さくら色旅団(BLOG下書き版)インデックス
このパーツを入れ込むのを忘れていたorz
言ってみれば、「さくら色旅団」のパートゼロとでもいうべきもの。
それ故の、エントリタイトルです。
最終的には、このパーツをどこかに組み込み+編集したものがまとめバージョンとなる予定です。
ところで・・・・・・交流のある某サイトを覗いて・・・
貞子たん、何だか知らないうちにネタが広まっていますよ、貞子たん(笑)
知らない人向け→貞子たんネタ元(笑)
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神社のご神木の枝にそれは引っかかっていた。
決して大きくはないその体を精一杯伸ばしながら、彼女はそれを注視する。
頭には白いフリルのついたカチューシャ、長く伸びた艶やかな黒い髪とその小さな体をこれまた黒いドレスで覆い、そのドレスの上からはこれまた白いフリル付きのエプロンをしている。
まるで、何かの芝居に出てくる衣装のような装いであるが、これは別に彼女がそうした嗜好の持ち主だからと言うわけではなく、そうした嗜好に合わせたということでもない。彼女の家は、商売をやっていて、彼女はその仕事を手伝う時にいま着ている服装をしているというだけ。言ってみれば、制服である。
ちなみに彼女の家の商売は、地元では多少は名の知れた洋菓子店。店の名は「グリーンリバー」。
彼女自身の名は、緑川サチ。
ただいま十歳、小学四年生……ということになっていた。
その緑川サチが見上げる神社のご神木にひっかかっているそれは、小ぶりな風呂敷包みだった。大きさとしては、直径十五センチに届くかどうかというところか。
彼女は、その風呂敷包みが引っかかっている高さをじっと見極め、一言ボソリと「軽い」と呟いた。
それから、彼女は手に提げたパン屋の袋を彼女の背後に控えていた老人、初対面の老人に預けると
「もしかしたら、枝を傷つけるかもしれません。だから最初に謝っておきます。ごめんなさい。」
と小声で言いつつ、ぺこりと頭を下げた。その様子を見て、パン屋の袋を預けられた老人は「ほう……。」と感心したように声を上げる。
お辞儀を終わらせた彼女は、そのまままっすぐに二,三歩下がる。そうしてから、再度助走をつけながら、ご神木に向かって一気にジャンプ。
すると、彼女の体はあっという間に五メートル以上の高さまで。そして、目標の風呂敷包みまで届くと、空中でそれを掴みながらもさらに上昇、十メートルほどの高さにまで達するとくるりと空中で反転し下降。今度は頭から地上に落下するかと思うと、ほぼ墜落直前に再び空中で回転。ほとんど音もなく、綺麗に着地して見せた。着地の瞬間、ドレスとエプロンの裾、そしてその長い黒髪が揺れただけで、息の乱れなどもみじんも見せない。
到底人間業とは思えないジャンプ力とボディバランスだった。
その人間離れした身体能力を見せたサチは、抱えていた風呂敷包みを控えていた老人に渡し、入れ替わりに預けていたパン屋の袋を受け取った。そのやりとりの際、老人はニコニコと笑みを浮かべながら「お嬢ちゃん、ありがとう。」と礼を言うが、そこで初めてサチは、目の前の老人と自分とが初対面であることに気づく。
いや、初対面どころか、サチの知る限り、彼女の暮らす町内では一度も見かけたことのない老人である。
灰色と言っていいだろう。地味目な色合いの着物姿。
春にさしかかった時期とはいえ、まだまだ肌寒い季節だというのに、その和装の襟元からは地肌が見えている。サチには着物の知識はないので、彼女自身には呼称に関する知識はないが、いわゆる肌襦袢を着ているようにも見えないし、羽織を上からまとっているわけでもない。しかも、その顔も人間離れしているといっていいほど長細く、その口の周りは真っ白なヒゲに覆われ、そのヒゲはアゴ先から胸元にまで伸びている。
サチが首を傾げていると
「ふむ、どうやら思っていた以上のようじゃな。嬢ちゃん、あんた合格じゃよ。」
と一人頷きながら、小さな笑い声を上げている。
サチが再び首を傾げると、その笑い声は一段高くなり
「ほほほ……まぁ、何の事やら分らんだろうな。まぁ、いい。分らないなりに聞いていて欲しいのじゃが、嬢ちゃんは一月後にちょっと変った連中に会うことになる。ここの町内にも随分と変った者は多いが、そうしたのとはまたちょっと違った連中じゃ。」
と高くなった笑い声に次いで、これまた上機嫌な声で老人はサチに語りかけた。
分らないまま、とりあえず礼儀として頭を下げたサチだったが、下げたその顔を上げた時、そこには老人の姿はなく、ただ無人の神社境内の風景が目に映っただけだった。
緑川サチ、彼女が生まれて初めて「花見」というものに参加するほんの一ヶ月ほど前の出来事である。
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