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Memorial Apricot Pie (33)

13号ちゃんプロジェクト特別編、「Memorial Apricot Pie」も、ブログ公開版は、これにておしまい。
近日中に、まとめ版たるHTML版を公開いたします。
今度は、そんなにお待たせすることはないと思います。

公開の際には、以前ブログで公開したメレンゲのお話も正式にHTMLバージョンにて再公開。
可能なら、おまけでもうひとつの番外編も公開する心づもりであります。
おそらく、今週末には公開できる見通しです♪

公開バージョンは、細かい部分に手を入れるつもり。
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 「あ、噂をすれば……。」とはゆかり。
 「え、どうして?」とはサチ。
 その女性客は、店内にサチの顔を見つけると、早足で近づいてきた。
 「ちょっと、いつまで遊んでいるのよ!?」
 来るなり、サチにそう突っかかるのは、そこにいる面々と同世代くらいの少女。
 「マリ、どうして、ここに?」とサチ。
 彼女は、光明寺マリ。サチやゆかりと同じF市立高校の生徒であり、学年的には一つ下。杏子とは同学年に当たる。ゆかりの知る限り、この地球上でただ一人サチの運動能力に対抗できる人物であり、同時に現在はサチの同居人でもある。
 「あなた、今日は店の手伝いをする日じゃなかったの?」
 「抜けて来たのよ。というより、仕事にならないのよ、清崎さんが。」
 「清崎さんが?どうして?」
 「あんたが町の外に出たと知ってから、何だか落ち着きないし、普段でも怖い顔がよけい怖くなっているしで……わたしだって、怖いわよ!」
 「で、逃げ出して来たと……。」
 とここでゆかりが口を挟んできた。
 「仕方ないじゃない。本当に怖いんだから。」
 「だからといって、お店を放り出してくるなんて・・・・・・母さんが、よく許したわね。」
 追及するサチに、マリは目を逸らしながら答える。
 「おばさんなら、わたしより先にとっくに逃げていたけどね・・・・・・。それに、あんな状態じゃ、来る客だって逃げていくわよ。」
 「母さん・・・・・・。」マリの答えに、サチはがっくりとうなだれた。
 サチ、マリ、ゆかりがそうしたやり取りをしていると、再びカウベルの音が。
 今度は、杏子とさほど背丈の変わらない小柄な少女である。
 「光明寺さん、どんどん一人で先に行くんだもん……。」
 「ひずるさんまで?どうして?」
 驚くサチに、ひずるは
 「わたしにも分からないんですけど、光明寺さんに無理やり連れられて・・・・・・気がついたら、ギルバートさんに乗せられていました。」
 と疲れきった表情で答える。
 「マリ、あなた、ひずるさんをまた巻き込んで・・・・・・。」
 「いいじゃない、一人で脱走するのが心もとなかったんだから!」
 「子供じゃあるまいし・・・・・・。」
 サチとマリが言い合うのを見ながら
 「何だか、急に増えちゃったねぇ・・・・・・。」とは百合。
 「大漁ですねぇー。」とは杏子。
 「“大漁”って、杏子、あんた何を狙っているんだ?」
 そんな杏子と百合が言い合う中、ドアのカウベルがまたしても鳴った。
 「水、水をくれ・・・・・・。」
 杏亭店内に入ってきたのは、若い男性。入るなり、息も絶え絶えにして、カウンターにしがみ付いている。
 「あれ、カズ?」
 「立花君、どうして?」
 その姿を見て、驚くサチとゆかり。
 「お知り合いですか?」と尋ねる杏子に、「うん、わたしらの同級生。」と答えたのは、ゆかり。
 「同級生・・・・・・。さっき、ゆかり先輩の彼氏は一年生って言っていたから……ひょっとしてさっちゃん先輩の彼氏さんですか?」
 和也を見て、一人そんな考えを口にした杏子が興奮し始めた。
 「え、いや……そういうわけじゃ……。」
 対して、サチは困惑気味に必死で手を振って否定。
 「えー、違うんですか?じゃあ、嫌いなんですか?」
 「嫌いとかそんなことはないわよ!」
 「じゃあ、やっぱりヒューヒューなんですね。」
 「だから、どうしてそう極端なの!?第一、ヒューヒューってなんなのよ?」
 「いや、さっちゃん先輩、さっちゃん先輩とわたしの仲じゃないですか。正直に言いましょうよ。」
 「だ~か~ら~!!」
 悟りきったような顔で迫る杏子に、サチが悲鳴を上げていると、
 「杏子、あんた今日会ったばかりだと言ったじゃん……。」
 と百合も呆れ顔。
 「何を言っているんですか?百合さん。」と杏子は、百合に反発。「わたしとさっちゃんの絆は、時空の壁をも乗り越えるんです。」
 「いや、その時空はゆがんでいると思うぞ……。」
 大真面目な顔をして反論する杏子に、百合がまたしても突っ込みを入れるが、杏子はこれを無視。
 「さあ、さっちゃん先輩、正直に言いましょうよ。誰にも言いませんから!」
 勢い込んでサチに迫る杏子に対し
 「誰にも言わないって、これだけ人がいる場所で?」と突っ込みを入れるのは、ひずる。
 「あのコの十三号いじり、わたしの上を行っているわね……。」とはマリ。
 周囲の突っ込みも意に介さず、「さあ、さあ!」と迫る杏子。
 一方、ゆかりはサチと杏子が中心となっている喧騒には付き合わず、カウンターの和也のもとに。
 「ちょっと、カズ、あんた何やってんの?こんなところにまで……。」
 ゆかりがそう話しかけると、和也はようやく落ち着いてきたのか。
 「ビーのやつだよ、あいつに無理やり連れてこられたんだ。」
 「ビー?ビーって、あのビー?」
 「そう、あのビーだよ。ほかにもっと紳士的なビーがこの世にいるのなら、俺に紹介してほしいね。」
 「で、そのビーは?」
 「表にいるよ。」
 言われてから杏亭のドアを開けて、ゆかりが表を見ると、確かに店の軒先には白いオートバイ。緑川サチの愛車、マシン・シルフィードがある。少し離れたところには、マリの愛車であるマシン・ギルバートの青い車体も見える。サイドカーであるギルバートの側車は、普段のウェポンコンテナではなく、きちんと人が乗れるようにシート付きの側車が取り付けられている。
 「確かにビーのボディだわ……。何で?」
 表の状況を確認したゆかりが、改めて和也に聞く。
 ビーは、サチの思い出話にも出てきた超高性能人口知性であるが、現在その本体は、サチの愛車となっているマシン・シルフィードに搭載されている。ビーは、そのマシン・シルフィードの頭脳となっているのだ。
 「ビーのやつ、色々言ってもパニックになっているんだよ。」
 「何それ?よくわからない……。」
 「つまりだな……。」
 和也によると、サチがゆかりとともに街を出たことで、ほぼ街の全域をカバーしているビーの監視システムから、サチをサーチ出来なくなったことが始まりだった。
 サチとビーは、旧組織の研究施設で眠っていた頃からの付き合いだ。ビーは、彼女が眠りについていた頃は教育係であり、彼女が覚醒した後も、最も身近な相談相手であり続けた。
 結果、ビーからすれば、サチは教え子であり、保護対象であり、具体的にいえば、妹や娘のような存在と言える。
 かくして、ここに娘或いは妹に対して、世界一甘い人工知能が誕生することとなった。
 その子離れ、あるいは妹離れできていない過保護な人工知能であるビーは、サチが自分の監視区域内にいないというそれだけでパニックに陥ったというわけである。
 「迷惑な話だぜ、本当に……。」
 憔悴しきった顔で和也は言うが、ゆかりはまだ腑に落ちないところがある。
 「ビーがそうなのは分かるとしても、カズ、どうしてあんたが一緒なの?」
 「連れてこられたんだよ……。あいつ、一人じゃさびしいとか言いやがって……。」
 「はあ!?」
 思わず大声をあげるゆかり。
 「バカじゃないの?」
 「それは、あいつに言ってやってくれ!」
 「あんたも、断ればいいじゃないの。」
 「だって、あいつ、“お前はサチが心配じゃないのか?”とか言うんだぜ。」
 「ふ~ん……よっく、わかったわ。」
 「何が?」
 「両方ともバカだってことが……。」
 「な!?」
 「まぁ、どの道、あんたもサチが気になっているのには違いないってことよね。」ゆかりの瞳が悪戯っぽく光る。「本当、不器用なところは、似た者同志よね……。」
 「何だ、それ?」
 「何でもないってこと!お子様、お子様……っと!」
 和也は、ぐっと言葉に詰まり何も言えなくなっていた。その和也に微笑みながら、ゆかりは踵を返し、再びサチ達のもとに。
 「サチ、色々話も尽きないところだけど、そろそろ帰ろうか?あんたがいないと、何も始められない人たちが大勢いるみたいだからさ。」
 「え?ええ、そうね。そろそろ帰りましょうか。ちょっと長居したみたいだし。」
 ゆかりの声にサチがそう答えると、途端に残念そうな杏子。
 「えー、もう少しゆっくりしてくれても良かったのに。」
 「また来ます。」とサチ。
 「杏子も百合も、一度こっちに来なさいよ。歓迎するから。」とはゆかり。
 そして、財布を出し、清算をしようとするサチとゆかりだったが、それはカウンターの真奈美に止められた。
 「今日は、杏子ちゃんの奢りだって。」
 「え、それは悪いですよ。」とサチが言うが、真奈美は「う~ん、それがね、杏子ちゃんからも言われていたんだけど、お祝いだって言うのよ。何のお祝いなのか、教えてくれないんだけど。」と要領を得ない答え。
 「お祝い?」
 復唱してサチが後ろに控える杏子を見るが
 「えへへへ……内緒です。」
 と杏子の方も要領を得ない答え。その顔には満面の笑顔。
 その表情をまじまじと見たサチは……。
 「杏子さん、あなた、やっぱり……。」
 言いかけたサチの口を、杏子が押しとどめる。
 「だめですよ、さっちゃん先輩。内緒なんですから……。今日は観念して、わたしにお祝いされて下さい。」
 サチは、杏子の顔を凝視しながらも、ややあって答えた。
 「そう……そうね、そうさせてもらった方がいいみたい……。」
 「ねえ、さっちゃん先輩、ひとつ教えてください。」
 「何?」
 「いま、幸せですか?」
 サチは、正面から杏子を見据えたまま、その表情を和らげ、答えた。
 「ええ、とっても……。」
 「良かった……。」
 見つめあい、意味ありげな会話を交わすサチと杏子、その二人を百合は怪訝な面持で眺めていた。


 サチとゆかりは駅方向に。マリとひずるはギルバートに。そして和也は……。
 「うむ、では寄り道せずに帰るのだぞ、サチ。」
 「分かっているってば。ビー、心配症すぎるよ。」
 帰りを急かすサチに、ビーが色々言うのに、サチが辟易しながらも答えている様を、杏子とサチは杏亭の軒先から眺めている。
 「何あれ?オートバイが喋っている……。」
 百合などは、驚いて呆然としているが
 「さすがは、さっちゃん先輩、お友達も個性的ですねぇ。」
 と杏子などは面白がっている。
 「さあ、立花和也、さっさと帰るぞ。早く乗らなければ置いて行くぞ!」
 最初は、サチを乗せるつもりだったらしいビーであるが、ゆかりと一緒に電車で帰ると言う彼女に結局根負けし、行きと同じく和也を乗せて帰ろうとしていた。
 「分かっているよ。大体、お前、緑川が乗ったら、俺を置いて行くつもりだっただろう?」
 和也はそう不平を言うが
 「当たり前だ。乗せてやるだけ、ありがたく思え。」
 とビーは、全く意に介していない。
 「お前は、どうして俺にだけはそんなに辛く当たるんだろうなぁ……。お前と清崎さんだけは、俺に冷たいんだよ。」
 「気のせいではないから、気にするな!」
 ビーは、そう答えながらもマシン・シルフィードのエンジンをスタートさせ発車。急激なトルクがタイヤに悲鳴を上げさせ、和也を乗せたまま、シルフィードはその前輪を跳ね上げながら通りを加速していく。
 「てっめぇー!!絶対、わざと乱暴に運転しているだろう!?」
 「おしゃべりをしていると舌を噛むぞ。しっかりハンドルを握っていろ!」
 「覚えていろよ、てめー!!」
 自分が乗ったオートバイと口喧嘩を繰り広げながら去っていく和也の後姿を見ながら、ゆかりは心配げにその姿を見送るサチに悪戯っぽくつぶやいた。
 「愛されているね、さっちゃん。」
 その一言に、サチは困ったような顔を浮かべたが、やがて照れたように小さくうなずいた。
 その反応にゆかりは満足した笑みを浮かべ、サチの背中をどんと叩いた。そして、ギルバートに乗り込んだマリとひずるを振り返り言った。
 「じゃあ、帰りましょうか。わたしらの町に。」


