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起き抜けに思いついた小ネタです

某企業の残業にまつわる一連のアレコレの報道を見ていて思いついた。

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 「午後十時以降は社内の照明をすべて落とすことにした。これを以て、社員の残業、オーバーワークへの抑止としたい」
 とある大手企業の役員はプレスの前でそう宣言した。
 これで、異常な残業は減っていくのか、報道を目にした人の中にはそう楽観視する人もいたが……


 「夜十時に灯りを落とす。しかし、帰って良いとは言っていない」
 とある大手企業の各フロア、各セクションでは、幹部社員が部下達にそう告示した。
 (それは真っ暗闇の中でも仕事をしろということか?)
 社員一同そう思いはしたのだが、誰もそれを口にすることは出来なかった。
 この告示のあった日以降、
 真っ暗な中仕事をすることに耐えかねた社員が、フロアの灯りが点けられないならと小型のスタンドライトを持ち込んだのだが、灯りが漏れていることが噂になり、その社員は幹部達から激しく叱責され、手当をカットされた。
 仕方なく、皆真っ暗な中仕事をし、PCモニタの光も漏れないように暗幕を被せた中で仕事を進めていった。
 やがて、皆夜目が利くように眼球の構造が変わり、蒸し暑い中で無理矢理作業を進めていた為に皮膚はただれ、果てしなく続く作業の為にやせ細っていった。
 いつしか、その企業の一般社員達は、暗闇の中で光る目を持ち、ただれた灰色の肌とやせ細った手足を持つ者ばかりになり、いつしか「人間」と呼べる社員は一人もいなくなった。
 妖怪ばかりになった社員達は、もう思考能力を失い、手当を請求することも、待遇改善を求めることも忘れ、ただただ言われるがままに業務をこなし、言われるがままに、幹部や経営者の為の宴会をセッティングしていった。
 この状況に、幹部も経営者も大いに満足し、これこそが理想の会社だと喜んでいたのだが、自分達の頭部に小さな角が生えてきたことに、この企業にもう誰一人として「人間」がいなくなったことに、幹部と経営者の誰一人として気づいていなかった。

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深く追求されると困りますよw

リハビリ兼下書きみたいなもの

タイトルは後で考える・・・

 僕には歳の離れた妹がいた。
 妹は小さな頃から「兄ちゃん」とたどたどしい声で僕の後ろをついてきたものだ。
 女の子の人形を抱えながら。

 セルロイドで出来た古びた青い目の女の子の人形。
 それは、祖母の代以前からあったもので、どういうわけか妹は両親が買ってくる新品の玩具よりもその古びた人形がお気に入りだった。
 妹が物心ついた頃、僕はちょうど高校受験を控える中学三年生だったのだが、僕が机に向かって勉強している横で人形相手におままごとに興じていたものだ。
 ただ、その「おままごと」を妹がどこで憶えてきたのは、考えてみれば不思議な話だった。僕と妹の住んでいた実家の辺りは今でも光回線が届いていないほどの田舎で、まわりに妹に近い年代の女の子なんかいなかったし、当時三歳だった妹はまだ幼稚園にも通っていなかったのだ。
 両親に聞いてみたが「誰かに教わったんでしょう」ということで話が終わるだけ。
 「教わった?誰に」と僕は疑問に思ったのだが、「TVにでも出てきたんでしょう」という両親の説明に、そんなものかもしれないと無理矢理自分を納得させていた。
 そして、時は移り、妹は幼稚園に通うようになり、やがて小学校に通うようになった。
 この間の妹の成長は、僕たち家族から見るととても目覚ましいものがあった。
 とにかく、色々なことに早熟だったと言っていい。
 文字の読み書き
 ものの名前
 そうしたことを、同年代のどの子よりも早く憶え、僕たち家族を驚かせていた。そのことに気づいた親類の一人が「よく勉強してるのね」と感心して見せたが、当の妹は素っ気なく「教えて貰った」としか言わない。
 誰に?と聞いても「内緒」としか答えない。
 不思議に思っている僕たち家族だが、それ以上に追及はせず、この問題は有耶無耶なまま終わっていた。
 そして、妹が小学校の三年生にあがった時、事件は起こった。

 妹が交通事故に遭ったのだ。
 それはあまりにも理不尽な事故、いや犯罪だった。
 飲酒運転の車が、通学途中の児童の列に突っ込んできたのだった。
 その列の中には妹がいた。
 即死だったという。
 事故が起こった当時、大学生だった僕は実家を出ていたのだが、急遽戻った実家では悲嘆にくれた両親の姿を見るのがとても辛かったことを今でも憶えている。
 身内だけの慎ましい葬儀の中、納棺となった時、当時まだ存命だった祖母がかって彼女のもので、妹のお気に入りだった人形をそっと妹と一緒に棺の中に入れた。
 「我が家の女の子の守り神みたいなものだったんだけどね……せめて、あの世でこの子を守ってあげてね」
 祖母は泣きながら妹とともに自分自身が幼少の頃ともに遊んだ人形に別れを告げた。

 我が家にとって一番辛くて哀しい時期だったその日から一週間と経たないうちに、妹を轢いたドライバーが心臓発作で死んだことを知ったのは、それから随分経ってからのことである。


 そして今、僕は大学を卒業した後、大学のある街でそのまま就職し、伴侶を得て新しい家庭を築いていた。子供も生まれ、今年で三歳になる。
 妹が亡くなって以来、僕は実家に帰るのが何となく躊躇われていた。
 実際、帰省したのも、就職の準備と祖母の葬儀の時、その二回だけだ。
 ただ、子供が生まれたこともあり、いい機会だからと妻に奨められ、妻と子を連れ夏の休暇を利用して一度帰省してみることにした。
僕達家族を両親は歓迎してくれたし、孫に当たる娘相手には祖父母らしく相好を崩して見せた。
 久しぶりに母の手料理に舌鼓を打ち、父とビールを飲み交わし、妻と子が寝ている部屋に足を踏み入れた時、僕は強烈な違和感にとらわれた。
 娘の寝ている布団が不自然に膨らんでいるのだ。
 娘を起こさないように気を遣いながらそっと布団を剥いでみると、そこには――

 かつて祖母が、妹が大事にしていたあの人形が、妹とともに火葬場で焼かれた筈のあの人形があった、いや、いた。

 何だか悪い夢を見ている感覚に陥った僕は以後のその夜の記憶がない。
 ただ、古びた人形とともに遊ぶ娘の姿に、妻も両親も何の違和感も感じていないようだった。
 まるでそれが当たり前の景色のように。

 いま、僕の娘はその人形に色々なことを教わっている。

古くて広い家

仕事中、突発的に思いついたものをまとめてみた。
「死んだ女房の幽霊と暮らす男」というワードが閃き、それをもとに書いてみました。習作というか下書きみたいなものです。
タイトルは、本エントリタイトルそのままで

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古い町並みの奥の奥、曲がりくねった路地の奥にその家はあった。
古い町並みに似合った古い家。
何度にも渡る建て増しや改修の名残か、古い木造の建屋とあちらこちらに近代建築素材の混じり合った雑然とした外観は、雑多な町並みに似合っていた。
そのちぐはぐな古い家に彼は一人で住んでいた。

最初から一人だったわけではない。
彼にだって父親がいて母親がいた。
しかし、両親ともに彼が学校を卒業して暫くしてから息を引き取った。
葬儀には親戚らしい人の姿は見られず、どちらの葬儀もひっそりとしたものだったという。
他に兄弟もおらず、たった一人で両親を看取った彼は、二人の死後、喪が明けるをまっていたかのようなタイミングである女性を妻に迎えた。
彼の妻となった女性は、奔放な男性遍歴の持ち主だったらしく、彼の両親が健在であったなら、交際には難色を示すタイプの年上の女性だったという。
口さがない近所の年寄りの声はあったものの、夫婦仲は良好だった為、仲の良い若夫婦であると好意的な声の方が多数を占めていた。第一、口さがない連中の多くは高齢だった為、一人また一人とそうした声を発していた者達は順々にこの世を去って行った。

しかし、幸福な時間はそうは続かないもので、今度は妻が彼の元を去る時が来た。
突然、体調を崩した彼女の妻は、原因不明の高熱を発し、彼が仕事を休んでまでつきっきりで看病したのにも関わらず、発熱して数日でまだ若いその命を散らした。

両親を亡くし、妻を亡くした彼はそれでもその古い家からは離れなかった。
勤務先からは遠く、地理的にも決して便利とは言えないその家について、職場の同僚や友人達は手放して別の場所に住居を移すことを薦めたりもしたのだが、彼は頑としてそれを拒んだ。

両親や妻の思い出が詰まっているその家から離れたくないからなのか?

