マグダラで眠れ 3 (支倉凍沙)
錬金術師クースラと異形の(元)修道女フェネシスを主人公とした中世ヨーロッパ的世界観を舞台としたファンタジーも三本目。
錬金術師、教会、騎士団、職人組合、山の民、といった社会背景を緻密に描写しつつ繰り広げられる世界は、いい意味でライトノベル離れしている。
一度、この作者様がラノベレーベルにとらわれない形で執筆した経済小説かファンタジーを読んでみたいと思わせる。
社会の各構成要素がきちんと繋がっている様を描くのって、結構高度なテクニックだと思いますよ。
そして、これは「まおゆう」などで顕著なのですが、日本発のファンタジーの特色なのでしょう。「教会」というものが決して善意の団体ではないことがこうした作品ではよく描写されています。
まぁ、魔女狩りや十字軍の歴史がありますからね。
実際、この作品の中でも、戦争の中心には必ず教会と騎士団がいて、彼らの権力や財力の基盤は戦争に依って成り立っている。
あくまでも、彼らは権力機構であり、統治機関であり、集金マシーンであり、暴力装置なのですよ。
そうした「権力」とうまくつきあいつつ、己の目的を遂げんと錯綜する錬金術師、クースラとウェランド。そしてクースラの手により教会から解放され、彼らと行動を共にするウル・フェネシス。
今回は二本立て。
一本はウェランドを救い出すため、「自分たちが錬金術師である」ことを証明する話と「黄金の羊」伝説の絡んだ山の民の物語。
どちらも、クースラは実に彼らしくない行動と配慮を見せるのですが、そうさせたのはフェネシス・・・・・・というか、彼女の仕掛けた「罠」
こう書くと悪女みたいだが(笑)別にそんなことはない。彼女なりに成長して、クースラから見事に一本をとったのだが、よく考えると、フェネシスの行動と思惑は、中身はともかく結果として、クースラの本音を引き出しているように見える。彼は不本意な選択をとっているかのように自ら思っているのだが、読み進めていく内、彼が自分自身の「お人好しな部分」「優しい部分」を封じ込めるために、冷徹な「クースラ(利子)」という男を演じているのではないかという気がしてくる。つまり、あの冷徹さは、無意識のうちに演じている仮面ではないかと。だとすると、フェネシスは彼女自身、無自覚なまま彼が根っこの部分で欲している「選択」を提示しているのではなかろうかと。
これは、あくまでも私の勝手な推測。
そして、物語はまだまだ序盤と思わせる波乱が、この巻の最後には用意されている。
クースラとフェネシス、この奇妙なバランスのコンビの行く末がどうなるのかは、まだまだ分からない。
夢の終わりとそのつづき(樋口有介)← 電子書籍
柚木草平シリーズの第五弾にして番外編?
私の知る限り、シリーズは第九弾まで来ている筈なので、ようやく半分か。
永遠の38歳柚木草平もこの作では35歳。
いままでのシリーズ作とはちょっと趣が違う。
女好きで、事件に当たる度に美女と巡り会う主人公には「爆発しろ!」と心から思うが(笑)、洒脱な台詞と魅力的な女性キャラクターは相変わらずなれど、いままでのシリーズよりも主人公はどこか刺々しい。若いって言うことなのか?
ある美女の尾行以来から始まる一連のシリーズは、ロシアの諜報戦や政治ブローカー、企業スパイが入り乱れるいままでにないダークさを見せながら、なお「え?エイリアン絡みなの?」と思わせるちょっと不思議な事件。
真相については、読者の想像力に委ねている部分はあるにせよ、ミステリーとしてはやや反則技か?
最後は、いい女こそ男にとっての「エイリアン」とキレイに纏めて見せたが・・・・・・やっぱり、爆発しろ(笑)
ただ、ラストの謎解き(?)
ロシアの諜報担当者によって、怪死事件の真相と思しきものが語られるのであるが、それはエイリアンとは異なる生々しい知的財産に関する熾烈な諜報戦の真相でもあった。
しかし、読み終えて暫くして思ったが、
それは果たして真実なのか?
ひょっとしたら、エイリアンの方こそが真実で、諜報戦の核となった新型酵素こそが日本の政治ブローカーを欺くためのフェイクではなかったのか?と思わせる広がりは少なくとも私には与えた。いや、そうでなければ、今作の柚木のパートナー夢子の見たものの説明が付かないのだが。