 去っていくサチ達。
 ギルバートに乗ったマリとひずるは、とうに視界の外に去り、駅方向へと歩いて行くサチとゆかりの後姿ももうかなり小さくなっていた。
 その小さくなった後姿を、なおも杏亭の軒先から眺めていた杏子と百合。
 「やれやれ……。」疲れたような顔で、百合は呟く。「賑やかな場は苦手とか言っていたけれど、あの子の周り自体、目茶苦茶賑やかじゃないの。」
 「そうですね。」応じる杏子の顔は、いつもと違って百合には見えた。いつもよりは、やや大人びたような顔。「でも、幸せそうで良かった……。」
 呟く杏子に、百合はまたしても怪訝な顔。
 「杏子……。」
 「何ですか?」
 「あんたさ……。」百合は、思い切って先ほどから気になっていた疑問を、杏子にぶつける。「あのサチって子と、前に会ったことがあるんじゃ……。」
 杏子は、百合に振り返り、その問いに答えることなくほほ笑んだ。毎日のように顔を合わせる百合ですら、どきりとするような大人びた笑み。
 「百合さん……。」
 「何?」
 「わたしにだって、誰にも言わない秘密のひとつくらいあるんですよ。」
 杏子は、いまも約束を守っていた。
 “あの日”のことを、決して誰にも話さないというサチの母、綾子との約束を。
 だから、彼女は、サチにすら、そのことは話さない。彼女の中では、それはごく自然な行為だった。
 自然体で、秘密を守り続ける杏子を目の前にして、百合は最初は驚いた顔を見せたが、その表情もすぐに和らぎ……。
 「杏子のくせに生意気だ……。」といつもの調子で、その頭に軽く手を乗せた。
 「えへへ……。」
 対して、杏子もいつもの笑い。


 そして、杏子と百合は、再び杏亭の中に。
 扉を開けて、中に入ろうかというその刹那、杏子は一度だけ振り返り呟いた。


 「良かったね、十三号ちゃん……。」
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Memorial Apricot Pie (32)

何だか、今日はもうこれが限界デス。
一回では、ラストまで行けそうにないorz

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 「えー、何ですか、それ。あ、でも、わたしと薫さんとさっちゃん先輩と百合さんなら、あと加乃ちゃんと小夜ちゃんも誘いましょうよ。」
 ここでまたしても、サチの知らない名前が出た。
 「何だか、急に遠足じみて来たなぁ……。」苦笑する百合。「でも、小夜ちゃんが来るなら、加乃ちゃんは絶対一緒の方がいいかな?ボディガードに……。」
 苦笑しつつも、何やら物騒なことを口走る百合。
 「あ、加乃ちゃんといえば、百合さん、さっちゃん先輩って、何だか雰囲気が加乃ちゃんに似ていませんか?ねえ、さっちゃん先輩もそう思うでしょう?」
 「いや、思うでしょう、と言われても……。」
 急に話を振られてサチも困惑。第一、サチはその加乃という相手のことを知らないのだ。
「えー、すごい発見だと思ったんだけどなー……。」
 「杏子……サチとあんたって、前々からの知り合いなの?」
 ここで、親しげにサチと会話をかわし、あまつさえ加乃という少女との対比まで口にする杏子に、百合が疑問を投げかけた。
 「いいえ、今日初めて会いましたよ。」
 あっさりと答える杏子。
 「その割にはずいぶんな馴れ馴れしさよね。」
 百合はそう言うが、その百合にしても人のことは言えないだろうとサチとゆかりは思った。
 「初対面なら、サチが加乃ちゃんのこと、知っているわけないでしょうが。」
 百合のこの指摘に、杏子は暫し黙り込むが、少しして急に「おお!」と声をあげた。
 「言われてみれば、そのとおりですね。」
 「あのね……。」百合は呆れ顔。「第一、加乃ちゃんは確かに一見大人しめだけど、スポーツ万能だし……サチはスポーツ、何かやっているの?」
 「いえ。特には……。それにスポーツって苦手ですし……。」
 「ほら、杏子。全然違うじゃない。」
 そうしたサチ、杏子、百合のやり取りを、ゆかりはニヤニヤしながら聞いている。彼女は、サチの言う「スポーツが苦手」という言葉の持つ本当の意味を理解しているからだった。
 改造人間であり、超人的な運動能力を持つサチは、他の人間と運動能力を競うスポーツ全般に対しては、「やりすぎないよう」或いは「人をけがさせないよう」気を張り詰めなくてはいけないため、「苦手」なのだ。体を動かすことだけをとれば、学校のみならず、ゆかりの知る限り、決して大げさな話ではなく、この地球上でサチを上回る者など存在しない。
 「どうしたのよ、ゆかり、ニヤニヤして……何だか、あんただけ勝ち誇ったような顔になっているけど。」
 ゆかりの態度に、勘のいい百合は疑念を抱くが
 「いや、別に……。」とゆかりはとぼける。サチの「秘密」を守り切ること、それは彼女がサチに宣言した絶対的な約束だったからだ。「それよりも、それだけ人が集まるなら、わたしも参加したいなと思ってね。」
 ゆかりは、話を逸らす積りでそういったのだが……。
 「あ、いいですね~~。」
 と杏子がその話に乗ってきた。
 「おいおい、本当に“遠足”にする積りかよ。」
 百合は苦笑するが、その表情は満更でもない。
 「こっちも、マリちゃんとひずるちゃんを誘ってみる?」とゆかりも悪乗り気味。
 初めて聞く名に、「えー、さっちゃん先輩のお友達も一緒だと楽しそう。」と杏子は興奮気味。
 「ええい、もう好きにしてくれ。」
 百合が、降参とばかりに両手をあげると、カランと入口にカウベルが鳴り、髪の長い女性客が入ってきた。
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Memoria lApricot Pie (31)

さて、Memorial Apricot Pie、次のアップ分で終わるか否か?

現在、HTML化にも勤しんでますが、この作をあげるにあたって、現状の作品インデックスなどにアタリが多く、かなりの数のファイルを更新しなくてはいけない羽目に陥ってますorz

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 その百合という少女を見ながら
 「う~ん、いやな奴が現れたものだわ……。」
 とゆかりは、やや複雑な表情。
 「何?仲の悪い人なの?」
 心配そうに聞くサチ。
 「いや、別にそういうわけじゃないんだけど……。ところでさ、気になるんだけど、話の中で出てきた子犬、獣医さんが預かった後、結局どうなったの?」
 「ああ、そのこと?お話に出てきた和菓子屋さん、うちの斜め向かいの。あそこの旦那さんが、引き取り手を探してくれたの。」
 「ふ~ん……サチのところでは引き取らなかったのね。てっきり、いまのメレンゲは二代目なのかと思った。」
 「う~ん、それがね……。」とサチは、ここでくすりと小さな笑い。「母さん、実は犬が苦手なのよ。」
 「へー、そうなんだ。」
 「うん。だから、よそに引き取ってもらったんだけど……。でも、わたしがちゃんと一人で面倒見れるようになったら、飼っていいとも言われていたの。」
 「ああ、それで最近になって、メレンゲを飼いだしたんだね。」
 「そう。あの時、子犬を引き取った人からも、そうなったら、あの子の子供をあげるって言われていたの。だから、メレンゲがうちに来たわけ。」
 「あれ?じゃあ、メレンゲって?」
 「そう、あの時の子犬の子供。」
 「じゃあ、お母さんは?」
 「“おから”は知っているでしょう?豆腐屋さんの。あの子があの時の子犬で、メレンゲのお母さん。」
 そんなサチとゆかりの声が聞こえたわけではないのだろうが、カウンター席に座っていたその百合という少女は、二人の存在に気づき、席を立って二人の座るテーブルに近づいてきた。
 「あら、ゆかり、久しぶりじゃない?」
 近くで見ると、いかにも気の強そうな双眸。後ろで髪をまとめているといっても、ゆかりのポニーテールと違って、もとがロングという感じでもなく、おろしたらおそらくサチより少し長いくらいというところだろうか。
 「百合も相変わらず元気そうね。」
 「まぁね。で、そちらは?わたしとは初対面だよね?」
 「ああ、向こうの学校の同級生、サチっていうの。」
 サチは、自ら立ち上がり、
 「あの、緑川サチです。よろしく。」
 「よろしく、藤里百合です。杏林学園の二年生。あなたとゆかりとは同学年。一応、杏子の先輩です。杏子とはもうあいさつしたの?」
 「ええ。」
 お互いの自己紹介が終わり、それから百合はじっとサチを見つめ続けていた。
 「あの、何か?」
 気になったサチがそう聞くと
 「ねえ、緑川さん。ゆかりみたいに、あなたのこと、サチって呼んでもいい?」
 と逆に尋ねられた。
 「ええ、別にかまいませんけど。」
 杏子と言い、この店の人間は何だかやたらと馴れ馴れしい。
 「ねえ、サチ、あなた、今度合コンに参加してみない?」
 「え?」
 突然の申し出に戸惑うサチ。すると、サチ本人でなく、ゆかりが激しく反応。
 「ちょっと、あんた、何でわたしを誘わないのよ!?」
 「いや、ゆかりもいけてるクチだと思うけど、サチや杏子に比べるとどうしても一枚落ちるしね。」
 「あんた、相変わらず、視線がオヤジ目線ね。」
 「放っておいてよ。大体、あんた、彼氏いるでしょうが!」
 これには、ゆかりも返答に窮した。
 「な、何で、あんたがそんなことを・・・・・・。」
 「ふふふ、わたしの情報網をあまく見ないことね。空手部一年の坊やだっけ?」
 「いいじゃない、歳もひとつしか違わないんだし。」
 「まぁね・・・・・・。」
 と言いつつ、ゆりの口元の勝ち誇ったような笑みは消えていない。
 「ふん!年上の男ばかり漁っているよりは、ましでしょう!?」
 「わたしの場合は、向こうから寄ってくるのよ。純情可憐な一年生を手篭めにする誰かさんと違ってね。」
 「まだ、手篭めになんてしていないわよ。」
 「あら、まだなの?手篭めにされてもいないのよね。」
 ゆかりは、再び返事に窮した。
 「う、うるさい!」
 「まぁまぁまぁ・・・・・・。」ここで二人の間に割って入った杏子。「二人とも、仲良くしてくださいよ。どちらも、“ゆ”のつく仲間同士じゃないですか。」
 「わけの分からないことを言うな!」と、これは、ゆかりと百合、二人ほぼ同時。
 「まぁ、ユニゾンしてますよ。やっぱり、仲がいいんですね。」
 杏子は、二人を置き去りにするようなにこやかな笑みを浮かべた。
 「ええい、あんたが入ってくると、話がややこしくなってくるわ・・・・・・。」とは、百合。
 「まぁ、杏子のことは置いておいて・・・・・・。」とは、ゆかり。
 「百合、前々から、あんたに言おうと思っていたことがあるのよね。」
 「何よ。」
 「あんた、わたしとキャラ被ってんのよ!!」
 「あんたまで、わけの分からないことを言うな~~!!」
 それからも、ゆかりと百合の口喧嘩は続いたのであるが、その間、サチは呆然とその様子を眺めるしかなかったし、杏子は杏子で、相変わらずニコニコしているだけ。「ああ、お二人とも本当に仲がいいんだから。」などと呑気なことを言っている始末。
 その二人の口喧嘩もいい加減にネタが尽きたのか、どちらともなく黙り込み、ゆかりも疲れた顔をして自分の席に座り込み、百合も手近な椅子に腰を下ろす。そのタイミングを見計らっていたのか、ゆかりと杏子が「真奈美さん」と呼んでいた店の責任者らしき女性が、百合のコーヒーとお冷の入ったグラスを彼女が座った席のテーブルに置いていった。
 「はぁ、本当に無駄な体力を使ったわ・・・・・・。」とは、百合。
 「何ですって・・・・・・。」とは、ゆかり。しかし、その後の言葉をつなぐ気力はもう残っていないようだ。
 「ゆかり、あんたのことは置いておいて・・・・・・ねぇ、サチ、どうなの?」
 ここで、百合の話の矛先は再びサチへ。
 「え、どうって、言われても・・・・・・。」
 「最初のうちは、慣れなくて不安もあるだろうけど、慣れてみたら、楽しいと思うよ。」
 「合コンのことですか?」
 「そう。」
 「ごめんなさい。」とサチは、頭を下げる。「誘っていただけるのは嬉しいんだけど、わたし、賑やかなところは苦手で・・・・・・。」
 「そう・・・・・・気が進まないなら、仕方ないね。」
 サチの謝辞に対して、百合は意外なまでにあっさりと引き下がった。
 「ねえ、サチ、その代わりと言っては何だけど、今度杏子とわたしと一緒に遊びに行かない?もう一人、友達が来る予定だけど、同性の子だし・・・・・・それなら、構わないでしょう?」
 「誰ですか?」とここで口を挟むのは杏子。
 「薫。知っているでしょう。わたしと寮で同室の子。」
 「ああ、薫さんですか。」
 杏子も知っている相手ということで、サチも多少は安心したのだろう。
 「だったら、いいですよ。ただ、わたしも家の、というか店の手伝いがあるので、日によっては難しいこともありますけど。」
 サチは、条件付きながらも快諾。
 「ああ、それはいいと思うよ。家のことなら、杏子だって手伝いがある話なんだし、予定はゆっくり決めれば。」
 サチの条件は、百合にとってはさほど問題になることでもなさそうである。
 「薫、杏子とサチのセットでなら、文句ないと思うしね。」
 「セットって、何ですか?」と杏子が尋ねると、百合は意味ありげな笑みを浮かべて「内緒。」と答えた。
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Memorial Apricot Pie (30)

そうだ、今週末は、こたつを買いに行こう!

