ねごとやTOP > のべるず@ねごとや > 13号ちゃんプロジェクト > Girl , called 13 > episode 07 2/3

Girl , called 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!緑川サチ=13号の物語

episode 07 Rush 2/3

  和也が感じた音と衝撃の正体は、マシンパサートが講堂の壁を突き破った時のものだった。
  瓦礫が飛び散り、もうもうと埃が立ちこめる中、恐慌状態に陥った工作員達の自動小銃が火を噴き、それをきっかけにして生徒達の間からは悲鳴が上がった。
  「やめろ、やめろ、撃ち方ヤメ!!」
  その喧噪をネイビーの怒号が止める。
  「お前ら、よく見ろ!」
  銃声がやみ、もうもうと立ちこめる埃が落ち、視界がくっきりとする中、浮かび上がってきたのは、マシンパサートの黒いシルエット。
  ただし、乗り手はいない。
  工作員達が呆然とする中、人間を越えた聴覚を持つブリーストは、ある声を拾っていた。それは講堂の屋根越しの上空から。


  「アタック!」


  「来るわ、上から!」
  ブリーストの声が合図となったかのように、今度は轟音とともに講堂の屋根に穴が空き、パラパラと建材が崩れ落ちてくる。
  生徒達の恐慌はさらに広がり、工作員達にも持てあますほどのものとなる中、建材とともに黒い人影が舞い降りる。
  緑川サチである。
  但し、黒いセカンドスキンに身を包み、その頭部は宇宙服を思わせるヘルメットにすっぽりと覆われているため、彼女とはすぐには分らない。
  サチは講堂の壁に突入をかける寸前で、マシンパサートから飛び降りていたのだ。その際、マシンパサートの液流エンジンの出力を臨界まで高め、バリアーの出力を最大にもした。
  飛び降りたサチはそのまま清崎の手を借り、講堂の上空へ。
  無人のマシンパサートが講堂の壁を突き破り、工作員達の注意がそちらに向いたところで、今度は上空から突入。
  これがビーが彼女に授けた作戦であるが、まだ作戦は終わりではない。


  「あれがジョシコウセイ?」
  怪訝な表情で舞い降りた人物を見るブリースト。
  「想像とはちょっと違ったけど、ようやくこれで役者が揃ったというところかしら。」
  やや遅れて、サチの空けた天井の大穴から、今度はコウモリに変身している清崎が舞い降り、サチの立ち位置とは反対側の工作員達へ一直線に向かう。
  清崎のその動きを見届けたサチは、床を蹴り、一番近くにいる工作員に向かっていく。
  サチのヘルメットの中に、十字ゲージが点滅していた。
  セカンドスキンとそのヘルメットは、ビーとも連動している為、高性能人工知能であるビーの端末、そしてインターフェイスとしての機能も兼ねているのだ。ヘルメットのバイザーは、その為のディスプレイとしても機能する。
  サチとビーは、その機能を利用して、工作員達にある攻撃を試みようとしていた。
  「十三号、せめて工作員達相手の攻撃は、一撃で終わらせなくてはいけない。少なくとも、彼らが人質に手を出す隙を与えないようにしなくては。」
  サチはビーの言葉を思い出しながら、その十字ゲージが工作員にピタリと合うように空中での自分の姿勢を微妙にコントロールする。
  「ぴー!」という電子音とともに、視界の中の十字ゲージが工作員の一人を捉え、さらにその十字ゲージを中心として、後方に控える他の工作員達の姿が一直線上に並んだ。


  「アタック!」


  かつてポリス(クモ)を一撃で倒し、いままた講堂の天井を突き破った彼女の蹴りが、工作員にヒットする。
  轟音とともに、工作員は後方に弾き飛び、さらにその後方に控える工作員二人を巻き込んでいく。
  それを瞬時に見極め、サチはもう一度水平方向にジャンプ。


