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Girl , called 13 13号シルエット

プロジェクトの本丸!緑川サチ=13号の物語

episode 13 Sachi (3/3)

 立花和也が退院した翌日。
 ちょうど、あの事件以来の登校日と幸か不幸か重なったわけであるが、和也にしてみれば、かえってブランクを感じずに済んでいた。
 いつものように自分の席にカバンを置き、これまたいつものように佐久間忠や神崎ゆかりと話していると、急に教室がざわつき始めたのに気づいた。
 何事かと声の集まる方向に目をやると……。
 そこは窓側の和也の席とは対角線に当たる廊下側の前側の席。
 緑川サチの席の方向からだった。
 見ると、緑川サチが自分の席にカバンを置いている……ただ、それだけのことなのであるが、問題はその姿だった。
 いつもしているめがねはなく、髪の毛もきちんと整えられている。
 ただ、それだけ……なのだが、周囲の見方は違ったようだった
 まるで別人のように見えるらしい。
 声にならないざわめき(主に男子からだが)の中、サチが和也達のいるところまで来ると、
 「おはよう……立花君、それから……ゆかりさん。」
 「ああ、おはよう……。」
 周囲にとっては新鮮な姿なのかもしれないが、和也にとってはすでに知っている姿。それはゆかりにとっても同じ。ただ、忠だけが……。
 「え、緑川さんなの?ひょっとして?」
 などと慌てている。
 「昨日、ゆかりさんに言われた通りにしたんだけれど、変かな?」
 「全然、変じゃないよ。」
 和也が何か言う前に、ゆかりが答えていた。
 「言ったでしょう、サチ、その方が絶対にいいって。」
 「ありがとう。」
 ゆかりに言いながらも、サチはちらりと和也を見る。
 「ああ、その方がいいと思うよ、俺も。」
 視線に気づいた和也がそう答えると、サチは本当に嬉しそうな顔を見せた。
 「ありがとう、立花君。」
 「何、何なの?」
 ただ一人、事情を知らない忠だけが狼狽えている。
 「まぁまぁ、佐久間君、あとでわたしがゆっくり説明して上げるから……。でも、男ってバカだよね〜。」
 「ホント、ホント!」
 ゆかりの軽口に近くにいた女子の一人が反応する。
 「今頃になって、緑川さんが美人だってのに気づいて慌ててやんの。本当、見る目がないったら……。その点、立花君はラッキーだよね。」
 「いやいや、そこのお嬢さん、これも大抵バカ者ですよ、」
 「ゆかり、てめえ、どさくさに紛れて何言ってやがる。」
 「いやいや、わたしはバカをバカと呼ぶただの正直者ですよ、はい。」
 「お前……もう、絶対宿題見せねえからな……。」
 「それはずるい!横暴だ!」
 「うるせえよ!」
 「なぁ、カズ、俺には見せてくれるだろ、な?」
 「うるせえ、忠、てめえも同罪だ。」
 「何でだよ!」
 その一連のやりとりに、サチは声を上げて笑う。
 それは、いままで教室では見せたことのない笑い声と笑顔だった。
 和也は、いまようやく「緑川サチ」が帰ってきたことを実感していた。
 そして、サチと和也を中心としたそのやりとりを、遠く離れた位置から見つめる視線があった。


 ケルビムである。
 そのケルビムの傍らには、一人の若い女性の姿があった。
 「十三号のご帰還か……。まぁ、いまは学校生活を楽しんでいると良い。次の運命の歯車は既に回っているようだから……。」
 「そうね……いまのうちね……。」
 その女は、ケルビムに甘えるような口調で寄り添う。
 「あと一ヶ月もあれば、わたしも本格的に動けるようになるわ……。」
 「それに、ゼロの動きに呼応してプロフェッサーも動き出している。興味深いね、このような地方都市に“スターティア”の正式な所有者が、十三号を含めて三人も集まるなんて。」
 「“スターティア”……わたしも欲しいわ。」
 「そうだね……手立てはゆっくり考えよう。何しろ、今回の実験、本当のところは十三号の能力を確かめるだけの積もりだったんだが、思わぬ収穫があったしね。」
 「わたしのことでしょう?」
 女は甘えるような声で、ケルビムに尋ねる。
 「そうだ……君のような人材が手に入れられるとは……その点では、シスターやブリーストに感謝しなくてはいけないね。そして、立花和也……。」
 その名前に女がピクリと反応する。
 「十三号はもちろんのこと、立花和也自身もまだ自分がどういう存在なのか、理解していないだろうね。本当にこれからが楽しみだ。」
 「立花和也……。」
 女はうっとりとした目で、その名前を口にする。
 「彼、いいわね……。かわいいもの……。十三号には勿体ないわ。わたしがもらってもいいかしら……。」
 「時が来れば、好きにしたまえ……ただし、その時まで立花和也には一切手出しは無用だよ。分っているね?」
 「分っているわ、ケルビム。わたしはあなたを裏切らない。わたしを生まれ変わらせてくれたあなたを、わたしが何者か教えてくれたあなたを裏切ることは絶対にないわ。」
 「良い子だ……。」
 ケルビムは、満足そうに頷くと、その瞳に再度サチと和也の姿を捉える。


 これからどんな運命が待っているのか、緑川サチも立花和也も想像さえしていなかった。
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episode 13 FIN
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to be Continued "2nd Stage"
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