書き溜めていた分を、昼休みにこっそりアップ(笑)
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サチの飛び蹴りによって、スパインの体は大きくはじけ飛んだのであるが、飛び蹴りを放った側のサチも無事ではなかった。
「ああああ……。」
悲鳴ともうめき声ともとれない悲痛な声をあげ、足を抑えているサチ。
綾子は、すぐにサチにかけより、その足を見るが……。
「やはり……。」
と、サチの足をその履いている白いソックスをおろしながらつぶやいた。
サチの足は、赤くはれ上がっていたからだ。
「だから、まだ早すぎると言ったんだ。サチ、あんたの体はまだあんたの能力を受け止めるには幼すぎるんだよ……。たぶん、あと五年位の期間は必要だと思う。」
「岡部さん、痛い……。」
「ああ、ごめんよ、サチ。」
綾子の手が触れていることすら痛いのだろう、サチが訴えるのに、彼女は足に触れていた手を慌てて離した。
「でも、これは……たぶん、時間をおかないと治らないよ。」
そして、いまはサチをゆっくり休ませることができる状況ではなかった。
シザースは勿論、たったいまサチによって吹き飛ばされたスパインもまた健在だったからだ。
「よくもやってくれたな。」
怒りに震えるスパインは、立ち上がりつつ、その手に自身の掌から精製した鞭と思しき緑色のつたを握りしめていた。
そして、そのつたを勢いよくふるい、サチの首に巻きつけた。
「ガキと思って容赦してやれば!!」
スパインの怒声とともにサチの小さな体は宙を舞い、勢いよく地面にたたきつけられる。
サチは、悲鳴を上げることもできない。
いや、生身の人間なら即死してもおかしくないほどの衝撃だったのだ。
「やめろ!!」
サチとスパイン、両者の間に綾子が割って入るが
「どけ!!」
スパインは、叫びながら、もう一度つるをふるい、今度は綾子の首にそのつるを巻きつけた。
そして、つるを引き、綾子を自分の側に引こうとしたのだが
「何!?」
そのつる、緑色の鞭は綾子の手によって引きちぎられた。
「ドクター、お前は……。」
呆然とするスパイン。苦痛のため、うめき声をあげながら、何とか顔をあげたサチも、その光景に呆然としていた。
スパインの鞭を引きちぎった綾子の腕。
彼女の右腕は黒い剛毛におおわれ、その手先には鋭い爪が光っていた。
その腕はまぎれもなく獣の腕。
最も形状的に近いものは、猫の腕だろうか?
スパインの鞭を引きちぎった綾子、そしてその右腕であったが、綾子はすぐにその腕を押さえ苦痛に顔を歪ませながら膝まづいた。それと同時に腕の黒い剛毛も抜け、手先の形状と合わせて元の形に戻っていった。
「岡部さん!岡部さん、どうしたの?」
自分も立ち上がれないことを忘れたかのように、綾子を気遣うサチに、彼女は脂汗をたらしながらも何とか笑顔を作る。
「心配いらないよ、サチ。一時的なものだ。」
「岡部さん、その手、どうしたの?」
「代償だよ……清崎さんの体を再調整するには、新しいナノマシンが必要だったし、それを開発するためには、臨床実験が必要だった。だから……。」
その後は、清崎が引き継いだ。
「だから、おかみさんは、自分の体を実験台に使ったんです……。」
「そんな……。」
呆然とするサチに、綾子はその頬を撫でながら
「ふふ、いまのあたしは出来そこないの改造人間もどきさ。言っただろう、サチ。あたしはひどいやつだったって……。こんなの当然の報いなんだよ。清崎さんの体を再調整したって、あんたの世話をしたって、あたしの罪は消せやしない。」
「岡部さん……。」
綾子の姿に涙するサチと清崎。
しかし、その姿もスパインにすれば、哄笑の対象でしかないようだった。
「ははは!こいつはいい。マッドサイエンティストにはお似合いの結末だな、ドクター、あんた自身が出来そこないの改造人間というわけだ。こいつは傑作だ!」
笑い続けるスパイン、そのスパインの哄笑に対し、サチの怒りの声が再びこだまする。