つきあいの古い友人がそう尋ねたところ、彼はこう答えた。

思い出ではない、妻とはいまも一緒に住んでいる、と。

最初は、家の近くで妻の若い頃、彼が彼女と初めて出会った頃の少女の姿を見かけたことから始まったという。
何度も何度も、家の近くでその少女を見かけ、一度声をかけたところ、その少女は逃げるように姿を消したという。
それから、遂に彼の家に妻が姿を現したのだという。
彼の妻、亡くなった筈の彼女は、生前そうであったように彼の帰宅を迎え入れ、何をするというわけではないのだが、彼のすることをいつもじっと見守ってくれているのだという。
ただ、その時々で表情は変わるのだという。
仕事の話をすると、哀しそうな顔をし、そうではない他愛のない中身の話をすると、とても楽しそうな顔をするという。
彼は、生前の妻の笑顔が好きだったので、出来る限り他愛のない楽しい話を家の中で心がけ、時には彼女の好きだったおかずを自分の分と合わせて二人分食卓に並べたりもしていたという。

一度、彼の暮らしぶりを見るために、古い友人が彼の家に泊まったことがあるが、その夜、彼は延々と他愛のない世間話を誰もいない部屋の片隅に語りかけ、友人の分と合わせて「三人前」の食事を食卓に並べ、誰も手をつけることのない料理を並べた席に延々と語りかけ続けたという。
その夜が切っ掛けとなって、彼の周囲からはまた人が去って行った。

そして、ある日のこと。
「そろそろ潮時かなぁ……」
彼がたった一人で住まう広い家の天井裏から、一人の少女が姿を現した。
彼が家の近くで見かけたという亡き妻の若い頃に似ているという少女であった。
「ここなら、昼間誰もいないし、家が広い割にはおっさんが一人暮らしだしで、隠れて暮らすにはもってこいの場所だったんだけど……」
その”おっさん”は、延々と独り言ばかり言っているし、まるで幽霊を相手にしているみたいにふるまっているしで、見ていて気持ち悪くて仕方ない。
「まぁ、別にここを出て行ったとしても、住むところには不自由しないだろうからね」
何しろ、いまは少子高齢化社会。広い家に一人で暮らしている中高年世代の人間など、いくらでもいる。一人暮らしでは、家によってはとても家の中全てにまで目を光らせるのは厳しいものだ。特に古い家でかつ住人が現役の勤労世代となると。
少女は、そうした古くて広い家に隠れ住みながら生きてきたのだった。
「出て行く前に……もらうもの、もらって行こうかな」
少女は、世帯主である彼が平日何時に家を出て、何時に帰ってくるのか知り尽くしている。だから、安心して家の中を物色することが出来た。
「この家のおっさん、稼ぎはいいみたいだからね、どこかに現金を直し込んでいると思うんだけど……」
もれ聞こえてくる彼の話からすると、彼の仕事はどこかの大きな製薬会社の研究機関らしい。
どこかにあるであろう現金に期待をしつつ、箪笥の引き出しや収納庫の中をあさってみたものの、目に入るのは薬品の瓶や実験器具らしき道具ばかり。
「どうして、この家って、こんな薬ばっかりなんだよ」
不平を漏らしつつ家捜しを続ける少女は、ようやく書類の束が詰まった引き出しを見つけ出すことが出来た。
このあたりかな?と多少の期待を込めて、引き出しごと箪笥から引っ張り出し、中の物色を始めたが--
「何?ノート?」
そこには、色々な公的な書類とともに化学式が記載されたノートが一冊。そして、三人の名前が表紙に書かれたノートが三冊。少女は知らないことではあったが、そこに書かれた名前は、彼の両親と妻の名前だった。そして、名前の下には「臨床記録」と記載されていた。
「何だこれ?ページ毎に日付がつけられてる?」
目当ての現金が見つからなかった為、少女はがっかりと肩を落とした。少女には化学式の意味も、臨床記録に書かれた内容も理解出来なかった。
途方にくれた少女の目が棚に置かれたあるものを捉えた。
亡くなった彼の家族、両親と妻の写真が収められたフォトスタンド。
吸い寄せられるように少女は、その三枚の写真、ことに妻だった女性の写真に顔を近づけ、まじまじとその顔を覗き込んだが……
「何だ、言うほど似てないじゃん」
彼に姿を目撃された時、彼は自分のことを若い頃の妻に似ていると言っていたが、少女自身から見る限り、似ていると思える部分はない。
「若い女を見たら、何でも自分の女房の若い頃に見えていたのかね?」
死んだ女房恋しさのあまり、かなり精神が病んでいたのかもしれない。
そう考えてから、少女はぶるっと軽く身震いし、やはりもう引き上げ時なのだという思いを強くした。仮に現金を見つけることが出来なかったとしても、もうここに長居をするべきじゃない。
そんなことを思う少女の背に何かがあたり、「え?」と声をあげる間もなく、その細い体は何ものかの腕によって強く締め付けられた。
少女の体を締め付けたその腕の主は、少女を古く広い家の暗い暗い奥の間へと引きずっていった。

誰もいない「筈」の家の中、少女の悲鳴に応える者もなく、高齢化と人口減少の進む町内ではその悲鳴を聞く者もいない。
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小ネタ二つ

以前、サイト内の「小説未満」というコーナーにあげた「IT企業と妖精さん」の続きを突発的に思いついた。少し反省している。

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IT企業と妖精さん part2

あるところにあるIT企業に、女神様の命を受けた小人達がまたやってきました。
IT企業に勤める人達の相変わらずの激務ぶりに小人達は驚き、また決心しました。

「私達の力で今度こそ何とかしてあげよう」

しかし、相手は現代の不夜城IT企業、おとぎ話のように相手が寝静まるのを待っているわけには行きません。
そこで小人達は思い切って正面切って人間達に助力を申し出ました。
この申し出は、人間達をたいそう喜ばしました。小人達は、人間達の笑顔に満足したのですが・・・・・・

「こんな進行で納期に間に合うと思ってるのか」
「コーディングもまともに出来ないのか」
「仕様にはないけどさ、ヘルプ画面のマスコットをアニメーションで動かしてよ、で、ついでに喋らせて。タダで」

人間達の要求には限りがなく、小人達は皆憔悴しきった為、女神様のご加護を与えるどころではなかったということです。

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IT企業と妖精さん part3

あるところにあるIT企業に、女神様の命を受けた小人達がまたまたやってきました。
IT企業に勤める人達の変わらないどころか、更に悪化した激務ぶりに小人達は嘆息し、またまた決心しました。

「私達の力で今度こそ何とかしてあげ・・・・・・られたらいいな・・・・・・」

今回も正面突破でしたが、前回とはIT企業側の経営者が変わっていることに小人達は気がつきませんでした。
ただ、今回は最初から激務を予想していたので、小人達は、夜食、着替え、寝袋等々一式持ち込んでの仕事入りでしたが・・・・・・

「死ぬまで働いてこそ、本当に働いたと言うことなのです」
「役に立てたと心から思えたら、お金なんか欲しいと思えなくなるのです、それが本物の仕事というものなのです」
「ここでの仕事には、法律なんか意味がないんですよ、というより、私(経営者)が法律なんです。私の言うことだけ聞いていればいいんです」
「ここでの仕事は修行です、だから給料なんか貰えるなんて思ってはいけませんよ」

小人達が何度も訪れたIT企業は、いつのまにかブラック経営者に乗っ取られていました。
そのあまりのブラック環境に憔悴し、絶望した小人達は、呪いの言葉を吐きながら立ち去ったそうです。
おかげで、IT企業は今日も呪われたままなのでした。

