さあ、お前の罪を数えろ!!・・・ではなくて、13号ちゃんプロジェクト特別篇の6回目です。
いよいよ、額に輝くVとVなあの人登場。
今回、杏子さんとともに、ゲスト出演させて頂いた超電子なあの人とカイゾーグなあの人。
昭和から、何故あの二人なのか?は、終盤に出す予定のある台詞の為。
とりあえず、ひとつ確実に言えるのは……脳内の貯金はほぼ使い切ったど!ということです。
また、13号ちゃんギャラリーに、APRI様作の「緑川サチ」イラストを登録しております。
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まだ暑い盛りの国道。その国道の路肩に一台のワゴンが止まっていた。
「あのガキ、何者だ?」
サチが仔犬を抱えて元来た道を駆けるのを、道路脇から見ている複数の視線があった。
その視線の主はワゴンの中の三人の男。
全員が、車中、それもまだ暑い盛りだというのに、長袖のシャツを着、うち一人など上着も羽織っている。
「あの体力、子供じゃ……いや、人間とは思えないな。」
「例の旧組織の科学者とやらと関係があるのかもしれん。」
「ならマークだな。ただ、何とかいう深海開発用改造人間もこの辺りで確認されている。行動は慎重に行わないとな。」
深海開発用改造人間、その名が出たことに一瞬車中の空気は緊張に包まれた。
「しかしだな……。」
ややあって口を開いたのは、ワゴン車前列でハンドルを握る男。三人の男達の中では、一番歳が若いように見える。
「なぁ、スパイン。そいつにしたって一人だろう?俺達は三人いるんだぜ、何とかなるって、慎重にもほどがあるって……。」
「軽く考えすぎだぞ、シザース。」
そう言いつつ若い男をたしなめるのは、後部座席に座る二人の男のうち、一番年かさでただ一人上着を羽織っている男。
シザースというのが、若い男の呼び名。おそらく、スパインというのがこの年かさの男なのだろう。
「そのたった一人の深海開発用改造人間に潰された組織もあるんだ。慎重に構えておくに越したことはない。」
言われたシザースが首をすくめる。
「ところでスパイン。」
スパイン、シザース、二人のやり取りが一段落するのを見計らっていたのか、スパインの隣に座る細身の男が口を開いた。
「あのガキの運動能力からして、例の旧組織の科学者と関係があるんじゃないか?」
「あのガキも俺達の仲間だっていうのか?」
「可能性はあるだろう。」
この推論にスパインは腕組みをし、瞳を閉じて考え込むそぶりを見せる。そして、ややあって瞳を開いた時、そこには凶暴な笑みとともに伺える狡猾さを伺わせる瞳の光。
「となると……だ。俺達が探している例の科学者様が手元に残した貴重な改造人間ということになるな……。ドクター岡部の秘蔵っ子か……興味あるな。」
「だろう?」
そう相槌を打つ細身の男。
「ドクター岡部だけでなく、その秘蔵っ子まで確保したとなると、いまの新しい組織への売り込みも色々と俺達に有利に働くっていうもんだ。いまは、まだ仮のコードネームしか貰えていないがな。俺達にもツキが回ってきたようだぜ、スケール。」
スパインがスケールと呼ぶ細身の男は、凶暴な笑みを浮かべ、勝ち誇ったように語るスパインの顔をじっと見て
「なら、俺があのガキの行き先を確かめておく。」
とだけ言い残し、一人ワゴンのドアを開けた。
「ああ、頼むぜ、スケール。今回はお前の機動力がものを言うだろうからな。」
車外へと出たスケールにそう声をかけながら、スパインがまだ閉じられていない筈のワゴンのドアを見やった時。
車内は勿論、道路上のどこにもスケールの姿はなかった。
姿を消す直前に、自分が使ったドアを閉めようとしたのだろう。ドアが重々しい音ともに閉じられた。
一方、サチに置き去りにされた少女は、出会った橋からさほど離れていないところで、座り込んでいた。息が乱れ、疲労していることは、肩が激しく上下していることからも分る。
「あんなに早く走らなくてもいいじゃない……。」
不平を言いつつ、再び帽子を目深に被る。
「あの子について行ったら、ドクター岡部のところに行けると思ったんだけどなぁ……。ドクター岡部なら、お母さんのこと知っているかもしれないし……。」