  「アタック!」


  彼女の再度の蹴りは、工作員三人をまとめて壁に叩きつける。余剰な衝撃波が講堂の壁に新たな穴を空け、最初の工作員の体を真っ二つに分断していた。その体の断片から垣間見えるのは、小型の機械群。
  「彼らも改造人間?」
  呟くサチの耳元にビーの檄が飛ぶ。
  「十三号、まだ終わりじゃない!!」
  見ると、なおも残った工作員達が銃を構え、生徒達に狙いをつけている。
  「ダメ!!!!」
  サチは、叫びつつ再びジャンプ。
  工作員達と生徒達の間に立つ。そして、すかさずバリアーを展開。ポリスやポケットとの戦いで見せた、空気の流れをコントロールすることによって生じるバリアである。
  工作員達の手にする自動小銃が火を噴き、弾丸が雨あられと生徒達に向かって放たれるが、間に立ったサチの展開したバリアーによりその行く手は悉く遮られる。しかし……。
  (ダメ、そんなに持たない……。)
  通常、彼女のバリアーは飛び道具から自身を守るため最小限の容積で展開されている。しかし、いま展開しているそれは、生徒達の集団を守るため限界ギリギリまで広範囲で展開されており、未経験の大きな負荷が彼女自身にかかっていた。
  「お願い、わたしが止めている間に早く講堂から逃げて、出来る限り遠く!」
  苦しい声を絞り出すサチだが、その声に生徒達は顔を見合わせる。
  何しろ、恐慌状態に等しい精神状態でいままでいたのだ。冷静な判断力など、いまの彼らには期待できない。さらに言えば、この目の前の黒づくめの人物(サチ)が本当に味方かどうかも分らないでいた。何しろ、いま見ている彼女の力も、生徒達からすれば異形の者達となにひとつ変わりはしないのだ。もうひとつ言えば、その人物から発せられたのが女の声というのも、彼らの困惑を大きくしていた。
  「お願い!」
  それでも一人の女生徒が、サチの絞り出すような声に反応していた。その女生徒は、他の生徒達が顔を見合わせている間も、サチの姿をまじまじと見つめ続けていた。
  「何やってんのよ、逃げるわよ!この人が頑張っているのがムダになるでしょう!!」
  神崎ゆかりだった。   その声に弾かれるように、生徒達はようやく動き出す。
  「マシンパサートのあるところ、オートバイが破ったところから外に出られるから……。」
  苦しげなサチの声。これにも、ゆかりだけが反応する。
  「分ったわ。」
  そして、そのゆかりの返答が合図となった。一旦、動く方向が決まれば、後は話が早い。
  生徒達は我先にと、出口に向かって走り出す。
  「神崎さん、ありがとう……。」
  少し遅れて走り出そうとするゆかりの背後から、サチの声。やはり苦しそうではあるが、その声には十分な感謝の意がこもっていた。
  弾かれるように振り向いたゆかりは、再びまじまじと黒衣の人物を見る。
  「緑川さん……やっぱり、緑川さんなの……?」
  一旦、足の止まったゆかりの腕を今度は、別の人物が引く。
  佐久間忠だった。
  「ゆかりちゃん、何してんの。逃げなきゃ!」
  「う、うん……。」
  一瞬、名残惜しげにサチの背中を見たゆかりだったが、やがて口を堅く結ぶと、忠とともに出口に向かって走り出す。
  その彼らに向かい、今度は別の工作員グループが銃口を向けようとする。
  「ダメ!!」
  サチはそう叫ぶが、バリアーを限界まで展開している彼女は動けない。いや、いま動けば、彼女が食い止めている弾丸が、生徒達の背後に襲いかかることになる。
  一瞬、目を閉じたサチの耳に、工作員達のそれとは異なる銃声が飛び込んできた。
  その音の主たる銃弾は、講堂の壁を突き破り、工作員達の頭部を次々と吹き飛ばす。決して通常の弾丸の威力ではなかった。
  「何だ、壁越しの精密射撃だと!?」
  状況を即座に分析したのは、ネイビー。
  彼の言うような狙撃は、人間ではまず不可能であろうが、自身が改造人間という人間の枠を逸脱した能力者であるが故に、その答えを即座に導き出していた。