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こんな感じで進めたい

アイオン再構成後の始まりはこんな感じで、メインヒロインのスズカはこんな感じで進めたいと思っている。


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 少女がテッポウユリの花に水を掛けていると、そばに控えるボーダーコリーが小さくうなり声を上げた。
 「どうしたの、ナサニエル?」
 ボーダーコリーを「ナサニエル」と呼ぶのは、背中まで伸びた長い黒髪と大きな黒い瞳が印象的な少女。細い腕を伸ばし、人で言えば頬にあたるところ、長毛種の犬ならではの飾り毛を腕同様細い指先で撫でながらナサニエルを宥める。
 「あなたがそんな怖い声を出すなんて珍しい。また森の狐が庭に迷い込んだのかしら?」
屈み込んで愛犬を撫でながら周囲に目を配るが、特別異変らしきものは見当たらない。
 「別におかしなところはないよ、ナサニエル、あなたお腹減っているの?」
 少女がそう言いながら鼻先に顔を近づけると、ナサニエルは甘えるようにピスピスと鼻を鳴らした。
 「ふふ、何?何を甘えているの、ナサニエル?」
 くすくすと笑いながらナサニエルの飾り毛を撫でていると――
 警戒態勢への移行を知らせるアラートが鳴り渡り、船外監視カメラからの映像を映す仮想ディスプレイがスズカとナサニエルの周囲にいくつも立ち上がった。仮想ディスプレイに映し出されたのは、少女のいる庭の外側、さらにその外側の世界――真空の宇宙空間だった。ディスプレイの中の宇宙空間の中央に赤い正方形が浮かび上がり、その正方形がぐんぐんと拡大、さらにその正方形の中に新たに赤い正方形が生まれ、その正方形もまた拡大、その中央に銀色の物体があるのが見える。
 「拡大率はこれがほぼ限界ですが、こちらの軌道より二天文単位の距離に人工の物体を確認しました。九十パーセント以上の確率で、人類の作った宇宙船と思われます。単極子エンジン固有の空間振動も感知」
 少女は緩やかな黄色い長袖のワンピースを纏っているが、その右手首の袖口に巻かれた銀色の細いブレスレットから、状況を報告する男性の低い声が発されていた。
 「危機管理システムの警戒レベルを二ポイント引き上げます、スズカ、コマンダースーツに至急着替えることを推奨します」
 スズカ、と声に呼ばれた少女は、呼びかけに応じず、じっとディスプレイを凝視。
 「スズカ、キャプテン・スズカ、コマンダースーツの準備と今後の運行指針を--」
 「コリン」
 スズカの呼びかけがコリンの声を遮った。
 「あれ、人類の船なの?私の船と随分と違うね」
 「サイズが全く異なりますので、用途等も当船とは異なるもののと推察、ただし、地球発祥人類の建造物とはいまだ確定には至らず。ただ、空間振動のパターンと外観から考察される技術背景に共通点は多数」
 「どこの誰が作ったんだろうね」
 「不明」
 「面白そうな設計だね」
 「回答不能」
 スズカと声――コリンと呼んでいた――との会話は成り立っているようで成り立っていない。彼女の興味はコリンが報告する宇宙船の形状に集中しているようだった。
 「コリン、この全長60キロを越える都市型宇宙船の全てを司る処理能力を持つ人工知能であるあなたがそれだけ不明瞭な回答をするなんて珍しいわね。いままでたった一人でこの宇宙船にいる私の先生役を果たしてくれたのに」
 「スズカ、あなたと同族の可能性が高い相手であるだけに、私は慎重にならざるを得ません。人類同胞との邂逅は必ずしも善いことばかりではない、むしろ悲劇的結末を辿ることが多いことは、あなたに講義した通りです。私にとっては、あなたを守ることこそが最優先事項であり、ロボット達の行動の基本原則なのです」
 「ありがとう、コリン。あなたとロボット達に感謝を」
 「感謝を受け入れます、スズカ」
 「この船とあなたとロボット達を遺してくれた父様と母様にも感謝するわ」
 スズカがコリンに感謝を述べ、両手を組んでいまここにはいない両親への感謝の祈りを捧げたところで、傍らのナサニエルが面白くなさそうに一吠え。
 「ふふ、ナサニエルにも感謝してる」
 ナサニエルは満足げに尻尾を振った。
 「ナサニエルだけじゃなくて、この船にいる全ての機械と命に感謝しているわ。勿論、森の狐さんにもね」
 そうして、スズカはまた画面の中に浮かぶ正体不明の宇宙船に視線を移す。
 「この宇宙船って・・・・・・全体的には細長くて・・・・・・四つの円筒がくっついているけれど、あれ多分ブースターだよね。コリン、空間振動はあの四つの円筒に集中していない?」
 スズカの関心は画像から分かる範囲での宇宙船の形状に集中していた。スズカの問いにコリンは簡潔な回答を返す。
 「肯定」
 「だとすると、あの四つとも大きさから言って単極子エンジン内蔵なのかも・・・・・・主推進機は船体中央に配置されている筈だから、もしかして五つ?五つの単極子エンジン?一基だけで超空間航行を可能にする単極子エンジンが五つ?何それ?そんな莫大なエネルギーどうやって制御しているの?どれだけの加速力が得られるの?」
 もともと大きめなスズカの黒い瞳が好奇心の為にいっぱいに広がっていく。
 「凄い・・・・・・凄い!凄い!あれが全部単極子エンジンだとしたら・・・・・・そうか、船体との接合部に隙間がいくつも見えるから・・・・・・パンタグラフ構造になっているのね!エンジンそのものを動かして軌道制御しているんだ!もし私の考えている通りなら、とんでもない運動性能・・・・・・中の人間は耐えられるの?それとも、無人?」
 「有人宇宙船同士で用いられる公式英語による通信が傍受されています。地球発祥人類との推察はその使用言語より。会話に規則性は乏しく、おそらくは有人船かと」
 「だったら、宇宙船内部の慣性制御はかなり高度なプログラム・・・・・・そうじゃないと、あの四本の大型ノズルの説明がつかない。こちらと同程度の技術水準だとしても、あの大きさといい、周囲からの反応といい、単極子エンジン以外には考えられない。その四本ともに、船体の接続にはパンタグラフを使って稼働可能な構造としているし・・・・・・それだと、一体あの船はどれだけの加速能力と軌道修正能力を持っているのよ!それに耐えるジョイント構造・・・・・・ああ、ねえコリン、あのパンタグラフ部分の映像、もっと拡大出来ないの!」
 スズカは時間経過とともに興奮状態に陥っていった。自分の右手首のブレスレットにかける口調は、ほとんど怒鳴り声に近くなっていく。
 「現在の拡大率が限界。偵察用ポッドの使用も可能ですが、こちらの位置を把握される可能性があります。また、現在対象の宇宙船よりの無人ポッドに相当すると思われる観測機器が多数あり、危険管理レベルを上げつつ、ステルスモードへの移行と維持を推奨」
 「無人ポッド?」
 「形状としては、無人航空機に近いもの。有人機としては、構造、サイズともにあり得ません」
 「航空機って、大気の中で飛ぶ為の乗り物のことよね?データでだけは見たことある。この中にいると、航空機なんて必要ないし」
 スズカは、大気のある惑星の上で暮らしたことは勿論、行ったこともない。彼女は、いまいる世界の中から出たことは生まれて以来一度としてないのだ。
 「航空機の使用自体は、小型機に限れば、本船内部でも可能。プラントブロックでの製造組立には設計を含めて六時間が必要」
 「別にわざわざ作らなくてもいいよ」
 「了解」
 「コリン、無人ポッドが来るのなら、いま惑星上で活動している資源採集ロボットは、全て撤収させておいてくれない?無人ポッドが航空機の形状に近いってことは、翼があるってことでしょ?」
 宇宙空間を移動するためだけなら、「翼」など必要ない。スズカは、無人ポッドが惑星大気の中でも動き回ることを想定して、航空機型のポッドを射出したのだと考えたのだ。そして、いまスズカのいる船がその船体を預ける軌道の惑星には大気と水があった。あいにくと大気組成がスズカやナサニエルが生きて行くには適さない為に、降下する気にはならなかったのであるが。
 「今更だろうけど、撤収すれば、運良くやり過ごすことも出来るかもしれないでしょ?活動を継続することで、わざわざ相手に見つかる必要もないんだから」
 「了解した。完全撤収には約五時間必要。完全撤収を要求するか?」
 「そんなには待てない。完全撤収というのは、どこまでのことを指すの?」
 「現在採集済みの水と鉱物資源の全ての回収、降下させたロボット全機の撤収、プラント施設で精製中の全生産物資の回収、プラント施設の解体と回収」
 「そこまで徹底する時間はないわ」
 スズカは唸りつつ腕を組んで思案した後
 「資源と水の量はもう目標数値分以上確保出来ているんでしょう?」
 とコリンに尋ねた。
 「肯定」
 コリンの回答は簡潔である。
 「ロボット達の帰還だけならどれくらいで可能?この場合、惑星大気圏下のプラント施設も物資も放置という前提で」
 「一時間とかからずに可能」
 「いまの条件に、プラント施設のデータの全削除を含めればどうなるの?」
 「一時間と二十分」
 「だったら、それでお願い。物資は放置で構わないし、プラント施設はデータのみ削除で回収はなし。ロボット達の帰還を最優先してちょうだい」
 「了解」
 「ロボット達に“お疲れ様”って伝えておいてね」
 最後にそう指示を出すと、スズカは表情から緊張をわずかに緩め、またまじまじと正体不明の宇宙船の映像を見つめ始めた。少しの間、そうして集中していた彼女だったが、気になったことがあるらしく、またコリンを呼び出した。
 「ねえコリン、あの船体中央で広がっている花弁?・・・・・・いや、帆かな?それとも殻?あれ何だと思う?」
 スズカが言うものは、正確には映像に映った宇宙船の中央よりやや後ろ側を起点にして広がる貝の殻のような構造物。それは、四枚構造でいまは広がっているが、おそらくは船体の先端部分までを覆うに足りるだけの大きさと開閉構造を有しているものだとスズカは判断した。だから、彼女は、花弁や殻という表現を用いたのだった。
 「周囲に重力反応と光エネルギーの集約を確認。おそらくは、単極子エンジンの空間歪曲効果を利用して恒星よりの輻射エネルギーを吸収しているのではないかと推察」
 「はー、設計した人は色々考えているね・・・・・・単極子エンジンと繋がっているなら、構造的に考えて、あれ、そのまま防護壁の強化にも使うことを私なら考えるな」
 心底感心したようにスズカは腕を組んで唸る。
 「防護壁兼用だとしたら・・・・・・それに五基の単極子エンジン・・・・・・コリン、あの宇宙船の大きさはどれくらい?」
 「光学観測により、全長約二百メートルと判断」
 「なら、あの四つのノズルの大きさはざっとみて四十メートル強・・・・・・そんな大型ノズルを主推進機と併せて五基、それに船首方向への外殻強化・・・・・・あの船、まさかあの大きさで亜光速での運用まで想定されているんじゃ・・・・・・」
 スズカがそこまで口にした時、全ての仮想ディスプレイが消失し、同時に先ほどよりも一段高いトーンの警告音が鳴り響いた。
 「警告、対象の宇宙船の射出した無人ポッドが本船の待機する惑星軌道上への接近コースをとった模様、また無人ポッドとは別に対象宇宙船と同規模質量の宇宙船の接近を感知」
 「何?」
 「無人ポッド、同規模質量宇宙船より発射されたレーザーにより撃破・・・・・・これより、最初に発見された要監視対象宇宙船をアンノウンA、同規模質量宇宙船をアンノウンBと呼称」
 「BがAの装備を破壊したと言うこと?」
 「肯定」
 「何なの?」
 不安に駆られて出たスズカの呟きに応える声はなく、代わりにキャタピラ音が彼女に近づいて来た。
 「ゴンザ」
 スズカが名を呼び、ナサニエルは尻尾を振って、その近づく者の出現を迎えた。
 「スズカ、コリンの推奨通り、コマンダースーツに着替えて緊急式体勢に移行することを提案する」
 キャタピラ音を響かせながら一人と一匹に近づいて来るのは、丸い頭部を持つグレーな塗装を施されたロボットだった。スズカに声をかけた後、ゴンザと呼ばれたロボットは彼女の眼前で反転、スズカにその背を向けた。
 その背には、彼女の手のサイズに合う大きさのフックが二カ所、そして、キャタピラ直上のフレーム部分、人間で言えば腰に当たる部分にはステップに相当すると思われる突起があった。スズカが慣れた様子でフックに手を、ステップに足を載せるとゴンザはキャタピラを勢いよく回転させ、スズカを載せたまま庭を駆け抜けていき、ナサニエルはその後を追って元気よく駆けていったのだった。
 「スズカ」
 庭を走るゴンザが背中のスズカを呼ぶ。
 「何、ゴンザ」
 「コリンより新たなデータの伝達、傍受した通信より、最初に発見されたアンノウンAの船名と思しきものが判明」
 「船名・・・・・・船の名前・・・・・・何ていう名前なの?」
 「シュヘラザード、自由戦艦シュヘラザードと自らを呼称」
 「シュヘラザード・・・・・・」
 その名を耳にしたスズカは、思案した結果、自身の中にある知識からある意味を見つけ出した。
 「シュヘラザード・・・・・・設計した人がつけた名前なのかな?」
 これは、スズカにとっては独り言のようなもので、特に回答を期待したわけではないのだが
 「不明」
 とゴンザは素っ気ない回答を返した。ただ、もともと答えを期待したわけではなかったので、スズカはその回答をほとんど気にすることなく、一人満足げに頷き、くすくすと小さな笑い声を漏らした。
 「シュヘラザード・・・・・・ふふふ、シュヘラザード・・・・・・ねえ、ゴンザ、コリンに伝えてくれない、最初に見つけた宇宙船のこと、アンノウンAなんてコードはやめて、ちゃんとシュヘラザードと呼びましょうって」
 「提案を受諾」
 「あの船が、この出逢いを素敵な物語として語ってくれるお相手であることを祈りましょう、コリン、ゴンザ」
 一人そう呟き、自分とゴンザの後を追って走るナサニエルを見やり
 「ナサニエル、あなたもそう祈っていてちょうだい」
 と語ると、期待に満ちた笑顔を前方に向けた。
 「シュヘラザード、自由戦艦シュヘラザードか・・・・・・自由戦艦ってどういう意味なんだろう?素敵な意味だったらいいいな」
 その笑顔は、悲劇など信じない力強いものだった。
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ほのぼのインモラル(4)