「Memorial Apricot Pie」 終盤戦、多分、1/4か1/3くらいです。

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 思い出話が終わり、一息つくようにコップの水を再び口に含むサチ。
 その正面向かいで、じっと耳を傾けていた神埼ゆかりは、しばしの間、黙り込んでいたものの、突然小さく肩を震わせ、次いで噴出すのを我慢するように頬を膨らませ始めた。
 そして、こらえ切れなくなったのか、大きく息を吐き出して、大きな声をあげて笑いだした。
 カウンターの中の杏子や真奈美だけでなく、店内にいた他の客までが一斉に、サチとゆかりを見る。
 「ちょ、ちょっと……ゆかりさん……。」
 周囲の視線に気がついたサチが、ゆかりをたしなめると
 「ごめん、ごめん……つい……ね?」
 と涙を拭きながらも、まだ笑いは止まらない。
 「つい、何よ?」
 サチが怪訝な顔で尋ねると
 「いや、杏のパイがお母さんとの思い出というのは分ったけどさ。何というか、話の中身が……ね?」
 とからかうような口調で答えた。
 「中身が何なの?」
 対して、サチは不機嫌そう。
 「いや、何というか、物凄く感動的なお話を期待したんだけど……。サチとおばさんらしいといえばらしいよね。」
 「何よ……しまらない話で悪かったわね。」
 「まぁ、はずみで“お母さん”って呼べたというのは、実にサチらしいよ。」
 サチは、拗ねたように横を向くが、対してゆかりはそのサチを微笑みつつ眺めている。
 「いいじゃない。弾みでも何でも……サチとおばさんは、それからはずっと本当の親子なんでしょう?笑っちゃったのは悪かったけれど、素敵なお話だとわたしは思うよ、」
 横を向くサチの顔が少しだけ赤らみ、その口元は少し緩んでいた。
 「何だか、お話がはずんでいるみたいですね。」
 たわいないやり取りをかわすサチとゆかりのテーブルに、トレイを持った杏子の姿。
 「お待たせしました。当店自慢のアプリコットパイ。杏のパイですよ。コーヒーも、ちょっとした自慢の品なので、ゆっくり味わってくださいね。」
 そうして置かれた杏のパイとコーヒー二揃え。
 「これが杏のパイね……。」
 ゆかりは、皿の上に置かれたパイをまじまじと見ている。彼女にしても、実際に食べるのは初めてのようだ。
 「ふ~ん、これが、本当のアプリコットパイなんだ……。」とはサチ。そのサチの言いように、またゆかりの肩は震えだす。
 「何よ、もう……。」
 「ごめん、ごめん。まぁ、食べてみようじゃないの。」
 言いつつ、ゆかりの手はすでに皿に伸びている。サチもつられるようにして、用意された小ぶりなフォークを使って、その一切れを口に運んでみた。
 (おいしい……。)
 パイ生地の香ばしさと甘みに交じって、かすかな酸味が程良い味わいのアクセントとなり、口の中に広がって行く。
 最初に口に入れた一切れを、味わいつつ飲み込んだサチは
 「アプリコットパイって、本当はこういう味なのね……。」
 としみじみと一言。
 それを聞いて、またゆかりの肩が小刻みに震えだす。
 「何よ、また?」
 「ごめん……でもさ、サチ。いまのは、おばさんに対して物凄く問題発言だと思うよ。」
 そのゆかりの言葉に、サチは返事をせず、ただ「ううう……。」と唸るような声を小さく上げて、下を向いた。子供のころからの彼女の癖である。
 「どうですか、うちの自慢のメニューなんですよ。」
 そのサチに助け船を出すようにここで口を挟んできたのは、杏子。
 「いや、杏子、これ本当に美味しいわ。」
 「えへへ……でしょう?あ、でも、さっちゃん先輩ところのお店のイチゴのタルトも昔から有名なんでしょ?とっても、美味しかったし。」
 「あれ、杏子、あんた、サチの家というかお店、行ったことあるの?」
 「あ、あー……。」杏子は、ゆかりのこの質問に対し、目を逸らして少し思案。「いえ、わたし、ほとんどこの町から出たことないですよ。」
 「え、でも、いま、まるで行って食べたみたいなこと……。」
 とゆかりが質問を重ねようとしたところで、店のドアが開き、そこからサチやゆかりと同年代くらいの少女が入ってきた。
 「あ、百合さん、いらっしゃいです!」
 杏子は、ゆかりの質問にこたえることなく、駈けるようにその百合と呼ぶ少女のもとに。
 「う~ん……。」その杏子の後姿を見ながら、ゆかりは唸った。「何だか、いま、物凄くベタな方法ではぐらかされた気がする……。」
 杏子が駆け寄った相手、「百合さん」と呼ばれた少女は、ぱっと見サチとゆかりと同世代くらい……なのだが、杏子と並ぶとやたらと大人びて見える。杏子とも同世代の筈なのだが……。
 髪の毛は後ろをアップにしており、一見ややボーイッシュな印象も受けるが、杏子と談笑し、カウンター席に腰を下ろすまでの一連のちょっとした所作などには、女性らしい柔らかなものがある。身長などは、遠目で見る限り(杏子との対比などで)サチやゆかりと同じか、少し高いくらいだろうか?
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Memorial Apricot Pie (29)

お昼休みにまたまた投下(仕事、してんのか?)

さて、ここを抜けたら、いよいよ本当の終盤戦ですが・・・
ひとつ、気になったニュース

寒さ苦手でも「わお、あったかい」 愛知・犬山(朝日)

何が気になったかというと、ポーズが(笑)
インリン様を思い出したのは、私だけではないと思いたい。

と、作品の雰囲気をぶち壊しにするニュースネタを一発入れた後、「Memorial Apricot Pie」、サチ回想篇終幕であります。
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 それから、綾子も和菓子屋夫妻に薦められ、彼らが持参してきた朝食を御馳走になり、あとは他愛のない世間話。
 食器は洗って返す約束をし、和菓子屋夫妻が帰った後、サチと綾子二人きりになり、綾子は椅子に座ったままのサチに
 「ところでサチ……あんた、全然足りてないだろう?」
 とニヤニヤしながら聞いてきた。
 サチは、赤くなりながら頷く。
 「御馳走になっている身だから、言えなかったんだろう?」
 「ううう……。」とサチは、言葉にならない唸り声とも泣き声ともつかぬ声をあげ「でも、とってもおいしかったんだよ。」と訴える。このうなり声とも泣き声ともつかぬ独特の声の上げ方は、サチの癖であり、成長してからも治らないのであるが・・・・・・。
 「答えになっていないよ。」
 サチの返答に綾子は苦笑。
 実のところ、サチはよく食べる。
 単に成長期ということでなく、人並み外れた身体能力を持つ彼女は、必要とする摂取カロリーも人並み外れている。普段の生活ではそうでもないのだが、多少なりとも能力を使うと、その反動は食欲に現れるのだ。
 実際、昨晩は、不完全な形ながら能力を使った為、彼女の体は多量のカロリーを必要としている状態なのである。
 「まぁ、何かあればいいんだけどね。」
 まだ歩くのが思うに任せないサチに代わって、冷蔵庫を覗く綾子。ドアを開けた途端、彼女の表情が複雑に変化する。
 困ったような、それでいて笑っているような顔。
 不思議に思ったサチが、足が動かしにくい状況ながらも何とか上半身を起こして綾子の手元を見てみると、そこにはラップにくるまれた皿が一枚。
 綾子がおずおずとその皿をテーブルに置き、冷気で曇ったラップをはがすと、そこには……。
 「何?」
 サチは本気で分らなかったようで、綾子に尋ねる。綾子も綾子で、苦笑しつつ、その問いに答えた。
 「ははは、いや、昨日、ちょっと試しに作ってみたんだけどね。捨てたとばかり思っていたんだけれど、清崎さんったら丁寧に冷蔵庫に直しこんでいたんだね。片づけなんかしなくていいって、言ったのに……。」
 サチは、首を捻り、皿に載せられた食べ物らしきものを見て、再び「何?」と不安げな声。
 「何、何ってねぇ……。見て分からないかい?パイだよ!」
 「パイ?」口に出してサチはもう一度皿の上を見る。そして「パイ?」ともう一度。一旦、顔を皿から離して腕を組み、再度「パイねぇ?……。」と三度、疑問符を口にした。
 「何回も言わなくていいよ。どうせ、料理下手だよ。これでも、アプリコットパイ、杏のパイのつもりなんだけどね。」
 「杏のパイ?どうして、そんなもの作ったの?清崎さんに作ってもらったらいいのに。」
 「仕事以外のことで、清崎さんに手を取らせたくなかったんだよ。それに洋菓子屋のおかみなんだから、ちょっとした手作り菓子くらいは作れた方がいいかな?って……。」
 「無理しなくていいのに……。」
 「慰めるんじゃないよ。全く!もういいから、これは片付けよう!」
 そう言って、皿を下げようとした綾子だったが、意外なことにサチがそれを静止した。
 「いいよ、食べるよ。せっかく、おか……。」と言いかけ「作ってくれたんだから、食べてみたら、意外と美味しいかもよ。」と言葉をつなげた。
 「そうかい?」
 サチに押しとどめられ、綾子は急にまんざらでもない表情になった。
 「そうだね、意外といけるかもね。あんたもお腹減っているんだし。」
 暗に空腹が何割増しかおいしさを引き立たせてくれると言わんばかり。その綾子に、サチは
 「自分で“意外”とか、言わないでよ。」
 とやや不満げな表情を見せながらも、皿に手を伸ばし、綾子お手製のアプリコットパイをつかむと躊躇なく口の中に。綾子が言うとおり、本当にお腹が減っていたようだ。
 勢いよく口の中にアプリコットパイを含んだサチは、しかし急に黙り込む。
 その口が、何か言おうとしているようだが、あいにくと綾子には聞き取れない。
 「何だい、サチ?」
 問いかける綾子に、サチは必死の形相で
 「み、みず……。」
 「え?」
 もう一度問う綾子に対し、サチはついに堰を切ったように、しかし口の中のアプリコットパイは出さないまま、大声で
 「水!おかあさん、水ちょうだい!!」
 と悲鳴ともつかない勢いで叫びだした。
 綾子は弾かれたように、シンクに向かい、手近なコップに水を注ぐとサチの元に。
 サチは、それを受け取ると口の中に残ったパイ(らしきもの)もろとも、一気に飲み込んだ。そして、必死の形相で息を切らしながら
 「もう!!何をどうすれば、こういう味になるの!?おかあさん!!」
 と綾子に対し、猛烈に抗議。
「ごめん、ごめん。」
 普段は大人しく、綾子に対してもあまり口答えをしないサチにしては珍しい猛烈な勢いの抗議に、綾子は慌てて謝る。
 「でも、そんなにひどかったのかね?」
 謝りながらも、綾子の手は皿の上に。自分の作ったアプリコットパイを一切れ、口に運んでみたが・・・・・・。
 物凄い勢いでシンクに駆け寄ると、口の中のパイを吐き出し、さらに水をひと飲み。
 「うう、これは・・・・・・。」
 明らかに顔色を悪くした綾子は、少々心もとない足取りでサチの向かいの椅子に腰を下ろした。
 「サチ、あんた、よくこんなもの、飲み込めたね。」
 「よく・・・・・・って・・・・・・自分が作ったんじゃない?」
 「そりゃまぁそうだけど・・・・・・。遠慮せずに吐き出しても良かったのに・・・・・・。」
 「だって、食べ物は粗末にしちゃいけませんって、清崎さんや和菓子屋さんとかに言われているし・・・・・・。それに、せっかくおかあさんが作ってくれたんだし・・・・・・。」
 「そこまで気を使わなくてもいいのに・・・・・。」言いつつ、テーブルの上の皿を片付ける綾子。「いくら、わたしが作ったからって……。」そこまで口にし、ふと動きが止まった。
 「サチ、いま、あんた、おかあさんって・・・・・・。」
 今更ながらに、自分がどう呼ばれていたか気付く綾子。
 サチも同様で、途端に下を向いた。僅かに見えるその表情は、困ったような気恥ずかしいような・・・・・・それでも、いくばくかの喜びを感じさせる顔。
 「ううう・・・・・・。」彼女の癖、あの唸るような声を発しつつ、下を向いたまま、ぷいと綾子の視線から目を逸らす。
 綾子は、そのサチの様子に口元を緩め、その頭を優しく撫でた。
 撫でられた側のサチの顔は、いままでの困ったような照れたような表情にさらに赤みが増し、何も言わないまま黙り込んで下を向いた。
 「じゃあ、ちょっとお弁当かパンでも買ってくるかね?もう少ししたら、学校と工事屋さんにも電話しないとね。」
 綾子は、それだけを言い残し、玄関からサンダルを履き、サチを残したまま、家を出て行った。
 残されたサチは、綾子が出て行った玄関のドアを暫くじっと見つめ、やや混乱した思考の中、ようやく自分がいま嬉しいと感じていることを理解していた。
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サチの思い出話も、ここまで。
次は、また杏亭に舞台は戻ります。

Memorial Apricot Pie (28)

