オルゴォル(朱川湊人)
朱川湊人さんは最近お気に入りの作家さんの一人。
しかし、このお話に関してははっきり言って予備知識はなかったし、昭和を舞台にした短編の名手である氏の作だから、今作もそういった趣向の作品集くらいの感じで手に取ったのですが・・・・・・
いい意味で期待を裏切られました。
私的には、意外なところで見つけた傑作にして大作!!
平成の世、現実の時系列としては、東北の震災が起こる前の日本、東京~大阪~鹿児島を舞台にしたロードムービー仕立ての長編小説。
それも、少年の視点から描いた彼の成長の物語でもある。
主人公の成長を克明に描いた小説のスタイルを「教養小説(ビルドゥングスロマン)」という。
ならば、この小説もそのジャンルに組み入れていいのではないか?そう思えた傑作。
勿論、小説でありフィクションである以上、細かい部分で見ていけば、いささかご都合主義なところがあるのは否定できない。
その部分の指摘を受けたとしてもなおこのお話の価値は落ちることはあるまい。
あと、読書メーターなどで「子供にも読ませたい」「読んで貰いたい」という感想があったが、私的にはむしろ子を持つ親御さんにこそ読んでいただきたい。
その上で、この本を読んで感じ取ったことをお子さんに言葉で或いは行動で伝えていただきたいと思うのだ。
この本のいい点は
・阪神淡路大震災
・JR西日本福知山線事故
・原爆投下(広島)
・特攻(知覧)
という、日本人なら忘れてはならない悲劇に触れながら「結論」を出していないことだ。
まず、それがあったことを受け入れて、どう考えるかは全て読者サイドに委ねている。
実際作中でも、ハヤトとともに旅をする女子大生サエに
「今は感想なんかムリに言わんでもいいよ」
「そういうのはハヤトが日本の歴史をちゃんと勉強して、自分なりの意見が持てるようになってからで、ええねん・・・・・・せやけど、この人達のことを、絶対に忘れてはあかんよ」
と知覧の特攻平和会館で言わせている。
かつて「永遠の0」「終戦のローレライ」で感じた答えの出ない命題の重さが、この作品の中にもある。
願わくば、東日本大震災発生以前に書かれた本作に対する返歌。
それこそ、広島か大阪、或いは鹿児島といった西日本から被災地を経る旅を巡る物語を誰かが書いてくれたらなと。
ところで、なぜ本作が東日本大震災以前か分かったかって?
ハヤトの鹿児島行きのルートが、博多からリレーツバメ九号で、新八代からツバメ九号という新幹線開通前の移動ルートだったから。
東日本大震災は、九州新幹線開通記念式典前日だったのですよ。仕事の関係でそのことはハッキリ憶えている。