いまブログで展開している「Memorial Apricot Pie」
これについての発想の出発点は、お付き合いのあるサイト様「杏亭」の看板娘、杏子さんを絡めた話を作れないかというところから始まってます。
割とネタ的な小咄では、掲示板などでチョコチョコ出していたのですが、そうではなく、きちんと(?)したお話として作れないかと。
考えている内に、いまはもうない掲示板で、杏亭、杏子さんの裏設定みたいなものに、13号=緑川サチとの共通項を目にして閃いたと。
で、考えている内に、これに昭和ライダーも・・・という具合です。
昭和ライダーのうち、何故Xとストロンガーなのかについては、この両者の共通点からなのですが……それはまた先の話。
昭和ライダーでコンビというと
・1号(本郷)+2号(一文字)
・V3(風見)+ライダーマン(結城)
というのが定番ですが、それを崩してみたいというのもありました。
実際にここまで進めてみて思ったのですが、コラポものって結局は
ある世界の主人公が、異なる世界に入ってきて、その世界の主人公と遭遇或いはすれ違いをする一瞬の奇跡のようなものを切り取る話でもあるのではないかと。
その意味では、杏子さんは杏子さんの物語を持っているが、その物語が一瞬だけ13号と交錯した記録を起こしているのだと
いまは、そういう意識付けでお話を構成しております。
本来の物語は、あくまでもその作者様のものですから。
だから、13号もどこかの世界の主人公と一瞬のすれ違いをどこかで起こしているかも知れません(笑)
・・・生みの親の私が知らないところで。
それでも………陵辱ものだけは、勘弁して下さい(爆)
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動物病院を出た時、通りはもう真っ暗になっていた。
サチは、獣医師から聞いた話がショックだったのか、あれ以来ひと言も口を利こうとしない。
綾子が手を引こうとその小さな手を握ろうとしても、すぐにサチの方から離してしまう。
そして、サチはその自分の手をじっと見るのだ。
そうしたことが、二度三度と繰り返された後、綾子は意を決してサチに語り出した。
「ねえ、サチ。歩きながらでいいから聞いて欲しいんだけど……。」
言いつつ、サチを見るが、顔を伏せている彼女の表情は歩きながらでは伺えなかった。
「わたしはさ……昔、ひどいやつだったのよ。本当に……刑務所に入るくらいじゃ追いつかないほどね。」
そうして、綾子は自嘲的な笑みを浮かべる。
「この手で命を作りかえる……サチだけじゃない、色々な人の体を作りかえてきたんだよ。命令されたからとはいえ、それは言い訳にもならないね……。」
それは綾子の一人語りであったが、サチの顔はいつしか上げられ、その視線は綾子の表情に。
「組織が崩壊して三十年……わたしも色々やってきたし、いまでも世間の闇の中にいる連中も大勢いるだろうけど、そのうちの何人かは間違いなく、わたしが原因を作っているね……なのに、原因を作ったわたしがこうして曲がりなりにもカタギの稼業に勤しんでいる。変な話だけどさ……。」
そうして、綾子は再びサチを見つめた。
「でも、いまこうして居られるのは、サチ、あんたのおかげなんだよ。」
サチは、綾子の言っている意味が分らなかったのか、首を捻る。
「眠っているあんたを見つけて……復活させられると分って……一緒に暮らそうと思った時、わたしは絶対に陽の当たるところで生きて行かなきゃいけないって思ったんだよ。だから、ケーキ屋のおかみなんて、柄にもないことが出来ているんだ。まぁ、清崎さんの腕がいいのもあるんだけどさ。」
綾子は、ここで豪快に笑う。
「あんたは、自分が人を傷つけるだけだって言っていたけど、傷つけた人の数じゃ、色々言ってもわたしにはとても及ばないよ。それに少なくとも、あんたがいたから、わたしは、いや多分清崎さんも、いまみたいなカタギの暮らしをしようと思ったし、色々なことも我慢できたんだ。」
再び、綾子はサチを見据える。その目には優しげな瞳。
「他の人がどうかは知らない。でもね、サチ、わたしと清崎さんは、あんたに救われたんだ。少なくとも、わたしはそう思っている。そして、あんたがいれば、わたしも清崎さんも、もう道を間違えることなく生きていけるんだ。あんたは人を傷つけるだけじゃない。」
サチは、綾子の瞳を見つめ、そしてまた顔を伏せた。どう答えていいのか、分らないのかも知れない。
綾子もそれ以上は話をしようとはせず、二人は黙々と歩き続け、いつしかグリーンリバーの近くに来ていた。
「おや、グリーンリバーさん。今日はお二人で散歩ですか?」
その二人に茶トラの猫を抱いた老人が話しかけてきた。
グリーンリバーの斜め向かいで、老舗の和菓子屋を営む老人である。グリーンリバーのある商店街の顔役でもある。
和菓子屋と言っても、いまは高齢のため、半分隠居状態で、店も思い出したかのように開いているという状態だ。それでも、昔からの店と言うことで、その数少ない営業日は客で賑わっていたし、その時には他の店の人間も営業を手伝っている。
「ああ、旦那さん、別に散歩というわけじゃないんですけどね。」
「そうかい。」
言いつつ、老人はサチに近づき
「さっちゃん、こんばんは。どうしたんだい、何だか沈んでいるみたいだね?」
と尋ねるが、サチからの返答はなし。代わりに綾子が答える。
「まぁ、色々ありまして。」
「そうかい?」
「そうだ、旦那さん、頼みがあるんですが。」
綾子はそう言い、サチから離れ、和菓子屋の主人である老人と何やら相談を始めた。
「うん、分ったよ。」
話がまとまったらしく、老人はそう綾子に請け合っていた。
「うちじゃ無理だけど……。」と腕の中の猫を見て言う老人。「どこか大丈夫なところ、探しておくよ。みんなに声を掛ければ、一軒くらいあるだろうさ。」
「お願いします。」
「話がまとまったら、さっちゃんも安心するだろうからね。」
言いつつ、綾子とともにサチのもとに来た老人はもう一度サチの顔を覗き込む。
「さっちゃん、来週、また“あんこ炊き”をするからさ。来ておくれよ。ミタラシも。」と腕の中の茶トラの猫の頭を撫でると、返事をするようにミタラシと呼ばれた猫が鳴く。「待っているからさ。」
サチは、自分を見つめるミタラシの顔を見つめ、その頭を撫でようと手を伸ばしかけたが、その手はすぐに引っ込められる。
「洋菓子屋さんの看板娘に、和菓子を馳走するというのは、いまの私のちょっとした楽しみなんだから……待っているよ。」
それだけを言うと、和菓子屋の主人は自分の店、いまはシャッターの下ろされた店舗へと歩いていく。
サチは、その後ろ姿を黙って見送っていた。
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ところで、これある意味13号=緑川サチのテーマでもあるな(笑)