さて、その4だ。

ほのぼのインモラル(1)
ほのぼのインモラル(2)
ほのぼのインモラル(3)

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 去り際にまた背後からドサリと鈍い音。
 死も再生も陳腐化され、町にはローコストな命が溢れていた。


 駅前広場から歩いて十五分ほどの場所にある十階建てのマンション。その八階に私の借りている2DKの部屋がある。
 「ただいま」
 言いつつドアを開けると、視界に入ったのは散乱した部屋。
 誰が犯人なのかは、考えるまでもない。
 嘆息しつつ、奥へ入っていった私を迎えたのは――
 「何だよ、遅えじゃねえかよ」
 半ズボンで毒づく五才にも満たない半ズボンを履いた男の子。
 私の「彼」である。
 「ごめん、ちょっと役所に寄っていて・・・・・・おなか減った?」
 「別に・・・・・・そんなんじゃねえよ」
 ふて腐れたようにそう答える彼だが、これはウソだ。
 いくら中身が大人でも、体が子供であることには変わりない。
 新陳代謝は大人に比べて活発だし、当然空腹感に襲われるのも早い。そして、食の嗜好にしても、どうしても甘いものに偏りがちである。こればかりは、生理的なものなので、どうしようもない。
 「役所の近くでお菓子買ってきたの。いま開けるね。マドレーヌ、好きでしょ?」
 トートバッグから袋を取り出した私に
 「別に、好きじゃねえし・・・・・・」
 と憎まれ口を叩く彼だが、その目はしっかりと菓子袋に食いついていた。間違いなく、空腹のようだ。
 「お茶・・・・・・ううん、カルピス出すね」
 いまの彼に合う飲み物を出す為にキッチンに向かう私の背後で、ガサガサとビニール袋を開ける音。
 「もう!」
 我ながら、苛立ちと気怠さが同時に現れた声になってしまっていたと思う。
 「行儀悪いよ。子供じゃないんだから」
 「悪いな、子供だよ。見た目通りだ」
 マドレーヌを口いっぱいに頬張りながら、彼は私の目を見ることなくそう答える。
 「都合のいい時だけ、子供を主張して・・・・・・」
 いままで何度こうしたやりとりをしたことだろう。
 嘆息混じりな私を見ると、彼はにやりと笑って
 「何だよ、そう落ち込むなよ」
 と言いつつ、私の首から肩にかけて腕を回そうとする。
 大人だった時の彼のお決まりの仕草だった。大人だった時なら、そのまま私の胸にまで腕が伸びるのだが――
 ただ、子供の体ではきれいに回すことは出来ず、私からすれば小さな手が手持ち無沙汰げにぶらぶらとしているのが見えるだけだ。
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さて、こいつが片付いたら、可能ならば、読んでくださった方がもれなく近くの壁をぶん殴りたくなるような甘々なお話も書いてみたい。
そう、このお話の小学生バカップルあたりを主人公にして(笑)

ほのぼのインモラル(3)

第三弾
そろそろ、人によっては不快に感じる描写が出てくるかもです。
まぁ、露骨にグロやエロをする気はないですが。

いままでのものはこちら

ほのぼのインモラル(1)
ほのぼのインモラル(2)

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 クローンであの”子供らしさ”・・・・・・
 おそらく、であるが、この子(というべきか)は私にその事実を伝えることで、私をがっかりさせたかったのではないかと思う。
 しかし、結果は逆だ・・・・・・
 「そう・・・・・・いいことを聞いたわ。ありがとう」
 女の子の言葉にある確信を抱いた私は多分満足げな笑みを浮かべていたと思う。
 私の表情を見上げた女の子は不思議そうに首を傾げた。
 ああ、それなりに“歳”を重ねても、私の本心までは見えないようね。
 ところで、この女の子はどうしてあの男の子のことを知っていて、なお一緒に居ることが出来ているんだろう。
 ふとそう思った私の考えを読んだように、女の子は離れた場所でボール遊びに興じる男の子の姿を目を細めて眺めつつ
 「あたしさぁ、いまあいつと同じ施設にいるんだよ」
 とぼそりと語り始めた。
 彼を見つめるその目は、友達というよりも・・・・・・
 「以前、というか、リセットする前は、あたしとあいつ一緒に暮らしていたんだよね。あいつ、昔から変に頭のいい奴でさ。何だか、あたしには分からないことで色々と抱え込んでいたみたい。本当、頭がいいくせに変なことで不器用でさ。子供の頃から何も変わっていなかった」
 彼女の語りは、私に聞かせると言うよりも、まるで自分自身に言い聞かせているかのよう。そう、自分自身と彼の過去を忘れないために。
 彼が忘却の彼方に押しやり、彼女だけが抱え込んだ記憶を忘れないための一人語り。
 「子供の頃からずっと一緒で、気がつくと大人になったら一緒に暮らしていた。で、部屋に戻っていたら・・・・・・」
 あとに続く答えは、聞かなくても大体の見当はついた。
 「で、あとは」と彼女は、自分の手首を私に向けて、また乾いた笑顔を浮かべた。これで、彼女がどういう方法で死を迎えたのかが分かった。「まぁ、後追いというやつね。あたしも気が動転していたんだろうね。ただ、遺言であいつと一緒にリセットするなら、同じ施設で、という希望は出していたから、いまはあいつと同じ施設に居るわけ。あたしもあいつも近親者はいなかったから、施設行きなのは見当ついていたしね」
 そう、いまの時代、彼女達のようなケースがあるため、養護施設は本当の意味で身寄りのない子供とリセットして子供になった者達との比率はほぼ同数という状態になっていた。このことは新しい社会問題になりつつある。
 本当の子供と、大人だった頃の記憶を引き継いだ見た目だけの子供とが同じ場所、同じルールで暮らしていると、色々と難しい問題が生じてくるものだ。
 「ただ、あいつが過去の記憶を消しちゃっていたのは予想外だったな・・・・・・でも」と語る彼女の顔には、先ほどまでの乾いた笑顔とは違う柔らかな笑み浮かんだ。「その分、あたしがしっかりしていればいいんだし。いまはちょっとしたお姉さん気分を味わっているよ。あいつを守ってもあげられるしね。本物の子供なんかに負けやしないし」
 「そう・・・・・・じゃあ、いまは幸せなの?」
 私がそう問うと、彼女は「さぁ、どうなのかな?」と首を傾げた。
 「不幸だとは思わないけど・・・・・・ただ、あいつ本当に中身は子供になっちゃったからさ。ちょっとつまんないこともあるよね。股を開いてみせたって不思議そうにしているしさ」
 「ちょっと・・・・・・変なこと、いまから教えているんじゃないでしょうね?」
 私が顔をしかめると、
 「あたしもあいつもろくな育ちじゃなかったからさ。つい、そういうことしちゃうんだよね。一応、気をつけている積もりなんだけどね」
 と言いつつ、舌を出した。その顔が“無駄に”可愛らしい。
 「でもさ、この小さな体でもさ、股を開くとそれなりに“金”になるんだよね。本当、世の中どう変わっても、変態はいるもんだね。いい小遣い稼ぎになっているよ」
 金を出す相手は大人なのか?それとも中身が大人な子供なのか?それは、怖くて聞けなかった。
 私と女の子が語らっていると、ボール遊びをしている子供達の中から泣き声があがった。どうやら、先ほどの男の子のようだ。
 「あいつ、また!」
 声がした途端に、女の子が血相を変えて飛び出していく。どうやら何があったのか、彼女には見当がついているようだ。
 「てめえ!このクソじじい!」
 飛び出した彼女は、猛烈な勢いでやや体の大きな男の子に殴りかかる。
 「二度とするな、って言っただろうが!何してくれてんだ?潰すぞ、こら!!」
 彼女に鼻先を殴られた男の子は、
 「うっせえよ!子供同士の喧嘩に口を出しているんじゃねえよ。ばばあ」
 と倒れたまま、鼻を押さえながらそう抗弁するが――
 「あ?ざけんじゃねえよ!」と彼女は、凄みながら、倒れた相手の股間を踏みつけた。「こっちも子供だろうが?そっちこそ、中身はじじいだろうが?何なら、いまからこの貧相なイチモツ潰して使い物にならないようにしてやるか?あん!?それとも、いまこの場でリセットさせてやろうか?」
 およそ子供同士の喧嘩とは思えない罵倒に私は目をそらした。
 とても嫌なものを見た、と思うと同時に、絶対にああはなるまいとも思った私は、まるで逃げるようにして、足早に駅前広場から立ち去ったのだった。
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ほのぼのインモラル(2)