お昼休みに、杏のパイ投下

例によって、アーカイブ

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 結局、サチは朝が来るまで目を覚ますことはなかった。
 その代わり、いつもの時間どおりに目を覚ましたサチは、自分の横で寝ている綾子の姿を見ることになった。
 (何で?)
 一瞬、事態が理解できなかったサチだが、起きあがってすぐに足の痛みが神経を刺激し、徐々に昨晩の記憶が蘇ってきた。
 (そうか、わたし、足が痛くて立てなくなって、それでこの部屋に寝かされて……。)
 そこまで考えが及んだ時、サチは改めて隣に寝ている綾子の存在を疑問に思う。
 (わたしの隣、あの女の子が寝ていた筈だけど?)
 疑問に思いつつも、ことの経緯は綾子が話してくれるだろうとサチは思い直し、再度綾子の顔を覗き込む。
 「お母さん……。」
 口に出してみるが、やはり気恥ずかしい。
 いま現在、綾子が寝ていると分かっているからこそ口に出せたのだが、いざ綾子を前にして本当に口に出して言えるのか、サチには全く自信がない。
 実のところ、二人きりの時でも、綾子を「お母さん」と呼びたいとはサチは以前から思っていた。
 思っていたが、なかなか実行に移せないでいたのだ。
 しかし、昨晩、あの恐ろしい改造人間たちを前に見せてくれた綾子の姿。あの姿を見てからは、以前よりも綾子を「お母さん」と呼びたいという衝動が強くなっていた。一方で、その行為に対して「照れ」を感じているサチでもあるのだが……。
 (今日こそは……多分、呼べるよね……。)
 それは、思いというよりは願いに近かった。
 そうしたことを考えていると、ふと自分が空腹なことに気がつく。考えてみれば、昨晩和菓子屋で主人から試作品だという白玉饅頭をふるまわれて以来、何も食していないのだ。空腹感も無理なからぬところである。ましてや、彼女は毎朝の食事を欠かさない生活を続けているのだ。このことは、清崎によりかなり徹底的に躾けられていた。
 清崎といえば、元々、この家の主人でもある綾子は家事全般が得意とは言えない。だから、覚醒し、ともに生活するようになってからは、その清崎に色々と教えてもらいながら、サチが家のことで出来ることを増やしながら何とか生活しているといった状況である。なので、こうした時に、サチは自分で食事を考えたり、用意したりすることにはかなり慣れてきている。いまは、清崎が時々家に上がって色々としてくれるが、その割合も最近は随分と減ってきているのだ。
 だから、サチは、いつものように立ち上がって台所に向かおうとしたのだが……。
 「痛い!」
 昨晩以来の足の痛みは、かなり楽になったとはいえ、まだまだまともに動けるようになるまでには至っていなかった。
 サチは、何とか尻もちをつきそうになるのをこらえながら、台所まで歩き、椅子に座りこむのが精いっぱい。
 (これじゃあ、満足に動けないなぁ……立てるだけ、まだましだけど……。)
 そんなことを考えながら、空腹な体を持て余し気味のサチを、玄関の呼び鈴が呼びたてた。
 玄関と言っても、住居部分のものであり、通りに面した店舗部分から見れば裏手に当たる。
 サチは、痛む足を引きずり、途中這いながらも何とか玄関にたどり着き、そのかけられた内鍵とチェーンフックを外す。
 「どうぞ……。」
 やや苦しげながらもそう言うサチに応えて、扉を開けて顔を覗かせたのは、和菓子屋の主人。
 「おや、さっちゃん。」今日は、茶トラの猫ミタラシを抱いてはいなかった。「昨日の晩、私は途中で寝てしまったみたいでね。さっちゃんは帰ってしまっていたしで気になっていたんだよ。ところで、足、どうかしたのかい?」
 主人は、サチが足を引きずっているのに目ざとく気づいた。
 「えっと……ちょっと、怪我をして……。」
 「そうかい?何だか店の表もガラスが割れて、凄いことになっているけど、何か関係あるのかい?」
 「えっと……。」この質問には、サチも大弱り。「お母さんに聞いて下さい。」何とかそう言い逃れるのが精いっぱい。
 「そうかい?」和菓子屋主人は、いぶかしむ表情を見せたが、その途端、サチのお腹が空腹の音をたてた。
 「おやおや……。」和菓子屋主人もこれには苦笑。サチは、というと、顔を真っ赤にしている。「朝ごはんはまだなのかい?」
 恥ずかしさで顔を伏せたサチは、こくりと頷くだけ。
 「お母さんは?」
 「まだ寝てます。」
 「そうかい。あの人もあまり家事が得意な方ではないからねぇ……。」言いつつ、和菓子屋主人は思案している様子だった。「おかみさんに伝えたいこともあったんだけど……。そうだ、さっちゃん、少し待っていてくれないかい?玄関の鍵は開けたままでさ。」
 「え?ええ、大丈夫だと思いますけど……。」
 「うちのばあさんに、何か用意させるからさ。少しの間、待っていておくれ。」
 和菓子屋主人は、そう言い置いてすぐに立ち去った。残されたサチは、言われた通り、玄関の鍵はかけず、また足を引きずりながらも台所のテーブルに。何とか椅子に腰をおろしてしばらくすると、ガチャリと玄関の開く音。
 和菓子屋主人とその奥さん、夫婦二人が揃って顔を覗かせていた。
 「さっちゃん、お待たせしたね。」
 和菓子主人の声。
入ってきた二人を見ると、主人の方がお盆を。奥さんは炊飯ジャーを抱えていた。
 「簡単なもので悪いけれど。」奥さんがそう言い、主人がおろした盆に載っていたのは、ラップをかけられたお椀とお新香と海苔に鮭の塩焼き。
 椀にかけられたラップをはがすと、味噌汁独特の匂いが空腹のサチの鼻を刺激する。
 サチがらんらんと目を輝かせていると、そこに湯気の立ったご飯茶わんが加わる。
 「本当に大したものじゃないんだけどね。」
 和菓子屋の奥さんが申し訳なさそうに言うのに、サチは物すごい勢いで首を横に振る。
 「そんなことないです。凄く嬉しいです。ありがとうございます。」
 「そう言ってくれると有難いね。」
 サチと和菓子屋夫妻が話しこむ声と気配、そして台所から漂う食事の匂いにつられてか、綾子がもぞもぞと起きだしてきた。
 「あれ、旦那さんに奥さんまで……。」多少、頭がまだ回りきれない様子で起きてきた綾子であるが、テーブルの上に並べられた食事が目に入り、状況を察したのだろう。
 「まぁ、申し訳ありません。こんなことまでしてもらって……。」
 「別にいいんですよ。近所なんだから。」とは、和菓子屋の奥さん。
 「何だか、表の方はすごいことになっているし……大変そうでもあったしね。さっちゃんもお腹すかせていたみたいだし。」とは、和菓子屋の主人。
 「本当に、お世話をかけて申し訳ないです。」
「いや、だからいいんだよ、近所なんだから……。ところで、本当に表の方はどうしたんだい。」
 ひたすら恐縮する綾子に対し、こう問う和菓子屋主人。この時だけは、普段はあまり見せない鋭い目つきで綾子をじっと見つめていた。
 これには、綾子も黙りこみ、じっと考え込んでいたが……。
 「すみません。」観念したように頭を下げる綾子。「今回だけは、追及しないで頂けませんか?ご迷惑をかけたことは、本当に申し訳ないんですけど……。」
 「理由は言えないということなのかい?」
 「はい。」
「さっちゃんの髪の毛のこともかい?」
 和菓子屋主人の視線が鋭さを増す。
「はい。言えば、かえってご迷惑をおかけすることに……。ただ、昔のわたしの不徳が招いたこととしか……。」
 和菓子屋主人の綾子を見る目が、さらに鋭さを増し、表情も険しくなった。
 黙り込む綾子と和菓子屋主人、サチまでがその両者の醸し出す雰囲気に引きずられて、固まったように凝視していた。ただ一人、和菓子屋の奥さんだけが「お母さんの分もあるからね。」などと、にこやかにしている。
 やがて、緊張した場の空気をほぐすように和菓子屋主人は大きく息を吐き、
 「分ったよ、それでいいことにしておくよ。その方が……。」とサチを見つつ
 「さっちゃんの為にもなりそうな感じだしね。」
 と言って、この話題を締めくくった。
 「ありがとうございます。」
 「でも、二度はないよ。」
 礼を言う綾子に対し、念押しは忘れない。
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Memorial Apricot Pie (27)

杏子さん回顧編、予定よりも少し長くなってしまった。
一応、本家様のサイトにある以上の情報は、控えようとは思ったが、二、三付け加えている部分があります。
ところで、この「Memorial Apricot Pie」、HTML化してのページまとめも並行して作業しております。現在のまとめ状況と私の脳内ストーリーからすると、現在ブログで公開している内容は、ストーリー全体の9/10近くを消化したくらいでしょうか?

当サイト掲示板(記事No.728)にて、杏子さんの作者様より、ライダー関連のイラストが投稿されていました。このノリの良さに乾杯♪
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 迂闊に、その行く手にある闇に触れたなら、今回遭遇したような相手と再び相まみえる可能性すらある。今日は助かったが、次はどうなるか分からない。
 綾子がそうしたことを考えていると、杏子の方でも何か考えていたらしく、じっと俯いていた。
 あえて話しかけることをせず、杏子の方が口を開くのを待つ綾子。
 何分かの時間が過ぎ、杏子は意を決したように口を開いた。いままでとは違って、少し思いつめた顔。
 「あの……やっぱり、わたし、遺伝子いじられてますよね。お母さん、やっぱりそういう研究していたんだ。」
 (やはり、そういう風に考えるか……。)
 この杏子の反応は、綾子としても多少予測していたものであった。だから、彼女はあらかじめ電源を入れておいたパーソナルコンピューター、いま杏子と一緒にいるキッチンの隅においてあるデスクトップコンピューターを見て、
 「そのことについては、あたしより“彼”に説明してもらった方がいいだろうね。」
 「彼?」
 綾子は頷き
 「ビー、頼むよ。」
 とデスクトップコンピューターに向かって言った。
 「了解、ドクター。ただ、私の名前はビーではなく、ビッグマシン2です。お間違いなく。」
 「その名前、言いにくいんだよ……。」
 「私の名前は、ドクターがつけたのですが。」
 「そうだったかね、ああ、それとあたしのことは“ドクター”じゃなくて、おかみさんと呼べと言っているだろう。」
 「ならば、私のことも正確にビッグマシン2と呼んでいただきたい。」
 「人に呼び名を指図されるなんて、まっぴらごめんだよ。」
 「……。」
 綾子とコンピュータとのやり取りを聞いていた杏子は、おずおずと彼女が話していた相手のことを聞く。
 「あの、いまお話しているのは?」
 「ああ、ビー……昔の組織が作った人工知能……このことも出来たら秘密にしてほしいけどね。」
 「おばあさんにも……ですか?」
 「誰に対しても、だよ。サチの“力”を見たことも含めてね。」
 自分を正面から見る綾子にたじろがず、杏子は
 「分りました。誰にも話しません。」
 ときっぱりと答えた。
 その答えに満足した綾子は、満足げに頷き、くいと首を部屋の隅にあるデスクトップコンピューターを指す。
 「このパソコンは、あくまでもただのパソコン、ビーの本体は別の場所にあるんだけどね。いまはネットワークを介して、あたし達と会話をしている状態さ。さあ、ビー、説明しておくれ。」
 「了解だ。美作杏子。」
 「は、はい。」
 パソコンのスピーカーから聞こえてくる低い男性の声に杏子は、緊張して返事をした。
 「ふむ、緊張しているな。この声ではダメか?ならば。」とここで声は一旦区切られ、「じゃあ、こういう声はどうかな?杏子ちゃん。」
 次いでスピーカーから聞こえた声は、杏子自身の声色。
 「それはそれで、気持ち悪いです……。」
 今度は、拒絶反応。
 「なら、やはりこの声がいいか。」とビーの声は元通りに。
 「では、出来る限り手短に話そう。美作杏子、君の遺伝子には確かに操作された形跡がある。」
 「やっぱり……。」
 「君が店に入ってからスキャンさせてもらったが、間違いない。悪いな、この店のセキュリティは私が管理しているのでな。」
 「いえ、そんな……でも、やっぱり……。」
 そのまま、杏子は口ごもる。
 「どうした?」
 ビーがスピーカーを介し、尋ねると杏子はおずおずと口を開いた。
 「やっぱり、わたし、改造人間ということですよね……。」
 「ふむ、それは違うと思うな。」
 杏子の言葉に対して返ってきたビーの答えは、意外な回答。顔をあげた杏子にビーの説明は続く。
 「君の体には、十三号のような“能力拡大”あるいは強化の傾向は一切見られない。定義の仕方にもよるだろうが、君は、十三号とは違う。勿論、今日我々を襲ってきた連中とも、助けてくれた神敬介や城茂とも違う。」
 「じゃあ?」
 「遺伝子を操作していると言っても、はっきりいえば、私のスキャンの範囲内ではその意図は一切不明だ。おそらく、遺伝子操作に携わった当事者にしか、それは分らないだろう。」
 ビーの答えに、杏子が黙り込む。何事かじっと考えているようだった。
 果たして何分ほどの時間が経過しただろうか?綾子もビーも、じっと杏子の口が開くのを待っていた。
 そして、紡ぎだされた彼女の言葉。
 「あの、じゃあ、わたし、“人間”なんですか?」
 「うむ、広義の意味では間違いなく君は“人間”だ。特殊な能力を最初から持っているわけではないし、他者との外見上の違いも、私に言わせれば誤差の範囲内に過ぎない。」
 「回りくどい言いかたせずに、はっきり、“人間”だって、言ってやればいいじゃないか。」
 ビーの答えに、綾子は苦笑。
 「広義の、と言ったが、その言い方を適用するなら、入れ歯や刺し歯を入れているだけでも、“改造人間”ということになる。その言い方をするなら、君は改造人間といえば改造人間、人間といえば人間……そういうことだ。」
 「じゃあ、わたし……やっぱり、“人間”と思っていていいんですよね?」
 「それでいいと思う。」
 「ありがとうございます。」
 「礼を言われるのも変な話だが……そうだ、遺伝子を操作と言ったが、その意図としては、“遺伝子治療”という可能性も考えられる。勿論、本当の答えは当事者にしかわからないだろうが。」
 杏子は、ここで綾子に頭を下げた。その表情には明るさが増している。
 「あの、本当にありがとうございました。ドクター岡部さん、わたし、ここに来て、本当によかったです。」
 「大袈裟だね。」綾子は笑ってそれに応じる。「ただ、いまのあたしは、ドクター岡部じゃなくて、緑川綾子、ケーキ屋の主人で、サチの母親役さ。それは間違えないでおくれ。」
 「じゃあ、ええと……。」杏子はすこし考え「ありがとうございました、さっちゃんちのおばさん。」と。
 「まぁ、その方がいいかね。」
 綾子にとっては、その言い方、「さっちゃんちのおばさん」の方が、「ドクター岡部」よりも遙かに好ましい呼ばれ方に思えた。
 「あ、そうだ。すっかり忘れていましたけど、敬介さん、わたしとここまで一緒に来た敬介さんはどうしたんですか?」
 「ああ、神敬介のことかい?そうだね、あんたは気を失っていたから知らないだろうけど、わたしらを助けてくれた後、帰って行ったよ。城茂っていうお仲間と一緒にね。」
 「そうですか……。」
 「なに、縁があったら、また会えるさ。いつか、あんたがピンチになったら、風のように現れてくれるかもよ。」
 そして、万が一、サチが“向こう側”、人を傷つける組織側の改造人間となったとしたら、城茂や他の仲間ともども、突風のように現れるのだろうとも綾子は考えた。
 (よくよく考えると、これほどおっかないお目付け役はいないねぇ……。)
 想像しつつ肩をすくめる綾子の様子に、杏子は首をかしげた。


