episode 06 Occupation 3/3
洋菓子店「グリーンリバー」にケルビムが来訪していたのとほぼ同時刻。
F市立高校近くの路上に、この地方都市には似つかわしくない黒塗りのリムジンが止まっていた。
中にいるのは、あの光明寺ともう一人……。
その姿は影となっているため、はっきりとは分らないが、体の線から見て女性、それも髪の長い若い女性のようだった。
「どうやら、連中が動き出したようだ。十三号への陽動のつもりだろうな……しかし、十三号はあの場にはいない。おそらく彼女は、外部からあそこに突入することになるだろうな。」
まるで独り言を言うように、光明寺は語る。相手の女性は興味を示しているのかどうかは、影だけではうかがい知れない。
「一緒に行動する必要はないが、どうかね、彼女の突入を手助けする積もりはないかね?ゼロ……いや、マリ。」
「あまり目立ちたくはないんだけど……。」
ようやく女性が口を開いた。
「プロフェッサーに目をつけられるだけだし……。」
「だから、影ながらでいいのだ。一緒に行動する必要はないと言っただろう?」
女性はじっと光明寺を見つめていたようだが、やがて軽いため息とともに
「分ったわよ、仕方ないわね。一応、おじいさまの頼みだものね。」
と気だるげに応じ、ドアを開けた。
リムジンのドアを開けて外に出て、ようやくその女性の姿がハッキリと見える。
やや赤みがかった長い髪を揺らしたその身は、サチが身にまとったのと同じ「セカンドスキン」に包まれている。体の線が顕著に表れるセカンドスキンの特性故、彼女の体の線もくっきりと出ているが、サチに較べると胸の部分はかなり大きいように見える。ただ、その見た目の年齢はサチと変わりないようにも見えた。
そして、サチのまとったセカンドスキンは黒かったが、彼女が着るセカンドスキンは赤銅色である。
「ギルバート、ウェポンシステム、スタンバイ!」
彼女、光明寺がゼロともマリとも呼んだ、その少女は無人の道路で声を上げる。するといずこからか
「イエス、ゼロ!」
という野太い男の声が聞こえてきた。
「ギルバート、スクリーマー、狙撃モードでセット!タングステンブリットスタンバイ!」
「イエス、ゼロ。」
またもどこからか男の声が聞こえてきたかと思ったその瞬間、彼女の姿はもう路上からは消え失せてしまっていた。
先ほどケルビムがF市立高校講堂内の映像を映した際の周波数をビーが入手していたのだろう。サチはマシンパサートを駆りながらも、ヘルメット内部に映し出されたリアルタイムでの講堂の映像を見ていた。マシンパサートそのものは、ビーの手により半自動運転の状態である。
「ケルビムは、人質の生徒はそれほど危険じゃないとは言っていたけれど、どう思う?ビー。」
「見知らぬ相手をいきなり紳士と決め付けるのは、愚かに過ぎる。」
ビーの方は即答である。
「あのケルビムという人物が、どの程度あそこにいる連中を把握しているのかは分からんが……ここは清崎にも一肌脱いでもらわなくてはいけないだろうな。」
「清崎さん?」
「清崎は先ほどから我々の上空にいる。」
「そうなんだ。」
答えつつも、サチはわざわざ上空を見上げるようなことはしない。ビーが上空にいるというのなら、そうなのだろう。彼女はそうした意味では、ビーを全面的に信頼していた。何しろ、二人の付き合いは長いのだ。
「一番に腐心しなければならないのは、あの三人の改造人間の前に、生徒達を抑えている戦闘員をいかに排除し、生徒達を速やかに脱出させるかだ。こちらの戦力が少ない以上、展開スピードが大きくものを言うことになる。第一、生徒たちがいる状態では君も能力をフルに発揮できないだろう。」
サチは黙って頷く。
「それと十三号、いまからECMを作動させる。少しの間、学校側の映像は映し出せなくなる。一旦、回路を閉じるぞ。」
「ECMを?どうして?」
「警察が学校周辺を固めつつある。どうやら、事件の一時的な隠蔽を図るつもりのようだ。」
ビーは警察情報をハックしていたようだ。
「隠蔽?警察が?」
「ポケットの時のことを忘れたのか?連中の組織は、警察上層部ともつながっているようだ。配備されている警官も、自分達が何をしているのか分かっていないだろう。相手側の事情はどうであれ、こちらとしてはその警察が敷いた包囲網を突破しなければいけない。だからこそのECMだ。」
「了解したわ。」
答えつつも、サチは現在の状況が決して楽観視出来ない状況であること、そして自分が行おうとしていることが孤独な戦いとなることを、いまさらながらに実感していた。
episode 06 FIN
to be continued....
next episode is
「Rush」