つづきです。前のものはこちら

ほのぼのインモラル(1)

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 駆け込み・・・・・・そういえば、私自身もそれを狙っている側の人間だとは言える。
 一緒に暮らしている彼との関係に関し、私はいま役所にある届けを行って来たところなのだ。
 今後、彼とどういう関係を続けていくかを決める大事な手続きを――
 考えながら歩いている私の足元にボールが転がってきた。
 そのボールを追いかけて来る男の子の姿が目に入ったので、私は屈み込んでそのボールを拾い上げ
 「はい」と駆け寄ってきた男の子に手渡した。
 「おねえさん、ありがとう」
 男の子は、惚れ惚れするような笑顔で私からボールを受け取ると、ボールを持ったまま仲間の子供達の元に走って行った。
 可愛い男の子・・・・・・でも、私の「彼」の方が可愛らしいかな?
 でも、さっき見せた屈託のない笑み、あのいかにも子供らしい笑みからすると、あの男の子は「本当の子供」なんだろうか?
 そんなことを考えていると、くぃくぃとスカートを引っ張る小さな手の存在に気づいた。
 いつの間にそこに居たのだろうか?
 先ほどの男の子と同じくらいの年格好。小学校に上がる前くらいの女の子がそこにいた。
 「何?」
 尋ねる私にその女の子は、ニッと不敵な笑みを浮かべ
 「ねえ、これ」と指二本をつきだして見せた。「持っていない?」
 何のことか分からず首を傾げる私に
 「あー、分からないかな?たばこだよ、たばこ」
 とふて腐れたように答えた。
 「ごめん、私、吸わないから」
 「何だよ、使えねぇな」
 この口の利き方といい、たばこを求めることといい、この女の子の方はクローンなのだろう。やはり、「本当の子供」とは違う。見た目は可愛らしい子供でも、中身は大人なのだ。いや、ひょっとしたら「老人」の可能性だってある。
 「さっきの子とは大違い・・・・・・」
 私の口からつい本音とも言うべき言葉がついて出る。すると、それを耳ざとく捉えた女の子は
 「あははは・・・・・・」
 毒々しい、およそ子供らしくない乾いた笑い声をあげた。
 「そうだね、そりゃ、そうだ。あいつは“子供”だもんね」
 「そうね。“本物の子供”はやっぱり違うわ」
 「“本物の子供”・・・・・ねぇ・・・・・・」
 女の子は、呟きながらもなお笑いをやめない。
 「ねえ、嬢ちゃん」
 女の子は挑むような目つきで私を見上げる。それにしても、いまの私、三十にもなろうかという私を捕まえて「嬢ちゃん」呼ばわりとは、この子は本当は“いくつ”なんだろうか?
 ピンクのカーディガンにエンジ色のミニスカートに白いハイソックス。見た目だけなら、とても女の子らしい装いだと言えるが――
 「いいこと教えてあげるよ。さっきの子、あいつ、あたしと同じ“歳”だよ」
 女の子が続けて言った内容に、私は目を丸くする。その私の反応が面白かったのか、女の子はまたニヤリと口元を歪めた。
 「あいつさぁ、リセットする時、過去の体験記憶は消してくれって遺言に残していたんだよね。で、お役所も律儀にあいつの記憶、全部消しちゃって、いまじゃあの通り、普通の子供と変わらないってわけ」
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ほのぼのインモラル(1)

参加している「書き込み寺」企画用として考えていたが、どうもテーマからはそれそうだ。
それでも、思いつくまま、とりあえずじわじわと仕上げてみようと思う。
タイトルはまだ未定。

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 駅前の広場は、子供達でいっぱいだった。
 キャッキャッとはしゃぐ子供達の声を聞いていると、何だか弾んだ気持ちになってくる。子供は可能性の塊だ。どういう大人になるのか、いまの段階では想像できない。例え、彼らの子供時代が何度もやり直されたものでも、だ。


 昔、この国は少子化に悩んでいた。
 当たり前である。
 子供を育てるのに適した環境を、社会が供していなかったのだから。
 そのことを社会、国家が認識、反省し、体制を大きく見直したのが数十年前のこと。
 しかし、その時には、全てが手遅れになっていた。
 同時進行で超高齢化社会が到来してしまっていたから。
 少ない若年層に頑張って貰うには、もはや何もかも手遅れだったのだ。
 しかし、そこは技術立国。
 問題点をテクノロジーによってカバーすることに成功した。


 ひとつはクローニング。
 西欧圏では禁忌の技術とされていたこの技術も、この国ではそこまで大きな問題とはならず、独特の進歩を遂げていた。
 ただ、クローンは所詮は複製。
 できあがった複製の体は、あくまでも塩基配列に基づいたコピーに過ぎず、タンパク質の塊に過ぎなかった。その体を動かすソフトウェア、古来より「魂」と言われるものは作り出せなかったのだ。
人間の手では「ガフの部屋」は手に入らなかった。


 そこで登場したテクノロジーがDNAコンピュータである。
 と言っても、本当に塩基配列だけで動くコンピュータというわけではない。
 実際には、人間の塩基配列に近い塩基素子コンピュータと電子デバイスとの組み合わせによって演算処理を行うコンピュータであり、これは実用化の目処が立つと同時に猛烈な勢いで小型化が進んだ。
 結果、それは人間の体内に納めされるほどの大きさにまで小型化され、いまに至る。
 小型化と人体へのインプラント、それは先ほど述べたクローニングにおける問題点の解決のためである。
 「ガフの部屋」は手に入らなかった。ならば、元からあるものを利用すればいい。
 人体に埋め込まれたDNAコンピュータは、本人の脳とともに情報をため込み、処理していく。完全なもう一つの脳として。
 そして、本体が寿命を迎えた後、DNAコンピュータは取り出され、新しい体に移されるのだ。
 新生児となった体に。
 いままでの人生の経験値とともに。
 人格というソフトウェアとともに。
 まさに人生の再生である。


 こうして、二つのテクノロジーを両輪として、町には子供が溢れるようになった。
 同時にこれは実質的な「不老不死」の実現でもあった。
 故に、現代では人の命の価値は著しく軽くなった。
 グシャリと嫌な音が近くでした。
 また、駅ビルからの飛び降り自殺のようだ。
 最近、とみに増えている気がする。
 その為か、周りで騒ぐ人はいない。
 発見した駅の職員だろうか?まだ二十歳そこそこ(と言っても多分実年齢はかなり高齢)と見える青年が、露骨に嫌な顔をして、携帯電話を操作している。死体処理を関係機関に依頼しているのだろう。
 何か特別な事情でもない限り、死体からはDNAコンピュータが抜き出され、また新しい体に移される。
 そうして、新しい人生を再スタートさせるのだ。
 このところ、このリスタートを狙って、意図的に人生をリセットする者が増えてきた。政府の方でも問題視し始めており、意図的なリセットに対しては何らかのペナルティを科すべきという声もあがり始めている。
 そのせいか、「駆け込みリセット」とでもいうべき自殺が増えているのだ。
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仕上げたものを、アイオンか13号の続きと一緒にアップできればいいが