 それから、多少の時間が経過した後、杏子の祖母と名乗る老婦人が車で訪れ、杏子はその車に乗せられた。
 「じゃあ、さっちゃんちのおばさん、色々ありがとうございました。さっちゃんによろしく。」
 別れ際の杏子の言葉の後、運転席から杏子の祖母が頭を下げ、彼女が運転する小ぶりな乗用車は夜の商店街を国道方面へと抜けていった。
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さて、杏子さん回顧編はココまで。次はまたサチの回想に戻ります。

Memorial Apricot Pie (26)

さて、このブログにはコメントがつけられるのですが、本日どなたかが昼間コメントを入れておられたようなのですが(携帯電話で確認)、帰宅してチェックすると消えていました。
このブログ、コメント投稿者自身が、自分のコメントを消せるのか?←これでも管理者です(笑)

さて、「Memorial Apricot Pie」もそろそろ終盤戦に差し掛かり始めました。
今回上げている部分は、杏子さんメイン。
しかし、人様のキャラを私が動かしているわけですが、彼女メインになると、途端にお話がほんわかした感じになるような気がwww
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 さて、ここから先は、緑川サチにとってはあずかり知らぬ話となる。
 サチが眠りにつきしばらくして後、布団を並べて寝ていた美作杏子は、サチと入れ替わるように目覚めた。スケールの散布した鱗粉の効果が薄れてきた為だろう。
 起きてすぐは、なぜ自分がこんな見知らぬ部屋で、しかも丁寧に布団が敷かれた状況で寝ているのか理解できず、周囲を見回したり、枕元に置かれていた自分のリュックの中身を見たりしてしていたが、特に何かをされたり取られたりといったことがないことが分かると、ほっと一息。
 改めて、自分の横で寝息を立てているサチを見た。
 「十三号ちゃん、帰っていたんだ……。」
 つぶやいた後、ぺろりと舌を出す。
 「いけない、サチちゃんと呼ばないといけないんだっけ……。言いにくいから、さっちゃんでいいよね。」
 自分で勝手に結論を出し、寝息を立てるサチの頬を指で軽くついて見た。
 「さっちゃん、よく寝ているなぁ……。」
 自分がつい先ほどまで熟睡していたことも棚上げして、にやにやと笑う杏子。
 「かわいい……。」
 何度となく、サチの柔らかい頬を指でつき、その度に彼女の口から寝言とも寝息ともつかぬ声が漏れるのを楽しんだ杏子だったが、やがてそれにも飽き、自分たちが寝ている休憩部屋とキッチンとを仕切る襖を開け、次いで店舗側から漏れてくる音に気付いた。
 店舗側と住居部分とを仕切る戸をあけると、そこには散乱した店内の片づけをしている綾子と清崎。
 「おや、起きたんだね。」
 一旦、手を休め、杏子に微笑む綾子。清崎は、黙って作業を進めている。
 「はい、あの……お手伝いしましょうか?」
 「気を使わなくてもいいよ。もう終わる頃合いだ。それに色々あったしね……ところで、あんたの話だが。」
 「わたしの?」
 「ああ、あんたのお母さんとやらの話だよ。」
 「やっぱり知っているんですか?」
 勢いづく杏子に、綾子は苦笑。
 「知っているというのとは違うと思うんだけどね……それよりも、あんた、いまは誰と暮らしているんだい?」
 「おばあちゃんとですけど。」
 「そのおばあさんは、あんたがここにいることは知っているのかい?」
黙り込む杏子に綾子は再び苦笑。
「やっぱりね……。まずは、そのおばあさんに連絡だ。電話貸してあげるから。」
 綾子は、ほぼ強引に杏子に電話をかけさせると、途中で代わり相手先、杏子の祖母としばらく話しこんだ。そして……。
 「おばあさん、これから車でこっちに迎えに来るってさ。今夜一晩は、うちで預かってもいいって言ったんだけどね。」
 「そうですか……。」
 「まぁ、いますぐそのおばあさんも来るわけじゃないし、その間に話を済ませておこうかね。」
 綾子がそう言うと、杏子の顔が明るさを増した。
 「言っておくけど、短い話だよ。」
 杏子は頷いて見せたが、その瞳には期待に輝く色がうかがえた。杏子のその表情に、綾子はまたもや苦笑させられた。
 「そう、あれは、十年といわず昔の話だねぇ……。」
 綾子が語りだした物語、それは彼女がまだ十三号、緑川サチ覚醒の可能性にすら気づいていなかった過去であり、彼女が岡部綾子でも緑川綾子でもなかった頃の話である。
 その彼女の元に、一人の女性研究者が訪ねてきた。
 彼女は、ヒト遺伝子の操作に関心を持つ研究者であり、現在は大学病院に籍を置いていると語った。綾子を訪ねてきた彼女は、ほぼ強引に当時綾子が暮らしていた家に上がりこみ、人体の可能性について熱く語ったものだった。
 彼女が考えていたのは、遺伝子操作による「超人」の誕生。
 そこで、彼女とは違うアプローチで人体の持つ能力を拡大することをかつて専門としていた綾子を訪ねてきたのだという。自分の考えを、綾子の眼から見て意見を聞きたいと言うのだ。
 実を言うと、こうした来客は綾子にとって一度や二度ではなかった。
 どういうつてを得て入手するのか、かつて人体改造に携わっていた岡部綾子ことドクター岡部を訪ねて、過去さまざまな人物が訪ねてきた。
 その度に、綾子はある時は徹底した否定、ある時は徹底した無関心を貫き、訪問者達を追い払ってきたのである。
 おそらくは、美作杏子の母と思われるその女性に対しては、綾子は無関心を選択した。
 ただ、気になったことはいくつか。
 その女性は、遺伝子の操作に関しては、ナノマシンを想定していたらしく、その可能性と実用に踏み込んでの質問をしてきたことが一つ。
 ただ、話の流れの中で、綾子は彼女がかつての改造実験体十三号、緑川サチの存在とサチに対しての施術のことは知らないらしいことが分かったので、このナノマシンの問題については、否定。いや、正確には「分らない」という話で通した。
 実際には、その女性がナノマシンの可能性に着目するはるか以前より、その実用に取り組んでいた綾子である。サチは、おそらくは人類史上初のナノマシンによる改造を受けた改造人間なのである。ただ、現実にはサチ自身の能力は、ナノマシンを遙かに超えた力によって支えられているのだが、それはまた別の話。
綾子が危惧したもうひとつの話、それはその女性が綾子自身の現在の生活にまで口を出したところから始まる。
 ドクター岡部ともあろう者が、その才能を市井で燻らせているのはあまりにも忍びないというのだった。
 自分なら、綾子に対し、その才覚に応じたポジションを用意できる、そう言うのだ。
 これには、綾子は眉を潜めた。
 その女性は、どう見ても当時二十代。
 彼女自身にそれが可能な権力や財力があるとは思えない。
 おそらくは、海外あるいはどこかの企業の力を背景とした発言であろうと、綾子は判断した。
 彼女が才気あふれる研究者であり、その才能を見込んだ有力教授が後ろ盾になっているという可能性もなきにしもあらずだが、日本という国の医学関係の閉鎖性を考えると、その可能性も考えにくい。
 綾子としては、この二番目の危惧を特に重要視し、何とかその女性にはお引き取りを願ったのだった。
 「だから、わたしとあんたのお母さんと思われる人との接点はそれだけなんだよ。」
 綾子は、杏子に対してはそう話を締めくくった。
 実際には、その後の話があるのだが……。
 綾子がその女性と会ってしばらくしてから、ある大学病院の若手女性研究員が姿を消したという話が伝わってきた。
 綾子なりの情報網から得た話では、旧ソ連領グルジア方面へと向かったらしいとのことであるが、真偽は定かではない。
 当時のグルジア情勢は、混迷の度合いが深く、旧KGB勢力の暗躍もあったことから、綾子は彼女の後ろ盾が何者の勢力なのかについては、大体の見当をつけることが出来たのだが……。
 (この情報は、ちと危険すぎるからね。この子には知らせない方がいいだろう。)
 綾子は、そう判断したのだった。
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杏子さんメインは、次も続きます。

Memorial Apricot Pie (25)

さて、このあたりからまた「日常」パート。
そして、ついでのぐだぐだな日常について(笑)
土曜日が休みになると、私の場合はまず「歯医者」から始まる。
歯医者の用事が済んだので、昼食ついでに駅ビルに。
書籍と2010年用のシステム手帳の「中身」を購入。
そして、食事。以前のエントリで書いたとおり、いまは昼に何を食べているかのチェックが入るので、今回も携帯にて写真撮影。

ファイル 267-1.jpg

中華の定食みたいなものですね。チャーハン、スープ、スブタ、サラダに杏仁豆腐。
何だか、色々怒られそうだ(笑)

で、話はそれまくったが、「Memorial Apricot Pie」、ヨロシクデス。

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 話がひと区切りつき、いまは杏亭という名のカフェで同級生の神埼ゆかりと過ごしているサチは、目の前に置かれたグラスに手を伸ばし、氷によって程よく冷やされた水を飲んだ。
 いささか長い思い出話に耳を傾けていたゆかりは、「はー・・・・・・。」とため息ともつかぬ大きな息を吐き出すと、感心したように呟いた。
 「そんなことがあったなんてね・・・・・・。でも、サチ、改造人間と戦ったのって、学校での事件が初めてというわけじゃなかったんだね。」
 「そんな・・・・・・。」サチは、ゆかりのその感嘆に苦笑する。「いまの話は“戦闘”なんて言えるものじゃないわ。結局、助けてもらったんだし。」
 答えつつサチの視線は、杏子という少女に。
 彼女は、いまカウンター席の常連客と思しき客と談笑しているようだった。
 「ねえ、サチ。それからどうなったの?これで終わりじゃないんでしょう?第一、肝心の杏のパイのお話は出ていないし。」
 「あまり急かさないでよ。」
 サチは、苦笑しつつも、頭の中をいったん整理し、そして話を続けた。


 「清崎さん、悪いけれど、そっちのお嬢さんお願いできますか?とにかく一旦家に帰らないと。」
 敬介と茂の二人が去った後、綾子は清崎にそう頼むと、自身はサチの元に。
 サチの手をとった綾子は、その手をしゃがんだ自分の肩にかけ、サチに背を向ける。
 「サチ、背中におぶさりな。」
 「え?いいよ。」
 「いいよ、じゃないよ。たまには甘えな。それにその足ではまだ立てないだろう?ご近所の人たちが起きてくる前に、家に帰らないとね。」
 いくばくかの躊躇の後
 「分った……。」
 とサチは、綾子の背に身を任せた。
 「よいしょっと……。」
 サチを背負って綾子が立ち上がった頃には、清崎も眠っている杏子を抱きかかえていた。
 「じゃあ、帰ろうか、グリーンリバーにさ。」
 綾子はそう言うと、短い距離ながら、夜の通りをサチを背負ったまま清崎と並んで歩いて行く。
 綾子とサチにとっての我が家、「グリーンリバー」にはすぐに着いたが、一同は改めて店舗の状況に唖然とした。通りと面しているガラスというガラスは割れ、店の中も敬介とシザースがもみ合った際に、ありとあらゆるものが散乱している状況。
 「全く……。」綾子はサチを背に負ったまま大きくため息をついた。「後片付けをしてから、帰って欲しかったね。」
 それでも、彼女は背のサチを振り返り「まぁ、命あってのものだねだから、贅沢は言えないけどさ。お店は当分休業だね。」と苦笑交じりに言うと、足もとに気を配りつつ、清崎ともども店の中に入ると、店舗と住居部分との仕切りを抜け、一階の休憩部屋に。
 サチの部屋は二階にあるのだが、足を怪我していることを考え、綾子はそこにサチを座らせた。横には、清崎が抱えてきた美作杏子。
 「布団を取ってくるから待っていなさい。今夜一晩はここで寝るんだよ。」
 「ありがとう、おか……。」綾子に対し、サチは言いかけると口をつぐんでしまった。
 「なに?」
 「何でもない……。」
 口をつぐむサチに、綾子は微笑み、その頬をそっと撫で、次いでシザースによって切られた髪を触った。
 「長くて奇麗な髪だったのにね……。明日は学校も休もう。足を治すのもだけど、髪の毛もきちんと切りそろえないとね。」
 そう言い置くと、綾子は清崎と連れ立って二階へ。
 座ったまま動くこともままならなくなったサチは、ふと横を見る。
 そこにいるのは、眠りについている金髪の少女。
(そういえば、この子とはろくに話もしていないな……。名前、何ていったっけ?)
 と思い、一方で、
 (さっき、岡部さんのこと、“お母さん”って呼ぼうと思ったのに、呼べなかったな。)
 などと、方向性を持たないまま、思考は巡る。そして、そのあてどのない思考は、すぐに尽き、サチは抗いようのない眠りに包まれていた。
 やがて、布団一式、サチと杏子の分を持って綾子と清崎が降りてきた頃には、サチはもう小さな寝息を立てていた。
 「仕方ないねえ……。」
 綾子は苦笑し、布団を敷くと、眠っているサチを抱きかかえた。
 抱きかかえられ、布団に横たわるまで、サチは目覚めなかった。かなり疲労したのだろう。ただ、布団に横たわり、最初の寝返りをうつ時に
 「お母さん……。」
 と寝言を一言。
 その一言に、綾子も清崎も驚き、お互いに顔を見合わせた。そして、どちらともなく頬を緩め、笑みをこぼしたのだった。
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Memorial Apricot Pie (24)

