さて、続きですよと。
本編とのリンク部分をどこまで入れこむのか?も、考えどころではありますな。
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美咲の中にざわざわとした感情が湧いてきた。
自分でも説明不能な感情……
どうしてだろう?女の人といっても、ゆかりさんと和也兄ちゃんが仲良く話しているのを見ても全然平気なのに……
「うん、それで構わないさ。いまこの町で俺達がこうして普通に話が出来ているということは……」
「そうか!」
和也がここまで話した途端、ゆかりの表情が何か閃いたように明るくなった。
「緑川さん……やってくれたんだね。この町を守ってくれたんだね。」
「うん。」
和也も明るくうなずきつつ、手にした新聞を片手で苦労しつつ広げ、その中の地方欄にあるある記事の見出しを指さして見せた。
顔を近づけて記事をまじまじと見つめるゆかりにつられて、美咲もその記事をじっくりと見てみると
F市沖合にて、謎の発光現象の目撃者多数
という見出しがまず目に入る。
美咲にはそうした事件もあったのかという程度の記事にすぎなかったが
「沖合って……海での事件って……じゃあ、緑川さん……」
ゆかりにとっては、特別な意味をもつ記事だったらしい。その顔に驚きと喜びの感情が浮かび上がる。
「ああ、いまこうして俺達が平和にしていられること……緑川がやってくれたんだよ。シスターだっけ?そいつ相手に」
“シスター”、その名を耳にした途端、美咲はチクリとした頭痛に近い感覚にとらわれた。和也とゆかりの話している内容が理解できないというのに。
「あとは、緑川が無事でいてくれたなら……」
「うん、言うことないよね。だって、わたし達にしたら、本当に命の恩人じゃない?」
「ああ、でもそんなこと関係なく、緑川が無事でいてくれたなら、俺はそれだけで嬉しいよ」
「そうだね……いや、違う!約束したもん!」
しんみりとした口調になりかけたゆかりが、不自然に声のトーンをあげた。
「帰ってくるって、約束したんだから!」
「そうだな」
「帰ってきたら……うん、あの子のこと、いじり倒してやる!」
「何だ、そりゃ」
苦笑する和也にお構いなしに、ゆかりの鼻息は荒い。
「折角、奇麗な顔をしているんだから、ちゃんとした格好させて、男どもを驚かせてやる。そのうえで、男どもは近づけさせないの。カズ、あんたも例外じゃないからね」
「何だよ、それは」
「だから、緑川さんのことはあたしに任せてなさいってこと」
「分ったよ」
苦笑しつつも、今までに見たことのない優しい目を見せる和也を見て、美咲はいままで感じたことのないチクリとした痛みを胸に感じていた。
ミドリカワさん?キレイなカオ?奇麗な人、奇麗な女の人なの?
「おぼこいことよの。わらしが一丁前に焼きもちなど焼くのかえ?」
和也達の言葉を胸の中で反芻する美咲の耳元に囁きかけてくる声があった。それは聞いたことのない古風な話し方をする女の声。
「哀れよな、不憫よな……」
慌てて周囲を見回す美咲だったが、声の主らしい女性の姿はどこにも見つけることが出来なかった。しかし……
「その女が憎いかえ?憎いのならば、そう望むがよい。されば、わらわがいつでもその女、くびり殺してやろうぞえ」
声は依然として聞こえてくる。
耐えかねた美咲は、自らの耳を塞ぎ……
気がついた時には、自分の体を支えてくれる和也の姿と青ざめたゆかりの表情がその視界を占めていた。
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