アイオン、プロト

まぁ、こんな感じで徐々に進めています。
これは、始まりの部分ではないのですが・・・・

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 それはゼリーを思わせるゲル状の物体だった。
 そのゲル状の物体の一部、下から見上げている者たちからすれば頭頂部にあたる部分がグニャリと盛り上がったかと思うと、
 「あーあ、これじゃ、全然訓練にならねえよ」
 三人の人物が姿を現した。
 声を発したのは、その中で一番背が低い少年だった。
 年の頃はまだ十歳くらいだろうか?
 頭を丸刈りにした瞳の大きな活発そうな少年。
 「いや、太郎、仕方ないですよ。というか、太郎、明らかに狙っていたでしょう?」
 その少年、彼を太郎と呼ぶのは、姿を現した三人の中では身長は中間といったところか、十代後半と思われる少女だった。その少女が、明らかに自分よりも大柄な男性を抱えている。しかも軽々と。
 少年と少女がともに顔を剥き出しにしているのに比して、男性の方はヘルメットをかぶっており、その表情は見えないものの、見るからにぐったりとして、少女に抱えられるままになっていた。
 「折角、二人目の“適合者”になってくれたかもしれない人なのに荒っぽい操縦をして・・・・・・」
 「荒っぽいもんか!」
 たしなめる口調の少女の意見を太郎は一蹴する。
 「あいつが乗っても、アイオンは反応しなかったじゃないか。それに、あれくらいの動きでダウンする奴がアイオンに乗れるわけないだろ?現に俺もクレハもピンピンしているじゃないか」
 「いや、私はほら、特別ですから・・・・・・」
 クレハと呼ばれた少女が手をふりながら苦笑しつつそう答えていると、三人の立つ位置に向け金属製のタラップが伸び、その先には――
 「太郎、クレハ、またやってくれたな?」
 外見的な年齢は十二,三歳といったところか。太郎よりも少しだけ年かさに見える少女がそこにいた。銀色の髪を両端でまとめたツインテールに、気の強そうな眼光、タラップに立つ彼女は、腕を組んで仁王立ちのまま、太郎とニャンを睨み付けていた。
 「銀花・・・・・・」
 銀花(ギンカ)というのが、その少女の名前なのだろう。彼女を見た途端、太郎は顔をしかめた。
 一方、銀花の方は太郎が自分の名前を呼んだのとほぼ同時にタラップを飛び降りると、
 「シュヘラザードに乗っている時は――」
 言いつつ太郎に近づくや、その頭をつかむと
 「“副長”と呼べと言っているだろうが――」
 言うやいなや、ゴンと鈍い音がして、太郎はその場で尻餅をつきつつ崩れ落ちた。
 銀花が太郎に頭突きをしたのだった。
 「痛ってぇ・・・・・・何すんだ、銀花!」
 目に涙をためながら、尻餅をついたまま文句を言う太郎。一方、頭突きをした銀花の方は表情一つ変わらない。
 「副長だ・・・・・・」
 銀花は最初に姿を見せた時同様、全くの無表情なまま、また顔を近づけると
 「きちんと呼ばないと・・・・・・また剥くぞ」
 「ひっ!」
 太郎が見た目によらない小さな悲鳴をあげるや、銀花はさらに顔を近づける。
 「全裸に剥いて、また艦内を引きずり回すぞ」
 「何だよ、それ!」
 太郎の抗議も銀花は全く意に介していないのだろう。ここでも表情は全くといいほど、変化しない。
 「大体、今回の大事なクライアントである“正規軍”から派遣されたパイロット相手にむちゃくちゃな操縦をして・・・・・・確かに、プライドが高いだけで、無能で根性なしのヘタレで、適正ゼロで、厄介者の穀潰しだったが、それとこれとは話が違う」
 「お母様の言い方の方がひどい気がします・・・・・・」
 横で聞いていたクレハが顔を引きつらせる。しかも、彼女は銀花を“お母様”と呼んでいた。見た目の上では明らかにクレハの方が年上なのにも関わらず。
 「聞かれたらどうするんですか?」
 「心配するな。こいつは――」と銀花は、クレハが抱きかかえる“正規軍”の士官をさして「気絶している。聞かれる心配はない」
 「心がけの問題です」
 「何だ、私の娘にしては、随分とお堅いことだな。そんな風に“作った”覚えはないのだが」
 「これでも私、日々成長してますからね。実際、もう背丈とか諸々はお母様を抜いてますし」
 胸を張って堂々と語るクレハだったが
 「馬鹿め、お前は生まれた時からその姿だ」
 と銀花はにべもない。
 「とにかく、艦長からの指示を伝える。二時間の休憩の後、再度偵察任務を続行せよ。どの道、軍のお目付役がこの有様では同乗は出来ないだろうからな。荷物のない分、思いきり“アイオン”を動かしてこいとのことだ」
 「本当か!?さすがはアレックス!話が分かるぜ」
 銀花の指示を聞いた途端、太郎は立ち上がり目を輝かせるが
 「シュヘラザードに乗っている間は、“艦長”と呼べ」
 言うなり、銀花はまたしても無表情のまま頭突き。
 「いかに自由戦艦といえど、節度は守ってもらう。きちんと、艦長、アレックス・ウェブスター艦長と呼べ。“アル”を呼び捨てにするな!」
 「お前だって、呼び捨てにしてるじゃないか!?」
 今度の太郎の抗議には、銀花の眉がピクリと動き、その手は再び太郎の頭をつかむのだが――
 「お母様、ダメです。それ以上やると、太郎がもっとバカになります」
 「こいつは元々大バカだ」
 クレハの制止も意に介さず、三度目の頭突きが太郎を捉え、再び鈍い音が響く。
 完全に倒れ込んだ太郎を見下ろしながら
 「クレハ、ではこのバカの面倒を頼むぞ。私はブリッジに戻る。それと・・・・・・」
 言いつつ、タラップの向こうにいるスタッフに向かい
 「バカが動けない間、各機は警戒態勢を怠るな」
 とひときわ大きく声をあげ指示を出すと、軽い足取りでタラップに足をかけ、太郎とクレハに背を向ける。スタッフ達は全員直立不動のまま、この“副長”と名乗る小柄な少女に敬礼をした。
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習作

参加している某コミュの企画テーマの一つが「実在する(した)建築物」というので、こういうのを考えてみた。

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 西暦20XX年、遂に東京タワーの取り壊しが決定された。


 この決定に対し、様々な意見が交わされている中――


 突如として、鳥形の巨大生物が飛来し、地上120メートルの高さにある大展望台の屋上に舞い降りたかと思うと、人々がおののきつつ見守る中、巣作りを始め、そこに卵を産み付けた。
 鳥形の巨大生物が卵を温めているそのさなか、今度は海より巨大な芋虫を思わせる巨大生物が現れたかと思うと、これもまた東京タワーへと一直線に向かい、タワーにとりつくやいなや、あっという間に周囲をはき出した糸で包み込み、これまた巨大な繭を作り出した。


 鳥と虫、二体二種類の巨大生物たちがタワーにとりついてから数日後――


 卵からは親鳥によく似た生物が生まれ、繭からは蛾を思わせる巨大な生物が現れた。
 夕日が空を赤く染める中、巨大生物たちは、それぞれまるで東京タワーを傷つけることを最小限に抑えようとするかのようにその巨体に似合わぬ静かさでタワーから羽ばたくと、何度も何度もタワーの上空を周回し、やがて夜の闇に紛れて、いずこともなく姿を消したという。


 東京タワーがなくなることを惜しんでいるのは、人間だけではなかったようだ。
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いや、これを以て、企画参加作品とするつもりはないですけどね(笑)
タイトルは「思い出作り」とでもする?

りはびりの続き(じゃんけんぽん篇)

例の奴の下書き、徐々に進行。
正式な奴には色々と手直しが入るかも、だが、基本線としては、スズカという名の少女一人だけの世界。
病気前に比べると、書くスピードは大幅にダウンもいいところだが、これひとつでも仕上げれば、多少は勘が戻るかと淡い期待をしております。

それにしても、いまはプリキュアの黄色とAnotherの鳴が可愛すぎて、生きていくの辛い……

というほどもこともないが
やはり、カワイイは正義だよな(笑)


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 「この船は、大勢の人達を乗せていたので、その管理業務はとても大切な仕事でした。その仕事に携わっている人達は長時間拘束されることも珍しくなく、必然的にその生活環境も快適性を重視して作られたのです」
 だから、森があって、庭があって、ふかふかのベッド(いまは私の部屋にあります)があるのだとコリンは言います。
 でも「大切な仕事」か……私一人で大丈夫かな……
 コリンの話を聞いて、私はちょっと怖くなりました。
 だって、私はまだ子供でチビで……あまり言いたくないけれど、泣き虫だから……でも、コリンは言います。
 「いまは、スズカ、あなたが“船長”であり、“司令官”です」
 だから、色々なことを勉強しなければいけないと、コリンは言います。


 私が船長で司令官……でも、この船の乗客は、少なくとも人間の乗客もまた私だけなのです。
 本当なら、船を動かす人と船に乗っている人達とを隔てる壁の役を担っている扉が開き、私はゴンザの背中に掴まったまま、いままでいた場所以上に視界の開けた空間へと移動していきました。移動している中で
 初めて入った場所――コリンはそこを「居住ブロック」と呼んでいました――と私がいままで過ごしてきた場所――「管制ブロック」というのだそうです――を隔てる扉は、とても厚くて頑丈そうでした。後でコリンに聞いてみたら、実際にこの船に使われている扉の中では一二を争う頑丈さとかで、そういう頑丈な扉で仕切っている理由は、居住ブロックの人達が仮に暴れても(暴動とか叛乱とか言うのだそうです)、船の管制に影響が出ないようにするためなのだそうです。
 「管制ブロックは、この船の最高意志決定機関です。それは絶対に守られなければならないものです。故にいまは、スズカ、あなたこそ、私達がいかなる手段を用いてでも守らなければいけない存在なのです。とはいえ、日々注意深く過ごすことは忘れぬよう」
 コリンがそう言った時、ゴンザも横で大きく頷いてくれました。
 でも、いまは暴動とか叛乱とか起こす人はいない……というより、人間は私しかいないんだから、そんなに用心することはないと思うんだけれど。


 ゴンザに連れられた私が扉を抜けて目にしたのは、いままでいた場所に比べても遥かに視界の開けた平原でした。
 船の中なのに平原?と、もしも私が書いたこの記録を読む人がいたのなら、不思議に思うかもしれませんが、私がそこに見たのは、本や電子データで見た「平原」そのままの景色でした。
 遠くに森らしき樹木の塊が見える他は、建物ひとつない平原。
 それも、キレイに整地されたデコボコのない、本当に平らな地面だけの世界。


 もともと、この「居住ブロック」は、何万人もの人達を収容可能な、広大な空間なのだそうです。
 だから、この居住ブロックは、本当なら人が住む家やいろんな人達が働く仕事場を詰め込んだビルという高い建物があったのだけれど、人間が私一人になってから、コリンがロボット達に命令して全部片付けさせたそうです。
 「どうして?勿体ないよ」
 そのことを知った私が抗議すると
 「家屋や建物の維持にも、船内の管理リソースを割かれます。現在の私達にとっての最優先事項は、スズカ、あなたの生命維持であり、健康であり、教育なのです」
 だから、現状、維持する必要のない施設は極力排除する必要があるとコリンは言います。
 住む人がいないから、家をなくしてしまう。
 使う人がいないから、建物をなくしてしまう。
 それが、コリンの考え方、機械の考え方なのかもしれません。
 「でも……」と私はコリンに尋ねました。「また住む人がいっぱいになったら、家や建物を造ってくれるの?」
 「勿論。その必要が生じ、スズカ、あなたが望むのであれば、私達はいつでもこの船の中にあった町を再建いたします」
 コリンは、機械だから融通が利かなかったり、もの凄く割り切った考え方をしたりしますが、嘘だけは言いません。だから、住む人が出てくればまた町を作るという言葉は、約束として守ってくれると私は思います。
 だから、私はまたこの船にいっぱいの人達が住んでくれるように頑張ろうと思いました。
 でも、どうすれば、この船をまた人でいっぱいに出来るんだろう?
 そういうことを考えていて、私はふとあることが気になりました。
 それは、どうしてこの船には私しかいないのか?ということです。
 これは、別にこの時になって気がついたと言うより、ずっと前から気になっていたことでもありました。でも、コリンはずっと「いずれ教えるから」と言って、その答えを私に教えてくれませんでした。でも、いまなら教えてくれるかも……そう思った私が、改めて尋ねると、コリンはゴンザに私を降ろすように言い、「少し長い話になりますよ」と前置きをしてから、この船に私以外の人間がいない理由を教えてくれました。
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意味のないおまけ(爆)
あざとイエロー(笑)

