最後の答え合わせ
スパイン=サボテンでした。
ライダー風に言うなら「サボテグロン」
この段でようやく、城茂再登場。
しかし、毎度のことながら、お話が長くなるのは私の悪い癖だな。
人に読んでもらうためには、もう少し簡潔にするのが本当なのでしょうが……。
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一方、綾子たちは……。
眠りに就いた杏子は清崎が抱き抱え、敬介に促された通り、店の外に出て、とりあえず最初の角を曲がったところにいたのだが、その足はそこで止まっていた。
眼前を一人の男にふさがれていたからだ。
男は、“スパイン”と名乗った。
「ドクター岡部、俺と一緒に来てもらう。大人しく従ってくれれば、手荒なことはする気はない。その男と娘は見逃してやってもいい。ただ……。」
スパインの口元が吊りあがった。
「あんたのあの秘蔵っ子、改造人間の小娘についてはできれば、あんた同様俺達の雇い主のところに連れて行きたいんだがな。」
「雇い主?」
「そうだ。俺達改造人間を雇ってくれる相手となると、あんたにも見当がつくんじゃないか?」
「やれやれ……。」スパインの回答に綾子は大きくため息をつく。「まさか、いまの時代の秘密結社なんてところからちょっかい出されるとはね。」
「ドクター、あんたも俺達の側の人間だ。いまさらこんな‐‐。」とスパインは、周囲の商店や家屋を見渡す。「まっとうな人間の暮らしをしようなんて、虫が良すぎるんじゃないかな?」
このスパインの言葉に、清崎が反応。
抱いていた杏子を、近くの商店のシャッターにもたれさせると、ずいとスパインと綾子との間に立つ。
「だからと言って……。」と呟く清崎の言葉には、明確な怒りが籠っていた。「誰でも、自分たちの側に引き込もうというのは、少し話が違うのではないか?」
言いつつ、清崎は来ていたグリーンリバーの制服を脱ぎ、上半身裸になると、
「グググ……。」唸り声をあげて、その身を屈ませる。
「いけない!清崎さん、駄目だ!!」
清崎の一連の動作を見ていた綾子は、血相を変えて制止するが……。
「ぐわっ!!」
一瞬、上半身に灰色の体毛が生えかけたように見えた瞬間、清崎はいきなり悲鳴をあげてその場に倒れこんでしまったのだった。
「何だ?」
これには、スパインも怪訝な顔。
「駄目だよ、清崎さん。あんたの体はまだ調整中なんだ。いまは、能力を使えないんだよ。」
「しかし、おかみさん……。このままでは……。」
「あんたを危険な目にあわせたんじゃ、サチがあとで悲しむだろう。あんたもあの子から見たら、家族の一員なんだ。」
この綾子と清崎のやりとりを見守っていたスパインは、突如として大きく笑い声をあげた。
「ははは!そうか、そういうことか。そこの爺さんも俺達のお仲間か。まぁ、スケールの鱗粉を浴びて動き回っているんだから、当然といえば、当然だな。それに“調整”なんて言っているということは、ドクター、あんた、まだ“現役”なんだな。」
スパインに対し、綾子も清崎もにらみ返すことしかできない。
「まぁ、いい。とりあえず、爺には用はない。さっさと用を済ませるとするか。」
言いつつ、スパインの手にはいつしか緑色の巨大な刺が。
「あばよ、爺さん。」
その巨大な刺を振りかざした時、綾子と清崎の背後から、子供の掛け声が聞こえてきた。
「うわあああああ!!」
長い黒髪を振り乱し、猛烈な勢いで駈けてくるのは……。
「サチ?」
サチは、戸惑う綾子と清崎を背後から楽々と飛び越え、勢いそのままにスパインに体当たり。
「何だと!?」
そのまま弾き飛ばされるスパイン。彼とサチとの体格差を考えると、ありえない光景だった。
「くっ、ドクター岡部の秘蔵っ子か!?」
倒れこんだまま、サチの小さな体を見据え呟くスパイン。
「岡部さんと清崎さんをいじめるな!!」
そのスパインを睨みながらサチは叫ぶ。そして、その視線は一旦背後の綾子と清崎に。
