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Girl , called 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!緑川サチ=13号の物語

episode 08 Mad (1/3)

  かつての組織の改造人間達は、人間の肉体に機械的な改造を施し、かつ動植物の特性を与えることで、人間を遥かに凌駕した運動能力と同時に人間ではあり得ない特殊能力を有していた。
  一方、シェリフ、ネイビー、ブリーストの三名の改造手法は、ナノマシンによる肉体の機械的な強化とともに、ナノマシンそのものの増殖、工作能力をもとにした遺伝子改造を行っている。かつての改造手法が人間を機械に近づける技術だとするなら、現在の改造手法は、人間を全く異なる生物へと変貌させる技術と言ってもいいだろう。
  この両者の違いは、そのまま清崎とシェリフ、ネイビー、ブリーストとの違いでもある。
  ただし、十三号の場合は、いささか事情が異なる。
  なぜなら……。
  「おそらく、十三号は僕が知りうる限りにおいて、最初にナノマシンが使用された改造人間ではないかな?」
  とは、ケルビム。
  モニターの中では、正気を失った十三号の姿が映し出されていた。綾子はそれをじっと見つめている。
  「当時としては、実に信じがたいことではあるが、多分ドクター、あなた達はあの時代においてナノマシンの開発とその応用技術に手をつけていたのでしょうね。」
  以後、十三号は三十年に及ぶ期間、特殊溶液で満たされた水槽の中でしか生きていけない体になったのだから……。
  「当時、もう外科的手法での改造人間の開発は限界に達していたんだよ。」
  普段の彼女とは違う、淡々とした口調で応じる綾子。表情は全く動かない。おそらくは、これが「ケーキ店店主」にして「緑川サチ」の母親、緑川綾子ではない、科学者岡部綾子の素顔なのだろう。
  「ナノマシン、マイクロマシンによる体内手術へと技術がシフトしていくのは、技術的には必然だった。サチは、その改造手法を用いた最初の改造人間になるはずだったのさ。成長期であることも実験目的からすると意味があった。本人の成長とともに適時に改造を行い続けるナノマシン、いわば自己進化を無限に続ける改造人間、あの子はそうなる筈だった。でも……。」
  「ナノマシンの体組織形成に重大な欠陥があった……そう言うことですね。」
  綾子は無言で頷く。
  「それが為に、彼女は三十年に及ぶ期間、外界の空気に触れることも出来なかったわけですが、その彼女が現在正常に動いているのには、彼女のもう一つの特性が大きく作用している……ここまでは、あなたにとっても想定の範囲内でしょう?しかし、まぁ、そのもうひとつの特性に関してのお話はまた後にしましょう。いまの彼女の状態――。」
  とケルビムは、モニターの中で猛り狂いブリースト達に襲いかからんとするサチを指さす。
  「彼女も、あの三人の改造人間と同じく、遺伝子にまで及ぶ改造を受けていることが大きく作用しているのでしょう?」


  三体の改造人間を威嚇していたサチは、いきなりダッシュ。
  一直線にブリーストに向かう。
  「刻んでやるよ!」
  ブリーストがその長く伸びた爪を突進してくるサチに振るうが、サチは体をよじりながらもそれを何とかかわし、不完全な体制ながらもパンチを繰り出す。対するブリーストはもう片方の腕を振り、爪の背の部分でそれを受けるが、衝撃で大きく後方へと弾かれた。
  「なんてパワーだい!」
  今度は、背後からシェリフがその毒針のついた尻尾を振るい、サチに襲いかかるがサチはそれもまたよけて毒針のついていない尻尾の真ん中付近を脇に挟んでつかみ取る。つかみ取ったかと思われたその瞬間、渾身の力を込めてシェリフの体ごと振り回し始めた。
  回転するシェリフの体がぶつかりそうになって、ネイビーは慌てて後ずさる。ブリーストにしても、シェリフの体が邪魔になって迂闊に飛び込めない。
  果たして何回転しただろうか、サチは掴んだ尻尾を離し、シェリフの体は講堂の壁を突き破る。
  しかし、シェリフを投げ飛ばした瞬間、サチに隙が出来たようだ。
  肩で息をするサチに向かって、ネイビーが突進。
  その体当たりで、今度はサチが講堂の壁を突き破り、外へと飛び出してしまった。
  「ブリースト!いけるぞ、パワーもスピードも凄いが、やつは動きがメチャククチャだ。」
  ネイビーは歓喜の声をあげ、サチを追って自らも講堂の外に出る。
  「そう……。」
  ネイビーの話を聞いて、ブリーストはにやりと凶暴な笑いを浮かべる。   「だったら、じっくりと料理してあげようじゃないの。嬉しいわ、楽しみが増えて。」