「笑うな!!岡部さんを笑うな!」
もはや立ち上がる力もなく、叩きつけられた衝撃で傷だらけ、髪もシザースによって切り落とされてはいても、その小さな体は怒りに震えていた。
「岡部さんは……岡部さんは……わたしのお母さんなんだ!!」
サチは、怒りに震えるその身を起こそうとするが、現実のダメージは深く、立ち上がれないまま何度も地面に這う。そして、その姿がまたスパインの哄笑を呼んだ。
「ははは!自分を改造したこの女を“お母さん”だと!?いや、実に感動的だな。なぁ、ドクター岡部。なかなかうまく手なづけたものだ。」
笑いながら、スパインは自分の前に立ちはだかる綾子を腕のひと振りだけで吹き飛ばす。
「岡部さん!」
サチが悲鳴にも似た叫びをあげる中、綾子は声を立てることもなく、その場に倒れ落ちる。
「じゃあ、ガキ。もうお母さんの痛々しい姿を見なくて済むように俺が始末をつけてやるよ。」
言いつつ、サチの正面に立ったスパイン。その全身を覆うトゲの一部が音もなく伸び始めた。
「やばい!」
シザースと対峙しているストロンガー、城茂はその光景を見て焦りを露に。
「このマツバ野郎!ちょっと、こいつでもくらってろ。」
叫びつつ、茂は拳を握りしめ、いままで以上に力を込めた一撃を叫び声とともに打ちはなった。
「電パンチ!!」
激しい打撃音とともに電流火花が飛び散り、瞬間的にではあるが、スケールがたじろいだ。茂はその隙に、スパインとサチの元に飛び込む。
一方、スパインは自身の体に生えたトゲの一部をサチに向け
「あばよ、出来そこないのガキ。」
そう笑いながら、トゲをミサイルのように発射。
無数のトゲが、サチめがけて飛んで行くその軌道上、
黒い影が飛び込んできた。
「ぐわぁ!!」
上がった悲鳴は、サチのものではなく、城茂のもの。
サチに向かって放たれた無数のトゲは、いま彼の背中に刺さっていた。
「へっ!間一髪というところか。おい、お嬢ちゃん、流れ弾は当たっていないかい?」
茂は自分の体にスパインのトゲがささっているというのに、サチの身を気遣っていた。その光景にサチは呆然として、ただ頷くことしかできなかった。
「そうか、良かったな。なぁ、嬢ちゃん、もう少し辛抱しな。俺がこいつら残らずぶちのめしてやるからよ。それまで、嬢ちゃんには指一本触れさせねぇ。」
そこまで言うと茂は、改めてスパインに向き直り
「このサボテン野郎。好き勝手言っているんじゃねえぞ。お前にこの子達を笑う資格なんてねえ。」
と宣言。
そのトゲだらけの背中を見たサチは、思わず呟いていた。
「どうして?」
「あ?」
サチの呟きの意味が分からず、問い直した茂にサチは叫ぶようにして逆に問う。
「どうして?どうして助けるの?助けてくれるの?見てたでしょう?わたし、改造人間なんだよ。あいつらと一緒なんだよ。」
「何だ、そんなことか。」
「そんなことって……。」
「改造人間って言うなら、俺も同じ。これはおあいこだな。へへっ……。」
仮面の為に表情は見えないが、その笑い声にはスパインと違って、いやな感じはまったくなかった。
「それに、嬢ちゃんは子供だろう?しかも女だ。俺はな……目の前で女に死なれるのは、もういやなんだ。」
ただ、最後の部分だけは、さびしげな声であった。
しかし、その茂の言葉もスパインにとっては、哄笑の対象でしかないようだ。
「ははは、全く馬鹿な話だな。ガキをかばって野垂れ死にするつもりか?伝説の戦士様が?まぁ、それでもよかったな、ガキ。最後に“女”扱いしてもらえたぜ。」
「きゃんきゃんうるせえんだよ。」
そのスパインの哄笑に対し、茂は静かに怒りを込める。
「おめえは、俺がぶちのめすんだからよ。あんまり喋っていると、殴られた時に舌を噛むぜ。」
「ふん!出来るものならやってみるがいい。」
せせら笑いを浮かべながら、スパインは再びその全身を覆うトゲを茂とサチに向けた。
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