リハビリ(素人モノ書き篇)

どうにも、年末というか11月に倒れて以来、何かをきちんと書く気力が湧かない。
自分で言うのも何だが、何か気持ちの中で心棒を一本ごっそり抜かれたような感じ・・・

といつまでも甘えたことを公私、そしてリアル+ウェブとも言ってはおれず、自分なりにリハビリ(?)は心がけています。
信じてはもらえないだろうが、十三号も少しずつ続きを書いています・・・・・・まだ更新ページを作るまでの段階には至っていないが・・・

以下は、そうしたリハビリのひとつ。
所属する「書き込み寺」の企画テーマ「絵画」に合わせた短編に仕上げる積り……仕上げられたらいいな(弱気)
世界観的には、十三号の次に考えている「蒼天のアイオン」の世界観を一部抜き取ったもの。
構想中の物語の数年前・・・という設定で、主人公達とヒロインの一人が出会う前の物語。
故に、構想中の主人公達は一切登場しない。
実は、以前あげたエントリと同じ世界観なのだが、こちらは別のヒロインのお話。
次は、「英雄とお姫様」のお話を考えているので、その中の「お姫様」の一人。

休日に「石橋美術館」に行った折目にした「鉄砲百合」(黒田清輝)を見ていて着想を得たのでした。

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 私の名前はスズカと言います。
 お父様とお母様にいただいた名前だそうです。
 だそうです……というのは、私はお父様のこともお母様のことも憶えていないから。
 でも……いいえ、だからこそ、私は自分の名前が大好きです。


 私が生まれてから十年と少しの間、私の暮らす世界には私しかいませんでした。
 いいえ、正しくは、私しか人間はいませんでした。
 人間以外には、庭に咲く花々とその周りを飛び跳ねる虫たち、森の中に暮らす小さな動物たちと……ゴンザとコリン。
 ゴンザは、お父様とお母様から私の世話をするように言いつかったロボットというものです。本当の名前は、ゴンザ……の後に長い名前がつくのですが、憶えられないので、私はゴンザと呼んでいます。ゴンザもそれでいいと言ってくれています。
 ゴンザは、ロボットというものなので、人間の私とは随分と見た目が違います。
 腕と足がそれぞれ二本ずつあって、胴体があって頭があるのは同じですが、まずその手足、いいえ胴体と頭含めても私と違ってとても固いです。ゴンザは、人間の“皮膚”というものの代わりに、“金属板”というもので体を覆っているそうです。あと、歩き方もちょっと変っています。私と同じように二本の足を交互に動かして歩くこともありますが、でこぼこのない平らな場所だと、足の裏にある“キャタピラ”というものを回して、滑るように走っていきます。その時は凄く早くて、私は時々ゴンザの背中に乗っています。とっても気持ちいいです。
 でも、あんまりゴンザを当てにすると、運動不足になるからとコリンに叱られてしまいました。


 船――そう、私の暮す世界は、一隻の大きな船なのです。
 私と私のお父様、お母様のご先祖様達は、この船に乗って長い長い旅を続けていたそうです。
 こうしたことを知ったのは、やっぱり私が十歳の誕生日を迎えたあたりだったと思います。教えてくれたのは、コリンでした。
 コリンというのは、船のコンピューターの名前です。
 船のあちらこちらにコリンはいて、その全てがコリン。
 この船にはコリンがいっぱいいるんだと教えてくれました。
 でもそのいっぱいのコリンが一つのコリンなんだそうです。
 グリ……グリなんとかコンピューティングとかいって、何だかよく分りませんが、とにかくコリンは凄いコンピューターらしいです。


 実はこんな風にコリンのことを説明していますが、私がコリンがコンピューターっていう機械だってことを教えて貰ったのも、十歳の誕生日のことでした。
 コリンに一通りのことを教えてもらいはしたものの、頭が全然整理できないまま、ゴンザに連れられて、自分が暮す家(本当は船のエライ人、船長さんとか司令官とかいう人が暮す家なのだそうです)から、いままで行ったことのない遠い場所まで、私は行くことになりました。
 いつもは自分の足で歩くように、コリンもゴンザも言うのですが、この日は久しぶりにゴンザの背中に掴まっての遠出です。
 私はずっと小さい頃、いつもゴンザの背中に掴まったり、ゴンザに抱っこされたりして、家の周りの広場や森を散歩してもらっていた憶えがあります。
 コリンは私の勉強のためだと言っていましたが、その頃のことが思い出された私は、何だかとても嬉しい気持ちになりました。ゴンザの背中に掴まって、私が走るよりもずっと早く流れていく景色を見ていると、こういうのが“遠足気分”なのかな?と思えてきます。遠足なんて、コリンが聴かせてくれたお話の中での知識しか私にはないけれど。
 やがて、ゴンザは私の知らない景色が見える場所まで辿り着き、いつしか私達の目の前には、大きな扉が見えてきました。
 「この扉が司令区と居住区との境目になります」
 ゴンザが、いつもの低い声で私にそう教えてくれました。
 顔には、いつもの優しそうなおじさんの顔が浮かんでいます。
 ゴンザの頭は丸くて、鼻も目も口もありません。
 その代わりに、その顔にはゴンザやコリンの憶えている人間の顔が映し出されます。
 ゴンザの丸い顔に、また人の顔が映り、私がそうするように口を動かし、時には目をしばたたかして話す様は、何だかゴンザの中に人が入っているようで、時々気持ち悪いなと思うこともありますが、よくよく見るとちょっと面白いです。
 「司令区って何?」
 自分がいままで住んでいたのに知らないの?と誰かがいたら言われそうですが、私は自分が暮す家や周りのこともよく分っていなかったのです。
 「船を動かす人達が仕事をする場所のことです」
 ここでゴンザの声色が急に変り、丸い頭部にはさっきの男の人から若い女の人の顔が映し出されました。コリンが割り込んできたのです。コリンは、時々ゴンザの中に入ってきます。
 実は、私の周りにはゴンザ以外のロボットもいるのですが、どのロボットも皆コリンが動かしています。コリンは、こうしたロボット達のことを「駆動端末」と呼んでいました。コリンにとっては、船の中を移動しながら作業するための「仮の体」みたいなものらしいです。だから、いっぱいいるロボット達の中身は皆コリンということも出来ます。
 でも、ゴンザだけは違っていて、コリンが動かすことも出来ますが、ゴンザはゴンザで「自分」というものを持っているそうです。
 “自分を持っている”という言い方は、私にはよく分らなかったのだけれど、要は「コリンに頼らなくても自分で考えて動ける」仕掛けを持っていると言うことらしいです。
 自分で考えて動くことが出来るのは、森の動物たちを別にすれば、この船の中では私とゴンザだけらしいです。
 ゴンザと一緒というのは、とっても嬉しいです。
 私は、ゴンザが好きだから。
 ゴンザもそうだと嬉しいけれど、「私のこと好きなの?」と聞いたら、ゴンザは「回答不能」とよく分らない答えを返してきました。多分、ゴンザは「好き」ということが分っていないんだと思います。私だって、「説明しろ」と言われると答えに困ってしまうけれど。
 コリンに言わせると、ゴンザのようなロボットは昔はいっぱいいたけれど、少しづつ数が減って、いまではゴンザだけになってしまったそうです。
 こういうところも、私とゴンザは似ています。
 この船には、昔は人間が大勢いたらしいのですが、いまでは人間は私一人きりだから。
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このお話の主人公にして語り手の「スズカ」とコンピューターの「コリン」の名の由来は、「鈴鹿御前」とその娘とされる「小りん」より。
鈴鹿御前の伝承とストーリーとの間には、別に関連はないです。
ただ、企んでいる(?)ストーリーの中でも逞しく、そして凛々しく生き抜いて欲しいという・・・それだけ。

怖くない怪談(20110630)

怖くない怪談(仮題)、これにて閉幕。
あとは、細部を修正して、HTML化しておしまい!
あ!!タイトルもつけないと!!
さて、この作業、日付が変わらないうちに出来るのかイナバウアー
それは、こういうことですな。

神のみそ汁セカイ

さらに話は変わって・・・

オリックスのマスコットがマジで可愛いとネット上で話題に

私はツバ九郎を許さない!絶対に、だwwww

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 周の演奏が終わり、担任の谷村を含めた教員達に説教込みの話を聞かされ、やや疲れた顔で職員室を後にした美月は、その足を音楽室へと向けていた。
 周と友人の優子、そして先程の歌声の主である女の子がいるであろう音楽室。
 その前まで辿り着いた美月であったが、いざ音楽室の扉を眼前にした時、彼女には、その扉を開けようという気は起こらなかった。
 正確には、開けることが出来なかったというべきか。
 美月自身、自覚はないものの、そこに言いようのない怖さを感じてしまっていたからだ。
 その理由はただひとつ。
 (周と優子以外、さっき歌っていた女の子がいたらどうしよう……)
 もし、その少女がいたのなら、彼女は必ず周の側に寄り添っているということになる。
 それを目にすることに抵抗を感じていたのだった。
 美月は、数瞬の迷いを見せつつも、音楽室の扉を前にきびすを返し、自分の教室へと向かっていった。


 教室に戻ると、さすがにもう生徒は誰もいなかった。
 気になったのは、優子の机にも周の机にもカバンは残っていないこと。
 どうやら、美月が行った頃には、二人とも音楽室を出て行った後だったようだ。
 (だったら、少しくらい待ってくれても良いのに……でも、すぐに出ていったと言うことは、特に何もなかったということなのかな?)
 そんな憤りと安堵がない交ぜになった感情をもてあました美月は、机の中の荷物を乱暴にカバンに詰めると、もう生徒は誰一人いない教室を後にした。


