僕達犬は、いつも人間達の言葉に耳を傾けている。
だからといって、人間達の言葉を全て理解しているかというと、そういう訳じゃない。犬だからね。
でも、その場の人間達の醸し出す雰囲気とでもいうのかな。それは僕にとってとても重要な判断材料なんだ。そして、その雰囲気は言葉で作られることが多い。だから、やっぱり言葉というのは、僕達犬にとっても大事なんだよ。
それに何より、犬とご主人様とは特別な関係なんだ。
うまく説明できないけれど、僕達犬は、離れていてもご主人様のことは分るんだ。
もちろん、具体的に何をしているとか、何が起こっているとかいうようなことではないんだけれど……。
そして、ある日。僕はとても嫌な感じを受けたんだ。
それがご主人様に関係することだというのは、考えなくても分った。
その嫌な感じから暫くすると、今度は凄く悲しい気持ち……。
理屈とかじゃない。
僕は、全てを感じ取ったんだ。
だから、僕は凄くしょんぼりしたし、遠吠えもした。
そんな僕を、ご主人様がいなくて寂しがっているのかと勘違いして慰めてくれる奥方様。意味の分らないまま、奥方様を真似るように僕の頭を撫でるおちびちゃん。
僕はその全てが悲しかったんだ。
僕がご主人様の異変を察知してから、二、三日ほどしてからだろうか。
勇者だとか英雄だとか言われている連中にご主人様が殺されたという報が、奥方様に届いた。
奥方様は、泣き崩れたり取り乱すようなことはなく、しっかりとした態度で使者の人間に応じていたよ。
でも、一日が終わり、誰もいなくなった部屋で奥方様は大声で泣き崩れたんだ。
奥方様、立派でしたよ。
大丈夫、ここには僕とおちびさんしかいませんから。