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Girl , called 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!緑川サチ=13号の物語

episode 02 Bats (3/3)

  車中での和也は、手持ち無沙汰だった。
  車を運転している清崎とは初対面だったし、その清崎という人物自体、話しかけづらい雰囲気を持っている。もうひとつ言えば、先ほどグリーンリバーであった話の内容も引っかかっている。横にいる清崎を見ても(この人も、訳ありなんだよな……。)という風に考えてしまうのだ。
  そのような雰囲気の中、先に口を開いたのは清崎の方。
  「立花君でしたね。」
  「は、はい。」
  「さっきはありがとうございます。」
  きょとんとする和也を横に、清崎の口は動く。その話し方は木訥そのもの。
  「お嬢に、学校に来るように言ってくれたでしょう。」
  ああ、そのことか……と思いつつ、和也自身、なぜあのようなことを口走ったのかは分らない。ただ、言わずにはいられなかったのだ。
  そして、(緑川、この人からはお嬢と呼ばれているのか?)とも思う。そうした古風な言い回しは、実に清崎の外見にあっているとも言える。
  「話を聞かれたとおり、お嬢は普通の人間とは違います。でも……お嬢は、普通の子供と同じ世界に身を置きたい、それだけが望みなんです。願いなんです。立花君には分らないことかもしれませんが。」
  言われた和也はまたしても考え込んでしまう。
  改造人間であること。
  三十年というブランク。
  記憶の空白。
  どれも和也の理解の範疇を超えている。
  だから、和也にはサチの気持ちが分るとは言えない。
  そして、和也はそのままを口にする。
  「確かに俺には分らないことだらけです……でも、やっぱりクラスメイトですから……ごめんなさい、うまく言えないです。」
  不器用そのものの和也の言に、ハンドルを握る清崎の口元に笑みが浮かぶ。
  「立花君、あなたがお嬢のクラスメイトでいてくれて良かった……。」
  「清崎さん……。」
  二人のやりとりがようやく会話として成立し始めたその途端、グリーンリバーのバンはけたたましい音とスリップサインを残し、急停止する。
  「何だ?」
  急制動のせいで前のめりにあった和也の視線の先、そこには大型のアメリカンバイクに乗ったフルフェイスヘルメットの人物。黒いレザースーツに覆われた男は、バイザーをあげニヤリと笑う。バイザーから見える範囲ではあるが、その肌は浅黒く、ヘルメットの隙間から覗く髪はかなりの癖毛のようだ。どうやら日本人ではないようである。ただ、その口からついて出た言葉は、流暢な日本語。
  「よう、ポリスを殺したのはお前か?」
  ポリス?警察?
  清崎と顔を見合わせる和也。清崎の方でも首をふる。彼の方でも心当たりがないようである。
  「ああ?何、シカトこいてんだ?お前だよ、お前に聞いているの!」
  言いつつ、バイクから降りる彼は和也を指さす。往来の真ん中でバイクと車を停車されたせいで、渋滞が発生しつつあった。
  「おい!何をやっているんだ!?」
  あおりを食ったドライバー達の中でも、ひときわ気の荒そうな青年が車を降りてレザースーツの男に食ってかかるが……。
  「ちょっと待ってろよ、ニンゲン……。」
  男は問答無用で、そのドライバーの胸ぐらを掴み、片手で横の車のボンネットに放り投げる。
  「てめえ!」
  目の前で怪力をふるわれたというのに、頭に血が上ってしまったせいだろう。ドライバーはまだ闘志を失っていないようだが……。
  「いいから、おとなしくしてろよ。ニンゲン、てめえから先につぶしても良いんだぜ。」
  静かに言う男の口調とは裏腹に、その足はアスファルトの地面を激しく踏みつける。踏みつけられたアスファルトは砕け散り、周囲にタールの破片をまき散らした。
  「ひぃっ!」
  この期に及んでようやく目の前の相手が、「人間」とは異なる存在であることを感じ取ったらしい。
  「さて、話の続きだ。」
  その視線は再び和也を見据える。
  「お前からポリスの匂いがプンプン漂ってくるんだ。なぁ、お前がポリスを殺したのか?」
  「ポ、ポリスって何だよ……。」
  和也としては、そう聞き返すのが精一杯である。
  「ああ、そうか。ポリスじゃ分らねぇか。ほら、あれだ、クモだ、クモ。」
  言われてからさっと変わる和也の顔色を、男は見逃さない。
  「ほう、やっぱり何か知っているようだな……おい、日本人の小僧。俺の名前はポケット。Pickpocket(スリ)だからポケットだ。死んだポリスのおっさんとは仲が良くてな。変な話だろう?元警官(ポリス)とスリが仲がいいなんて。それに、ポリスのおっさんは変態だが、割と憎めないおっさんだったんだ。それだけに、あのおっさんを殺した奴が許せなくてよ。だから、ちょっと付き合ってもらおうか?」
  「断ると言ったら。」
  答えたのは和也ではなく、運転席の清崎。
  「この場でポリスみたいに変身してもいいんだぜ?勿論、周りにいる奴らは証拠隠滅で皆殺し。」言いつつ、その長い舌をみせる。「その後で、お前らからゆっくり話を聞くさ。」
  「……分った。どうしたらいい?」
  「話の分るじいさんだな、おい、ここにいる日本人ども!このじいさんに感謝しな。」
  そうして、ギャハハとポケットは狂気のにじんだ笑い声を上げる。
  「じゃあ、じいさん。俺の後についてきな。ゆっくり話が出来る場所まで行こうぜ。逃げようとしてもダメだからな。俺は背中にも目がついているんだ。」
  男はそう言いながら、メットのバイザーを下ろし再び大型アメリカンバイクにまたがる。エンジンが始動し、ロングストロークエンジンならではの野太い排気音とともに、男を乗せたバイクは走り始める。
  「行きましょう。立花君。」
  戸惑う和也を横に、清崎は再びエンジンをスタートさせながら静かに言う。
  「大丈夫、どんなことがあってもあなたに手出しはさせません。それに……。」と一旦言葉を切り、「お嬢とビーがこの騒ぎに気がつかない訳がない。」と言った。
  緊張する和也は、清崎が口にした中に知らない名前があることにこの時は気づかなかった。


