そして、パート2……
さて、明日は福岡。
来週は、熊本何往復かしないと……。
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そこにあるのは、金属製のフレームで組み上げられた機械の足。
「アルコールは、あまり不用意に摂取できないんだ。」
「ああ、そうか、木島さん、機械だもんね。ロボットじゃなくて、機械生命とかいうヤツだっけ。」
「そうそう。ロボットなんて、チャペックの造語だからね。何だよ、語源は“労働”って。」
やや鼻息を荒くする木島に、綾子は苦笑。
「わたしに文句言っても仕方ないでしょうが。だから、道具じゃないと言う意味で、生命体という言い方が正しいんでしょう?」
「そうそう、道具じゃない……その部分が大事。それに、俺たち、その気になったら、自己増殖と世代継承可能だし、人間側の生命体の定義からも外れていない。」
言いつつ胸を張る木島。
「ちっちゃなパーツからでも、どんどん増殖していくんだろう?ここで整備したり売っている車、何か細工しているんじゃないだろうね?」
「そんなことしないって、仕事は仕事。商売である以上、可能な限り完璧な仕上げで、お客さんに渡しているよ。」
木島が心外だと言わんばかりに、再び鼻息荒く反論するのに
「ゴメンよ。」
と素直に謝る綾子。
「いや、分ってくれたのならそれでいいんだけどさ。でも、もしさっちゃんがそれを望む時が来たら……。」
「木島さん。」
「ああ、ゴメン。どうにも、緑川さんとかみたいな有機生命体は、成長に時間がかかるからさ。つい気が急くんだよ。」
「機械なんだから、もっと気を長くしてくれないと……。まぁ、時間が有り余っているというのなら、今度木島さんのこと、分解させて貰いたいもんだけどね。」
「……マッドサイエンティストっていうのは、これだからね。」
そう言いつつ、木島が肩をすくめている間に、サチは一人マイクロバスに。
正直、母の綾子と木島との間で行われている大人同士の会話はよく分らなかったし、いまは自身体験したことのない「花見」への興味もあった。何よりもバスに乗り込んでいる人物の中に、よく見知った人物の顔を見つけたからだった。
「マメタロウ!」
バスに乗り込んだサチがなを叫んだ相手、その名をもつものは、正確には「人物」ではなく「犬」であるが。
サチの呼びかけに「オン」と答えたマメタロウ。
ややレトリバー系の血統も混じっていると思われる、雑種にしてはやや大柄なその犬は答え代わりの吠え声ひとつ発した後、サチの小さな体にのしかかると、彼女の長い髪に鼻を押しつけてくんくんと匂いを嗅ぐと、猛烈な勢いでその小さく色白な顔をぺろぺろと舐め始めた。
「マメタロウ、くすぐったいよ……。」
対してサチの方は、マメタロウの大きな体にのしかかられても、平然としているように見えた。マメタロウの体重も、大して重いとは感じていないようだ。その証拠に、彼女の小さな体はマメタロウの体重を受け止めても微動だにしないばかりか、しつこく顔を舐め続けるマメタロウの大柄な体を
「マメタロウ、もういいから。」
と片手でふりほどいたのだった。
「さっちゃん、相変わらず力持ちだねぇ……。」
そのサチとマメタロウのやりとりを見て、目を細めながら語りかけてきたのは、マメタロウの飼い主の松村さん。
初老の感じのよい紳士であり、マメタロウを通じて、近所の年配者の中ではサチとは比較的親しいと言ってよい間柄である。
「松村さん、こんにちは。」
ぺこりと頭を下げるサチは、松村さんの横、窓側の席に座る女性に気がつく。
年齢的には、松村さんと同年代か少し下くらい。母親の綾子より少し年上という感じの気の強そうな女性。
「あの、今日はおばさんも一緒なんですか。」
「ああ、そうだよ。」と答えたのは、奥さん本人ではなく松村さん。
珍しい……とサチは素直に思った。
松村さんの奥さんは、滅多に表には出てこない。家に呼ばれたことのあるサチだからこそ、その顔を知っていたという程度で、町内の住民の中でも奥さんの姿を見た者はあまりいないのではないだろうか?
ぺこりと再び頭を下げるサチに、松村さんの奥さんは面倒くさそうに少しだけ首を動かして答える。
そのちょっとしたやりとりに苦笑しつつも、不意に神妙な顔になる松村さん。
「さっちゃん、ちょっと……。」
軽く手を動かしてサチを近くに呼ぶと、小声で
「今日は、あんまり“力”は見せない方がいいよ。町内の人達の中には、普通の人間もいっぱいいるんだからね。」
と諭すように言った。
普通の人間……その意味では、改造人間のサチも、そしてこの松村さんと奥さんもその範疇には収まらない。
サチは、かつて交通事故で瀕死の重傷を負った時に、昭和の当時、世界を震撼させていた悪の秘密結社の科学者だった綾子によって、人間を遙かに超えた力を持った戦闘用改造人間として蘇生させられていた。ただ、改造手術が不完全だったため、昭和から平静にかけての三十年以上もの期間、特殊水槽の中で眠りに就いていたのだ。その長い眠りから覚醒し、完全体として現代に覚醒したのもつい半年ほど前のこと。
一方の松村さんとその奥さん。
彼らにしても、見た目こそ普通の熟年夫婦ではあるが、その実体は外宇宙に存在する中規模侵略請負会社が派遣した恒星間運用型兵器、熟年サラリーマン型侵略兵器と専業主婦型侵略兵器である。
そして、サチの知る限りでも、この町内にはサチと松村さん以外にも、人を超えた者、あるいは人ではない者が数多く存在する。
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