ついでのお話。
最近購入したオタ的グッズ。

「化物語 第3巻 するがモンキー」
個人的には、神原駿河のこのエピソードが一番面白いですね。ちとグロ要素ありですが・・・
ヒロインするがのネーミングは、「駿河問い」から来ているそうな。
さて、検索なしに駿河問いの意味が分かった人は、自分の人生を色々反省してください(笑)

「よつばと」第9巻
相変わらず、安定した面白さ。
ジェラルミンがかわいい♪
ところで、次巻あたりは小岩井父ちゃんのお車購入の話になるのかな?

「よつばと 2010カレンダー」
何だか、すごく売れているそうな・・・
ランキングの中には、「?」と思ったものもありましたが、ノーコメントで(笑)

では、「Memorial Apricot Pie」(24)をどうぞお読みいただきましたら、幸いです。
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 着地した茂は、そのままぺたりとその場に座り込む。
 そして、その姿は黒衣の仮面の戦士から、徐々に元の青年の姿に。
 呼応するように、敬介の姿も銀色の仮面の戦士から、茂と同じく元の青年、神敬介の姿に戻っていった。
 「へっ!他愛ないぜ。」
 額から血を流し、多少息切れしつつ、笑顔でそう言う茂に、敬介は
 「全く、やせ我慢は俺達の伝統だな。」
 と苦笑交じり。
 「やせ我慢なんかじゃねえよ……。」
 茂は茂で、抗議するように口を尖らせるが、本当に抗議しているという感じでもない。
 「じゃあ、茂。行こうか?お互い、用は済んだだろう?」
 「そうだな……。」
 答えつつ、茂は立ち上がり、土埃のついたジーンズの尻を叩くと
 「嬢ちゃん、じゃあな。早く帰って、怪我の手当、してもらえよ。」
 とサチに声をかけ、敬介ともども、その場から去ろうとしたのだが……。
 「待ちなよ。」
 綾子が二人を呼びとめた。
 「あんた達、あたしのことはいいのかい?いまあんた達が倒した改造人間たちを生み出した張本人みたいなものだよ。あたしは。」
 「岡部さん……。」
 「おかみさん……。」
 サチと清崎、二人が何か言おうとしたのを、綾子は手で制す。
 「特に神敬介さんだったね。あんた、わざわざ、あたしを訪ねてきたんだろう。このまま帰るのかい?」
 「ドクター、僕はあなたの過去にはさほど興味はない。そう言ったはずですよ。」
 振り返った敬介がそう言うのに、横で茂が「うんうん。」と首を縦に振る。
 「僕は、そこの……。」とまだ立てないでいるサチを見る敬介。サチと視線が合い、彼は柔らかな笑みを浮かべた。「いまは緑川サチと名乗る少女に、少し関心があったんですが……もういいです。用事はすみました。」
 「用事は済んだ?」
 敬介の言っている意味が分からず、問う綾子。
 「ええ、済みました。あなたと清崎さんでしたか?彼がいる限り、彼女は、緑川サチという少女として生きていけるでしょう。だから、確認する必要はない。」
 「つまりだ。」敬介の後を引き継いで、茂が語りだす。「あんたらがいる限り、あの子はあの子のまんまだし、あの子がいる限り、あんたらはケーキ屋のおかみさんとケーキ職人でいられる。そういうことだよ。」
 「だから、取り立てて、僕たちが何かすることはない。また、してはならない。そういう結論です。」
 「今回、あいつらを片づけたのはついでみたいなもんだ。また、何かあったら、飛んでくるからよ。」
 そこまで言って、敬介、茂とも呆然とする綾子たちを置いて立ち去ろうとしたのだが……。
 ふと二人揃って振り返った。
 「ああ、そうだ。そこの女の子、杏子ちゃんと言ったかな。」と敬介の視線は、清崎によりシャッターにもたれるようにして置かれた美作杏子に。「彼女のこと、申し訳ないがよろしく。ちょっと怖い思いをさせたかもしれないし。お願いしますよ、“緑川綾子”さん。」
 「それから、嬢ちゃん。」とこれは茂。「母ちゃん、大事にしろよ。大きくなって、力を使えるようになっても、さっきのやつらみたいに悪さするんじゃねえぞ。そんなことになったら、俺が真っ先に飛んでくるからな。お尻ぺんぺんじゃどころじゃ済まさねえ。」
 そう言い置いて、二人は今度こそ本当に綾子やサチの視界から姿を消したのだった。
 そして、そうした綾子たちと敬介、茂とのやり取りを遥か天空から眺めている者がいた。
 その人物は、白いスーツに身を包んだ美青年。そして、その身は綾子たちから見れば、遥か上空、雲をも超えた高さに置かれていた。
 「ふむ、まさか、“彼ら”が出てくるとは思わなかったな。」
 呟く青年は、遥かに高い高度にあるというのに、綾子たちと敬介、茂との細かいやり取りまでも把握しているように見えた。いや、それだけではない。雲をも超える高さに身を置いているため、周囲には強風が吹き荒れている筈なのに、彼の衣服、スーツもネクタイも風にあおられている様子は見えないし、その髪にも乱れは伺えない。全てが現実離れしているような青年だった。
 「まぁ、手を出すのが早すぎたのかもしれないな。“彼女”も能力覚醒には程遠いようだし、なにより“アウトシーシング”を当てにしたのが間違いだったかもしれない。」
 そう呟いた彼は、何かを考えるように、一旦目を閉じ沈黙する。
 「そうだな。」考えがまとまり、青年は晴れやかな笑顔を見せた。
 「焦らずにもう少し時間を置こう。彼女の“力”を見極めるに足る時間を・・・・・・そして、その時には、もっと強力な力をぶつけるとしよう。出来れば、“シスター”を巻き込めればいいんだが・・・・・・まぁ、方法はゆっくり考えるとしよう。」
 言い終わると、青年は夜空の闇に跡形もなく消えていった。
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次は、お話の舞台をまたカフェ「杏亭」に戻します。

Memorial Apricot Pie (23)

さてさて、13号ちゃんプロジェクト特別篇
戦闘パートは、一応ここまで。
いままでのアーカイブはこちら→「Memorial Apricot Pie」

さて、今回の展開に関して、特別ゲストの神敬介さんから一言(笑)

「茂、お前、今回、キャラ濃すぎ!!」

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 サボテンの特性を持つ改造人間、スパインの緑の皮膚から、その表面を覆うトゲが無数に発射される。
 火薬を用いず、あくまでも体内の炭酸ガスを利用したその発射システムは、その殺傷性とは裏腹なまでに気の抜けた音とともに目標に向かって一気に空を切り、サチとそのサチをかばって立ちはだかる城茂に向っていく。
 (二度目となるとさすがにまずいかな?)
 目の前の危機的な状況にもかかわらず、茂がそうしたことを考えていると、彼の視界は銀色のスーツの男に塞がれた。
 その男は、スーツ以上に銀色に輝く仮面で顔を覆っていたが、茂はその人物が何者なのか、良く知っていた。
 (ちっ!結局、いいとこどりかよ、先輩。)
 茂は、その銀のスーツの男の一連の動作を、スローモーションにように眺めつつも、心中でそう毒づいてもいた。そして、そうした感慨は、彼の相手に対する信頼であり、安心感の表れでもあった。
 「ライドルスティック!」
 銀色のスーツと仮面の男は、叫びつつ自身のベルトにセットされた赤いグリップを引き抜く。すると、そのグリップの先は一気に伸び、中国武術で言うところの「昆」にもにた長尺の棒と化す。
 「ライドルバリア!」
 男は、手にした棒、ライドルスティックと呼んだそれの中心点を持ちながら、激しくスティックを回転させる。
 すると、その回転が生み出した「壁」は、スパインの発射したトゲをことごとく弾き返したのだった。
 「茂……確かにお前の言う通りだ。目の前で女に死なれるのは、たまらないよな。」
 ライドルスティックを握ったまま、背中越しに茂に語りかけるのは、いまはXライダーと名乗る姿に変身した神敬介。
 「へっ……全くだが、先輩、そいつもカニも俺がぶちのめす予定なんだぜ。」
 「全く、やせ我慢は俺達の悪い癖だな……だったら……。」
 会話を交わす敬介と茂。その二人に割って入るかのように、今度は緑の鞭を振るうスパイン。
 「茂、そろそろ決めろ!」
 叫びつつ、敬介はライドルのボタンを切り替えた。
 「ライドルロープ!」
 ロープ状に変化したライドルは、スパインの振るった鞭に絡みつく。次いで敬介は絡んだライドルロープを強く引き、スパインを引きよせ、後方から静かに迫りつつあったシザースにぶつけた。
 スパインの体はシザースに衝突した後、よろよろとしたところを茂が迎え撃つ。
 「さあ、そろそろ決めさせてもらうぜ。」
 言うと同時に、体勢の崩れたスパインに拳を一閃。スパインは、たまらずに吹き飛び、倒れこんだ。
 そのスパインを見下ろしながら、茂は叫ぶ。
 「チャージアップ!」
 その叫び声とともに、彼の胸の「S」のマークが激しく回転し、頭部のカブトムシを想起させる角は銀色に。そして、胸部の赤いロテクターにも銀色のラインが走った。
 「畜生!」
 倒れたスパインは、悪態をつきながら何とか立ち上がろうとするが、その行為も茂のパンチによって阻まれた。
 「そろそろ決めるんだから、黙っていろよ、テキーラ野郎。」
 「お前達は何なんだ!?」
 「あ!?」
 「お前達も俺達と同じ改造人間だろうが?どうして邪魔をする。その姿だって……いや、人間の姿を取っている時だってそうだ。お前ら、実際の年齢はいくつだ。その変わらない姿のまま、生きていくんだろう?何で平気なんだ?何が俺達と違うんだ?」
 「ああ、何だ……そんなことか?」
 「そんなことだと!?」
 「ああ……どうしても知りたきゃ、教えてやるよ。」
 「何だと?」
 「そんなこと、俺が知るかー!!」
 「馬鹿な!!」
 それがスパインの最後の叫びとなった。
 茂は、倒れているスパインの足をつかむと叫んだ。


 「超電ジェット投げ!」


 スパインの足をつかんだまま、茂はぐるぐるとものすごい勢いで回転を始めた。

 一方、敬介はスパインをシザースにぶつけた後、ジャンプ。スパインとぶつかった後、倒れこんだシザースの背後に回り込んだ。
 「このカイゾーグ!」
 叫びながら振り返ろうとしたシザースであるが、敬介によって後ろから腕を固められて攻撃態勢に入れない。
 「さっき、俺は言ったよな。お前の甲殻がどんなに堅くても、やりようはあると。それをこれから証明してやる。」
 「何を!?ふざけるな、俺の後ろから抱きついているだけで何ができるというんだ?」
 敬介は、シザースの声には耳を貸さず、シザースの体を固定している腕の力をさらに強めつつ、叫んだ。


 「真空地獄車!!」


 言うと同時にシザースを抱えたままジャンプ。それから、真っ逆さまに落下してシザースの頭部を地面にたたきつけ、そこからさらに回転を繰り返す。回転の度に、シザースの頭部は最初と同じく、何度も地面にたたきつけられていた。
 そして、最後は弱ったシザースの体を天空高く蹴り飛ばした。
 それと同時に、スパインを振り回していた茂も手を放し、シザース同様スパインの体も天空高く舞い上がる。
 茂は、それを追って、高くジャンプ一閃。
 スパイン、シザース、両者よりも高く跳び上がり、彼から見て、スパイン、シザースが同軸上に重なったところで


 「超電ドリルキック!!」


 空中で体を激しく叫び声の通り、ドリル状に回転させると、スパイン、シザースに。
 巨大なドリルそのものと化した茂の体は、スパイン、シザースの体を一気に貫通。茂が着地する頃には、両者の体は空中で白い泡、分解酵素に包まれて消滅してしまっていた。
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Memorial Apricot Pie (22)

書き溜めていた分を、昼休みにこっそりアップ(笑)

