変わったために、シェリフの毒針は目標を失い、宙を彷徨うが、サチはお構いなしに自らの回転速度をあげ、シェリフを天高く放り投げる。シェリフの体は、激しくコマのように回転したまま空中を舞うが、サチはそれを追うように自身もジャンプ。そして、回転しているシェリフ目がけ、体を大きくねじって回し蹴りの体勢に。その足先は白く輝いている。
「ヒート!」
かつて、ポケットを屠った灼熱のキック、白い炎の大太刀は回転するシェリフの胴体をあっさりと両断。シェリフは、その毒針をサチに突き立てることはおろか、悲鳴を上げる間もなく空中で回転したまま白い泡となり、宙に消えていった。
episode 08 FIN
to be continued....
next episode is
「Slash」