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Girl , called 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!緑川サチ=13号の物語

episode 06 Occupation 1/3

  奇妙な感じだった。
  今日になり、突然午後の授業が中断となり、体育館で全校集会なのだという。
  クラスの中では、めいめい面倒がる者あり、午後の数学の授業が中止となったことを喜ぶ者ありと反応は様々だったが、和也は何とも言えない悪い予感に見舞われていた。
  教室を出て、副担任の村上さくらに言われるまま、渡り廊下を歩く和也はそこで見知らぬ人影を見ることとなる。
  男の和也から見ても、まずは美形と思える整った顔立ちと浮世離れした純白のスーツ。まるでファッション誌からそのまま抜け出してきたような男の姿がそこにあった。
  「誰だ?」和也が不審に思い、じっとその姿を見つめていると、その男も彼の視線に気づいたのだろう。にこりと和也に微笑む。
  同性であるにも関わらず、どきりとした和也。
  「カズ、何やってんだ。」
  そんな和也を不審に感じたのだろう、後ろから忠が声をかける。
  「何って……いま、そこに見慣れない奴が……。」とそこまで言いかけた和也であるが、次いで視点を移動させた時、その男の姿は跡形もなく消え失せていた。「いや、別に何もない。」
  「大丈夫かぁ?」
  忠は忠で、本気で心配してくれていたようだ。彼は彼なりに、ここ最近の和也の言動に不自然さを感じているだった。
  「ああ、大丈夫……。」
  そう答えながらも、和也は和也でいま自分が見たものが、何か不吉なことの前兆に思えてならなかった。どうも、ポリス、ポケットと改造人間の姿とそれと戦う緑川サチの姿を見て以来、いままで気にもとめなかった事々が色々と気になるようになっていたのだ。いささか神経過敏ともいえるのだが……。
  (何だったんだ?いまの男……。)
  結果としてであるが、和也の抱いた不安感は決して的外れなものではなかった。


  一方、先ほど和也に姿を見られたケルビムは、和也が忠に声をかけられたその瞬間には、もう校外の大通りに身を置いていた。
  「さてさて、困ったものだ……。」
  口から発せられている言葉とは裏腹に、彼の表情は嬉しそうだった。
  「いくらあそこを占拠したところで、肝心の主役がいないのでは……。ここは僕の方から正式にオファーを出すしかないかな。彼女の姿を直に見るのはじつに久しぶりだ。」
  それだけを呟くと、ケルビムの姿は、その場所からも瞬時にしてかき消えていた。


  同時刻、Iホテル屋上ヘリポート。
  大規模災害などに備えて、多くの大型ビルの例に漏れず、このホテルの屋上にもヘリポートが用意されていた。
  メインローターがアイドリングすることによって生じる風と、高層建造物が生み出すビル風が容赦なく吹きすさぶ中、黒いパンツスーツの美女、シスターは確とした足取りで待機しているヘリコプターに乗り込もうとしていた。
  ドアが閉められると、シスターは自身の左手首の腕時計に目をやった。
  午後一時十五分。
  「時間ね。」