  ポケットと名乗った男が指定したのは、郊外の大型駐車場だった。
  車は一台も止まっていない。
  「ここなら邪魔は入らないだろう?俺達が、ここに来てから、このあたり一帯は封鎖されているからな。誰も来ないぜ。」
  バイクを降り、ヘルメットを脱いだポケットは、和也の予想よりもずっと若かった。おそらく、和也やサチとそんなに年齢は違わないのではないか。
  「さあて、話してもらおうか。話さないのなら、この場で死んでもらうだけだ。警察なんて当てにはならないぜ。」
  うっと思わず腰の引けた和也をかばうように、清崎が両者の間に入る。
  「何だ、じいさん。あんたが話してくれるのか?情報持っているのならいいが、そうでないならさっさと死んでもらうぜ。」
  「お前にやる情報なんぞ持ってはおらん。」
  「ああ?聞こえねえな。」
  ポケットは不敵に笑うと、ぐっと腰をかがめた。
  (これ、クモの時と同じだ。)
  和也の中の忌まわしい記憶がよみがえる。まさか、一日のうちに二度も同じ光景に立ち会うことになるとは。
  「これから起こることを見てもそう言えるかい?じいさん……変身!」
  まさにクモ(ポリス)の時と同じだった。
  ギチギチギチ……。
  急激な肉体の変化で、骨がきしんでいるのだろうか。
  不気味な音が余人のいない駐車場に響く。
  ポケットの耳は見る見るうちに尖り、全身が茶色い体毛に覆われていく。指先の爪は長く伸び、その口は大きく広がり、犬歯はもはや牙と言ってよいほどに伸びている。さらには手首から脇にかけて薄い膜が広がり、胴体とつながっていった。その間に、ポケットのまとったレザースーツはビリビリに破れてしまっている。
  変身を終えたポケットのその姿。
  それは目をらんらんと輝かせ、長い牙を光らせる巨大なコウモリ。
  「この姿になるのも久しぶりでな……力加減が難しいんだ。手間をかけさせるなよ。」
  ポリス(クモ)の時とは違い、ポケットの場合は声帯そのものには、変身による影響はさほどないようである。ただ長く伸びた牙の影響か、幾分か声がこもっているくらいだ。
  一日のうちに二度も目の当たりにしたとはいえ、恐ろしい光景であることには違いない。和也は腰を抜かしそうになるのを我慢するのが精いっぱい。対して、清崎の方は落ち着いているように見える。
  「どうしたジジイ。遺言があるなら預かっておいてやる。それともガキを差し出すか?ひょっとしたら助かるかもしれねえぜ。望みは薄いがな!」
  清崎はその挑発には乗らず、黙って羽織っているエプロンとシャツを脱ぐ。
  「何だ?本気で俺とやる気なのか、ジジイ?」
  ポケットの戸惑いが、コウモリに変身した状態でも和也には伝わってきた。同時にいやな予感も走る。
  (おい、まさか……。)
  ギチギチギチ……。
  ポケットが変身した時と同じ骨のきしむ音が、和也のすぐ前から聞こえてくる。
  (おいおい、二度あることは三度あるとは言うけどさ……。)
  清崎の耳はとがり、爪は伸び……まさにポケットがたどったのと同じ変化が清崎の体を包み込む。
  ただ違うのは、ポケットの茶色の体毛に対して清崎の体毛は灰色というところか。
  「ギャハハハ!」
  三人しかいない郊外の駐車場にポケットの笑い声が響きわたる。
  「何だよ、こんなところでお仲間に会えるとはな。」
  ポケットは目の前に現れたもう一人のコウモリの存在に興奮しているようだ。
  「何だよ、大昔の組織の生き残りがいるかも、って話は聞いたことがあるが、まさかじいさんがそうだとはな。」
  そして、ポケットは一転して声のトーンを落とす。
  「ジジイ……旧型が新型に勝てると思っているのかよ?」
  言いつつポケットが一歩を踏み出し、清崎はそのポケットに対して身構える。
  和也には、それをただ黙って見ていることしかできなかった。
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episode 02 FIN
to be continued....
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