 ほぼ無人と言っていい状態の廊下を抜け、上履きから通学用の靴に履き替え、校門に向かって歩き出すと
 「あ、やっと出てきた!」
 美月の姿を見つけて声を上げる優子。
 「職員室で捕まっているんじゃないっての!全く、普段の行いが悪いから……」
 そう言う優子を恨みがましい目で見つめた美月は
 「うるっさい!」と一言文句を言いつつ「だったら、教室で待ってくれていてもよかったじゃない」
 と抗議するが
 「やだ。下手に近くにいたら、巻き添え喰らうじゃない?」
 と悪びれることなく言い放たれてしまった。
 「周、あんたもなの?」
 「僕は南さんにつきあっただけだよ」
 美月の恨み節は周にも矛先が向けられるが、当の周は涼しい顔。こうしたことには慣れっこになってしまっているらしい。
 「うう……まぁ、いいわ……」
 渋々と呟く美月は、まるで振り上げた腕のおろしどころに困ったように顔を伏せ、歩き出し、その後ろを苦笑しつつも周がついていく。
 このいつもの光景を目の当たりにして、優子はその口元に笑みを浮かべると
 「じゃあ、真田君、美月、また週明けに」
 と言い置いて、校門を出たところで二人とは別方向に向かって歩き出す。
 美月と周は、お互いに家が近所同士だが、優子だけは二人とは別の方角に家があるのだった。
 そうした理由で優子と別れた二人は、しばらくの間黙って歩いていたのだが……
 「なぁ、美月」
 「何」
 音楽室の時と違い、今度は下の名前で呼んでも怒られずに済んだ周。
 「職員室で何か収穫あった?」
 「収穫って?」
 「ほら、学校の怪談でネタ探しをするって言っていたじゃないか」
 ああ、そのことかと思った美月の脳裏を掠めたのは、目の前で見た担任教師谷村の涙。
 「別に……何も……」
 その答えの歯切れの悪さに、周は一瞬顔をしかめる。彼なりに、何かを感じたようではあった。
 「何も、これといった話はなかった。それに」
 「それに?」
 「もう、“学校の怪談”ねたはやめたから」
 「そうなの?」
 「そうなの!」
 最後は怒ったように言い放つ美月だったが、対象的に周は安堵した表情。ただ、前を歩く美月にはその表情は見えなかったのだが。
 「怪談話ってさ……あたしも気がつかなかったけれど、その話を聞いて悲しい思いを擦る人もいるんだなって」
 「そうか……」
 美月がそう思った切っ掛けを知らない周ではあるが、彼なりに思うところがあったのだろう。静かに頷きつつも、その表情は柔らかい笑顔で包まれていた。
 「なぁ、美月」
 「何?」
 「帰り、“かめや”に寄らないか。何かおごるよ」
 “かめや”というのは、二人の帰り道にある甘味処である。
 「へえ、珍しい。あんたが寄り道、それも買い食い。しかもおごり」
 「本当に珍しいことみたいに言うなよ……この間もおごっただろう?それともいらない?」
 「そうじゃないけれど……それはいいんだけれど」
 ここで不意に声のトーンは落ち、美月の歩く速度も僅かではあるが落ちた。
 「けれど……何?」
 「周……あの女の子って・・…結局、何なの?」
 「何なのって?何が?」
 「だから、あの“きらきら星”を歌っていた女の子は誰なの?ってこと!」
 声のトーンが再び上がる美月に、最初は驚く周だったが
 「ああ、そのことか……教えてもいいけど……」
 「勿体ぶらずに教えなさいよ」
 「うん、教えるのはいいんだけど……美月、怖い話系は全然ダメだろう?」
 「はぁ?何を言って……」
 と問い詰めようとした美月だったが、ふと何かに気づき
 「ちょっと待って、あんた、それ一体どういう意味?」
 「うん……まぁ、うまく言えないんだけど…・・まぁ、もう“怪談話”のネタにされることもないだろうし……いいや、何だか勘違いされているみたいだから、“かめや”でゆっくり話すよ」
 「ちょっと、“怪談話”って……まさか……」
 いままでの強気な物言いとは対象的なか細い声で呟きつつ、その足が止まる美月。
 「美月、どうしたの?」
 訝しげに聞く周に
 「うるっさい……」
 と言っていることはいつもどおりだが、いつもに比べれば勢いのない答え方をする美月。
 「やっぱり、聞かせてくれなくて良い」
 「えー、聞きたいと言ったのは、美月じゃないか?あー、でも、美月の場合、聞かない方がいいかもね」
 「だから、そういう思わせぶりな言い方、やめなさいよ!わざとよね?わざとやっているのよね?あたしをからかっているのよね?」
 「やだなぁ……こういう時には、本当の話しか僕はしないってこと、美月は知っているだろう?」
 「だから、タチが悪いんじゃない!もういいよ、聞かなくても良い!」
 「自分から聞いてきて……」
 不満そうに言う周の口ぶりを見ていると、美月の中で、聞きたい気持ちと何だか聞いてはいけない気持ちがない交ぜになってせめぎ合う。
 そうした複雑な感情を抱えた美月が押し黙っていると……
 「あ、分った!」
 不意に周が声を上げた。
 「美月、あれだろ?また、夜トイレに行けなくなるのが怖いんだろう?」
 この周の発言により、美月の抱えた複雑な感情に、目の前の幼なじみの鈍感さに対する苛立ちと、さらには気恥ずかしさが混ざり込み、結果として美月は今日という日の中で一番大きな声を上げることになってしまった。


 「うるっさい!」


 二人きりの帰り道、秋の夕暮れ時の中、一番星がきらきらと輝き始めていた。
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怖くない怪談(20110628)

今日のこのエントリでお話に決着がつくと思っていましたが、どうもあと一回は必要なようです。
ここでネタバレをひとつ(笑)

二人の主人公の内、柏崎美月の名前だが、種を明かせば、「美咲シークレット」から
「美咲シークレット」の構想を練っているとき、主人公の名前を美咲にするか美月にするのか、迷ったんですね。
結局、あちらの主人公の名前は美咲となり、美月に関しては、もったいない(?)のでこちらのお話に使わせてもらった次第。
周(あまね)君に関しては、お話の中身は美月をメインに据えると言うことで、「美しい月の周り」ということです。
早い話が美月のおま(自粛)
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 その問いは、周が自分自身に対してしたものであったが、それにも優子は無言で頷く。
 「ねえ、南さん。何があったのか、あの子がなんなのか、僕に分る範囲で教えてもいいけれど、ひとつ約束してくれないかな?」
 唐突に約束を突きつけられ戸惑った優子であるが
 「頼めるよね?」
 静かで、それでいて有無を言わせない周の強い言いように、つい頷いてしまった。
 「頼み事は簡単だよ。いま見たことを誰にも言わないこと。特に美月には、ね」
 黙って頷く優子。
 「美月、あれでかなり怖がりだから、いま南さんが見たことを知ったら、音楽室に入るのも嫌がるようになってしまうから」
 これにも優子は黙って頷くのみ。
 「あいつが音楽室に来るのを嫌がったら、もうあいつに僕のピアノを聞いてもらえなくなるだろ?」
 優子は、これにも頷こうとしたが……
 「え、真田君、ひょっとして、学校でピアノの練習をしているのって、美月に聞いてもらいたいから?」
 周の話を聞いていて、ふと閃いた内容を優子が口にすると
 「だって……」と周は顔を伏せ「僕があいつにいいところ見せられるのって、ピアノくらいなものじゃないか……」と呟いた。
 それを聞いた優子は、暫し呆然とした後
 「ひょっとして、美月と同じピアノ教室で一生懸命練習していたのって、美月にいいところ見せたかったから?いままで頑張っていたのも?」
 と問うと
 「だから、僕にはそれくらいしかいいところ見せられるものってないし……音楽やピアノが好きなのも本当だけれど……」
 とこれまた顔を伏せたまま小声で答える周。
 「何というか……凄いと感心するというか、呆れるというか……でも、やっぱり、それって凄いことなんじゃない?」
 呆れつつも、優子はこの目の前の真田周という少年、周囲からは勝手に天才扱いされている少年を見直していた。勿論、好意を以てのことである。
 「真田君って、ある意味、美月とちょっと似ているところがあるよね」
 「そうかな?」
 「うん。それにちょっと美月が羨ましいかな?」
 「それは……」
 ここで周は何か言いかけて顔を上げたが、すぐにその顔を赤く染めて、また黙り込んでしまった。
 その様子がおかしくて、優子はくすりと小さな笑いをその口元に浮かべた。
 「いいわ。さっきの約束、守ってあげる。勿論、美月にも言わない。あたしは何も見なかった。これでいいんでしょう?」
 「うん、そうしてもらえると助かるよ。変な噂になったりしたらイヤだからね」
 「それはそうでしょうけど……でも、結局さっきの女の子って、何なの?」
 「あの子は……ある意味、僕と同類かな?」
 「同類?」
 「うん、音楽が好きで、歌が好きな女の子。そんな女の子がいたら、ちょっと手助けしてあげたくなるじゃないか?」 
 「それで伴奏をしたというわけ……」
 その問いに頷く周を見て
 (だからといって、幽霊相手に伴奏するというのも凄い話だと思うけど)
 と思ったが、それは口にしないでおく優子である。
 「あの子の得意な歌で、僕が演奏できるのって、さっきの“きらきら星”くらいなものだからね。結局、その伴奏も一回限り。多分、もうあの子は現れないよ」
 「どうして?どうして、そう思うの?」
 「どうしてだろう?」
 言いつつ首を傾げる周であるが
 「どうしてだか、そう思えるんだ」
 そう言う彼の表情は確信に満ちていた。
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