  F市立高校体育館。
  欠席者を除く全ての生徒が、学年単位、そしてクラス単位に並び、何が始まるのかと待ち構えている中、校長、教頭に先導される形で、全身黒づくめの男達がぞろぞろと乗り込んできた。
  ささやかなざわめきが最初に生徒達の中から起き始める。
  そのざわめきが大きくなるのは、男達が手にした大型バッグからこれまた黒い自動小銃を取り出し構えたあたり、そして、銃とともに取り出した物々しいチェーンにより、体育館出入り口が次々と閉ざされていったあたりからだった。
  「何だよ、何だってんだよ。」
  生徒達の中から、困惑が形となって出てくる。その声は一年生の集団の中からであるが、声を発したその男子生徒は、自動小銃を構えた男に銃口を突きつけられた。それでも、その男子生徒は口を閉ざすどころか、尚も「何だ、それ、何のまねだよ。」と食い下がったのだが……。
  ゴン!と鈍い音がしたかと思うと、その男子生徒は顔を押さえて倒れ込んでしまった。   銃床で顔面を殴られたのだった。
  顔を押さえるその指の隙間から、ポタポタと血が垂れているのを見て、また他の生徒達が騒ぎ出す。
  すると、今度は、生徒達を取り囲んだ男達が天井に向け一斉射。
  乾いた音ともに、天井から割れた照明器具の破片や砕けたボードがパラパラと生徒達の頭上に降り注ぐ。
  「はーい、騒がない、騒がない……講堂では静かにするように習わなかったのかしら。」
  唯一、チェーンによる固定を免れていた出入り口から声がした。
  ブリーストである。
  「今度、騒いだら、鼻血じゃ済まないわよ。脳みそはみ出させてあげるから。」
  ブリーストを先頭にして、ネイビー、シェリフが後に続く。
  三人は、ざわつく生徒達を尻目に体育館ステージの脇に立ったかと思うと、一飛びでその高さ2メートル近くあるステージに着地した。
  到底、人間のジャンプ力とは思えなかった。
  壇上のブリーストに、校長が近寄りマイクを差し出す。
  一連の動作は実にスムーズである。
  「えー、テス、テス。ニンゲンの皆さん、聞こえてますか?」
  ブリーストが声を上げる。弾むような明るい声だった。
  「皆さんには、これからわたし達が大活躍するところを見学させて頂きます……名付けて、ジョシコウセイ虐殺ショー!!……キャハ!」
  ブリーストは狂ったような笑い声をひとしきりあげる。
  「ジョシコウセイ!ポリスとポケットを殺ったジョシコウセイ!出てきなさい。」
  生徒達の間でざわめきが起こり始める。何の話なのか、理解できないのだ。
  ただ一人、立花和也を除いて……。
  そのざわめきが、生徒達を取り囲む男達が天井に向け
  「出てこない積もり?仕方ないわね……じゃあ、一時間だけ待ってあげる。一時間経っても現われないようなら……。」
  ただ一人、壇上のブリーストの言っている内容を理解している和也とそのブリーストの目があった。
  「立花和也を切り刻む!」
  ざわめきが今度は和也に向け、集中する。
  「ジョシコウセイ、立花和也を切り刻んだ後は、ここにいる生徒を一人ずつ切り刻む……わたしとしては、出てきてくれるのが遅れた方が楽しみが増えていいんだけどね。」
  言いつつ、再び狂ったような笑いをあげるブリースト。
  一方、名前を出された和也は顔面蒼白である。
  その和也に全校生徒の視線が集中する。勿論、忠やゆかりの視線も……。
  恐怖と居心地の悪さがない交ぜになった感情を抱える和也に向け、ブリーストとともに現われた長身の黒人男性、ネイビーが近寄ってきた。
  「立花和也、前に出てもらおうか?」
  その口調はゆっくりしたもので、決してことさらに力を誇示するものではないのだが、それだけに和也には恐ろしいものに感じられる。和也は、彼らが「どういう存在」なのか、知っているのだ。
  ネイビーに促され、和也が立ち上がる。
  周囲の視線が痛いほど自分に集中していることが、否応なく分る。
  立ち上がった和也の脇にネイビーが近づき、それによって周囲の生徒がざわめくが、そのざわめきも生徒達を取り囲む男達の銃口が天井に向けて何発も火を噴くことにより、すぐに沈黙させられてしまう。中には恐慌を起こして悲鳴を上げる生徒もいたようであるが、それも先ほどの一年生男子と同じように、銃床で殴られるて沈黙させられてしまう。
  和也の横に立ったブリーストに腕を取られ、和也が抵抗できないまま歩きだそうとしたその時、ブリースト達の行動に制止をかけんとする人物が現われた。
  「ちょっと待ってください!」
  村上さくらである。
  「どういうことなのか分りませんが、生徒に手を出すのはやめてください。」
  その村上さくらの行動を、壇上のブリーストは興味深そうに見ている。ネイビーは、というと驚いてさえいた。
  「おい、ブリースト、どういうことだ?」とネイビー。
  「ナノマシンによる洗脳が効いていない教師がいるぞ。」
  「珍しいわね。」とは、ブリースト。
  「そういうのって、ナノマシンとよほど相性が悪いのか、それとも逆にシスター並みに親和性が高いのか、のどちらかなんだけど……開発グループが知ったら、興味を引きそうな事例ね。」
  「あなた達、何を言っているんですか?」とは村上さくら。
  「とにかく、生徒に、立花君に手出しをするのは、やめてください!」
  得体の知れない集団と彼らが装備する重火器……村上さくらにしても怖くないはずがない。それでも、彼女としては精一杯声を張り上げるしかなかった。しかし、その彼女の勇気もネイビーにすれば、多少興味深い事例に過ぎない。
  「ひゅー!」
  軽く、まさに軽薄という表現が似合う口笛を一発。
  「これは驚いた……あんた、若いのに、随分と立派な教育者だな。先生みたいな教師に当たれば、俺も道を踏み外さずに済んだかもな。」
  少し離れた位置に控えるシェリフが、それを聞いてゲラゲラと笑い声を上げる。
  「いいかい、先生。道を踏み外すっていうのは、こういうのを言うんだ。よく憶えておいた方がいい。」
  そう言うなり、ネイビーからボキボキという鈍い音がし始める。
  これで三度目……の和也にしても、見ていてあまりいい気持ちのするものではない。
  ネイビーの顔のパーツひとつひとつが、激しく形を変えていく。
  目は大きく広がり、その顔を覆う褐色の皮膚も灰色がかったかと思うと、すぐに細かいうろこに覆われ、口先は前方に伸びて、その中に見える歯は人間の歯から獣じみた牙へと変わり、その口の中には真っ赤な長い舌、そしてその舌の先は二股に分れている。
  変化を終えたネイビーの顔は、もはや人間のそれではなく、巨大なトカゲそのもの……。
  「先生……俺、先生みたいないい人を見ると、食べたくなってしまうんだ。」
  哄笑とともに大きく口をあけたネイビーの姿を見て、村上さくらはその場で倒れ込む。気絶してしまったらしい。
  「お〜や〜、先生、ダメだなぁ……人を見かけで判断しちゃ……。」
  和也の耳には、いまだやまないネイビーの哄笑と生徒達の悲鳴が聞こえるだけだった。
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