怖くない怪談(仮題)、これにて閉幕。
あとは、細部を修正して、HTML化しておしまい!
あ!!タイトルもつけないと!!
さて、この作業、日付が変わらないうちに出来るのかイナバウアー
それは、こういうことですな。
さらに話は変わって・・・
私はツバ九郎を許さない!絶対に、だwwww
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周の演奏が終わり、担任の谷村を含めた教員達に説教込みの話を聞かされ、やや疲れた顔で職員室を後にした美月は、その足を音楽室へと向けていた。
周と友人の優子、そして先程の歌声の主である女の子がいるであろう音楽室。
その前まで辿り着いた美月であったが、いざ音楽室の扉を眼前にした時、彼女には、その扉を開けようという気は起こらなかった。
正確には、開けることが出来なかったというべきか。
美月自身、自覚はないものの、そこに言いようのない怖さを感じてしまっていたからだ。
その理由はただひとつ。
(周と優子以外、さっき歌っていた女の子がいたらどうしよう……)
もし、その少女がいたのなら、彼女は必ず周の側に寄り添っているということになる。
それを目にすることに抵抗を感じていたのだった。
美月は、数瞬の迷いを見せつつも、音楽室の扉を前にきびすを返し、自分の教室へと向かっていった。
教室に戻ると、さすがにもう生徒は誰もいなかった。
気になったのは、優子の机にも周の机にもカバンは残っていないこと。
どうやら、美月が行った頃には、二人とも音楽室を出て行った後だったようだ。
(だったら、少しくらい待ってくれても良いのに……でも、すぐに出ていったと言うことは、特に何もなかったということなのかな?)
そんな憤りと安堵がない交ぜになった感情をもてあました美月は、机の中の荷物を乱暴にカバンに詰めると、もう生徒は誰一人いない教室を後にした。
ほぼ無人と言っていい状態の廊下を抜け、上履きから通学用の靴に履き替え、校門に向かって歩き出すと
「あ、やっと出てきた!」
美月の姿を見つけて声を上げる優子。
「職員室で捕まっているんじゃないっての!全く、普段の行いが悪いから……」
そう言う優子を恨みがましい目で見つめた美月は
「うるっさい!」と一言文句を言いつつ「だったら、教室で待ってくれていてもよかったじゃない」
と抗議するが
「やだ。下手に近くにいたら、巻き添え喰らうじゃない?」
と悪びれることなく言い放たれてしまった。
「周、あんたもなの?」
「僕は南さんにつきあっただけだよ」
美月の恨み節は周にも矛先が向けられるが、当の周は涼しい顔。こうしたことには慣れっこになってしまっているらしい。
「うう……まぁ、いいわ……」
渋々と呟く美月は、まるで振り上げた腕のおろしどころに困ったように顔を伏せ、歩き出し、その後ろを苦笑しつつも周がついていく。
このいつもの光景を目の当たりにして、優子はその口元に笑みを浮かべると
「じゃあ、真田君、美月、また週明けに」
と言い置いて、校門を出たところで二人とは別方向に向かって歩き出す。
美月と周は、お互いに家が近所同士だが、優子だけは二人とは別の方角に家があるのだった。
そうした理由で優子と別れた二人は、しばらくの間黙って歩いていたのだが……
「なぁ、美月」
「何」
音楽室の時と違い、今度は下の名前で呼んでも怒られずに済んだ周。
「職員室で何か収穫あった?」
「収穫って?」
「ほら、学校の怪談でネタ探しをするって言っていたじゃないか」
ああ、そのことかと思った美月の脳裏を掠めたのは、目の前で見た担任教師谷村の涙。
「別に……何も……」
その答えの歯切れの悪さに、周は一瞬顔をしかめる。彼なりに、何かを感じたようではあった。
「何も、これといった話はなかった。それに」
「それに?」
「もう、“学校の怪談”ねたはやめたから」
「そうなの?」
「そうなの!」
最後は怒ったように言い放つ美月だったが、対象的に周は安堵した表情。ただ、前を歩く美月にはその表情は見えなかったのだが。
「怪談話ってさ……あたしも気がつかなかったけれど、その話を聞いて悲しい思いを擦る人もいるんだなって」
「そうか……」
美月がそう思った切っ掛けを知らない周ではあるが、彼なりに思うところがあったのだろう。静かに頷きつつも、その表情は柔らかい笑顔で包まれていた。
「なぁ、美月」
「何?」
「帰り、“かめや”に寄らないか。何かおごるよ」
“かめや”というのは、二人の帰り道にある甘味処である。
「へえ、珍しい。あんたが寄り道、それも買い食い。しかもおごり」
「本当に珍しいことみたいに言うなよ……この間もおごっただろう?それともいらない?」
「そうじゃないけれど……それはいいんだけれど」
ここで不意に声のトーンは落ち、美月の歩く速度も僅かではあるが落ちた。
「けれど……何?」
「周……あの女の子って・・…結局、何なの?」
「何なのって?何が?」
「だから、あの“きらきら星”を歌っていた女の子は誰なの?ってこと!」
声のトーンが再び上がる美月に、最初は驚く周だったが
「ああ、そのことか……教えてもいいけど……」
「勿体ぶらずに教えなさいよ」
「うん、教えるのはいいんだけど……美月、怖い話系は全然ダメだろう?」
「はぁ?何を言って……」
と問い詰めようとした美月だったが、ふと何かに気づき
「ちょっと待って、あんた、それ一体どういう意味?」
「うん……まぁ、うまく言えないんだけど…・・まぁ、もう“怪談話”のネタにされることもないだろうし……いいや、何だか勘違いされているみたいだから、“かめや”でゆっくり話すよ」
「ちょっと、“怪談話”って……まさか……」
いままでの強気な物言いとは対象的なか細い声で呟きつつ、その足が止まる美月。
「美月、どうしたの?」
訝しげに聞く周に
「うるっさい……」
と言っていることはいつもどおりだが、いつもに比べれば勢いのない答え方をする美月。
「やっぱり、聞かせてくれなくて良い」
「えー、聞きたいと言ったのは、美月じゃないか?あー、でも、美月の場合、聞かない方がいいかもね」
「だから、そういう思わせぶりな言い方、やめなさいよ!わざとよね?わざとやっているのよね?あたしをからかっているのよね?」
「やだなぁ……こういう時には、本当の話しか僕はしないってこと、美月は知っているだろう?」
「だから、タチが悪いんじゃない!もういいよ、聞かなくても良い!」
「自分から聞いてきて……」
不満そうに言う周の口ぶりを見ていると、美月の中で、聞きたい気持ちと何だか聞いてはいけない気持ちがない交ぜになってせめぎ合う。
そうした複雑な感情を抱えた美月が押し黙っていると……
「あ、分った!」
不意に周が声を上げた。
「美月、あれだろ?また、夜トイレに行けなくなるのが怖いんだろう?」
この周の発言により、美月の抱えた複雑な感情に、目の前の幼なじみの鈍感さに対する苛立ちと、さらには気恥ずかしさが混ざり込み、結果として美月は今日という日の中で一番大きな声を上げることになってしまった。
「うるっさい!」
二人きりの帰り道、秋の夕暮れ時の中、一番星がきらきらと輝き始めていた。
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