アーカイブは、こちら→ Memorial Apricot Pie

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 サチの飛び蹴りによって、スパインの体は大きくはじけ飛んだのであるが、飛び蹴りを放った側のサチも無事ではなかった。
 「ああああ……。」
 悲鳴ともうめき声ともとれない悲痛な声をあげ、足を抑えているサチ。
 綾子は、すぐにサチにかけより、その足を見るが……。
 「やはり……。」
 と、サチの足をその履いている白いソックスをおろしながらつぶやいた。
 サチの足は、赤くはれ上がっていたからだ。
 「だから、まだ早すぎると言ったんだ。サチ、あんたの体はまだあんたの能力を受け止めるには幼すぎるんだよ……。たぶん、あと五年位の期間は必要だと思う。」
 「岡部さん、痛い……。」
 「ああ、ごめんよ、サチ。」
 綾子の手が触れていることすら痛いのだろう、サチが訴えるのに、彼女は足に触れていた手を慌てて離した。
 「でも、これは……たぶん、時間をおかないと治らないよ。」
 そして、いまはサチをゆっくり休ませることができる状況ではなかった。
 シザースは勿論、たったいまサチによって吹き飛ばされたスパインもまた健在だったからだ。
 「よくもやってくれたな。」
 怒りに震えるスパインは、立ち上がりつつ、その手に自身の掌から精製した鞭と思しき緑色のつたを握りしめていた。
 そして、そのつたを勢いよくふるい、サチの首に巻きつけた。
 「ガキと思って容赦してやれば!!」
 スパインの怒声とともにサチの小さな体は宙を舞い、勢いよく地面にたたきつけられる。
 サチは、悲鳴を上げることもできない。
 いや、生身の人間なら即死してもおかしくないほどの衝撃だったのだ。
 「やめろ!!」
 サチとスパイン、両者の間に綾子が割って入るが
 「どけ!!」
 スパインは、叫びながら、もう一度つるをふるい、今度は綾子の首にそのつるを巻きつけた。
 そして、つるを引き、綾子を自分の側に引こうとしたのだが
 「何!?」
 そのつる、緑色の鞭は綾子の手によって引きちぎられた。
 「ドクター、お前は……。」
 呆然とするスパイン。苦痛のため、うめき声をあげながら、何とか顔をあげたサチも、その光景に呆然としていた。
 スパインの鞭を引きちぎった綾子の腕。
 彼女の右腕は黒い剛毛におおわれ、その手先には鋭い爪が光っていた。
 その腕はまぎれもなく獣の腕。
 最も形状的に近いものは、猫の腕だろうか?
 スパインの鞭を引きちぎった綾子、そしてその右腕であったが、綾子はすぐにその腕を押さえ苦痛に顔を歪ませながら膝まづいた。それと同時に腕の黒い剛毛も抜け、手先の形状と合わせて元の形に戻っていった。
 「岡部さん!岡部さん、どうしたの?」
 自分も立ち上がれないことを忘れたかのように、綾子を気遣うサチに、彼女は脂汗をたらしながらも何とか笑顔を作る。
 「心配いらないよ、サチ。一時的なものだ。」
 「岡部さん、その手、どうしたの?」
 「代償だよ……清崎さんの体を再調整するには、新しいナノマシンが必要だったし、それを開発するためには、臨床実験が必要だった。だから……。」
 その後は、清崎が引き継いだ。
 「だから、おかみさんは、自分の体を実験台に使ったんです……。」
 「そんな……。」
 呆然とするサチに、綾子はその頬を撫でながら
 「ふふ、いまのあたしは出来そこないの改造人間もどきさ。言っただろう、サチ。あたしはひどいやつだったって……。こんなの当然の報いなんだよ。清崎さんの体を再調整したって、あんたの世話をしたって、あたしの罪は消せやしない。」
 「岡部さん……。」
 綾子の姿に涙するサチと清崎。
 しかし、その姿もスパインにすれば、哄笑の対象でしかないようだった。
 「ははは!こいつはいい。マッドサイエンティストにはお似合いの結末だな、ドクター、あんた自身が出来そこないの改造人間というわけだ。こいつは傑作だ!」
 笑い続けるスパイン、そのスパインの哄笑に対し、サチの怒りの声が再びこだまする。
 「笑うな!!岡部さんを笑うな!」
 もはや立ち上がる力もなく、叩きつけられた衝撃で傷だらけ、髪もシザースによって切り落とされてはいても、その小さな体は怒りに震えていた。
 「岡部さんは……岡部さんは……わたしのお母さんなんだ!!」
 サチは、怒りに震えるその身を起こそうとするが、現実のダメージは深く、立ち上がれないまま何度も地面に這う。そして、その姿がまたスパインの哄笑を呼んだ。
 「ははは!自分を改造したこの女を“お母さん”だと!?いや、実に感動的だな。なぁ、ドクター岡部。なかなかうまく手なづけたものだ。」
 笑いながら、スパインは自分の前に立ちはだかる綾子を腕のひと振りだけで吹き飛ばす。
 「岡部さん!」
 サチが悲鳴にも似た叫びをあげる中、綾子は声を立てることもなく、その場に倒れ落ちる。
 「じゃあ、ガキ。もうお母さんの痛々しい姿を見なくて済むように俺が始末をつけてやるよ。」
 言いつつ、サチの正面に立ったスパイン。その全身を覆うトゲの一部が音もなく伸び始めた。
 「やばい!」
 シザースと対峙しているストロンガー、城茂はその光景を見て焦りを露に。
 「このマツバ野郎!ちょっと、こいつでもくらってろ。」
 叫びつつ、茂は拳を握りしめ、いままで以上に力を込めた一撃を叫び声とともに打ちはなった。


 「電パンチ!!」


 激しい打撃音とともに電流火花が飛び散り、瞬間的にではあるが、スケールがたじろいだ。茂はその隙に、スパインとサチの元に飛び込む。
 一方、スパインは自身の体に生えたトゲの一部をサチに向け
 「あばよ、出来そこないのガキ。」
 そう笑いながら、トゲをミサイルのように発射。
 無数のトゲが、サチめがけて飛んで行くその軌道上、
 黒い影が飛び込んできた。
 「ぐわぁ!!」
 上がった悲鳴は、サチのものではなく、城茂のもの。
 サチに向かって放たれた無数のトゲは、いま彼の背中に刺さっていた。
 「へっ!間一髪というところか。おい、お嬢ちゃん、流れ弾は当たっていないかい?」
 茂は自分の体にスパインのトゲがささっているというのに、サチの身を気遣っていた。その光景にサチは呆然として、ただ頷くことしかできなかった。
 「そうか、良かったな。なぁ、嬢ちゃん、もう少し辛抱しな。俺がこいつら残らずぶちのめしてやるからよ。それまで、嬢ちゃんには指一本触れさせねぇ。」
 そこまで言うと茂は、改めてスパインに向き直り
 「このサボテン野郎。好き勝手言っているんじゃねえぞ。お前にこの子達を笑う資格なんてねえ。」
 と宣言。
 そのトゲだらけの背中を見たサチは、思わず呟いていた。
 「どうして?」
 「あ?」
 サチの呟きの意味が分からず、問い直した茂にサチは叫ぶようにして逆に問う。
 「どうして?どうして助けるの?助けてくれるの?見てたでしょう?わたし、改造人間なんだよ。あいつらと一緒なんだよ。」
 「何だ、そんなことか。」
 「そんなことって……。」
 「改造人間って言うなら、俺も同じ。これはおあいこだな。へへっ……。」
 仮面の為に表情は見えないが、その笑い声にはスパインと違って、いやな感じはまったくなかった。
 「それに、嬢ちゃんは子供だろう?しかも女だ。俺はな……目の前で女に死なれるのは、もういやなんだ。」
 ただ、最後の部分だけは、さびしげな声であった。
 しかし、その茂の言葉もスパインにとっては、哄笑の対象でしかないようだ。
 「ははは、全く馬鹿な話だな。ガキをかばって野垂れ死にするつもりか?伝説の戦士様が?まぁ、それでもよかったな、ガキ。最後に“女”扱いしてもらえたぜ。」
 「きゃんきゃんうるせえんだよ。」
 そのスパインの哄笑に対し、茂は静かに怒りを込める。
 「おめえは、俺がぶちのめすんだからよ。あんまり喋っていると、殴られた時に舌を噛むぜ。」
 「ふん!出来るものならやってみるがいい。」
 せせら笑いを浮かべながら、スパインは再びその全身を覆うトゲを茂とサチに向けた。
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Memorial Apricot Pie (21)

とりあえず、今回はプチX篇
前回のソニックプレッシャー発動後のエピは、次回アップ分にて。

いままでのお話は、こちら→Memorial Apricot Pie
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 一方、蛾の特性を持つ改造人間であるスケールに行く手を阻まれていたXライダーこと、神敬介。
 彼は、スケールの攻撃を交わしながらも、その動きをじっと追っていた。
 そして、スケールの高度がやや下がりつつあるところを見計らうと
 「ライドルロープ!」
 手にしていた万能武器ライドルの赤いグリップのボタンを押すと、棒状だったライドルの形状は長いロープに。
 そのロープを、鞭をふるう要領でスケールの足元めがけ振るった。
 「何だと!?」
 狙いすましたその一閃は、スケールの足首に巻きつき、敬介はそれと同時に地を蹴った。
 「おのれ!」
 自身の足元に巻きついたそのロープを振り払おうとするスケールであるが、その動作を同じく空中に身を置く敬介は許さない。
 自分とスケールとを結ぶロープを強く引き、敬介はスケールとの距離を縮めつつ、一旦落下。そこから、もう一度、先ほどよりもさらに強く地を蹴り、今度はよりスケールとの間を詰め、一気にスケールの背に迫り、叫びつつの飛び蹴りを一閃。


 「エックスキーック!!」


 悲鳴を上げながら、落下するスケール。
 地に落ちたスケールを見て、敬介はさらにもう一度ジャンプ。
 今度は、ジャンプの最高高度で一旦大きく手足を伸ばし、Xライダーの名の通り、Xを連想させる体制に。そこから空中回転しながら、姿勢を整えつつ再度の飛び蹴り。


 「エックスキーック!!」


 結果としての二段蹴り。
 深海開発用改造人間、カイゾーグとして、深海の圧力にも耐える強化されたその人工骨格と人工筋肉の生み出すパワー、そのパワーを集約した敬介の蹴りは、スケールの体を簡単に砕いた。
 断末魔の声を上げる間もなく絶命するスケール。
 その蛾の特性をもった改造人間の肉体は、すぐに白い泡につつまれ、跡形もなく消え去った。
 スケールの最後を見届けた敬介は、落ちていた自分の武器、ライドルを再びベルトに収納すると、
 「茂……。」
 と呟き、サチ、綾子、清崎、そして、城茂とスパイン、シザースがいる脇の通りへと急いだ。
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Memorial Apricot Pie (20)