ため息混じりに呟きながらも、多少は疲労も回復したのだろう。座り込んだために衣服についた砂埃を落としながら立ち上がった少女の視線は、再び前を向く。
「まぁ、いいか。“グリーンリバー”ってお菓子屋さんにいることは分っているし……お小遣いが足りなくて、一駅前で降りないと行けなかったけれど……。」
そう言いつつ、再び歩き出そうとした彼女の耳に、見知らぬ男の声が飛び込んできた。
「ドクター岡部?君、ドクターの知り合いかい?」
振り向くと、そこには見知らぬ長身の男。
長身なだけではない。かなり頑健な印象を受けるのだが、その顔つきは柔らかい。一瞬であるが、少女が見とれるほどの笑顔だった。
「ええと……はい、そうです……いや、違います。」
「どっちなんだよ……。」
少女の返答に男は苦笑する。
「あなたこそ、ドクター岡部のお知り合いなんですか?」
「いいや。ただ、ドクター岡部にはちょっとした用事があるんだ。いや、違うな……調べたいことがあるというべきかな?」
男の回答は、少女にとっては要領を得ないもので、彼女としては首を傾げるしかない。
男はさらに苦笑しつつ
「ドクター岡部の居場所を知っているのなら、一緒に行かないかい?」
と言うと、少女は
「学校の先生とおばあちゃんから、知らない人について行っちゃいけませんと言われているから……。」
と答えた。
「いや、君が僕についてくくるんじゃないよ。僕が君について行くんだ。」
この回答に少女は少し考え込んだが、
「じゃあ、いいか。」
と快諾。
もし、端からこのやりとりを最初から最後まで見ている者がいたとしたら、かなり少女の将来に不安を感じざるを得ない回答だった。
「ありがとう。じゃあ、一緒に行こうか。次の駅の近くでいいのかな?」
「うん……だけど、おじさん、わたしと一緒に歩いていくの?車とかないの?」
「バイクならあるけどね。予備のヘルメットはないし、第一……。」と男は、自分と少女との身長差を手を動かして示した。「君の体格じゃ、バイクの後ろはまだ危ないからね。置いていくことにするよ。それにしても……おじさんかぁ……。」
おじさんと言われたことが、男にとってはそれなりにショックだったらしい。
「ところで、君、こんなところで座り込んでいたけれど、何をしていたんだい?ただくたびれて休憩していた……というわけでもなさそうだったが。」
「ああ。」と少女。
「ドクター岡部のこと、知っているかもしれない女の子とさっきまで一緒だったんだけれど、その子、急に走り出して、置いて行かれたの。改造人間だから、足が速くって。」
「改造人間?」
「そう……。さっきなんか、一跳びで川から橋までジャンプしたんだよ。凄かったんだから。」
「ふうん……改造人間ねえ。」
「わたしも改造人間だけど、あんなこと出来ないし、足だって速くないし……。」
「君も?」
「うん。」
簡単に答える少女を、男はまじまじと見る。そしてふと表情を緩ませると
「奇遇だな、俺も改造人間なんだ。」
と言う。
「へえ、そうなんだ!」
その言葉に、今度は少女がまじまじと男を見る。そして、ふと思い出したように
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。わたしは、杏子、美作(みまさか)杏子。おじさんは?」
「敬介、神敬介だ。よろしく、杏子ちゃん。」
「敬介さんでいいですか?」
「ああ。」
「敬介さん、わたしと一緒に歩いていくのはいいけれど、バイクは置いていってもいいの?」
「ああ、大丈夫だよ、クルーザーなら呼べば、いつでも来てくれるから。」
「ふうん……。」
杏子と名乗った少女は、敬介という男の言ったことにちょっと納得のいかないような表情を見せたが、それも一瞬のこと。
「まぁ、いいか。」
自分に言い聞かせるかのようにそう言うと、また前を見て歩き始めた。
敬介も、その小さな少女の歩幅に合わせるかのように、ゆっくりとした歩みで少女にやや遅れる形ながら、目的地に向かって歩き始めた。
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次は、お話を再び主人公目線に戻します。