誉田哲也の「武士道」シリーズ(?)三部作、一気に読んだった。
いやあ、久しぶりに夢中になってむさぼり読んだシリーズでした。
そして、このインタビューを読む限り
どうやら仮面ライダー555がヒントになっている様子なので、特撮ファン的にも大満足なのである(笑)
武士道シックスティーン(誉田哲也) ← 電子書籍
いわゆるひとつの剣道バカ、磯山香織
幼少の頃から剣道一筋、宮本武蔵を心の師と仰ぎ、ひたすら勝利のみを追求する(無自覚ながら)修羅道を突き進む彼女。
しかし、全中剣道大会決勝でまさかの不覚をとった彼女は、ゲン直しとばかり、中学最後の大会に横浜市民大会に出場。
順調に勝ち進む筈・・・・・・が、まさかの敗退。
相手は、同じ中学三年生、東松学園中等部の甲本早苗。
雪辱を誓う香織は、打倒甲本、そして兄が剣道をやめるきっかけとなった対戦相手岡巧への敵愾心を胸にスポーツ推薦で東松学園高等部、そしてその女子剣道部に進むことになる。
しかし、そこに「甲本」はいなかった。
実は、甲本早苗は家庭の事情で「西荻」早苗と姓が変わっていたのだ。
そして、西荻早苗は、香織とは対象的にお気楽平常心とでもいうべき精神性の少女。楽しいことを第一義に考える香織とは対象的な剣道少女だった。
シックスティーンでは、香織と早苗の出会いが描かれます。
香織との出会いによって開花する早苗の才能。
そして、早苗と出会い、剣道バカ故に現代剣道に生きる部員達の中で孤立を深めることで、いままでの剣道人生に迷う香織。
剣道とは?
そして、武士道とは?
この巻では人斬りから始まった剣術が、いかにして現代剣道へと変遷していったのか、その歴史的背景と対象的な二人の剣道少女を通して「武士道」の姿がおぼろげながら見えてくる。
そして、「武士道」の真髄は、次巻の「セブンティーン」へ・・・・・・
武士道セブンティーン(誉田哲也) ← 電子書籍
またまた家庭の事情にて、西荻早苗、甲本早苗に逆戻り(笑)
そして、早苗は神奈川から福岡へと転居、そして剣道強豪校福岡南高校に(多分、東福岡高校辺りがモデルか?)
道を分かった香織と早苗だが、いままで異なりただ勝つだけではなく、真の武士道を追い求める香織と、新しい環境に戸惑い、「スポーツ」としての剣道、武士道を念頭に置かない独特の競技用剣道になじめない早苗。
この巻では、香織が中学時代全国大会で不覚をとった相手、黒岩レナが登場。
早苗と友情をはぐくみながら、一方でそれと矛盾することなく対東松、対香織に早苗を利用するレナ。
おぼろげながら武士道を追い求め始めた早苗にとっては、部内と自分との意識のギャップに苦しむことになるが、ある日遂に爆発して・・・・・・
この巻ではいよいよ「武士道」の本質が語られます。
戦いを生業とするのが「武者」なら、戦いを収めるのが「武士」
相手を傷つけることなく、暴力から人を守り、暴力を制する・・・・・・理想と言えば、それまでだが、それを文字通り実践して見せたのは、警察官である香織の父親だった。
そして、香織自身もとある事件に巻き込まれて、その武士道の極意を実践せざるを得ない状況に陥る。
一方、部の方針にこらえられなくなった早苗は、レナと決闘することに。その決闘の場に現れた担当教師吉野により、レナともども「武士道」の真髄を諭されることになる。
具体的な言葉で、そして行動の描写で現代における「武士道」という概念を描写して見せた誉田哲也という作家は、やはり凄い。
ところで、誉田作品、このシリーズが初めてでしたが、人の死なない作品はこれが初めてとのこと。
高校剣道の実態を知るために取材に訪れ、モデルとなった蔭学園女子剣道部では「私達を殺さないで下さい」と懇願されたとか(笑)
武士道エイティーン(誉田哲也) ← 電子書籍
現時点における最終巻にして、二人の高校剣道最後の年。
遂に訪れる全国大会における
香織 vs 早苗
香織 vs レナ
早苗との対戦は、意外な形で、というかあっさりと決着がついてしまいます。
しかし、それでもいいのでしょう。
二人の「武士道」はもう勝敗を超えたところにあるのだから。
対して、レナとの対戦は迫力満点。
武道としての剣道(香織)と競技としての剣道(レナ)が真っ向からぶつかり合います。
この巻は、香織を軸としたライバル対決の総決算でもありますが、同時に他のキャラクター
早苗の姉でモデルの緑子
香織の師匠で道場主の桐谷玄明
早苗の福岡南での師匠格と言える吉野
二人の後輩、田原美緒
彼らの物語がサイドストーリーとして収録されています。
緑子のエピソードは、いつも強気な早苗の姉という形でばかり登場する彼女の「実はとっても女の子」な部分が明かされ
玄明の物語は、現代剣道の暗部を抉るもの
そして、吉野の物語は苦々しい青春の物語
さらに驚かされたのは、吉野と玄明に接点があったこと
そんな二人の弟子筋に当たる香織と早苗が、武士道に関して同じ結論に達したのは実に感慨深い。
現代における「武士道」はこうして世代継承されていくわけである・・・・・・
そして、それはおそらく後輩の田原美緒にも・・・・・・
一応、二人の物語が語られているのは、このエイティーンまで。
読書メーターの他の方の感想にありますが、私もまたこの続き、ナインティーンを読んでみたい。
何しろ、エイティーン終盤では、一旦分かれた二人の進む道がまた交わる気配を見せていたのですから
しかし、一方でナインティーンではなく、二人の後輩である田原美緒を主人公としたエイティーン・セカンドステージとでもいうべき物語を読んでみたい気がします。
ところで、このシリーズ、映画化もされているんですね。
成海璃子、北乃きいのダブル主演か。
制作した時点では、確かにベストキャスティングに近いと思う。
ただ、原作における早苗(北乃きい)の強さの秘密は、映画では描写されていなかったな。
あとクライマックス部分は、セブンティーンのある部分を流用していたし、香織の父親が警察官でなく道場主だったりと設定もちょっとミックス気味に改編はされています。