さて、13号ちゃんプロジェクト特別篇たる「Memorial Apricot Pie」も、20回目。
想定したよりも遥かに長い話になりました。我ながら本当に悪い癖ですね。最初から読まれている方にとっては、実に迷惑なお話です(^^ゞ
現在、バトルの真っ最中ではありますが、このお話で本当にやりたかったことは、ここを超えた部分であります。
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 スパイン達の前に立ちはだかる様に現れた赤いシャツの男。
 着けていた黒い革製のグローブを脱ぎ捨てて顕になった彼の手は、隙間なく銅線が巻かれていた。
 「コイル?そうか、噂で聞いたことがある。改造電気人間だな。お前も俺達の仲間ということか。」
 スパイン、いまはサボテンの特性を露にした改造人間のリーダーが口にした言葉に、男は激しい拒絶感を示した。
 「お前らと一緒にするな!俺は城茂、お前らをぶちのめす為にやってきた男だ。」
 叫びながら、城茂と名乗った男は露になった両手のコイルを高々と上げ、
 「変身ッ!」
 その両手を激しく交差させた。
 「ストロンガー!」
 激しい火花が周囲の空間を焦がすと、城茂の姿は見る見るうちに変わっていく。
 全身が黒をベースとしたスーツに覆われ、その頭部はこれまた黒いマスクによって覆われていく。マスクには、神敬介同様の赤い複眼。ただ、そのセンターライン、人間でいえば、鼻筋に当たるラインにはカブトムシの触覚を連想させる形状の赤い突起が見える。さらに、胸元から肩口にかけてはアメフトのそれを連想させる赤いプロテクター。プロテクターの中心部には、彼が身につけていた赤いシャツ同様に大きく「S」の一文字。
 「天が呼ぶ、地が呼ぶ。人が呼ぶ。」
 余剰エネルギーなのか、茂の背後からは変身前を上回る火花が立ち上る。
 「悪を倒せと俺を呼ぶ。」
 そして、茂は握り締めた拳を突き上げる。
 「俺は、仮面ライダーストロンガー!!」
 名乗りを上げた城茂、いまは仮面ライダーストロンガーと名乗った異形の戦士は、スパインとシザース、二人の異形をそれぞれ睨みすえ
 「さてと……どっちからぶちのめして欲しい?」
 と呟くと、再びサチの姿を見る。
 「そうだな、最初は……。」呟きながらも、茂は既に駆け出していた。「やっぱり、カニシャブ野郎からだな!」
 倒れこんでいるサチを飛び越え、一気にシザースとの間を詰めた茂は、目にもとまらぬ速さで拳を一閃。
 轟音が響きわたるが、茂、シザースともに不動。
 ややあって
 「いってぇ~~!!」
 自身の拳を押さえながら、茂はシザースから少し離れた。
 「このタラバ野郎、馬鹿みたいに硬い甲羅しやがって。」
 「ははは!」その茂の様子に、シザースは甲高い笑い声を立てる。「俺の甲殻は特別製なんだ。簡単に傷つけられると思うなよ。」
 シザースの笑いと余裕の発言に対し、睨み返す茂。仮面のせいで表情は見えないが、彼の周囲の空気に、一瞬殺気が増したように見えた。
 「ふん!だったら、それなりにやりようはあるんだぜ。」
 「はっ!カイゾーグと同じことを言うな!」
 「ほう、先輩も同じことを言っていたのかい?さすがだな。」
 「出来るものなら、やってみるがいい。」
 「後悔するぜ。」
 至近距離で罵り合い、睨みあう茂とシザース。その両者を離れたところから見ていたスパインは
 「シザース、お前はそこでやつの足を止めていろ。その間に、俺はドクター岡部を。」
 と言いつつ、綾子に近づいて行く。
 その状況に対し、
 「あ、てめ、このサボテン野郎、ずるしてるんじゃねえぞ。」
 と茂が叫ぶ中、素早く動いたのはサチ。
 両手を広げて、綾子とスパインの間に立つ。
 「岡部さんを連れて行くな!!」
 いつしかその瞳は赤く輝いていた。
 「どけ小娘。ドクター岡部も、そしてお前も、よりふさわしい場所に連れて行ってやろうというんだぞ。」
 「やだ!」
 「ええい!」
 スパインは、苛立たしげにそのトゲだらけの腕を荒々しく振り、サチを殴り飛ばそうとしたようだが……。
 サチは、素早い動きでそれをかわす。
 「このガキ!」
 「岡部さんは連れていっちゃだめ!岡部さんは……岡部さんは……。」言いつつ、サチは再び体当たり。しかし、今度のそれは、変身したスパインには通じず、シザースの時と同じく逆に跳ね飛ばされてしまった。
 それでも……。
 「やだ!」
 サチは立ち上がる。その瞳の赤い輝きはさらに激しくなる。
 「ここがいい!岡部さんと一緒に、ここがいい!」
 「ふ~……。」スパインは、大きなため息をつき、自身の掌をじっと見た。すると、そこから緑色の突起物が現れ、見る見るうちに大きくなり、あっという間にトゲだらけの小ぶりな棍棒に変わっていった。「聞き分けのないガキだな。仕方ない。やはりお前には消えてもらうか。」
 その様子を見た茂は
 「てめえ、お前の相手は俺だろうが!子供相手に何する気だ!?」
 叫びつつ、スパインとサチのところに向かおうとしたのだが
 「へっ!お前の相手はこっちだろうがよ!」
 シザースに行く手を阻まれて、近づくことができない。
 「お前を消して、ドクター岡部は連れて行く。」
 言いつつ、その緑の棍棒を振るおうとしたスパインであるが、
 「やめて!この子に手を出すんじゃないよ!」
 そのスパインに飛びかかったのは、綾子。
 「あたしがあんた達についていけばいいんだろう?そうしたら、この子も清崎さんも見逃してくれるんだろう?」
 叫びながら、その手にスパインの全身を覆うトゲが刺さるのにも構わず、スパインに抱きつくように懇願する綾子。
 「ねえ、この子には手を出さないでよ。」
 スパインは、懇願する綾子をじっと見て、その口元に笑みを浮かべる。明らかに蔑みの笑みだった。
 「かつてのマッドサイエンティストも落ちぶれたものだな。こんな実験素材に情が移ったか。」
 「昔の話だよ。」
 「なら、思い知るんだな。あんたの過去がこのガキを殺すってことを。」
 必死でしがみつく綾子を、スパインが振りほどこうと腕を上げた時、ここに清崎が飛び込んできた。
 「やめろ!」
 「ジジイ!お前まで!」
 「お嬢、逃げろ!」
 「清崎さん!」
 スパイン、綾子、清崎の声が、交差する中、
 「畜生!どけ!ケガニ野郎!」
 変身した城茂の焦りの声とそれを嘲笑うシザースの声が響く中、
 「うわー!!」
 鳴き声ともとれるサチの叫びが響き渡った。
 「わたしは、ここがいい!ここで、岡部さんと清崎さんと一緒がいい!」
 その叫びに、一瞬、綾子も清崎も、そしてスパインまでもが動きを止めた。
 「ここで、岡部さんと清崎さんとケーキ屋さんで暮すんだ!和菓子屋さんや豆腐屋さんに遊んでもらうんだ!お前なんかに邪魔されてたまるか!」
 そして、サチはスパインを改めて睨みつけた。
 「お前なんか、どっか行っちゃえ!」
 そこまで言うと同時に、サチは駈け出した。瞳の色が、さらにひと際赤く輝く。
 一連のサチの動きに危険を察知したスパインは、しがみつく綾子と清崎を力づくで振り払うが、その動作もサチの動きに対しては追いつかなかったようだ。
 サチは、スパインの眼前でジャンプすると、その足を伸ばしたままスパインに突進。飛び蹴りの体勢である。
 その飛び蹴りがスパインに当たるか否かの瞬間、サチの叫びが再びこだまする。


 「アタック!!」
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Memorial Apricot Pie (19)

最後の答え合わせ
スパイン=サボテンでした。
ライダー風に言うなら「サボテグロン」
この段でようやく、城茂再登場。

しかし、毎度のことながら、お話が長くなるのは私の悪い癖だな。
人に読んでもらうためには、もう少し簡潔にするのが本当なのでしょうが……。
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 一方、綾子たちは……。
 眠りに就いた杏子は清崎が抱き抱え、敬介に促された通り、店の外に出て、とりあえず最初の角を曲がったところにいたのだが、その足はそこで止まっていた。
 眼前を一人の男にふさがれていたからだ。
 男は、“スパイン”と名乗った。
 「ドクター岡部、俺と一緒に来てもらう。大人しく従ってくれれば、手荒なことはする気はない。その男と娘は見逃してやってもいい。ただ……。」
 スパインの口元が吊りあがった。
 「あんたのあの秘蔵っ子、改造人間の小娘についてはできれば、あんた同様俺達の雇い主のところに連れて行きたいんだがな。」
 「雇い主?」
 「そうだ。俺達改造人間を雇ってくれる相手となると、あんたにも見当がつくんじゃないか?」
 「やれやれ……。」スパインの回答に綾子は大きくため息をつく。「まさか、いまの時代の秘密結社なんてところからちょっかい出されるとはね。」
 「ドクター、あんたも俺達の側の人間だ。いまさらこんな‐‐。」とスパインは、周囲の商店や家屋を見渡す。「まっとうな人間の暮らしをしようなんて、虫が良すぎるんじゃないかな?」
 このスパインの言葉に、清崎が反応。
 抱いていた杏子を、近くの商店のシャッターにもたれさせると、ずいとスパインと綾子との間に立つ。
 「だからと言って……。」と呟く清崎の言葉には、明確な怒りが籠っていた。「誰でも、自分たちの側に引き込もうというのは、少し話が違うのではないか?」
 言いつつ、清崎は来ていたグリーンリバーの制服を脱ぎ、上半身裸になると、
 「グググ……。」唸り声をあげて、その身を屈ませる。
 「いけない!清崎さん、駄目だ!!」
 清崎の一連の動作を見ていた綾子は、血相を変えて制止するが……。
 「ぐわっ!!」
 一瞬、上半身に灰色の体毛が生えかけたように見えた瞬間、清崎はいきなり悲鳴をあげてその場に倒れこんでしまったのだった。
 「何だ?」
 これには、スパインも怪訝な顔。
 「駄目だよ、清崎さん。あんたの体はまだ調整中なんだ。いまは、能力を使えないんだよ。」
 「しかし、おかみさん……。このままでは……。」
 「あんたを危険な目にあわせたんじゃ、サチがあとで悲しむだろう。あんたもあの子から見たら、家族の一員なんだ。」
 この綾子と清崎のやりとりを見守っていたスパインは、突如として大きく笑い声をあげた。
 「ははは!そうか、そういうことか。そこの爺さんも俺達のお仲間か。まぁ、スケールの鱗粉を浴びて動き回っているんだから、当然といえば、当然だな。それに“調整”なんて言っているということは、ドクター、あんた、まだ“現役”なんだな。」
 スパインに対し、綾子も清崎もにらみ返すことしかできない。
 「まぁ、いい。とりあえず、爺には用はない。さっさと用を済ませるとするか。」
 言いつつ、スパインの手にはいつしか緑色の巨大な刺が。
 「あばよ、爺さん。」
 その巨大な刺を振りかざした時、綾子と清崎の背後から、子供の掛け声が聞こえてきた。
 「うわあああああ!!」
 長い黒髪を振り乱し、猛烈な勢いで駈けてくるのは……。
 「サチ?」
 サチは、戸惑う綾子と清崎を背後から楽々と飛び越え、勢いそのままにスパインに体当たり。
 「何だと!?」
 そのまま弾き飛ばされるスパイン。彼とサチとの体格差を考えると、ありえない光景だった。
 「くっ、ドクター岡部の秘蔵っ子か!?」
 倒れこんだまま、サチの小さな体を見据え呟くスパイン。
 「岡部さんと清崎さんをいじめるな!!」
 そのスパインを睨みながらサチは叫ぶ。そして、その視線は一旦背後の綾子と清崎に。
 「岡部さん、この人相手なら、わたし、思いっきり“力”を使っていいんだよね。」
 「駄目だ。サチ!」
 「どうして?」
 思いもよらぬ綾子の回答に、サチは戸惑う。
 「あんたには、まだ早いんだ。」
 「どうして!?」
 そうした二人のやり取りの間にも、情勢に変化は起こる。
 「よう、スパイン、思ったよりも手こずっているようだな。」
 その声に振り向いたサチは、目を大きく見開いた。そこには、赤い甲殻にからだを覆われた巨大なカニの姿があったからだ。
 シザースである。
 「シザース。見ての通りだ。ドクター岡部と一緒に秘蔵っ子の改造人間も、と思ったが、抵抗するようなんでな。」
 「始末してしまっていいのかい?」
 「やむをえまい。時間はかけられんからな。」
 「了解だ。」
 そして、シザースはゆっくり踏み出し、自身の腕、いまは巨大なハサミと化した腕を振り上げた。
 「悪いな、嬢ちゃん。お前を始末してから、そのドクター様をいただいて行くぜ。」
 そこまで言うや、シザースはハサミを構えたまま、サチに向かって突進。対してサチは、振りぬかれたハサミはぎりぎりのところでかわし、再びスパインにしたように体当たり。ただ、そのかわし方がぎりぎりであったため、サチの長い黒髪はシザースのハサミによりばっさりと切り落とされてしまった。しかも、その体当たりも先ほどのスパイン相手の時とは違い、シザースを弾き飛ばすまでには至らず、逆にサチの方が大きく跳ね返されてしまった。
 「嬢ちゃん、さすがに凄いパワーだが……俺をふっ飛ばすまでには行かないな。」
 余裕で語るシザースだが、そのシザースの後ろからまたも何者かの走ってくる足音。
 「今度は何だ?」
 不審に思いつつ振り返るシザース。そのシザースの視界が捉えたもの、それはスニーカーの底だった。
 「何だと?」
 うめくシザースお構いなしに、そのスニーカーの主は、彼の頭を踏み台にしてひと跳び。サチと綾子も飛び越えて、スパインの眼前に立つ。
 「にゃあ!」
 着地と同時に猫の鳴き声。
 「あの人は……。」
 その後ろ姿と頭に張り付いた茶トラの猫。サチの記憶にも新しいある人物の姿。
 「全く、へんてこな薬ばらまいてまで騒ぎやがって……。」ぶつぶつと言いながら、自分から見て前後の位置関係にあるスパイン、シザースの二人を睨みつけながら、サチに頭の上の猫、アゲダマのことを尋ねた男だった。「おかげで、お好み焼食べそこなったじゃねえか。」
 同意するように、猫ももうひと鳴き。
 「覚悟しろよ、食い物の恨みはこえーぞ。」
 「ふん、またも闖入者か?全く、つくづく邪魔ばかりしてくれる。」
 男の姿を見たスパインは、言いつつ羽織っていた上着を脱ぎ捨てる。いつしかその顔にはいくつものトゲが浮かびあがっていた。
 「さっさと始末させてもらう。」
 そこまで言ったところで、スパインの顔は緑色に変色し、シャツを突き破って無数のトゲが。
 「ほう、そっちは“サボテン”かよ。」
 スパインの異形への変わりようを見ても、男の方には恐れを抱いている様子はない。
 「サボテンにカニか。楽勝だな。お嬢ちゃん、安心しろ。さっさと片付けてやるからよ。」
 言いつつ、男の視線は倒れているサチに向かうが、サチを見た途端、男の表情がこわばった。
 「お嬢ちゃん、その髪、どうした?誰に切られた?」
 そう言いながらも、男の視線は倒れているサチと、彼から見てサチの後ろにいるシザースに向かう。
 「そうか、カニミソ野郎か……。」
 男は、怒りを込めてそう呟くと、握りしめた両の拳をガンと合わせる。瞬間、火花が男の周囲に飛び散った。
 「てめえら、運がなかったな。俺は、食い物を粗末にするやつと女に手を出すやつは許せない性分でな。」
 男の怒りに反応してか、頭の上の猫、アゲダマまでが「しゃーっ!」と威嚇の声をあげつつ路上に飛び降りた。
 「お前ら、骨の髄まで焦がしてやるぜ!」
 そこまで言うと、男はつけていた黒いグローブを脱ぎ捨てた。
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