  ケルビム言うところのシスター支配下の昆虫型カメラ搭載ロボットも移動しているのだろう。モニターの中の視界は、講堂の外へ向かうブリーストを追って移動していく。途中、視界の明るさが変わったことにより、一瞬画面がホワイトアウトを起こした。
  「彼ら三人のように、遺伝子にまで及ぶ改造処置を受けた者達は、例外なく精神に変化が生じます。全般的に言えるのは、凶暴性、攻撃性の高まり……。今度のことで分りましたが、十三号も例外ではないようですね。いままでは、こうした本格的な対改造人間戦がなかったために、発現しなかっただけ。理性でうまく押さえられていた……というわけではないようだ。」
  「どうかね……あの子は元々大人しい子なんだ……。」
  「その大人しい子が、いまは猛獣の如く猛り狂っている。あれこそが、改造人間十三号の真の姿……そうは思いませんか?」
  「あんた、あたしを挑発している積もりかい?」
  「いいえ。」
  にこやかに答えるケルビム。その表情は、恐ろしいほどと形容してもいいくらいに邪気がない。
  この男には、人間の基準での善意や悪意というモノがないのではないか?綾子にはそう思えた。
  ブリーストを追う昆虫型小型ロボットのカメラアイが、再びサチを捉えた。
  そこでのサチは、サソリ型改造人間であるシェリフに対して闇雲なパンチとキックを浴びせていた。
  「あー、あれではダメだ。あれでは彼女本来の能力は活かせない……そうでしょう?ドクター。彼女のパワーの源は強化された肉体でも、人工筋肉でもないんだから……。」
  画面の中のサチの動きにやきもきしながらも、綾子はこのケルビムという男が、サチの能力の本質を掴んでいることを確信した。


  「さっきぶん投げられた時はちょっとびっくりしたけど……ジョシコウセイ、それくらいじゃ僕は倒れないよ。」
  サチの攻撃を受け流しながら、シェリフは腕を一振り、バックステップでかわすサチであるが、その方向に控えるのはトカゲ型改造人間であるネイビー。
  「さっきのキックのお返しだ。」
  実に荒っぽい横殴りのパンチ。
  しかし、その単純な攻撃を、バックステップで重心がずれていたためか、サチはかわしきれずにほぼまともに喰らってしまう。体重差もあり、吹っ飛ばされるサチは鉄筋コンクリートの校舎の外壁に激突。外壁には小さいながらもひびが入ってしまった。
  それでも、サチは立ち上がる。
  コンクリートの小さな破片が、ぱらりと落ちた。
  相変わらず目は赤く光ったままである。
  「へー、まだ立てるんだ……。」
  感心したように言うと、今度はトラ型の改造人間であるブリーストが飛びかかる。
  サチは、その突進を咄嗟に交わすが、ブリーストの爪はわずかながらもセカンドスキン胸部のハードポイントを削り、そのまま勢い余って校舎外壁のコンクリートをまるで髪のように切り刻む。
  「ひゅー……高周波ブレードの爪、相変わらずの切れ味ですね。」
  シェリフが本気で感心して口笛を鳴らす。
  「ふん、肝心のものを刻めなければ意味はないわ……でも……あのジョシコウセイ、動きは早くてそれなりにパワーもあるけど、騒ぐほどのモノじゃない。動きは隙だらけ、素人もいいところだわ。」
  ブリーストがそう言うのに
  「じゃあそろそろ終わりにするか?」
  とは、ネイビー。
  「慌てないで。ここはじっくり行きましょうよ。」
  「そうだな、慌ててかかっては、こっちもけがをするもとだからな。」
  「そういうこと。楽しみましょう。」
  ブリーストは、にやりと笑い、その口から見える牙を光らせる。
  じわりじわりとサチを囲むように、三体の改造人間は歩を詰める。
  その間にも、シェリフの尻尾は動き、毒針をサチめがけて伸ばす。サチは、それを交わすのが精一杯。いつしか彼女は、また講堂の壁側に追い詰められようとしていた。


  一方、講堂の中の方では――。
  瀕死の状態ながらも、清崎が何とか和也を縛るロープに手をかけているところだった。
  おぼつかない手つきではあるが、それでも何度目かのトライで、和也を縛るロープはほどけ、ようやく和也は自由を取り戻していた。
  しかし、程度が違いこそすれ、ブリーストに痛めつけられているのは和也も同じ。
  彼は、よろよろと立ち上がると、自分を解放してくれた清崎を気遣う。
  「清崎さん……。」
  「立花君……。」苦しげに呻く清崎は、それでも何とか和也を見据える。
  「逃げてください、いまのうちに……。」
  「そんな、清崎さんを放って……それに緑川だって……。」
  「立花君……あなたに出来ることは何もない……。」
  「そんな……。」
  「何の為にお嬢がここに飛び込んできたと思っているんです。私やお嬢が何の為に、あいつらと戦っていると思っているんです。それをムダにする気ですか?」
  「でも、清崎さん……。」
  「何度も言わせないで欲しい……。」
  清崎はもうこれ以上話をするのも辛そうであった。和也も何と答えて良いのか分らない。しかし、この二人のやりとりに、思わぬ方向から言葉を挟む者があった。
  「清崎、それは違うぞ!」
  声が発されているのは、マシンパサートから。
  「立花和也、君にしか出来ないことがある。君の力を貸して欲しい。」
  緑川サチの最大のパートナー、ビッグマシン2ことビーの声だった。
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