第三弾
そろそろ、人によっては不快に感じる描写が出てくるかもです。
まぁ、露骨にグロやエロをする気はないですが。
いままでのものはこちら
################
クローンであの”子供らしさ”・・・・・・
おそらく、であるが、この子(というべきか)は私にその事実を伝えることで、私をがっかりさせたかったのではないかと思う。
しかし、結果は逆だ・・・・・・
「そう・・・・・・いいことを聞いたわ。ありがとう」
女の子の言葉にある確信を抱いた私は多分満足げな笑みを浮かべていたと思う。
私の表情を見上げた女の子は不思議そうに首を傾げた。
ああ、それなりに“歳”を重ねても、私の本心までは見えないようね。
ところで、この女の子はどうしてあの男の子のことを知っていて、なお一緒に居ることが出来ているんだろう。
ふとそう思った私の考えを読んだように、女の子は離れた場所でボール遊びに興じる男の子の姿を目を細めて眺めつつ
「あたしさぁ、いまあいつと同じ施設にいるんだよ」
とぼそりと語り始めた。
彼を見つめるその目は、友達というよりも・・・・・・
「以前、というか、リセットする前は、あたしとあいつ一緒に暮らしていたんだよね。あいつ、昔から変に頭のいい奴でさ。何だか、あたしには分からないことで色々と抱え込んでいたみたい。本当、頭がいいくせに変なことで不器用でさ。子供の頃から何も変わっていなかった」
彼女の語りは、私に聞かせると言うよりも、まるで自分自身に言い聞かせているかのよう。そう、自分自身と彼の過去を忘れないために。
彼が忘却の彼方に押しやり、彼女だけが抱え込んだ記憶を忘れないための一人語り。
「子供の頃からずっと一緒で、気がつくと大人になったら一緒に暮らしていた。で、部屋に戻っていたら・・・・・・」
あとに続く答えは、聞かなくても大体の見当はついた。
「で、あとは」と彼女は、自分の手首を私に向けて、また乾いた笑顔を浮かべた。これで、彼女がどういう方法で死を迎えたのかが分かった。「まぁ、後追いというやつね。あたしも気が動転していたんだろうね。ただ、遺言であいつと一緒にリセットするなら、同じ施設で、という希望は出していたから、いまはあいつと同じ施設に居るわけ。あたしもあいつも近親者はいなかったから、施設行きなのは見当ついていたしね」
そう、いまの時代、彼女達のようなケースがあるため、養護施設は本当の意味で身寄りのない子供とリセットして子供になった者達との比率はほぼ同数という状態になっていた。このことは新しい社会問題になりつつある。
本当の子供と、大人だった頃の記憶を引き継いだ見た目だけの子供とが同じ場所、同じルールで暮らしていると、色々と難しい問題が生じてくるものだ。
「ただ、あいつが過去の記憶を消しちゃっていたのは予想外だったな・・・・・・でも」と語る彼女の顔には、先ほどまでの乾いた笑顔とは違う柔らかな笑み浮かんだ。「その分、あたしがしっかりしていればいいんだし。いまはちょっとしたお姉さん気分を味わっているよ。あいつを守ってもあげられるしね。本物の子供なんかに負けやしないし」
「そう・・・・・・じゃあ、いまは幸せなの?」
私がそう問うと、彼女は「さぁ、どうなのかな?」と首を傾げた。
「不幸だとは思わないけど・・・・・・ただ、あいつ本当に中身は子供になっちゃったからさ。ちょっとつまんないこともあるよね。股を開いてみせたって不思議そうにしているしさ」
「ちょっと・・・・・・変なこと、いまから教えているんじゃないでしょうね?」
私が顔をしかめると、
「あたしもあいつもろくな育ちじゃなかったからさ。つい、そういうことしちゃうんだよね。一応、気をつけている積もりなんだけどね」
と言いつつ、舌を出した。その顔が“無駄に”可愛らしい。
「でもさ、この小さな体でもさ、股を開くとそれなりに“金”になるんだよね。本当、世の中どう変わっても、変態はいるもんだね。いい小遣い稼ぎになっているよ」
金を出す相手は大人なのか?それとも中身が大人な子供なのか?それは、怖くて聞けなかった。
私と女の子が語らっていると、ボール遊びをしている子供達の中から泣き声があがった。どうやら、先ほどの男の子のようだ。
「あいつ、また!」
声がした途端に、女の子が血相を変えて飛び出していく。どうやら何があったのか、彼女には見当がついているようだ。
「てめえ!このクソじじい!」
飛び出した彼女は、猛烈な勢いでやや体の大きな男の子に殴りかかる。
「二度とするな、って言っただろうが!何してくれてんだ?潰すぞ、こら!!」
彼女に鼻先を殴られた男の子は、
「うっせえよ!子供同士の喧嘩に口を出しているんじゃねえよ。ばばあ」
と倒れたまま、鼻を押さえながらそう抗弁するが――
「あ?ざけんじゃねえよ!」と彼女は、凄みながら、倒れた相手の股間を踏みつけた。「こっちも子供だろうが?そっちこそ、中身はじじいだろうが?何なら、いまからこの貧相なイチモツ潰して使い物にならないようにしてやるか?あん!?それとも、いまこの場でリセットさせてやろうか?」
およそ子供同士の喧嘩とは思えない罵倒に私は目をそらした。
とても嫌なものを見た、と思うと同時に、絶対にああはなるまいとも思った私は、まるで逃げるようにして、足早に駅前広場から立ち去ったのだった。
##################