さて、このブログにはコメントがつけられるのですが、本日どなたかが昼間コメントを入れておられたようなのですが(携帯電話で確認)、帰宅してチェックすると消えていました。
このブログ、コメント投稿者自身が、自分のコメントを消せるのか?←これでも管理者です(笑)
さて、「Memorial Apricot Pie」もそろそろ終盤戦に差し掛かり始めました。
今回上げている部分は、杏子さんメイン。
しかし、人様のキャラを私が動かしているわけですが、彼女メインになると、途端にお話がほんわかした感じになるような気がwww
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さて、ここから先は、緑川サチにとってはあずかり知らぬ話となる。
サチが眠りにつきしばらくして後、布団を並べて寝ていた美作杏子は、サチと入れ替わるように目覚めた。スケールの散布した鱗粉の効果が薄れてきた為だろう。
起きてすぐは、なぜ自分がこんな見知らぬ部屋で、しかも丁寧に布団が敷かれた状況で寝ているのか理解できず、周囲を見回したり、枕元に置かれていた自分のリュックの中身を見たりしてしていたが、特に何かをされたり取られたりといったことがないことが分かると、ほっと一息。
改めて、自分の横で寝息を立てているサチを見た。
「十三号ちゃん、帰っていたんだ……。」
つぶやいた後、ぺろりと舌を出す。
「いけない、サチちゃんと呼ばないといけないんだっけ……。言いにくいから、さっちゃんでいいよね。」
自分で勝手に結論を出し、寝息を立てるサチの頬を指で軽くついて見た。
「さっちゃん、よく寝ているなぁ……。」
自分がつい先ほどまで熟睡していたことも棚上げして、にやにやと笑う杏子。
「かわいい……。」
何度となく、サチの柔らかい頬を指でつき、その度に彼女の口から寝言とも寝息ともつかぬ声が漏れるのを楽しんだ杏子だったが、やがてそれにも飽き、自分たちが寝ている休憩部屋とキッチンとを仕切る襖を開け、次いで店舗側から漏れてくる音に気付いた。
店舗側と住居部分とを仕切る戸をあけると、そこには散乱した店内の片づけをしている綾子と清崎。
「おや、起きたんだね。」
一旦、手を休め、杏子に微笑む綾子。清崎は、黙って作業を進めている。
「はい、あの……お手伝いしましょうか?」
「気を使わなくてもいいよ。もう終わる頃合いだ。それに色々あったしね……ところで、あんたの話だが。」
「わたしの?」
「ああ、あんたのお母さんとやらの話だよ。」
「やっぱり知っているんですか?」
勢いづく杏子に、綾子は苦笑。
「知っているというのとは違うと思うんだけどね……それよりも、あんた、いまは誰と暮らしているんだい?」
「おばあちゃんとですけど。」
「そのおばあさんは、あんたがここにいることは知っているのかい?」
黙り込む杏子に綾子は再び苦笑。
「やっぱりね……。まずは、そのおばあさんに連絡だ。電話貸してあげるから。」
綾子は、ほぼ強引に杏子に電話をかけさせると、途中で代わり相手先、杏子の祖母としばらく話しこんだ。そして……。
「おばあさん、これから車でこっちに迎えに来るってさ。今夜一晩は、うちで預かってもいいって言ったんだけどね。」
「そうですか……。」
「まぁ、いますぐそのおばあさんも来るわけじゃないし、その間に話を済ませておこうかね。」
綾子がそう言うと、杏子の顔が明るさを増した。
「言っておくけど、短い話だよ。」
杏子は頷いて見せたが、その瞳には期待に輝く色がうかがえた。杏子のその表情に、綾子はまたもや苦笑させられた。
「そう、あれは、十年といわず昔の話だねぇ……。」
綾子が語りだした物語、それは彼女がまだ十三号、緑川サチ覚醒の可能性にすら気づいていなかった過去であり、彼女が岡部綾子でも緑川綾子でもなかった頃の話である。
その彼女の元に、一人の女性研究者が訪ねてきた。
彼女は、ヒト遺伝子の操作に関心を持つ研究者であり、現在は大学病院に籍を置いていると語った。綾子を訪ねてきた彼女は、ほぼ強引に当時綾子が暮らしていた家に上がりこみ、人体の可能性について熱く語ったものだった。
彼女が考えていたのは、遺伝子操作による「超人」の誕生。
そこで、彼女とは違うアプローチで人体の持つ能力を拡大することをかつて専門としていた綾子を訪ねてきたのだという。自分の考えを、綾子の眼から見て意見を聞きたいと言うのだ。
実を言うと、こうした来客は綾子にとって一度や二度ではなかった。
どういうつてを得て入手するのか、かつて人体改造に携わっていた岡部綾子ことドクター岡部を訪ねて、過去さまざまな人物が訪ねてきた。
その度に、綾子はある時は徹底した否定、ある時は徹底した無関心を貫き、訪問者達を追い払ってきたのである。
おそらくは、美作杏子の母と思われるその女性に対しては、綾子は無関心を選択した。
ただ、気になったことはいくつか。
その女性は、遺伝子の操作に関しては、ナノマシンを想定していたらしく、その可能性と実用に踏み込んでの質問をしてきたことが一つ。
ただ、話の流れの中で、綾子は彼女がかつての改造実験体十三号、緑川サチの存在とサチに対しての施術のことは知らないらしいことが分かったので、このナノマシンの問題については、否定。いや、正確には「分らない」という話で通した。
実際には、その女性がナノマシンの可能性に着目するはるか以前より、その実用に取り組んでいた綾子である。サチは、おそらくは人類史上初のナノマシンによる改造を受けた改造人間なのである。ただ、現実にはサチ自身の能力は、ナノマシンを遙かに超えた力によって支えられているのだが、それはまた別の話。
綾子が危惧したもうひとつの話、それはその女性が綾子自身の現在の生活にまで口を出したところから始まる。
ドクター岡部ともあろう者が、その才能を市井で燻らせているのはあまりにも忍びないというのだった。
自分なら、綾子に対し、その才覚に応じたポジションを用意できる、そう言うのだ。
これには、綾子は眉を潜めた。
その女性は、どう見ても当時二十代。
彼女自身にそれが可能な権力や財力があるとは思えない。
おそらくは、海外あるいはどこかの企業の力を背景とした発言であろうと、綾子は判断した。
彼女が才気あふれる研究者であり、その才能を見込んだ有力教授が後ろ盾になっているという可能性もなきにしもあらずだが、日本という国の医学関係の閉鎖性を考えると、その可能性も考えにくい。
綾子としては、この二番目の危惧を特に重要視し、何とかその女性にはお引き取りを願ったのだった。
「だから、わたしとあんたのお母さんと思われる人との接点はそれだけなんだよ。」
綾子は、杏子に対してはそう話を締めくくった。
実際には、その後の話があるのだが……。
綾子がその女性と会ってしばらくしてから、ある大学病院の若手女性研究員が姿を消したという話が伝わってきた。
綾子なりの情報網から得た話では、旧ソ連領グルジア方面へと向かったらしいとのことであるが、真偽は定かではない。
当時のグルジア情勢は、混迷の度合いが深く、旧KGB勢力の暗躍もあったことから、綾子は彼女の後ろ盾が何者の勢力なのかについては、大体の見当をつけることが出来たのだが……。
(この情報は、ちと危険すぎるからね。この子には知らせない方がいいだろう。)
綾子は、そう判断したのだった。
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杏子さんメインは、次も続きます。