「岡部さん、この人相手なら、わたし、思いっきり“力”を使っていいんだよね。」
「駄目だ。サチ!」
「どうして?」
思いもよらぬ綾子の回答に、サチは戸惑う。
「あんたには、まだ早いんだ。」
「どうして!?」
そうした二人のやり取りの間にも、情勢に変化は起こる。
「よう、スパイン、思ったよりも手こずっているようだな。」
その声に振り向いたサチは、目を大きく見開いた。そこには、赤い甲殻にからだを覆われた巨大なカニの姿があったからだ。
シザースである。
「シザース。見ての通りだ。ドクター岡部と一緒に秘蔵っ子の改造人間も、と思ったが、抵抗するようなんでな。」
「始末してしまっていいのかい?」
「やむをえまい。時間はかけられんからな。」
「了解だ。」
そして、シザースはゆっくり踏み出し、自身の腕、いまは巨大なハサミと化した腕を振り上げた。
「悪いな、嬢ちゃん。お前を始末してから、そのドクター様をいただいて行くぜ。」
そこまで言うや、シザースはハサミを構えたまま、サチに向かって突進。対してサチは、振りぬかれたハサミはぎりぎりのところでかわし、再びスパインにしたように体当たり。ただ、そのかわし方がぎりぎりであったため、サチの長い黒髪はシザースのハサミによりばっさりと切り落とされてしまった。しかも、その体当たりも先ほどのスパイン相手の時とは違い、シザースを弾き飛ばすまでには至らず、逆にサチの方が大きく跳ね返されてしまった。
「嬢ちゃん、さすがに凄いパワーだが……俺をふっ飛ばすまでには行かないな。」
余裕で語るシザースだが、そのシザースの後ろからまたも何者かの走ってくる足音。
「今度は何だ?」
不審に思いつつ振り返るシザース。そのシザースの視界が捉えたもの、それはスニーカーの底だった。
「何だと?」
うめくシザースお構いなしに、そのスニーカーの主は、彼の頭を踏み台にしてひと跳び。サチと綾子も飛び越えて、スパインの眼前に立つ。
「にゃあ!」
着地と同時に猫の鳴き声。
「あの人は……。」
その後ろ姿と頭に張り付いた茶トラの猫。サチの記憶にも新しいある人物の姿。
「全く、へんてこな薬ばらまいてまで騒ぎやがって……。」ぶつぶつと言いながら、自分から見て前後の位置関係にあるスパイン、シザースの二人を睨みつけながら、サチに頭の上の猫、アゲダマのことを尋ねた男だった。「おかげで、お好み焼食べそこなったじゃねえか。」
同意するように、猫ももうひと鳴き。
「覚悟しろよ、食い物の恨みはこえーぞ。」
「ふん、またも闖入者か?全く、つくづく邪魔ばかりしてくれる。」
男の姿を見たスパインは、言いつつ羽織っていた上着を脱ぎ捨てる。いつしかその顔にはいくつものトゲが浮かびあがっていた。
「さっさと始末させてもらう。」
そこまで言ったところで、スパインの顔は緑色に変色し、シャツを突き破って無数のトゲが。
「ほう、そっちは“サボテン”かよ。」
スパインの異形への変わりようを見ても、男の方には恐れを抱いている様子はない。
「サボテンにカニか。楽勝だな。お嬢ちゃん、安心しろ。さっさと片付けてやるからよ。」
言いつつ、男の視線は倒れているサチに向かうが、サチを見た途端、男の表情がこわばった。
「お嬢ちゃん、その髪、どうした?誰に切られた?」
そう言いながらも、男の視線は倒れているサチと、彼から見てサチの後ろにいるシザースに向かう。
「そうか、カニミソ野郎か……。」
男は、怒りを込めてそう呟くと、握りしめた両の拳をガンと合わせる。瞬間、火花が男の周囲に飛び散った。
「てめえら、運がなかったな。俺は、食い物を粗末にするやつと女に手を出すやつは許せない性分でな。」
男の怒りに反応してか、頭の上の猫、アゲダマまでが「しゃーっ!」と威嚇の声をあげつつ路上に飛び降りた。
「お前ら、骨の髄まで焦がしてやるぜ!」
そこまで言うと、男はつけていた黒いグローブを脱ぎ捨てた。
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