  自分と清崎、そしてここにいる三人以外の改造人間が存在する?
  そのことに対して、サチは若干の不安を憶えもしたが、いまはそれに対して深い思索を巡らせる余裕はない。バリアーを広範囲に張るにも限界を感じ始めてきたのだった。それでも、周りを見回して生徒達の避難を確認してからでなければ迂闊に動けないという思いだけが彼女を支えていた。
  その彼女の耳にブリースト達の声が無情に響く。
  「ネイビー、シェリフ、何狼狽えてるの!?ガキども逃がしてどうするの!?」
  「そうか!」
  「見せしめに何人かぶち殺せば、大人しくなりますよ。」
  これにはたまらず、サチもバリアーを一旦解除してでもニ体の改造人間の足を止めようと思ったのだが。
  先ほど工作員を壁越しに狙撃したのと同じ銃声と弾丸が、今度はネイビーとシェリフの足下の床をえぐった。
  そして、今度の狙撃は壁越しではない。
  生徒達が逃げ出していく講堂の壁の穴。
  そこには、逃げ出していく生徒達とは逆方向に歩を進める人影。
  全身を赤道色のボディスーツに包んでおり。サチと同じようにその頭部はヘルメットに覆われている。そのボディスーツとヘルメットは、サチのセカンドスキンに酷似していた。ただ、そのボディスーツに包まれた体のシルエットの描き出す曲線は、サチのそれよりもずっと女性らしく、胸部などは特にそれが顕著である。しかし、その腕にあるのは、女性らしいその体には似つかわしくない大口径のハンドガン。
  「ニンゲンの子供相手にちょっかい出しているんじゃないわよ、みっともない。」
  その体から発せられるのはやはり若い女性の声。その声も、サチに較べればずっと意志がはっきりしている印象を与える。
  「あんた達も。」と首を動かしながら言うその対象は、今度は生徒達のようだった。「さっさと逃げるなら逃げなさいよ、邪魔なだけなんだから……手間を掛けさせるんじゃないわよ。それから、その辺で気絶している女とか教師とかも連れて行きなさい。薄情者ぞろいだったら、ありゃしない。」
  「何だ、今度は一体なんだ?ジョシコウセイの仲間か?」
  ネイビーがそう呻くのに
  「バカにするんじゃないわよ、そんな弱っちいの、わたしの仲間なもんですか。ただ、ちょっと人に頼まれたのと……あとあとのことを考えただけ、あんたらが十三号とどうやり合おうが知ったことじゃないわ。」
  ハンドガンを構えるその女性とネイビーがにらみ合っている間にも、気絶している村上さくらや教師達を担いだ男子生徒達が次々と穴をくぐり、それが最後の一人になったのを確かめると、彼女はハンドガンを下ろし、
  「これでわたしの目的はおしまい。あとは好きにおやんなさいな……。」
  そう言って、立ち去ろうとしたのを
  「ふざけるな!」
  いきり立つネイビーは、その彼女に背後から襲いかかろうとした。しかし、赤道色のボディスーツの女性は即座に振り返り、再び手にしたハンドガンのトリガーを引く。
  放たれた弾丸は、ネイビーの頬を掠め、彼の背後、離れた位置にある講堂の壁に大穴を空けた。
  「ただの弾丸じゃないのは分るでしょう?わざと外すのもこれが最後……。もう一度言うわ、あんたらが勝とうが負けようが、十三号相手にどういう戦い方をしようが勝手にどうぞ。わたしの知ったことじゃない。でも、わたしにまでちょっかい出す気なら、本当にぶち殺すわよ。」
  それだけ言い、ネイビーも離れた位置にいるブリーストも動く気配がないと見ると、彼女は再び背を向け、外に向かって声を上げる。
  「ギルバート、引き上げるわよ!」
  「イエス、ゼロ!」
  いずこともなく、男の声がそれに応じ、今度こそ赤道色のボディスーツの女性は姿を消した。
  その場に残されたのは、緑川サチと清崎、シェリフ、ネイビー、ブリーストの改造人間五人、そしてただ一人取り残された立花和也のみ。
next
back
index
Project 13th Girl © ねごとや
since 2008/06/29